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【プロローグ】高卒、無職、ボッチの俺が、現代ダンジョンで億を稼げたワケ〜会社が倒産して無職になったので、今日から秘密のダンジョンに潜って稼いでいこうと思います〜

作者: 砂糖 多労

連載始めました!

https://ncode.syosetu.com/n9652ie/


本文下にリンクも作成しています。

『……様の今後いっそうのご活躍をお祈りいたします』

「はぁぁぁぁぁ。またダメだ」


 目の前のスマホにはいわゆる『お祈りメール』が表示されていた。

 これで五十社目のお祈りメールだ。


 俺は倒産した会社のオフィスの片隅で深々とため息を吐いた。

 がらんとしたフロアには机の一つもなく、残っているのは地面にポツンと置かれた電話と俺が今腰掛けている借金とりが回収できなかった廃材の山だけだ。

 社長室からは社長が何かを殴るような音が聞こえてきており、ちょっとしたホラーゲームのステージみたいな感じもする。


 書類選考は問題なく通るのに、面接となると一次面接すら通ったことがない。

 今回のメールも、書類選考までは好感触だったのに、面接では相手がビクビクしていてほとんど話ができず、面接の翌日にはこうしてお祈りメールが送られてきてしまった。


「……やっぱり顔か?」


 そう言って俺は自分の目元に触れる。


 俺は昔から父親譲りの悪人顔だと言われてきた。

 高校時代は何もしていないのに地元のヤンキーからは『不滅の竜』なる不名誉なあだ名で呼ばれていて、恐れられていた。


 どうやら、筋金入りのヤンキーだった親父の異名らしい。

 親父は名の知れたヤンキーで、俺の母親を孕ませた後、どこかの抗争で死んでしまったそうだ。


 そんな感じだから友達も少なく、当然、彼女なんてできたことがない。


「仕方ない。とりあえず、内職でも探すか」


 そう思って内職の求人サイトを開く。

 他の仕事と違い、内職系は全く誰とも会わずに仕事を進めることができる。

 そのため、俺でも簡単に仕事が見つかるのだ。


「ん? なんだこれ?」


 いつもの仕事を探しているサイトを開くと、一番上にゲームアプリの宣伝広告が表示されていた。

 いつもならスルーするのだが、俺はその煽り文句が気になってしまっていた。


『ダンジョンGo!GO TO ダンジョンキャンペーン実施中!!今なら初回ダンジョンクリア報酬として10,000円プレゼント!!モンスターを倒して、”ストレス発散”しませんか?』


 普段ならゲームアプリなんてスルーするのだが、どうやら、これはゲームを遊ぶだけでお金がもらえるらしい。

 もしかしたら最近流行りのゲームでお金を稼ぐ『Play to Earn』ってやつかも知れない。

 確か、俺より先に辞めていった誰かが、それで稼いでいくって言ってた気がする。

 もしそうなら、内職の代わりになるかもな。


 それに、今は暇だし、何より、ストレス発散という文言が気になった。

 会社の倒産に関係して、色々とあったのでストレスが溜まっているのだ。


「一体どんなゲームかな? ストレス発散って書いてあるし、無双系みたいに雑魚Mobを倒しまくるやつかな?」


 俺はアプリを早速ダウンロードする。

 ダウンロードは一瞬で終わった。

 幾つか『本当にダウンロードしますか?』とか、『あなたの情報を取得しますがよろしいですか?』みたいなポップアップメッセージが出たので、ダウンロードが始まるまでの時間のほうが長かったくらいだ。


 もしかして、ウイルスとかだったか?

 まあ、このスマホには実家と会社の電話番号しか入ってないし、最悪初期化すればいいか。

 なくなったら困る友達のアドレスとかも入ってないし。


 いかん、泣けてきた……。


「お。ちゃんとアプリゲームみたいだな」


 ダンジョンGo!を起動すると、マップが表示された。

 ここら一帯の地図だ。

 そこに幾つかのアイコンが配置されており、どうやら、これがダンジョンのようだ。


「位置情報を使ったゲームだったか」


 スマホのGPS機能を使って位置情報を取得して遊ぶゲームがある。

 ダンジョンGo!はそれ系だったらしい。


「この系統のゲームは結構しんどいんだよな。……お金も手に入るみたいだし、とりあえず遊んでみるか」


 位置情報を使ったゲームはユーザーが動き回らないといけないから、結構めんどくさいのだ。

 散歩はストレス発散にいいと聞いたことがあるから、もしかしたら自分で動いてストレス発散をしろってことか?


