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第一六話 第二次スカウト

▽一五六五年四月、澄隆(十歳)田城城



 俺は、大きく伸びをしながら一人呟く。

「ふ~、疲れた……」

 これまでの成果を紙に書いて纏めていたら、だいぶ時間がかかってしまった。


 

 さあ、澄み酒、干しシイタケ、澄み薬、澄み石鹸を売るお金儲けがやっと軌道に乗って、お金はだいぶ集まった。 


 

 玉鋼、生糸、硝石は、必要な量がまだまだ足りないし、あまり派手に動くと目立つので、売らずに秘密裏に蔵の中にしまっている。



 それで、今まで稼いだお金で、蔵には、戦力増強に使える資金が一万二千貫ほどある。

 一貫が十万円ぐらいだから、一二億円だ!

 宗政が頑張って売り捌いてくれたおかげだな。



 全て、銅銭なので、ジャラジャラとかさばるが、蔵に行って一万二千貫のお金を見ると、思わずニヤニヤしてしまう。



 ここからは、攻める時間だ。

 一万二千貫は、大事に使いたい。

 何に使うか?

 まずは、戦える人数を増やそう。

 近郷と宗政を呼んで作戦会議だ。



………………



「近郷、足軽をたくさん増やしたい。何とかならないか?」

「は、はあ。支度金を出せば、領民のうち、田畑の相続ができない農家の二男か三男が来てくれるとは思いますが、信用できる者を雇うとなると、それなりに時間はかかりますぞ……」



 う~ん、この城には機密情報も多いし、信用できる者じゃないと確かに不安はあるよね。

 本当は、領地の外を含めて大々的に兵の公募がしたいが、嘉隆の目が光っている手前、あまり派手には動けない。 

 足軽集めのことは、近郷と宗政に任せるか。



「じゃあ、足軽を雇うのは任せる。支度金は増やしても良いから、できるだけ急いで集めてほしい。後は、光俊をここに呼んでくれ」

 次は、これまで我慢していた第二次スカウトだ!



………………



 光俊を呼ぶと、小半刻で現れた。

 早いな。

 光俊も、最初会った時に感じた陰がある雰囲気がなくなり、表情が明るくなっている。



 これなら、これまでは頼みづらかった、このスカウトもやってくれるかな。 

「光俊! お願いがある。光俊達、多羅尾一族がよくやってくれていることは十分理解しているが、戦うためには、もっと人数がいる」



 俺は、一呼吸置いて、光俊に伝える。

「そこでだ。相模国(今の神奈川県だね)の風魔一族をスカウトしてきてほしい」

 光俊は、一瞬、驚いた顔をしたが、いつもの渋い顔に戻って、頷いた。



「承知しました。スカウトしてまいります」

 いつもそうだけど、光俊は理由を聞かないよね。

 良いの?

「新たに忍者を仕官させること、何か不満はないのか?」



 俺が尋ねると、微笑んで、力強く首を横に振った。

「澄隆様、何の不満もございません。澄隆様の澄んだ目を拝見するだけで、多羅尾一族のことを気に掛けて頂いていることは分かります。必ずや、風魔一族をスカウトしてまいりましょう」

 うん、光俊は、言うこともいつも渋いね。

 光俊、よろしく頼む!


 

 あとは、波切城の様子も聞いておくか。

「光俊、波切城はどうだ? 俺たちを警戒していないか?」

「はっ。我々多羅尾一族は、可能な限り目立たず、農民にしか見えない生活をしておりますので警戒はされていないかと。それと、澄み酒や干しシイタケ、澄み薬や石鹸も波切城にはタダ同然で沢山渡しておりますし、堺にどのくらい売っているかも分からないように情報操作しております。また、澄隆様のご指示で失礼ながら、澄隆様の悪評を波切城内にわざと流しておりますので、波切城では澄隆様のことを、お人好しの……大うつけの当主と未だに思っているようです」

 うん……。

 大うつけと思われているなら、まだ、大丈夫かな。



 田城城と波切城は七里も離れた場所にある。

 距離が離れていること、そして、光俊達の情報操作のおかげで、波切城まで正確な情報が伝わらず、今のところ、上手く騙せているようだ。



 やっとお金儲けが軌道に乗った今、目立たずに力をつけよう。



………………


 

 一ヶ月後。



 風魔小太郎のスカウトは、相模国で小太郎が中々見つからず、だいぶ探すのに苦労したようだが、光俊が無事に連れてきてくれた。

 光俊、偉い!



