表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/123

第二話 日本に握手

▽一五六〇年七月、澄隆(五歳)田城城



 ……前世の夢を見た。



 俺の記憶ではあるが、澄隆の記憶が混ざった影響からか、どこか、他人事のように感じる。



 前世では、五歳の時に両親を事故で亡くし、身寄りのなかった俺はずっと施設で育てられた。



 その後、苦労して高校を卒業して、子供の頃からの夢だった出版社に務めることができたのに、信頼していた同僚の大きなミスを庇ったら、その同僚に裏切られ、ミスを押し付けられて俺だけがクビになってしまった。



 貯金もなく、その後は、アルバイトで生計をたてていた。

 お人好しだけが取り柄の不器用な性格で、誰からも評価されず、年齢がニ回り以上若いアルバイト仲間にも軽く見られ、馬鹿にされる毎日。



 心の奥底には、自分自身に対する不満がいつもあった。

 毎日、何かを変えなくてはと思いながら、何一つ上手くいかず、怠惰に無為に時間を費やし、気がついたら四十歳を過ぎていた。

 そんなおっさんな俺にとって、唯一の趣味だったのが本を読むこと。

 高校卒業まで、侍に憧れて剣道に打ち込んだからか、特に戦国時代の本が好きな歴史オタクで、図書館だけが俺の癒しの場所だった。

 


 月日が経ち、四五歳になった俺は、不摂生がたたったのか、図書館のある一室で一人、左手で胸を押さえていた。

 これまで感じたことのない痛み。

「こ、これで死ぬのか……。ははは……」

 目に写る電子書籍の画面が、チカチカと光っている。



 画面には、何千何百という数字が次々と出ては消えている。

 霞む目で、その画面を見ながら、俺は力なく笑った。

 自分の生きた四五年の月日が走馬灯のように浮かんでくる。

 俺は、右手を伸ばし、電子書籍を握り潰すほどの力で掴んだ。



「ぁぁぁぁぁあああああ」

 死ぬ間際になって、今までの人生に強い後悔の念が沸き立つ。

 涙が溢れる。

 


 何もなかった俺の人生。

 悔しい――悔しい!



 もし、生まれ変われるなら、次は死ぬ気で頑張って、何かを成し遂げたい……。

 後悔の念に押し潰されながら、俺は意識を失った。

 たぶん、前世の俺は心臓麻痺か何かで死んだのだろう。



………………



 そして、俺はなぜだか戦国時代の澄隆に憑依?した。

 昨日は、右手の秘めたる力に気づいたこともあって、久しぶりに興奮したが、だんだんと不安が募る。

 前世では、負け犬だった俺。 

 こんな俺が、戦国時代で生き残ることができるのだろうか?





 ……それで、いきなり困った。



 右手の秘めたる力を使おうにも、相手に触れる機会が少ない。

 だから、相手のステータスが見れない。

 握手しようにも、日本に握手の文化が入ってきたのは、明治ごろ。

 戦国時代は、どこで命のやり取りになるか分からない時代。

 武将が挨拶のために、利き手を相手に預けるのは、この時代では有り得ない非常識な考えだった。



 握手するのが、こんなに難しいとは思わなかったな……。

 それなら、握手でなく、スキンシップをできるかというと、そもそも当主と家臣とは適切な距離感があって、刀が届く距離には家臣は近づかない方が良いという、この時代の暗黙のルールがあった。



 う~ん、どうしよ……。

 前世で見た古文書などでは、家臣の労をねぎらって手を取る行為が記されていた記憶がある。

 それがありなら、家臣をほめる時に、俺から握手を促すのはどうだろう?

 無防備過ぎるかな?

