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第九話 シイタケ ~内政結果~

▽一五六五年四月、澄隆(十歳)田城城



 続いての五年間の成果の一つは、シイタケ作りだ。

 これも、凄く苦労したな……。



◇思い出澄隆(五歳の頃……)



 次は、この時代の高級食材、シイタケを人工栽培しよう!



 この戦国時代、シイタケの人工栽培はなく、野生のシイタケも見つけづらかったため、松茸以上の希少価値があった。 

 シイタケが人工栽培できれば、とっても良い収入源になると思う。



 前世では、シイタケを人工栽培している工場に行って、シイタケ狩りをしたことがあった。

 人工栽培のことは、うろ覚えだが知識がある。

 


 早速、シイタケの人工栽培に必要な資材を集めるために、宗政と光俊を呼ぶ。

「宗政! どんぐりの倒木を集めてきて! 量はいくらでも良いぞ。大至急だ」

 宗政は、お腹をさすりながら、素直に頷く。

 いつも無茶振り、ごめんね!

 褒美はたくさん弾むから頑張ってくれ。



 次は、光俊だ。

「光俊は、松脂を集めてくれ。これもできるだけ早く頼む」

 光俊は、顔色も変えず、何も聞かずにハハっと言って下がっていった。



 前世の知識によると、シイタケを人工栽培するには、まず、シイタケの菌糸を倒木に植えつける必要がある。

 ただ、ここで注意が必要だ。

 シイタケの菌糸は弱いため、他の雑菌や乾燥から菌糸を守らないと育たない。

 そこで使うのが松脂だ。

 倒木に植えつけた菌糸の上に、松脂を被せて、菌糸を守る。

 松脂は、刀傷につける膏薬の材料にもなるから、これからたくさん必要になる。

 あと、火薬と混ぜ焼薬の原料としても使いたい。

 薬に強い、多羅尾一族に積極的に集めてもらって、活用していこう。



………………



 指示を出してから三ヶ月。

 夏になった。



 光俊達の松脂集めの視察のために、近隣の山に入った。

 ……俺に何かあると不安と言って、近郷も視察に強引に付いてきた。

 いつまで経っても心配性だ。



 光俊の案内で山に入って半刻ほど歩くと、松林が遠くに見えてきた。

 蝉の鳴き声が響く中、澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込むと、清々しい気持ちになる。

 そのまま森林浴をしながら歩いていくと、多羅尾一族の忍者たちが平伏して出迎えてくれた。

 いつまで経っても、この対応に慣れない。

 俺はすぐに作業に戻るように指示し、現場を確認することにした。



 松の木には、V字型の傷が付いていて、染み出した樹液を木の椀に集めていた。

 ほ~すごい。

 松脂ってこう集めるんだね。

「光俊、凄いな!」

「はっ! 昔から我が一族に伝わる集め方です。夏場の木が成長する時が一番取れる時期でございます」

 近郷も俺の隣で、ほ~と感心した声を出している。

 近郷は感心した声もでかいな。



 樹液を見ると、思ったより粘性はなく、透明な色をしている。 

 光俊に聞くと、時間が立つと粘性が出て、白くなるとのこと。

 あと、光俊に、刀傷につける膏薬のことも聞いたら、松脂を使った作り方を知っていた。



 さすが、多羅尾一族!



 光俊に命じて、膏薬の大量生産も始めることにした。

 この時代、刀傷には糞尿をつけて治すのが当たり前。

 感染症にわざとなるようなものだよね。

 ペニシリンなんてないこの時代、感染症は死ぬ可能性が高い。

 九鬼家では絶対、膏薬を治療に使うことにしよう!