 俺は、早速、評定部屋で会うことにした。

 相変わらず、同席する近郷は警戒して、刀を持った兵を俺の近くに配置するようだ。

 光俊は、同席を遠慮して、別室で待機している。



 小太郎が待つ部屋に入ると、思わず二度見するぐらいビックリした。


 

 ……小太郎が率いている風魔一族は、見た目からして、異形だった。



 全員が茶渋色の服で統一されており、顔には、能で使うような面をつけている。

 俺が上座に座ると、一番前にいる山のような大男が深々と頭を下げながら挨拶をする。

「わたくしは風魔一族棟梁、風魔小太郎と申します」



 俺に挨拶をした小太郎は、腕が異様に長かった。

 そして、小太郎の面だけ、無表情の面で、怒っているのか、悲しんでいるのか、分からない。


 

「澄隆様の前である! 面を取らんか!」

 近郷が、青筋を立てながら、小太郎達に怒鳴る。

 そんなに怒鳴ると耳が痛いよ。



「ホホホ、我ら風魔一族は、みな、何かしらの業を抱えた者達でございます。人様に顔向けできない日陰者のため、面をつけております……」

 無表情の面をつけた小太郎が話している姿を見ていると、不気味で、何だか寒気がしてくる。



 ただ、これはこれで良い!

 今まで出会った忍者達の中で、一番、忍者っぽい。  



「ああ、俺は、気にしない。皆、色んな面をしていて、面白いな」 

「……後ろに控えている者は、喜怒哀楽の四つの表情を模した面をしております。喜の面は山賊、怒の面は海賊、哀の面は強盗、楽の面は窃盗を主に生業にしていた者達でございます」



 近郷が、しかめ面になりながら、俺の耳に顔を近づけ、小さな声で囁く。

「こんな者達を仕官させては、澄隆様の名に泥を塗ることになるのではないですかな。危険ですぞ」

 うん、その気持ちも分かるけどね。

 


「ホホホ。確かに泥を塗ることになるかもしれません……」

 うぉ!

 近郷は、小太郎に聞こえないように小声で話したのだが、小太郎には聞こえたらしい。

 並外れた聴力があるのか。



 まあ、なんにせよ、聞いてみよ。

「我が九鬼家に仕官したら、これまでの生業は全て禁じる。守れるか?」

「……面を付けたままで、我々の生業をお伝えしても、まだ仕官を考えて頂けるのですか?」

 うん、確かに危ない感じはするね。近郷は大反対ぽいし。

 ただ、前世でも風魔一族は、強いイメージがあるんだよね。

 裏切らないなら、家臣に欲しい。


 

「今は北条家に仕えていると聞いた。当家に寝返ることになるが、構わないのか?」

 小太郎は、少し間を置くと、肩を揺すって笑いだした。

「ホホホホ。寝返りとは主従関係がある場合に成り立つ言葉でございます。我らは、北条家での消耗品に過ぎません。玩具のように壊れたら捨てられるのみ」



 ここでも、忍者の不遇さ全開か。

 忍者って、本当に厳しい環境で、生活しているよね。 

「なるほど。ならば、俺は風魔一族と主従関係を結びたい。小太郎よ、一族郎頭含め、家臣として取り立ててやろう。給金もはずむ。ただし、俺のために死ねるか?」

 俺は内心、ドキドキしながら、仕官のハードルを上げた。

 これで、少しでも躊躇するようなら、仕官は見送ろう。



 小太郎は、そっと、自分の面に手を触れて、面を外した。

 後ろの従者達がざわついている。   

「一つだけお願いがございます。風魔一族は、九鬼家ではなく、澄隆様に忠誠を誓わせて頂きます。それでよろしいですか?」

「はい?」

「我々は、澄隆様からの命令で動くのみ」



 それって、俺が死んだら、風魔一族は裏切っちゃうってこと?

「うん?」

「光俊殿に九鬼家仕官のお話を伺ったあと、失礼ながら、澄隆様のことを詳しく調べさせて頂きました」

 小太郎は、俺の目を真っ直ぐに見つめながら、ゆっくりと話し続ける。

「澄隆様が九鬼家当主になられてから、忍者を有り得ないほどの厚遇で召し抱えていることを知り、驚愕いたしました……。そして本日、直接、澄隆様にお会いして、信頼できるお方だと理解いたしました」

 小太郎は、面をつけ直しながら、声色が下がる。



「ただし、澄隆様以外を信頼することはできません。我らが風魔の忠誠は澄隆様に」

 うーん、それなら、良いか。

 一緒に過ごすうちに、他の人のことも信頼できるだろ。



 隣にいる近郷を見ると、ゴリラ顔を顰めて酷い顔になっている。

 相当苛々しているようだが、俺は、風魔一族をスカウトすることに決めた。

 近郷、小太郎と仲良くしてね。

「分かった。命令するときは、俺が直接指示を出す」



 俺は、よいしょと、小太郎の前まで歩いていく。

 近郷が、今回も『澄隆様!』と大声を出しているけど、気にしなーい。 

「じゃあ、よろしく頼む」

 俺は発言しながら、小太郎の手を握る。

 小太郎もさすがに驚いたのか、固まっていたが、また、ホホホという独特の笑いで応えてくれた。

 これで、風魔一族も家臣になった!