 この時代には、違和感があると思うけど、仕方がない。

 俺は、握手大好きな変わった当主として、みんなに接しよう。



 お、ちょうど近郷が来た。

 大股でドスドスと足音を立てながら、部屋に入ってきた男の名前は『久木浦近郷』。

 見た目は厳つい髭面でお禿げなじーさんだ。

 この時代にしては、体型が大きく、まるでゴリラみたいで、威圧感が半端ない。

 俺の血縁でもある近郷は、俺の守役として、昔から俺の世話をしてくれている。



「澄隆様。お加減はどうですか?」

 見た目は厳ついが、優しい目を俺に向ける近郷。

 俺に、こんな暖かい視線を向けてきてくれたのは、子供の時に亡くなった両親以来だ。

 真心のこもった声を久しぶりに聞いた気がする。

 温かい……。

 思わず、少し涙が出る。

 ただ、俺は澄隆を乗っ取っているから、近郷にとっては赤の他人だ。

 澄隆の人格を塗り潰して、俺が澄隆を騙ってるといっていい。

 本来の澄隆に悪いし、近郷にも申し訳ない気持ちになる。



 俺は、目を瞑って、その気持ちを振り払うと、近郷に笑顔を向ける。

「ちかさとー。もう大丈夫。手を出して」

 怪訝な顔をする近郷。

 言われた通り、手を出してくれたので、両手で握ってみる。



「ちかさとー。いつもありがと。これからもよろしく」

 何だか、近郷の目が潤んでいる。

 ん? どうした?

 そんなおかしなことを言ったか?

「おお……。澄隆様の感謝の言葉……今まで一度も……」

 あ、そういうことか。

 これまで、傍若無人に振る舞ってきたから、この行動に驚いたみたいだ。

 これくらいで感動するなんて、よっぽど我が儘なガキだったんだな。

 


 嬉しそうににっこりと笑う近郷。

 顔の造りが怖いから、そんな顔をすると、余計に怖いぞ。

 俺は、近郷を見ながら、ステータスウィンドウを開く。



【ステータス機能】

[名前:九木浦近郷]

[年齢:38]

[戦巧者:35(51迄)] 

[政巧者:19(50迄)]

[稀代者:伍]

[風雲氣:伍]  

[天運氣:伍] 


~武適正~

 歩士術:伍

 騎士術:伍

 弓士術:参

 銃士術:壱

 船士術:伍

 築士術:伍

 策士術:参

 忍士術:壱


 近郷、お前まだ、三八歳なのか!

 そんな若く見えない。老け顔なんだな。

 前世の俺より年下なんて驚いた。


 

 あ、そんなことより、戦巧者と政巧者両方の数値が50オーバーだ。

 稀代者と風雲氣と天運氣の数値も伍。

 おはつより、数字としてはずっと高いけど、これが高いかどうか分からん。

 こんな鑑定ができるなんて、本当にゲームみたいだな。



 おっと、まずいまずい。

 手をずっと握ったままだ。

 近郷にニコッと笑って手を離す。  

 体調が悪いので、少し寝ると伝えて、一人でまた、横になった。


………………



 一刻ほど寝て、起きた俺は、厠に行った。

 五歳の身体だと、天井が高く感じられる。

 慣れない身体でひんやりと冷たい板張りの廊下をテクテクと歩いていく。

 現代のような照明もなく、昼間でも薄暗い廊下。

 物の怪が出そうで少し不気味だ。



 厠の帰りに、飲み水が入った大きな水瓶が目が止まる。

 ……そう言えば、今世の顔を見てないな。



 水瓶に近づき、背伸びしながら、その水面を見ると、見知らぬ男の子の顔が映っていた。

 あ~、顔を見ると、前世とまったく違う顔で、憑依したことを再認識する。

 