 うん、光俊のおかげで、松脂の目処はたった。

 後は、秋になったら、キノコ狩りだね。



………………



 秋になり、俺と奈々、それと宗政と光俊、護衛に忍者が十人ほどと一緒にキノコ狩りにきた。 

 それと、近郷が養育している妙も連れてきた。



 妙は、船で襲われたショックなのか、言葉を何も発しないが、おおざっぱな近郷に育てられ、見た目は元気になってきた。



 妙は、俺を見つけるたびに、猫みたいにくっついてくる。

 俺に、ゴロゴロニャーンといった態で、ギュウギュウとくっつく妙に、俺は微笑ましい気持ちになる。

 ……前世では一人っ子だったが、妹がいたらこんな感じなのかもしれないな。



 妙は、今日も俺の服の裾をつかんで、はなさない。

 無邪気なキラキラした目で、服の裾を引っ張っている。

 歩きづらいぞ。



 今回、近郷は城で雑務があって、残って留守番だ。

 俺が近郷に行ってくるよと言ったら、近郷は光俊に対して、『澄隆様から離れるのはダメ絶対』と指示していた。

 ほんと、心配性だ。



「澄隆様、見つかりませんねぇ」

 俺の後ろで探している奈々がため息混じりの声を出した。

 奈々の隣で、妙もやっと俺の服を離して、一生懸命、シイタケを探している。

 二人が揃うと、どちらも美形で、絵になる美しさだ。

 とにかく可愛い。



 奈々が凛とした美しいユリの花なら、妙は儚く垂れ咲くフジの花だな……。



 俺は、おっさんくさく、そんなことを考えながら、奈々に返事をする。

「ああ、見つからないな。こんなことなら、もっと大人数で探しに来れば良かったよ」

 シイタケが予想以上に見つからない。

 その代わり、松茸は良く見つかる。

 貧栄養の土からしか松茸って生えてこないと聞いたことがあるけど、この時代は折れ木や落ち葉を燃料に使うから、いつでも土が貧栄養なのかもしれないね。



 松茸も、俺が松茸ご飯が食べたいので、集めてもらっている。

 あとは、食べたら死ぬぜと威嚇している派手な色をしたキノコもたくさん自生している。



 さあ、シイタケはどこかな〜?


 

「うわっ!」

 急な声に驚いて後ろを振り向くと、奈々が木の根に躓いて、松茸が入った籠をまるでコントのように盛大にひっくり返していた。



 顔を赤くしながら落ちた松茸を拾う奈々。

 妙も一緒に拾うのを手伝っている。

 奈々って、見た目と違って、不器用なところがあるよな。



 ただ、そう言えば、弓の扱いは素晴らしかったな。

 この前、奈々が俺の提案に従って、子供でも使える軽い弓で練習を始めたのだが、矢は、ほとんど的の真ん中に命中していた。

 その様子を見て、近郷や家臣たちも目を見開いていた。

 矢を射った奈々ですら、驚いていたな……。

 弓士術の数値が漆だから、弓には高い適正があるのだろう。



………………



 そうこうしているうちに、やっとシイタケが見つかった。

「あ、ありましたよ」

 動揺から立ち直った奈々が倒木の下にあったシイタケを見つけた。

 結局、長い時間、探したが、奈々が一個、妙が二個、合計三個しか見つからなかった……。



 俺は、残念ながら〇個だ。

 これは、確かに貴重だね。



………………


 

 城に戻ったら、まずはシイタケの菌床づくりだ。

 まずは、シイタケを傘を下にしておく。

 数日置けば、白っぽいシイタケの胞子ができる。

 それを、オガクズに乾燥させないように付着させて安置すると、菌床ができる。



 ただ、これも思ったより難しかった……。

 最初は黒くカビたりして、薬作りに精通している多羅尾一族だから、何とか菌床ができたと思う。

 


 その後は、宗政が探してきた倒木に、煮沸消毒した道具を使って、指が入るぐらいの穴をたくさん空ける。

 そこに、菌床を埋め込んで松脂で塞げば、あとは待つだけ!



 確か、倒木に菌糸が十分に行き渡るのに半年はかかる。

 それまで、シイタケの人工栽培用の蔵を建てて、湿気が常時あるように気を付けて待つこと半年。





「おお~、できてる! 凄いな、光俊!」

 春になって、シイタケが出来たと報告があったため、すぐに見にきた。

 この時代で、シイタケが出来ているのを見ると、感動するな。



 光俊たちも、シイタケが生えた丸太が並んでいる光景に感動しているのが分かる。

 倒木のうち、半分ぐらいの木からシイタケが収穫できた。

 初めてにしては上出来だが、もっと増やしたいよね。

 この辺りの改良は、光俊が受け持ってくれた。

 半年おきに、シイタケは収穫できるから、また半年後に期待だね。



 ちなみに、この春にできたシイタケは、味見程度の量を残して、全部売ることにした。





「せ、千かぁぁぁん?」

 俺は思わず、絶叫した。

 シイタケを干して、籠に詰めたところ、籠十個分の量になった。

 それを全部、堺に売り出したら、千貫になったと、宗政からの報告だ。



「ゲホッゴホッゴホッ……」

 隣で白湯を飲んでいた近郷が驚き過ぎて、大きく咽ている。

 近郷、汚いぞ。

 ちゃんと、あとで拭いておいてくれ。



 そうそう千貫だったな。

 一貫だと、十万円ぐらいだから、千貫だと、一億円だ!

 ちょっと驚きな値段だ。

 これは、光俊達にも臨時で褒美を出さないとな。

 そして、もっと人工栽培量を増やしていこう。

 光俊、頑張ってね!



 あと、売るのも宗政、頑張ってね!

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

次回も奈々が話に出ます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 松茸が食べ放題なのがうらやましい
[気になる点] シイタケ栽培のために、倉庫の中をどういう状態にすれば良いのか、もう少し描写して貰えると嬉しいです。 僕が戦国時代に憑依した時の参考にしたいので(笑)
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