 ちなみに、小太郎のステータスを握手した時に確認すると、予想通り戦闘に特化していた。



 戦巧者はなんと80オーバーだ!

 さすが、史実でも有名な忍者だね。

 こんな忍者を家臣にできて、とても嬉しい。



 稀代者の数値も捌。

 宗政と同じだな。

 宗政の能力の高さを踏まえると、稀代者の捌は、相当期待できる。

 それに、武適正の忍士術の数値も玖だ!

 こんな忍者を家臣にできて、とても嬉しい。



【ステータス機能】

[名前:風魔小太郎]

[年齢:33]

[戦巧者:63(81迄)] 

[政巧者:18(25迄)]

[稀代者:捌]

[風雲氣:弐]

[天運氣:陸]


~武適正~

 歩士術:漆

 騎士術:壱

 弓士術:伍

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:壱

 策士術:参

 忍士術:玖

 

……この後、小太郎の従者達にも握手をしたかったが、近郷に妨害されて、できなかった。

 悔しい。

 あ、あと、面を外した小太郎の顔は、彫りが深く、目の色が黒より青に近かった。

 外人の血でも入っているのかな。

 聞きづらいから聞かないけど。





 風魔一族をスカウトして約一ヶ月後。

 朝、起きると、なぜだか、左腕に違和感があった。



 ぶら~んと、腕があり得ない角度に曲がっていて、『あんぎゃ~』と驚く声を出すと、城内の皆が、慌てて俺の寝てる部屋に集まってきた。



「す、澄隆様、いかがされましたか!?」

 近郷が血相を変えて、焦った声を出している。

 俺の左腕を近郷に診てもらうと、ポッキリと折れていた。



 襲撃でもあったのかと、護衛を頼んでいた光俊に確認すると、誰も俺が寝ている部屋に侵入していないとのこと。

 俺の寝相が悪くて、折れたようだ。



 皆が慌てる中、小太郎が医療の心得があるというので、任せたら、腕をぐいっと伸ばされ、俺がまた『あんぎゃ~』と声を出す間に腕を真っ直ぐにして添え木をしてくれた。

 布でぐるぐる巻きになった俺の腕を見ながら、近郷が盛大に嘆息を漏らした。

 


「ふぅぅぅ、澄隆様……。寝ながら腕を折るなんて、寝相が悪過ぎますぞ!」

 近郷が、俺の命には関わらない怪我だったからか、ホッとした顔をしながらも、苦言をいう。



 大声を出して、悪かったよ。

 俺も驚いたんだ。



 皆に、すまんすまんと謝って、解散してもらった。

 あ~ビックリした。

 寝ていて、骨を折るなんて、思わなかった。

 もっと小魚などのカルシウムを取ろう。



 そう言えば、左腕って、前世でも折ったな。

 確か、今と同じぐらいの年だった……。


―――――――status―――――――


[名前:風魔小太郎(ふうま こたろう)]

[年齢:33]

[戦巧者:63(81迄)] 

[政巧者:18(25迄)]

[稀代者:捌]

[風雲氣:弐]

[天運氣:陸]


~武適正~

 歩士術:漆

 騎士術:壱

 弓士術:伍

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:壱

 策士術:参

 忍士術:玖


 父親は日本に流れ着いた南蛮人だったため、彫りが深く、目の色が青い。

 子供の頃は日本人離れした容姿で迫害を受けていたが、自らの力で荒くれ者たちを従え、風魔一族の頭領になるまで登り詰めた。

 北条家で様々な汚れ仕事を請け負っていたが、北条家の当主が代わってからは年々、禄を下げられ、このままでは『北条に飼い殺される』と、危機感を持ち始めていた。

 誰にも言っていないが、可愛い動物が好き。

 年の離れた実の妹がいる。


―――――――――――――――――

お読みいただき、ありがとうございます。

次回は、常備兵を揃えていきます。

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど。 もしかしたら前世で負った怪我を業として今世でも負うのかもしれませんね。 そうなると前世の享年が今世の享年になる可能性も出てきた訳で。 なるほど?^^;
[一言] 御庭番衆の般若が浮かんだわ。
[一言] 不気味な風魔一族、小太郎さん以外の描写も楽しみに待っています。
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