第三〇話 第三次スカウト その二
▽一五六八年九月、澄隆(一三歳)鳥羽城
築城を始めて約半年。
城として、だいぶ、体裁が整ってきた。
俺は、新築の木の香りがする評定部屋で、堺の商人、小西隆佐と会っている。
「小西屋、お主もなかなかの悪ダヌキよのう〜」
「は、はい? 澄隆様、何でしょうか?」
「いや、隆佐殿、言いたかっただけだから、気にしないでくれ。それで、近隣の情勢はどうだ?」
俺は、以前より距離が近くなった隆佐にお願いして、商人のネットワークを使った近隣の情勢報告を定期的にしてもらっているが、今日は、俺が一番聞きたくなかった大名の名前が出てきた。
「あ、はい。それでは……近隣の情勢ですが……。尾張国の織田信長が、南近江国の六角家を観音寺城の戦いで破り、上洛を果たしました」
チート大名として名高い織田信長だ。
史実通り、信長が足利義昭を奉じて、上洛したようだ。
「織田信長は、浅井家と徳川家を援軍に加えた総勢六万もの軍勢で、六角家を破ったとのことです」
「六万か……凄いな」
「本当に驚きです……。それで、上洛を果たした時、京の市中は騒然となりましたが、織田家の軍は規律正しく、京の市民に対して一切の乱暴狼藉を行わなかったと評判になっております」
それも、史実通りだ。
ここから、織田信長は、天下布武を掲げ、京と近隣の国を平定し、事実上の天下人として名乗りを上げていく。
この志摩国も、他人事ではない。
必ず、織田信長の大軍が志摩国を攻めてくる。
ネームバリューのプレッシャーが半端ない。
それまでにやれることを早急に進めていかないとな……。
「隆佐殿、お願いがある。堺の鍛治職人の芝辻理右衛門をこの志摩国に呼びたい。力を貸してほしい」
「理右衛門ですか……。芝辻清右衛門なら名前は聞いたことがありますが、その血縁者ですか?」
「そうだ。芝辻清右衛門の孫に当たる人物だ。まだ、知られていないが、堺で働いているはずだ。是非とも雇いたい。できるか?」
「会ってみないことには何とも……」
「うん、そうか……。この玉鋼を持っていってくれ。九鬼家で作ったものだ。これを理右衛門に見せてくれ。これを使って、作ってもらいたいものがある。頼む」
俺は、九鬼家で一番上手にできた玉鋼を、麻袋から出して隆佐に渡した。
隆佐が目をキラッとさせながら、頷く。
「畏まりました……。この玉鋼は、良いですな。これも是非、商いをさせてほしいものです」
隆佐、さすが商人、目ざとい。
「ああ、分かった。玉鋼をそのまま売ることは考えていないが、玉鋼で作った刀などはいつか売りたいと考えている。その時は、優先的に隆佐殿にまわそう……。理右衛門のこと、頼むな」
「……はい、喜んで。私が直接会って、勧誘してみましょう」
隆佐は、玉鋼を見ながら、ニヤニヤと笑って答える。
ほんと、顔付きが悪くなったぞ。
まあ、やる気になって良かった。
この芝辻理右衛門、将来『芝辻砲』と呼ばれる有名な大砲を作る人物だ。
大砲も、いつか作りたいが、今、欲しいものは別のものだ。
理右衛門が志摩国に来てくれるか分からないが、勧誘できたらお願いしよう。
………………
織田信長が出てくる悪い話があったが、次に、良い話がきた!
六角家が破れたことで、宗政が、ある人材のスカウトに成功したようだ。
俺は、ウキウキとその人物が待っている部屋に入る。
近郷が後ろからドスドスと音をたてながら付いてくる。
声も大きいけど、足音も大きいよな。
部屋に入ると、あれ? 二人いる。
上座に座り、二人を観察する。
一人は、年の頃は十歳前後。
肌の色は病的なまでに色白で、眉から鼻筋が凛としている。
嫌味なほどの完璧な美形。
落ち着いていて、思慮深さが感じられる。
よく見ると、右の瞳は黒色、左の瞳は灰色の光を湛える、いわゆるオッドアイの持ち主だ。
後ろに控えている男は家臣なのかな?
家臣の見た目は、目付きが悪く、猫背になっていて、どこからどう見ても不良だ。
「大谷吉房の子、大谷吉継と申します。観音寺城の戦いで、父は亡くなり、路頭に迷ったところを宗政殿に声をかけて頂きました」
そう、スカウトしたのは大谷吉継だ。
忠義厚く、有名な戦いである関ヶ原の合戦で討ち死にするまで、ずっと裏切らなかった人物だ。
あれ?
