第一〇四話 野薔薇隊
▽一五七一年十二月、澄隆(一六歳)鳥羽城
大河内城の戦いから、約一ヶ月半が経った。
その間は、特に何事もなく、これまでたまっていた内政の充実に取り組んだ。
光俊たち多羅尾一族は、澄み酒などの生産に注力し、精米歩合を向上させた新しい品種を編み出した。
雑味が減って、香りが良いと、家臣達にも好評だ。
そして、左近は相変わらず、常備兵への変態訓練をせっせと行っている。
俺は、左近にしごかれる常備兵を見ながら、思わずブルッと身震いする。
俺は、もう絶対にやらないからな。
俺は、定期評定が終わり、評定部屋でナツメ茶を飲んでいると、風魔の霖が畏まった顔で相談してきた。
「澄隆様……」
「ん?」
「相談したいことがありまして」
「霖が相談とは珍しいな。なんだ?」
「澄隆様を守る人員が足りません」
俺は、霖に顔を向けて、話を続けるよう促す。
「領内に他国の忍びが入り込んでいます。それも多数……。これまでは見つけ次第、対処してまいりましたが、九鬼家が大きくなるにつれて、様々な忍びが領内に侵入しております」
霖は、前のめり気味に話す。
フワッとした栗色の髪が、フランス人形のような霖の額に少しかかった。
「九鬼家にとって、澄隆様のお命を守ることが最も大事でございます」
俺は首をひねりながら訊ねる。
「世鬼一族には伊賀国を監視させているし、小太郎たちが領内を巡回している……。安全は確保できていると思っていたが、そんなに危険なのか?」
「はい……。鳥羽港が急激に発展し、多数の商人が他国から入ってきています。この鳥羽城にも、商いのために多くの商人が入っておりますが、中には忍びが変装して紛れ込んでいる者も……。先日も城内に侵入した忍びの集団と戦いになり、全員を討ち取りましたが、我々も数人の死者が出ました」
そんなことがあったのか……。
小太郎は、自分の仕事の成果を話したがらないので、知らなかった。
後で、風魔一族に褒美を渡そう。
「分かった、それで、対策はあるのか?」
俺は、なるほどと頷いて、霖に聞く。
「はい、風魔一族の中から数人、澄隆様付きの侍女にしたいと考えております」
俺は、頭を捻りながら考える。
暗殺の危険が増しているのか……。
風魔一族のくノ一なら、信頼ができるし、安全面からも良い案だな。
「分かった。何人の侍女を考えている?」
「はい……。現在、一族で訓練中の者たちのうち、戦闘が特に得意な五人を考えております」
「よし、良いぞ。それなら、その五人を侍女にするから、連れてきてくれ」
「はい。では、すぐに準備を始めます」
風魔のくノ一か。
どんな者たちが来るのかな……。
▽
約二週間後。
評定部屋。
俺の前に侍女の服を着た五人の女性が正座して並んでいた。
皆、若い。
俺と同じか少し下ぐらいの年齢かな。
「澄隆だ。全員の名前を教えてくれ」
霖が、それぞれを紹介する。
「左から、はつ、はな、てん、なつ、あき、です」
「そ、そうか」
いきなり言われても顔と名前が一致しないぞ。
話を聞くと、五人は幼い時に風魔一族に拾われた孤児だったらしく、名前は一族に入ってからつけられたらしい。
それなら、本来の名前があるはずだ。
ステータス機能の力を使って、俺が本名を教えてあげるか。
右手の秘めたる力は内緒にしているから、俺が新たに名前をつけた形にしよう。
「よし、俺が名前をつけてやる。一人ずつ、前に出てきてくれ」
一人ずつ握手をしていく。