 もしそうなら幻滅だ。

 とりあえず一つダンジョンをクリアしてみて、一万円だけもらって、面白くなさそうなら削除だな。


「……ここからじゃどこのダンジョンにも潜れないな」


 ダンジョンを示すアイコンは地図上にたくさんあり、それを選択すると、ダンジョンの情報が表示されるようだ。

 それぞれ、A〜Fの等級が振られているらしい。

 Aが一番上で、Fが一番下かな?

 正確にはBは見当たらないが、そういう感じの割り振りがされてそうだ。


「できれば一番簡単そうなF級に入りたいんだけど、結構遠いんだよな」


 今いる場所からだとどのダンジョンも少し遠い。

 一番近いダンジョンも『このダンジョンに突入する場合、もっとダンジョンに近づいてください』というメッセージが出て、『突入』ボタンが選択できない。


「この場所を離れるわけにはいかないからなぁ」


 今、社長室には社長がいる。

 定期的に何かを殴るような音が聞こえてくるから、今日も荒ぶっているのだろう。


 昔は温和な人だったんだけど。


 社長の奥さんに社長のことを見ておいて欲しいと言われているから、放っていくわけにもいかないんだよな。

 社長にも奥さんにも色々お世話になったし。


「お?」


 すると、目の前にダンジョンが発生した。

 ランクはI。

 ABCDEFGHIだから、かなりランクは低い。

 もしかしたら、チュートリアルダンジョンかも知れない。


「とりあえず、これに潜ってみるか」


 ダンジョンを選択し、『突入』ボタンをタップする。


「え?」


 次の瞬間。俺が腰掛けていた廃材が消失した。


「いてて。なん……」

「シャァァァァァァ!!」

「うわぁぁぁぁぁ!」


 俺は大声を上げて迫ってくる何かを訳もわからず持っていたカバンで殴った。


ーーゴス!


 カバンは『何か』にクリーンヒットし、『何か』は壁際まで転がっていき動かなくなる。


「あ! やべ!」


 このカバンには国語辞典(お局の武井さんにもらった)やダンベル(筋トレ好きの中村さんにもらった)が入っていて無茶苦茶重い。

 そんなもので殴ってしまったら相当危ない。


ーータタタタッタッタッター!

「へ?」


 転がっていった何かの様子を確認しようとすると、どこからともなくファンファーレが響く。


ーーボフ

「は?」


 そして、その直後、俺が殴った何かが煙になって消失した。


「なんなん、うわ!」


 そして、目の前に半透明の板が出現する。

 連続する超常現象に目を白黒させながらウインドウを覗き込むとそこには『初回ダンジョンクリアおめでとうございます』と書かれていた。

 そして、それが表示されると同時に、透明な板の中から一万円札が出てきて、ひらりひらりと舞い落ちる。


「……どういうことなんだってばよ」


 俺は地面に落ちた一万円札を拾って途方に暮れてしまった。


***


「……だいたいわかった」


 俺はあの後、訳のわからない状況になった原因が『ダンジョンGo!』というアプリにあると判断し、アプリを開いてみた。

 すると、そこにはヘルプ機能がついており、ヘルプの中にいろいろな情報が書かれていた。


 どうやら、俺の腰掛けていた廃材が消えたわけではなく、俺がダンジョンという場所に転移させられていたそうだ。


 俺が今いるダンジョンというのは、人間の負の情念が固まってできたものらしい。

 マナと呼ばれる人間の感情などが生み出すエネルギーは本来、龍脈にのって循環しているのだが、強い負の情念などは一箇所にとどまり、結石のように凝固してしまう場合がある。

