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第六一話 石山本願寺と鳥羽港

▽一五七〇年九月、澄隆(一五歳)鳥羽港


 

 俺は、今、鳥羽港にいる。



 目的は、鳥羽港周辺の土地の空き状況を見るためだ。

 まだまだ辺鄙な港のため、漁港みたいな簡易な建物しかない。

 これなら、好き勝手に開発できそうだ……。



 俺は、お金儲けのために鳥羽港を発展させたいと考えているが、もう一つ、鳥羽港を発展させたい理由がある。



 それは………………石山本願寺と戦わないためだ。



 この時代、大阪周辺は、満潮時は波で荒れるほど低い場所で、石山本願寺があった場所だけが高台になっていた。



 石山本願寺がある高台からは、堺の港が一望でき、本願寺から船を出せば、日本一の賑わいがある堺の港を閉鎖できる、戦略的に価値の高い要所だった。



 また、この高台は守りやすく、大阪から東西の国々に攻め入る拠点として最適な場所だったため、この地を治めれば、天下平定に近づける最重要地点と見なされていた。



 堺の港を支配下に置き、この高台を欲した織田信長は、一五七〇年のお正月に『石山本願寺ぃぃぃ! 高台から出ていけぇぇぇ!』と、石山本願寺に高台明け渡しを要求している。



 それまでの石山本願寺は、織田信長に矢銭として五千貫を払っているし、どちらかと言えば信長と友好関係があった。

 ただ、この高台明け渡し要求は我慢がならなかったようだ。



 堪忍袋の緒が切れた本願寺法主の顕如は、全国の門徒衆に、信長は仏敵であり、石山本願寺防衛のため武器を携え大坂に集結するように指示を出した。



 それ以降、織田家と石山本願寺率いる一向宗は、血で血を洗う戦いを十一年も続けることになる……。



 今、織田信長は亡くなってはいるが、時期的に、既に織田家として本願寺に退去命令を出した後だ。



 顕如は織田家と戦うだろう。

 俺は、その戦いに巻き込まれたくはない。



 そこでだ!

 俺は、直轄港である鳥羽港を、堺の港ぐらい発展させて、九鬼家にとっては、堺の港も石山本願寺がある高台も、必要としない状況を作りたい。



 石山本願寺率いる一向衆徒の数は、この当時、日本人の一割以上にもなる。

 九鬼家にも熱烈な一向衆徒はいるし、俺は、石山本願寺とは敵対しない方針にするぞ。



 そこで、そのための鳥羽港への投資として、倉庫や屋敷作りだ!

 イメージとしては、朝倉家の一乗谷の城下町みたいに、南北半里の範囲に、倉庫や屋敷を計画的に整備したい。

 港も大々的に整備して、南蛮船も呼び込めるようにしたいな。

 夢が広がるな!



………………



 堺の商人である小西隆佐が、定期的に報告に来てくれるため、その際、鳥羽港への投資について相談することにした。

「隆佐、忙しいところ、すまないな。まず、俺からも報告だ。行長のお供だった木戸末郷を大湊港の代官に抜擢した」

「は、はい、既に承知しております。末郷も抜擢されて喜んでおりましょう」



 さすがに隆佐には情報が入っているか。

「それで、本題だ。俺は、土地が空いている鳥羽港に倉庫群を整備しようと考えている。そして、九鬼家が作っている全ての商品は、今後は、この鳥羽港の倉庫に保管する予定だ」



 隆佐は、うんうん頷いている。

 ここまでは、予想がつく内容だよな。

「続いて、その倉庫を活用して、倉庫業を新たに始めたい。そこで、荷主から商品を預かり、保管する仕事だ。九鬼問屋と名付けようと思う」



 隆佐は、真剣な顔で俺をじっと凝視している。

 隆佐、年々、悪代官みたいな顔に胡散臭さが加わってきたよな。

 俺も神経が図太くなったのか、前より隆佐の顔が怖くない。

 まあ、顔に慣れたのかもしれないが。



「そして、荷主から預った商品だが、それが全て売れる保証はないだろ? そこで、九鬼問屋は、商品を荷主の代わりに売りさばく代行業も始めてはどうかと考えている。どうだろうか?」

「なるほど……。ただ、私も九鬼問屋と呼ばせて頂きますが、九鬼問屋が商品を売ることを考えると、商品を運ぶための人、関所を通るための関銭なども必要になりますな……。正直、旨味は少ないかと」