吉継は、俺の方を見てはいるが、視線が完璧には合っていない。
「吉継。失礼だが、目が見えないのか?」
「ああん! 吉継様は遠くが見えないだけだぁ!」
「五助、控えなさい……家臣が失礼しました。仰る通り、生まれつき弱視です。特に左目はよく見えません。役立たずかもしれませんが、ぜひ、澄隆様の末席に加えて頂けると幸いです」
おお、話し方が冷静で大人っぽい。
クール吉継だな。
俺はいつも通り、立ち上がると、平伏している吉継の所まで歩いていく。
不良がサッと吉継の前に座り、俺を睨む。
「五助とやら。俺は、家臣にする者は全員、握手することにしている。そんな、目くじらをたてるな」
俺は、五助に言うと、吉継の目の前に座り、吉継の手を握った。
【ステータス機能】
[名前:大谷吉継]
[年齢:9]
[戦巧者:2(46迄)]
[政巧者:18(90迄)]
[稀代者:玖]
[風雲氣:陸]
[天運氣:伍]
~武適正~
歩士術:陸
騎士術:陸
弓士術:肆
銃士術:参
船士術:参
築士術:捌
策士術:玖
忍士術:伍
なんとぉぉぉぉぉぉーー!
政巧者90か!
戦巧者はそれほど高くはないが、政巧者が90なんて人材、いるんだな。
稀代者も今までの最高値、玖だ!
武適正の策士術が玖なのも素晴らしい。
俺は、嬉しくて、ニヤニヤしてしまう。
「吉継、気に入った。俺の小姓として採用する。給金も弾むぞ。これからよろしく頼む。五助とやらも雇ってやる」
睨んでいる不良にも、握手した。
雇うんだから、そう睨むな。
ステータスはこうだった。
【ステータス機能】
[名前:湯浅五助]
[年齢:18]
[戦巧者:22(38迄)]
[政巧者:11(21迄)]
[稀代者:弐]
[風雲氣:参]
[天運氣:参]
~武適正~
歩士術:参
騎士術:参
弓士術:弐
銃士術:壱
船士術:壱
築士術:弐
策士術:弐
忍士術:壱
不良の割に普通っぽいステータスだな。
吉継の忠臣ぽいし、吉継とずっとセットにしようかな。
あと、吉継は、病的な白さが気になるから、澄み薬を飲ませ、栄養がある物を食べさせよう。
………………
吉継をスカウトしてから、また、二週間後。
宗政から、続けて、二人、スカウトが成功したとの話があった。
築城をしながら、スカウトもしているからか、多羅尾一族の忍者にスカウトを手伝ってもらっていても、宗政がヨレヨレこけしになっていく。
ごめん、宗政。
築城が終わったら、少しだけ休んで良いから。
まず、一人目。
大和国(今の奈良県だね)の畠山家に仕えていたが、畠山家が三好家に破れ、浪人中のところをスカウトできた人物だ。
一族郎党引き連れて、来てくれるそうだ。
二人目が、近江国で浪人中の人物だ。
戦国時代、この人物と同姓同名の有名人がいるが、そちらは計六人の主君に仕えていた人物だ。
俺が、スカウトしたのは、ずっと一人の主君に仕えた方。
二人に会うのが楽しみだな!
―――――――status―――――――
[名前:大谷吉継]
[年齢:9]
[戦巧者:2(46迄)]
[政巧者:18(90迄)]
[稀代者:玖]
[風雲氣:陸]
[天運氣:伍]
~武適正~
歩士術:陸
騎士術:陸
弓士術:肆
銃士術:参
船士術:参
築士術:捌
策士術:玖
忍士術:伍
オッドアイの持ち主。
生まれつき弱視(極度の近視)で生活に苦労している。
身体も病弱で、体調を崩すことも多い。
自ら戦うことを諦め、兵を動かす軍師としての役割を目指して国内外の兵法を学び始めたところ。
見た目は秀麗皎潔だが、性格は腹黒系。
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[名前:湯浅五助]
[年齢:18]
[戦巧者:22(38迄)]
[政巧者:11(21迄)]
[稀代者:弐]
[風雲氣:参]
[天運氣:参]
~武適正~
歩士術:参
騎士術:参
弓士術:弐
銃士術:壱
船士術:壱
築士術:弐
策士術:弐
忍士術:壱
親を早くに亡くして大谷家に拾われて以来、恩を返すために一生懸命働いている。
見た目はヤンキーだが、根は真面目。
弱視の吉継のことを他人にバカにされることが一番嫌い。
喧嘩っ早いが、強くはない。
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【クイズ】
次回にスカウトする二人は、誰でしょうか!?
お楽しみに!