 アプリはその凝固してしまったエネルギーをモンスターやダンジョンという形で具現化する。

 そして、そのモンスターを倒したり、ダンジョンを攻略することで、その情念が浄化され、龍脈にのって循環するようになるそうだ。

 このアプリの運営はその浄化作業を行なった報酬としてお金を払っている。


 このヘルプは一度以上ダンジョンに入らないと見つけることができないようになっているらしい。

 他にもジョブシステムやら、パーティーシステムやらが開放されていた。


 普通は初めてダンジョンに入ると、このヘルプを確認し、ジョブを設定したりして戦闘するか、そのままダンジョンから離脱するんだそうだ。

 俺の場合は、ダンジョンが小さすぎて初めてエントリーした部屋にモンスターがいたため、問答無用で戦闘になってしまった。

 ジョブ補正なしだと、大体の場合モンスターに負けてしまうらしいので、カバンに凶暴なものが入っていてよかった。

 武井さん、中村さん、ありがとう。

 明らかに持って帰るのが面倒だっただけだと思うが。


 ちなみに、どういう仕組みかわからないがこのアプリは適合者にしか見つけられないようになっていて、適合者同士じゃないとダンジョンの話ができないようになっているらしい。

 そんなバカなとは思うが、いきなり人間を変な場所に飛ばすことができるアプリを作ってしまった運営だ。

 嘘だとは断言できない。


「で、帰るにはこのメッセージウインドウを進めればいいわけか」


 俺はさっきから表示されっぱなしのメッセージウインドウをみる。

 謎の技術によって空中にいきなり出現した透明な板だ。

 何かよくわからないものだったので、さっきから放ったらかしにしていた。

 使い慣れたスマホと、初めてみる謎ウインドウならスマホの方を先に見るのが人情というものだろう。

 だが、どうもこれを進めていかないとこのダンジョンからは出られないらしい。

 このウインドウは戦闘後やダンジョン攻略後に出るらしく、これを閉じないとどこにもいけないそうだ。

 そうヘルプに書いてあったので試してみたら、ウインドウから一定の範囲から出ようとすると、透明な壁のようなものがあり、前に進めなかった。

 外からうちに入ってこないかはわからないが、少なくとも、うちから外には出られないようだ。


「とりあえず、進めていくか」


 俺はウインドウの右下にある次へボタンを押すと、メッセージが切り替わる。


ーーーーーーーーーー

怨嗟の大醜鬼(I)を倒しました。

経験値を獲得しました。

【エラー】ジョブがセットされていません。

全てのジョブに均等に経験値を分配します。

怨嗟のダンジョン(I)が攻略されました。

報酬:3円獲得しました。

称号『ビギナーズラック』を獲得しました。

称号『無敵の人』を獲得しました。

称号『一撃必殺』を獲得しました。

称号『勇者』を獲得しました。

称号『御命頂戴』を獲得しました。

称号『無慈悲』を獲得しました。

称号『魔王』を獲得しました。

ユニーク称号『最速ダンジョン踏破者』を獲得しました。

ユニーク称号ボーナスとして、セカンドジョブを設定可能となりました。

ーーーーーーーーーー


 なんかいっぱい出た。

 普通は経験値の獲得と報酬の獲得だけのはずだが、この下に出てる称号ってなんだ?


***


「ふむふむ。一定の条件を満たすと称号が手に入るのか」


 俺はメッセージウインドウを表示したまま再びヘルプを確認していた。

 ヘルプには『称号』というものが追加されていた。


 多分さっきはなかったので、俺が称号を得たから増えたのだろう。

 実際中を開いてみると、俺が取得した称号の詳細なんかが書いてあった。


 俺が取得した称号以外の称号については書かれていないので、おそらく、称号を取得したら増えていくのだろう。

 どういう仕組みで増えていくのやら。

 考えたら負けかな?