 前世では、預けられた施設の隣にあった剣道教室で、竹刀をずっと振っていた。

 俺は、剣道教室で教えてくれたお爺さんに懐き、高校卒業で施設を離れる日まで、竹刀に触れぬ日など無かった。

 その甲斐あってか、全国高等学校剣道大会個人戦で優勝することができた。

 俺の唯一の自慢だ。

 ただ、毎日運動していたのに、ずっと太っていて、あだ名はブーちゃん。

 大人になってからも、体型は変わらず、女にモテたことは一度もない人生だった。

 もちろん、女の子と付き合ったこともない。



 前世を思い出して、ちょっと目に汗をためながら、水瓶の水面に映った顔をよく見ると、なんだか、神々しいほど、めちゃくちゃ可愛くて美形だ。

 サラサラの黒髪に、切れ長の瞳なんてまるで宝石のようにキラキラしている。

 肌は透き通るような色白で、将来絶対にイケメンになりそうな男の子になっていた。



 俺は、水面に映る見慣れぬ姿をしばらく見詰めた後、ガクッと俯いて、溜め息を吐いた。

 うん……。

 ただ、どんなにイケメンになっても、中身はおっさんの俺だ。

 俺は、これからのことを考えるだけで精一杯だし、正直、外見なんて、どうでもいいな。 

 将来は、毒殺される運命の澄隆。

 まずは、何をするにも体調を戻さないと始まらないな……。


 



 そして、体調が戻ってきたある日の早朝。

 唐突に嘉隆叔父が家臣たちを引き連れて、押し掛けてきた。



 嘉隆叔父は、目付きが鋭く、鷹のような印象の男だった。

 その家臣たちも目付きが悪く、ガラの悪い風貌をしている。



「澄隆、元気になったらしいな……。それでだ。儂は、今日から波切城で、九鬼家の全ての実務を行うことにした。お前は田城城で大人しくしていろ」

「え……?」

 いきなり押し掛けてきて、何を言ってるんだ?

