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言霊~追憶の果てに~

作者: かぐや

 島に透明なガラス瓶が一つ、流れ着いた。


 島の清掃師のアイナは、いつものように島の海岸を見回っている途中でガラス瓶を見つけ、おもむろにそれを拾い上げた。

 中には紙切れのようなものが入っていて、指を伸ばして取り出してみる。


 ――心の奥に秘めた願いを、言葉に託して叫び出せ。


 折りたたまれた紙を広げると、中には意味のわからない一文だけが記してあった。


 この島は「想いの終着点」と呼ばれていて、こうしたボトルメールや手紙の入った箱などがよく流れ着く。

 そして、失恋からの未練、生き別れた人への想いなど、届けられる内容はおよそ特定の誰かに対するものだっだ。

 ところが、今回届いた内容はそれらとはどうも毛色が違っていた。

 

 再び紙に書かれた文字をじっと見つめて、アイナは考える。

 波だけが、時間とともにうごめく。

 一向に糸口がつかめないでいたところ、何気なく紙を裏返してみると、そこにはまたさらに一文があった。


 ――この紙は言霊を宿す力あり。

 

 島に流れ着いた手紙は、三ヶ月に一度、奉奠ほうてんの儀と呼ばれる儀式で供養するきまりとなっていた。

 「ちょっとくらい、いいかな」

 神主の元へ届ける前に、興味本位で少し、言霊とやらをアイナは試したくなった。

 

 ちょうど、どこの誰ともわからない差出人の手紙があったことを思い出した。

『三年前のちょうど今頃に届いたあの手紙。恋文だったと思います。あの方の想いが、どうか届きますように』

 力強く、心の中で念じた。誰かを傷つけるわけでも、迷惑をかけるわけでもない。ただちょっと、乗ってみたかっただけだった。



 焚火台に照らされた儀式場には、限られた人しかいない。

 神主と巫女、そして清掃師たちだけだった。

 粛々と執り行われる神事の途中、かすかに声が聞こえてくる。

 あたりを見渡してみるアイナだったが、どこにも話をしている人はいない。


 気のせいかと思い、また神事へと意識を戻す。

 神事が終盤を迎えたころ、アイナの耳に今度は明朗な声が聞こえてくる。


「――出兵に参加して、そして今後悔している。君にきちんと伝えることができなかったことを。――愛してる」

 

 おごそかな儀式の中、アイナはただ一人、涙を流しながら嗚咽していた。

 彼女の耳に聞こえてきたのは、三年前に別れを告げた恋人クラインの声だった。

 

 アイナの目の少し先にある祭壇には、今では多くの兵士たちの名前とともに、クラインの名前が刻まれている。

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