表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/124

第一一話 石鹸の日本デビュー ~内政結果~

▽一五六五年四月、澄隆(十歳)田城城



 日本に初めて石鹸が入ってきたのは、この戦国時代。



 この頃の石鹸は大変な貴重品で、手にすることのできたのは、限られた人たちだけだった。



 それで、なんと、この時代では石鹸は、洗浄剤というよりは、下剤などの薬用に使われていた。 

 お腹、壊さないのかな。

 壊すから下剤なのか。



 石鹸を持ち込んだのは、南蛮交易で繋がっていたポルトガルの船だ。

 ポルトガルでは石鹸のことをシャボンと言うらしい。

 俺は、高値で売れそうな石鹸も作ることにした。



◇思い出澄隆(五歳の頃……)



「宗政、洗濯には何を使っているんだっけ?」

「え、えーと、主に、ムクロジの実です」



 ムクロジの実を宗政に持ってきてもらった。皮は硬く、羽子板の玉みたいだ。

 ただ、水に入れてかき混ぜると、泡が出る。

 これで洗うと、石鹸ほどではないが、汚れが落とせるようだ。



 でも、正直、洗濯には良いが、ヌルヌルしていてサッパリはしない。


 

「宗政! 隆佐殿の所に行って、牛脂を買ってきてくれ」 

「は、はい、牛脂ですか……どのくらい必要ですか?」

「いくらでも良いぞ。あるだけ買ってきてくれ」

「は、はあ……」

 宗政は、不思議そうに唸った。



…………………



 宗政は、堺まで買い出しに出掛け、牛脂が入った大量の樽を伴って戻ってきた。

 ちょうど、冬になる前に、家畜を絞める時期だったらしく、大量の牛脂が手に入った。



 今までは、捨てていた物で、二束三文で買えたらしい。

 買った牛脂は、光俊がいる村に届けた。

 俺は早速、光俊に石鹸の材料作りをお願いする。



「光俊、牛脂を温め、溶けたら同量の海水を混ぜて、四半刻ほど、煮詰め、そのまま冷やして、表面に浮いた油脂を集めてくれ」

「ははっ!」

 光俊達は、牛脂を薬として扱ったことがあるらしく、鼻と口を厚手の布で覆い、手慣れた感じで、煮詰めていく。

 俺も見様見真似で、鼻と口を布で覆う。

 


 グツグツと煮込まれる牛脂。

 白い煙が浮かび上がる。

 その時、俺は、興味から鼻から布を外して、クンクンとその臭いを嗅いでみた。



「みぎゃっ!?」

  突然、鼻の奥で信じられない臭さが爆発した。



「鼻がぁぁあ! 鼻がぁぁあああ!」

 俺は、大声で叫びながら、鼻を押さえて転げまわる。

 うかつに臭いを嗅ぐんじゃなかった……。

 心からそう思った

 トンコツラーメンを数百倍臭くした臭いだ。

 トンコツラーメンは好きだったが、これは無理だ。



 俺が臭い臭いと叫ぶと、光俊が慌てて俺に声を掛けてきた。

「澄隆様っ! だ、大丈夫ですか!?」

 俺は、臭さで涙声になりながらも心配ないと頷く。

「み、光俊。大丈夫だ。光俊達は気にせず、作業を続けてくれ」   

 


 俺は、息も絶え絶えに、厚手の布をしっかりと顔に巻き付けると、次の作業を指示する。

「き、木の灰を使って、カリウムを集めてくれ」

「カリウム……ですか? どのように集めるのですか?」


 

 俺は、作業場にある道具から、良さそうなものを見繕って実践してみる。 

 桶の底に藁、木、石を何層にも積み重ねて、底には穴を開ける。

 桶の上に灰を被せて、水を少しずつ掛けて、桶の底から流れてきた水酸化カリウム水溶液を溜めた。

 これで、石鹸作りに必要な物は揃った。



「よし! 光俊、石鹸を作ろう」

 光俊に、石鹸のレシピを伝える。



 大きい鍋に、水酸化カリウムと油脂を入れ、刺激が強いので、絶対に手に触れないように注意して、沸騰させる。

 鍋をかき混ぜる際、目や皮膚に飛んで付着しないように、かき混ぜ棒は長い物を用意させた。


 

 四刻ぐらい、沸騰させることで、だんだんと固くなり、泡が立ち始めた頃に火を落とす。



 冷めたら出来上がりだ。

 現代の固形石鹸のように、固まってはおらず、今で言う液体石鹸だな。


………………



 早速、これで頭や身体を洗ってみた。

「ラーメン臭くて、気持ち悪い……」

 俺自身が、トンコツラーメンの臭いになった。

 これはいかん。

 俺が異臭のもとになってしまう。



「光俊! この臭い、改良できるか?」

「澄隆様……香りの良い薬草を入れてみましょうか?」

「そうだな……試してみてくれ」

 芳香剤代わりに、薬草を入れた石鹸を色々、試してもらった。



 光俊達の試行錯誤の結果、色は少し緑色になったが、ラーメン臭のしない石鹸ができた。



 さすが、光俊。



◇今の十歳澄隆……



 液体石鹸のため、大きめの貝殻に入れて、これも宗政が堺に売ったら、大ヒット!



 予想以上に売れている。

 石鹸で身体を洗う爽快感にハマる者が続出して、品薄状態になるほどの人気商品になった。 



 俺も、定期的に石鹸で行水ができてサッパリするし、作って良かった。

 ちなみに、液体石鹸の商品名は、澄み石鹸になった。



 また、俺の字を使ったな。

 何度も俺の字を使うのは、さすがに恥ずかしいぞ。

お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 身体がとんこつラーメン(笑)
[良い点] おもしろい!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