握手した手は、五人ともしっかりと刀を振っているようなタコがあった。
俺は、握手した際に本来の名前をステータス機能で確認して、五人に名前を教えていった。
俺が名前をつけてくれたことに感動したのか、五人とも顔を上気して、何度も頷いている。
これが、五人のステータスだ。
霖が戦闘が得意と言っていただけあって、皆、戦巧者が高い。
【ステータス機能】
[名前:小南茜]
[年齢:14]
[戦巧者:46(59迄)]
[政巧者:8(26迄)]
[稀代者:肆]
[風雲氣:壱]
[天運氣:参]
~武適正~
歩士術:陸
騎士術:壱
弓士術:陸
銃士術:壱
船士術:参
築士術:弐
策士術:参
忍士術:陸
【ステータス機能】
[名前:安堵海]
[年齢:15]
[戦巧者:39(49迄)]
[政巧者:18(42迄)]
[稀代者:肆]
[風雲氣:弐]
[天運氣:肆]
~武適正~
歩士術:伍
騎士術:弐
弓士術:肆
銃士術:伍
船士術:弐
築士術:肆
策士術:肆
忍士術:伍
【ステータス機能】
[名前:龍田咲]
[年齢:16]
[戦巧者:53(66迄)]
[政巧者:3(8迄)]
[稀代者:伍]
[風雲氣:陸]
[天運氣:壱]
~武適正~
歩士術:陸
騎士術:伍
弓士術:壱
銃士術:壱
船士術:壱
築士術:壱
策士術:壱
忍士術:漆
【ステータス機能】
[名前:吉備春]
[年齢:13]
[戦巧者:42(51迄)]
[政巧者:9(22迄)]
[稀代者:肆]
[風雲氣:参]
[天運氣:参]
~武適正~
歩士術:伍
騎士術:弐
弓士術:参
銃士術:弐
船士術:弐
築士術:弐
策士術:参
忍士術:伍
【ステータス機能】
[名前:目安凪]
[年齢:15 ]
[戦巧者:37(46迄)]
[政巧者:28(55迄)]
[稀代者:伍]
[風雲氣:肆]
[天運氣:弐]
~武適正~
歩士術:肆
騎士術:壱
弓士術:壱
銃士術:壱
船士術:伍
築士術:伍
策士術:陸
忍士術:伍
年齢は13歳から16歳。
若いのに、現時点の戦巧者の数値も高い。
相当の訓練を積んだのだろう。
「よし、では、これから、俺の護衛、よろしく頼む」
俺がそう言うのと同時に、五人が示し合わせたように、平伏した。
▽
五人が侍女になって数日後。
侍女たちは、俺の世話をする傍ら、城内の訓練場で朝の鍛錬を毎日している。
教官役は、霖だ。
俺は、侍女たちの腕を見るために、訓練を視察することにした。
俺の隣には、近郷と左近がいる。
二人とも、俺と同じく気になったらしい。
訓練をしている侍女達の構えは、さまになっていて、かなりの使い手だと分かる。
手に持っているのは、なんと、『かんざし』だ。
この時代の髪留めに当たる。
一見、武器には見えないが、髪から取ると、長さが一尺三寸はある。
侍女として、いつも武器を手に持つ訳にはいかないため、これを主力武器にするようだ。
かんざしをよく見せてもらうと、鉄製、棒芯は真っ直ぐ、断面は八角形、手で持つ所に、短いL字型の受け棒がついていて、刀で斬りかかってきても、その受け棒で防御できるとのこと。
かんざしを持って対峙する咲と茜。
かんざしの先端は鋭く尖っていて、当たりどころが悪ければ、軽い怪我では済まないだろう。
俺は、思わず、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「始め!」
霖の号令と同時に、咲と茜の激しい訓練が始まった。
「はっ!」
キャァァァン!