 九鬼家の実権を握り、俺を傀儡にするといきなり宣告された。



「九鬼家は敵が多い。儂が波切城で九鬼家をまとめてやる……。ちゃんと田城城の年貢も、儂に上納しろよ」

 ふんと鼻を鳴らす嘉隆。

 前世の知識で、嘉隆が俺を傀儡化することは知っていたが、ここまで、あからさまにしてくるとは思わなかった。



「お前はまだ幼い。何もできまい。家中の者たちは、お前ではなく、儂につくと言っている」

「…………」

 俺は、呆然と嘉隆を眺める。

 嘉隆も家臣たちも、俺を見る目が冷たい。



「……クククッ」

 嘉隆に追従している家臣たちは、俺を見ながら、舐めきった態度で、哄笑を続ける。

 幼くて何もできないと思われているのか。 

 俺は、前世の年齢を合わせれば、嘉隆よりずっと上になる。 

 だが、今は、見た目は五歳。

 客観的に見れば、五歳には何もできないと思うのは当然か……。



 ここで、いくら反論したところで、嘉隆が実権を握るのを抑えることはできないだろう。

 前世と一緒で、ここでも負け犬なのか……。



「かはは。何か言いたいとはあるか? 文句があるなら、聞いてやるぞ」

 嘉隆の発言に、近郷が目を怒らせて反論する。



「澄隆様は、故浄隆様が決めた第七代当主だぞ! 澄隆様を蔑ろにするとは何事か!」

 嘉隆は、サッと顔色を変えて、近郷を睨む。

「近郷! 澄隆はまだ五歳だぞ!? 九鬼家は敵も多い。このまま滅ぼされても良いのか!!」

 嘉隆が剣呑な雰囲気のまま、怒鳴り声をあげる。

「それに、澄隆は癇癪持ちで家中から評判も悪い……。頼りない澄隆よりも儂が良いと言っているんだ……。近郷も儂に従え!」

 嘉隆が俺を冷たく見下しながら、近郷に恭順を促す。



「……儂は澄隆様の守役だ。儂は澄隆様につく」

 近郷は、唇を噛み締め、怒りでぶるぶると震えながら、嘉隆に答える。

 嘉隆は鼻で笑いながら、近郷、そして俺を見返してきた。

 家臣たちも、俺たちを馬鹿にした侮蔑を含んだ笑いをしてくる。



「ふん、近郷、後悔するなよ……。後から儂につくと言っても、もう遅いぞ」

 嘉隆は、踏ん反り返って恫喝してくる。



 俺は隣にいる近郷を見る。

 近郷は、苦々しげに嘉隆を睨んでいる。

 嘉隆がここまで強気なのは、家中を自分の味方としてまとめあげたからだろう。



 近郷だけでも味方になってくれたのが、俺にとっては嬉しい誤算だが、俺を見る家臣たちの冷たい目に、気持ちが落ち込む。

 前世でも、アルバイト仲間に、よく同じ目をされたな……。



「かはは。儂がしっかり九鬼家をまとめてやろう。澄隆、分かったか? 感謝するんだな」

 嘉隆は、俺にずいと詰め寄って、目で脅される。

 俺は、感謝なんかできないし、無言で嘉隆を見詰める。



 嘉隆は、俺を見下ろしたまま、おおげさに溜め息をついた。

「はぁぁぁぁ……。返事も出来ないほどうつけか。情けない」

 嘉隆は、心底見下した表情で、俺の頭を乱暴に小突くと、床に唾まで吐いて去っていった。

 くそ、痛てて……。

 五歳の子供にする仕打ちじゃないだろ。

 前世を含め、初めて殴られたな。



 近郷を除く家臣たちも俺に冷たい視線を向けると、嘉隆に付いて離れていく。

 ……今日、嘉隆が押し掛けてきたのは、九鬼家での力関係を、家臣たちにもしっかり見せつけるためだろう。

 これで、九鬼家全体が当主の俺を裏切ったといっていい。

 近郷以外に味方は誰もいない。

 

 

 何とかしないと、毒殺というバッドエンドルート一直線だな……。




 

 数日後。

 すっかり体調が戻った。

 近郷を呼んで、今の俺に出来ることをお願いする。

 まずは、人材の確保だ。

 味方は、近郷一人。

 俺が生き残るためには、優秀な家臣を増やすしかない。

 そのためには、右手の秘めたる力をフル活用して、有能な人材を集めまくろう。



「ちかさとー! 民に対して、握手会をしたい」

 前世の日本での握手といって、まず思い出すのが、芸能人の握手会だ。

 握手会には、日頃触れ合えないファンと交流すると言う意味があって、テレビや遠くのステージでしか見ることができない芸能人が、ファンへの感謝の気持ちを込めて行なうのが握手会。

 それなら、いつも近くで見ることができない当主が率先して、自分の領民への感謝の気持ちを込めて行う握手会をしてもいいじゃないか!



 ……ということを、近郷に説明した。

 握手会と言う言葉は良く分かりませんなと言いながら、近郷は、思ったよりあっさりと承知しましたと答える。



 嘉隆が押し掛けて以来、何かしないといけないと、近郷も思っているらしい。

 それと、最近の俺が癇癪をおこさず、我が儘を言わず、落ちついているから、俺が当主の自覚を持ち始めたと思っているっぽい。



 ……まあ、どう思われても、言うこと聞いてくれるぶんには問題ないか。




 