 なぜか『ダンジョンGo!』のアプリを閉じることもできなくなってるし。

 おかげで時間もバッテリー残量も確認できない。


 とりあえず、得た称号の詳細はこんな感じだ。


 『ビギナーズラック』

 初戦闘でクリティカルを出すと取得できる。

 効果

 ・クリティカル率が上昇する。

 ・運のパラメーターが上昇する。


 『無敵の人』

 ジョブを設定しない無職のままダンジョンを攻略すると取得できる。

 効果

 ・ダメージを受けても痛みをあまり感じなくなる。

 ・攻撃力関係のパラメータが微増する。


 『一撃必殺』

 ボスモンスターを通常攻撃一発で倒せば取得できる。

 効果

 ・高確率で『食いしばり』を貫通して敵を倒すことができる。

 ・攻撃力関係のパラメータが上昇する。


 『勇者』

 ソロで格上のモンスターばかりのダンジョンを踏破すると取得できる。

 効果

 ・致死ダメージでも死なない『食いしばり』が高確率で発動する。

 ・攻撃関係のパラメータが上昇する。


 『御命頂戴』

 他のモンスターと戦わずにボスモンスターを倒すことで取得できる。

 効果

 ・ジョブ『忍者』を獲得する。

 ・ダンジョン突入時、ボスモンスターのいる場所がわかる。


 『無慈悲』

 ダンジョン内の全てのモンスターを倒してダンジョンを攻略すると取得できる。

 効果

 ・広範囲攻撃力が上昇する。

 ・ダンジョン突入時、自分のレベル以下のモンスターの場所が取得できる。


 『魔王』

 ソロでダンジョン内の全てのモンスターにヒットポイントの倍以上のダメージを与えて倒すと取得できる。

 効果

 ・魔法系攻撃力が上昇する。

 ・魔法系防御力が上昇する。


 『ビギナーズラック』は読んで字のごとくだろう。

 もしかしたら、弱いモンスターだったから急所が広いとかあったのかも知れないが、今ではもうわからない。


 『無敵の人』や『勇者』はジョブを設定せずにダンジョンを攻略したおかげで出た称号だろう。

 『無敵の人』は説明文からも無職でダンジョンを攻略すると取得できると書かれている。

 もしかして、『無敵の人』って無職を意味するネットスラングから来てたりするのか?