 俺は、大きく頷く。

「俺もそこは考えた。そこで、陸送ではなく、水運を利用したい。船は九鬼家が用意する。安宅船を改造した荷船を今、準備しているところだ。水夫も九鬼家で用意する。どうだ? 儲かりそうか?」



 隆佐の目がキラッと光った。

「なるほど……。それなら、運搬費も関銭も大幅に減らせますな。荷主としても、商品が確実に売れるなら、九鬼問屋に頼んだほうが、売る手間も省けますし、喜ぶでしょう。堺の港と鳥羽港は船なら、それほど時間がかからないですし……これは、儲かりますな」

 隆佐が、顔をギラギラさせながら、前のめりに話し出す。



 俺も前のめりになって、隆佐に顔を近づける。

「それにだ。俺は九鬼家領内の主だった道の関所を廃止し、商品が流通する街道の整備を進めることにした。すでに宗政にお願いしてある。これで、九鬼家の領内に限ってだが、関銭がかからずに鳥羽港まで商品が集約するようになる。荷主としては、堺まで自分で運ぶより、鳥羽港に運びたくなるだろう」



 ここまで話すと、隆佐は、必ず儲かると理解したのか、鼻息が荒くなり、早口で話し出した。

「澄隆様、是非とも、その九鬼問屋の創設に、小西家も入れて頂けると幸いでございます」

「うん、そのつもりで隆佐に話をした。隆佐に良い人材はいないか? 俺の家臣に推挙してほしい。九鬼問屋の大元締めは宗政だが、ある程度は任せたい」

「はい……承知しました。これほどの事業、信頼のおける人材でないと……」



 隆佐は、声が出なくなったのか、咳払いを数回して、嗄れ声を出した。

「嫡男、如清を推挙致します。いかがでしょう?」

 ん?

 おおー! 小西如清か。

 これは、嬉しい。



「ああ、良いだろう。早速で悪いが、連れてきてほしい。九鬼家の家臣として、重用しよう」

 隆佐は、脂汗をかきながら、深々と平伏した。

 


……………… 



 小西隆佐と話して、一週間後。

 隆佐は、嫡男、如清を連れてきてくれた。

 また、お供を連れてきて、今回は、三十人もいる。

 お供はこのまま、九鬼問屋で働くよう指示しているとのことで、俺は、もちろん全員、採用した。



「よし、如清。聞いていると思うが、九鬼問屋で力を尽くしてほしい」

「はっ! 畏まりました!」

「では、如清、握手だ」

 如清は、きびきびと動いて、俺の手を握る。

 行長は頭の形がおにぎり形だったが、如清は行長と似ていない。



 父親に似て、将来は悪代官みたいになりそうな顔だ。

 ステータスは、期待通り、政巧者が高く70オーバーだった!

 天運氣も捌と高く、運も良さそうだ。


【ステータス機能】

[名前:小西如清]

[年齢:25]

[戦巧者:11(23迄)] 

[政巧者:46(72迄)]

[稀代者:陸]

[風雲氣:陸] 

[天運氣:捌]


~武適正~

 歩士術:弐

 騎士術:壱

 弓士術:壱

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:漆

 策士術:漆

 忍士術:壱


 見た目からして、やり手みたいだし、これは将来、九鬼問屋を一手に任せても良いかもな。

 


―――――――status―――――――


[名前:小西如清(こにし じょせい)]

[年齢:25]

[戦巧者:11(23迄)] 

[政巧者:46(72迄)]

[稀代者:陸]

[風雲氣:陸] 

[天運氣:捌] 


~武適正~

 歩士術:弐

 騎士術:壱

 弓士術:壱

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:漆

 策士術:漆

 忍士術:壱


 小西隆佐の嫡男。

 時代劇でやられ役の悪代官顔。

 ただし、『ぐふふ、よいではないか』と言うタイプではなく、至って真面目な性格の持ち主。

 ボンボンなので、心に余裕があり人に優しいのが長所だが、その反面、荒波に揉まれた経験がなく逆境に弱い所がある。

 

――――――――――――――――――

次回は、有名な伊賀忍者が登場します。

題名『伊賀国』、お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一向宗徒と戦わないために、鳥羽港を発展させるなんて、面白い視点ですねー 前世の知識がないと、思いつかない発想かもしれませんね
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