 田城城の支配下にある村の一つにきた。

 今は村総出で俺の前にいる。

 二百名ばかりが平伏して、頭を下げている。

 下げている相手は俺だ。



 俺は、平伏されることに慣れずに戸惑う。

「み、みなのもの。新しく当主となった、澄隆だ。これからもよろしくたのむ」

 俺は唾を飲み込みながら右手を差し出す。

「で、では、握手」



 村の皆がキョトンとする中、すかさず近郷がフォローする。

「澄隆様がお前たちに感謝をこめて、お手を触れたいとのことだっ! 一人一人呼ぶから、その場で待て!」

 俺は、再度、領民に声を掛ける。

「では、握手」



 さすがに、当主から握手と言われて、みんな、恐縮している。

 こんなこと、戦国時代でやる当主は初めてだろうな。



 俺が握手会をしていると他国に広まると、俺を暗殺する絶好の機会にもなるし、握手会による人材発掘はずっと使える手ではないよね。

 早めに良い人材が見つかれば良いけど。



………………



 領民一人ひとりに握手しているが、成果は芳しくない。

 う~ん、どの領民も、戦巧者、政巧者とも、20を超えない。

 ということは、近郷の50は、武将としては、なかなかのレベルってことなのか。

 武適正も壱か弐の者ばかりだ。

 まあ、まだ、握手会を始めたばかりだ。



……と思っていたら、握手する人がいなくなった。

 キョロキョロとして、『これで、ぜんいん?』と聞いた。

 『これで、全員ですな!』と近郷が周りを見ながら話す。

 残念ながら、数値の高い人材はいなかった。



………………



 次の村でも握手会をしたが、良い人材はいない。

 ふう……。

 有能な人材など、簡単に見つかるものではないようだ。



 近郷がこの村の村長に、これで全員かと聞いている。 

 村長が、村民ではないが、最近、村に流れてきた男がいると言うので、呼んできてもらった。



 すると、見た目、まだ少年と言ってもいい風貌の男があたふたと走ってきて、土下座してきた。

「も、申し訳ございません。御当主様が村民と会いたいとお聞きしていたので、よそ者の私は遠慮しておりました。ご容赦ください」

 遅れてきた男の顔を上げさせると、こけし人形に似ていた。



 細い眉毛、目がないほど細い目、唇も薄く真横に細長い。

 見た目は、着物がボロボロで見すぼらしい。

 相当、苦労をしていそうだ。

 話した感じでは真面目そうだけど、身体は痩せぎすだし、戦闘には不向きかなぁ?



 う~ん、今回の握手会は成果なしか。

 この男とも握手しないと、可哀想だよな。

「はい、握手」

 平伏している男の手を強引に引き上げて握手する。



【ステータス機能】

[名前:田中宗政]

[年齢:12]

[戦巧者:3(3迄)] 

[政巧者:8(86迄)]

[稀代者:捌]

[風雲氣:伍] 

[天運氣:捌]   


~武適正~

 歩士術:壱

 騎士術:壱

 弓士術:壱

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:玖

 策士術:玖

 忍士術:壱



 俺はステータスの数値に目を見開く。

 なんだとぉぉ!

 政巧者が80を超えている。

 86なんて数値、初めて見たな。



 ……ただ、戦巧者3は低すぎる。

 戦巧者6のおはつより、弱いのか。

 やっぱり、括弧内の数値が能力上限で政巧者だと86と考えれば良さそうだ。



 それに、稀代者と天運氣の数値も捌。

 これまでの最高の数値だ。

 


 そして、武適正も、目を見張る数値がある。

 戦闘に関わるものは絶望的な壱の数値が並ぶが、築士術と策士術が驚異の玖だ!

 築城や計略を進める時には、とんでもなく役に立つだろう。



 うん、育っていない今の能力だけを見ると、絶対に採用しない人材だけど、政巧者が86なら、潜在能力は高いよね。

 育てば、必ず優秀な家臣になる。

 良い人材を見つけて、興奮してきた。

 家臣にしよう。



 鼻息荒く、この男に話しかける。

「気に入った。取り立てるので、お城に、来るように」 

 男は驚愕して、顔が固まっている。

 どう返事したら良いか分からないといった感じだ。

 俺が再度、『取り立てるぞ』と言うと、顔を強張らせながら頷いた。

 ……本当にこけし人形みたいだな。

 まあ、外見がなんであろうと気にしない。

 潜在能力の高さを考えると、期待しかないな!



………………



 握手会が終わったお城への帰り道。

 あれから、残りの村に行ったが、宗政ほどの人材はいなかった。


 

 俺の後ろには、採用したばかりの宗政がいる。

 宗政に話を聞くと、実家は近江国にあり、足軽の出らしい。



 後ろを向いて、トボトボと歩いている宗政を見る。

 うん、痩せたこけし人形だ。

 見た目からじゃ、政が得意なんて分からないな。

 服装からも、今まで不遇な毎日を送っていたようだし、抜擢してあげよう。



 今のところ、政巧者が高いことは分かっているのだから、文字を習わせたら良いのかな?