咲が、右手に持ったかんざしで突きを入れると、茜は同じく右手に持ったかんざしを斜めに傾けて、軌道をそらす。
咲は追撃として、茜の顔を目掛けて、左肘を打つ。
「やっ!」
それを、茜は、一歩後ろに下がって避けると、反撃に、咲の顎を目掛けて蹴りを放った。
咲は、少し驚いた顔をしたが、後ろに大きくバク転をして躱した。
おお、かんざしで攻撃するだけではないのか。
「やるね……」
「へへっ」
二人はこの後も、かんざしを使いながらも、肘や足を使った激しい攻防を繰り広げた。
「はい、やめ!」
咲と茜の二人は、霖の掛け声を聞くと、動きを止め、互いに礼をする。
「ふぅふぅ……」
さすがに、これだけの攻防を続けると、二人の顔は上気し、額には汗が滲んでいる。
二人の表情は、真剣そのものだが、顔が上気していて、なんだか、凄く色っぽい。
「……澄隆様、侍女の動きではないですな」
訓練を見ていた近郷は、茫然とした様子で呟く。
確かに、俺の目から見ても、かなりの使い手だ。
さすが、戦巧者の数値が高い二人の動きだな。
これだけの実力があれば、護衛としても安心できる。
この訓練を見ていた左近が、心底感心した顔で提案してきた。
「澄隆様。これ程の腕前なら、拙者の実戦訓練に、敵役として参加してほしいですな……」
それを聞いた霖が、直ぐに頷く。
「咲達にも良い訓練になるでしょうし、ぜひ、お願いします。煮るなり焼くなり好きにしてください」
そこで、霖がイタズラっ子のように、舌をペロッと出しながら、左近に注意する。
「ただ、食べないでくださいね」
「ははっ。兵たちにも食べ物ではないと伝えておく」
左近が笑顔で、気の利いた返答をした。
不器用な俺には、こんな返答は無理だな。
さすが、左近。
▽
後日……。
左近の変態訓練に参加した咲たちは、常備兵たちをボコボコにしたようだ。
兵たちからは、可愛いのに目茶苦茶強い侍女たちのことを、枝に鋭いトゲがありながら赤い綺麗な花が咲く野薔薇に因んで、『野薔薇隊』と呼ぶようになった。
なかなか良いネーミングだな。
俺や近郷が付けたら、もっと変なネーミングになっただろう。
俺も、野薔薇隊と呼ぼう。
―――――――status―――――――
【ステータス機能】
[名前:小南茜]
[年齢:14]
[戦巧者:46(59迄)]
[政巧者:8(26迄)]
[稀代者:肆]
[風雲氣:壱]
[天運氣:参]
~武適正~
歩士術:陸
騎士術:壱
弓士術:陸
銃士術:壱
船士術:参
築士術:弐
策士術:参
忍士術:陸
黒銀色の髪の持ち主。
長い睫毛を備えた、一重まぶたの目の覚めるような美人さん。
話をしなければ近寄り難い雰囲気を持っているが、話すと人懐っこい犬のような性格。
―――――――――――――――――
【ステータス機能】
[名前:安堵海]
[年齢:15]
[戦巧者:39(49迄)]
[政巧者:18(42迄)]
[稀代者:肆]
[風雲氣:弐]
[天運氣:肆]
~武適正~
歩士術:伍
騎士術:弐
弓士術:肆
銃士術:伍
船士術:弐
築士術:肆
策士術:肆
忍士術:伍
つぶらな瞳をしていて、どこか幼さを残している顔。
肩ぐらいまでに髪を切り揃えてあり、花を模した髪留めを付けている。
笑うとできるエクボが特徴。
素直な性格で明るい。
―――――――――――――――――
【ステータス機能】
[名前:龍田咲]
[年齢:16]
[戦巧者:53(66迄)]
[政巧者:3(8迄)]
[稀代者:伍]
[風雲氣:陸]
[天運氣:壱]
~武適正~
歩士術:陸
騎士術:伍
弓士術:壱
銃士術:壱
船士術:壱
築士術:壱
策士術:壱
忍士術:漆
赤みがかった黒髪に凜々しい眉。
気の強さを表すような切れ長の瞳。
身長は、澄隆と目線が変わらないほど高い。
男勝りの性格で、喋り方も男っぽい。
―――――――――――――――――
【ステータス機能】
[名前:吉備春]
[年齢:13]
[戦巧者:42(51迄)]
[政巧者:9(22迄)]
[稀代者:肆]
[風雲氣:参]
[天運氣:参]
~武適正~
歩士術:伍
騎士術:弐
弓士術:参
銃士術:弐
船士術:弐
築士術:弐
策士術:参
忍士術:伍
小柄ながら、出る所は出ているグラマーな子。
顔は、美少女というより、美青年のような凛々しい顔付きをしている。
いつも元気で、一つ一つの動作が大きい。
―――――――――――――――――
【ステータス機能】
[名前:目安凪]
[年齢:15]
[戦巧者:37(46迄)]
[政巧者:28(55迄)]
[稀代者:伍]
[風雲氣:肆]
[天運氣:弐]
~武適正~
歩士術:肆
騎士術:壱
弓士術:壱
銃士術:壱
船士術:伍
築士術:伍
策士術:陸
忍士術:伍
艶やかな黒髪を高く結い上げた、お団子ヘアーにしている。
目付きは知的で鋭く、何事もよく気づく。
身体付きは、なだらかな撫で肩で、全体的に細いものの、女性らしい曲線を描いている。
―――――――――――――――――
次回は、澄隆が新たな事業に着手します。
お楽しみに!