 よし! 近郷に頼もう。

「ちかさとー。宗政に、文字の読み書きと、そろばんを教えてあげて!」



 近郷に頼むと、俺も習うべきだと、やぶ蛇になった。

 分かったから、その怖い顔、近づけないで。



◇◇◇◇◇



 どうして、こうなった……



 私、田中宗政は、前を歩く異様に綺麗な、おなごのような幼児に何故だか気に入られて、家臣になった。

 握手というものも初めてしたが、訳が分からない。



 十歳の頃、近江国の貧乏足軽の家を武者修行のために飛び出して、それから二年。

 剣の修行一筋、どんなに頑張っても、一向に剣の腕が上がらず、苦労の連続。

 志願兵として、戦場に参加してみたら、槍合わせが始まってすぐ、頭を叩かれて気絶して終わった。

 あの時は殺されなくて良かったぁ。

 別の戦場に参加したら捻挫をして動けず、また別の戦場では川で溺れて死にそうになった。



 どこにいっても上手くいかず、食い詰めて、流れ流れて、こんな田舎にまで来てしまった。 

 村の老夫婦にお世話になって、力仕事を手伝いながら、飯にはありつけたが、先が見えず途方にくれていた。



 そこに、現れたのが、九鬼家の当主だ。 

 まだ、五歳ぐらいの幼児に、なぜだか手を握られて、なぜだか九鬼家に仕官できることになったようだ。

 変わった当主のようだが、初めての仕官だ。



 どこに行っても相手にされなかったため、仕官できたことが正直、夢みたいだ。

 本当に嬉しい。


 

 落ち着いて、歩きながら前を見ると、近郷と呼ばれている男が大声で怒鳴っている。 

 


 うん……私がとんでもなく弱いことがバレたら、絶対にすぐに放り出されるよな……。 

 路頭に迷っている自分の姿が目に浮かび、思わず、身震いをした。



 そ、そうだ、貯金しよう。

 そうしよう!  

 生活費を稼ぐために、貯金を頑張る決意をした。



―――――――status―――――――


[名前:九木浦近郷(くきうら ちかさと)]

[年齢:38]

[戦巧者:35(51迄)] 

[政巧者:19(50迄)]

[稀代者:伍]

[風雲氣:伍] 

[天運氣:伍] 


~武適正~

 歩士術:伍

 騎士術:伍

 弓士術:参

 銃士術:壱

 船士術:伍

 築士術:伍

 策士術:参

 忍士術:壱


 お禿げのムキムキおっさん。

 見た目はゴリラ。

 大雑把な性格で酒乱持ち。

 九鬼澄隆の守役で、澄隆に苦言も多いが、本当は実の子供のように愛している。

 四人の娘がいるが、幸い、娘たちは奥さんの方に似ていて可愛い。


―――――――――――――――――


[名前:田中宗政(たなか むねまさ)]

[年齢:12]

[戦巧者:3(3迄)] 

[政巧者:8(86迄)]

[稀代者:捌]

[風雲氣:伍] 

[天運氣:捌] 


~武適正~

 歩士術:壱

 騎士術:壱

 弓士術:壱

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:玖

 策士術:玖

 忍士術:壱


 こけし人形みたいな容姿。

 絶望的に弱いが内政はできる子。

 自己評価が極端に低く、いつ九鬼家を追い出されるのか不安で、ずっとビクビクしている。

 不安感を拭うための貯金を始めた。


―――――――――――――――――

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 右手で触れないとステータスが鑑定できない設定が面白いですね
[良い点] 構想が面白いですし、文章も読みやすく今後も読みたいと思いました。 [気になる点] 今後敵になること確定の相手がわざわざ胸ぐら掴んできてるので右手で触るなりして数値を確認しないのは違和感があ…
[良い点] 握手会は笑う [気になる点] 初登場時は名前にルビふってほしい [一言] がんばえー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