 まあいい。便利な称号が手に入ったことを喜んでおこう。

 『勇者』もおそらく、無職の状態でダンジョンに挑んだから手に入った称号だと思う。

 ジョブなしだとLv0扱いのようなので全てのモンスターが格上だ。

 一度ジョブを設定するとジョブなしには戻せないようなので、この二つの称号を持っている奴は少ないかも知れないな。

 ラッキーだった。


 いや、ジョブなし状態でダンジョンアタックなんて危ないことをさせられたのだから、ラッキーではないか。


 残りの称号はIランクのダンジョンに潜れたから手に入った称号なんじゃないかと思う。

 『一撃必殺』、『御命頂戴』、『無慈悲』はIランクみたいなボス一体しかいないダンジョンじゃないと達成は難しい気がする。

 今回潜ったダンジョンは一部屋しかなかったが、他のダンジョンはもっと広くてモンスターもいっぱいいるのだろう。

 そうなればボスモンスターだけを狙うのは相当難しくなるし、全部のモンスターを倒すなんていうのも困難なはずだ。

 『魔王』に至っては相当運がいいか自分とダンジョンのランク差がないとダメだ。

 他のダンジョンはF以上しかなかったのにGとHを飛ばしてのIランクだったからな。


「でも、いちばんの大物はこれだよな」


 ユニーク称号『最速ダンジョン踏破者』

 ダンジョン突入から踏破までの最短記録の保持者が取得できる。

 記録が塗り替えられた場合、この称号は消失する。

 効果

 ・獲得経験値が倍増する。

 ・移動速度が倍増する。


 ユニーク称号という一人にしか与えられない称号だ。

 他にもユニーク称号はあるようだが、そのユニーク称号を一つでも持っていれば、ジョブが二つ同時にセットできるというのがとてもありがたい。

 実質一人で二人分の仕事ができるということなのだから。


 これからダンジョンにアタックするにあたって、これはかなり役に立つはずだ。

 俺は今後もダンジョンに潜るつもりでいた。

 だってこんなに短い時間でお金が稼げてしまったのだから。

 しかも、もっとレベルの高いダンジョンに潜れば、もっとたくさん稼げるはずだ。

 やらない手はない。


「明日から暇になるし、ダンジョンをどんどん攻略していきますか」


 俺は明日からの予定を考え始めた。


***


「やべ! かなり時間をかけちまった! さっさと帰らないと。社長。暴走してないといいけど」


 社長の奥さんに見ているように頼まれていたのに、かなり長い間放っておいてしまった。


 最近の社長はかなり暴力的だ。

 奥さんや娘さん、そして、息子のように可愛がってくれている俺の前では比較的マシだが、その3人がいないところだと荒れっぷりがやばいらしい。

 俺の場合、顔が怖いから冷静になってしまうだけかも知れないが。


 昔はかなり温和な人だったんだが、会社が傾きだしてから変わってしまった。

 武井さんや中村さんに聞いた話だと、闇金業者にゴルフクラブ持って殴り込みに行こうとしたこともあるらしい。


 会社が傾きだしたきっかけは一緒に事業をしていた会社が倒産したことだった。

 その会社の社長は夜逃げしてたくさんの借金が残された。

 そして、その借金の幾つかが共同で事業をしており、仲の良かった社長に回ってきてしまったのだ。


 そこまでは仕方のないことだ。

 うちの社長も事業に関わっており、失敗したことは社長にも問題があった。

 だが、そこからが問題だった。


 逃げた社長が闇金から金を借りていたようなのだ。

 闇金はいくつかの借金の連帯保証人だったうちの社長のところに取り立てに来た。


 取り立ては苛烈で、はっきり言って違法なものだった。

 電話は四六時中鳴り止まず、オフィスに取り立てに来るのは当たり前で、取引のある会社なんかにも取り立てに行ったらしい。

 警察も動いてくれたのだが、どういうわけか警察がいるとあいつらは現れない。

 それどころか、結構大きな組織なのに本拠地がどこにあるかもわからなかったのだ。

 かなり念入りに捜査したにも拘らずだ。


 警察の人から聞いたのだが、奴らは結構前から存在する半グレ組織で、ずっと捜査を続けているが、まだ尻尾を捕まえられていないそうだ。


 そんな状況なので、取引先は潮が引くようにさっていき、社員もとばっちりを恐れて次々辞めていってしまった。

 そうして、結構勢いのあったうちの会社は半年で倒産した。


 社長は奥さんと離婚し、借金を返すために明日からマグロ漁船に乗ることになっている。


***


「やっべぇ」


 戻ってくるとオフィスは静まり返っていた。

 先程までBGMのように響いていた社長が何かを殴る音が聞こえない。

 もしかしたら、社長は出ていってしまったのかも知れない。


「社長。いますか?」


 俺は急いで社長室に近づき、ノックをする。

 すると、社長室の扉はすぐに開く。


(良かった、ちゃんといた)


 だが、社長室から出てきた社長を見て俺は度肝を抜かれることになる。


「おぉ。サグル。待たせちまって悪いな。さっさと帰ろう」

「え? 社長。ですよね?」

「? 他の誰に見えるってんだよ」

「いや、えーっと」


 社長は昔のような温和な表情で微笑みかけてくる。

 さっきまで鬼のような表情で何かをボッコボコにしていた人とは別人みたいだ。

 ひん曲がったゴルフクラブとボコボコになった机が社長の後ろに見えるので、おそらくさっきまで怒っていたのは間違いない。


「悪い、心配かけちまったな。さっきどうしてかすーっと怒りが抜けてな。冷静になってみると、あんなものを殴ってるより、どうやって一刻も早く借金を返すか考えた方が得だと思ったんだよ」

「……そうですか」


 もしかしたら、『ダンジョンGo!』のおかげか?

 さっきできたダンジョンは社長の負の情念が固まったものだったのかも知れない。

 社長の負の情念がダンジョンを作るレベルまで達して、ダンジョンができた。

 出来立てのダンジョンだったから、難易度も低かったのかも。

 そして、そのダンジョンを俺が攻略したから、社長の負の情念が消えて、冷静になったとか。


 本当にそうかはわからない。

 でも、もしそうなら少し嬉しい。

 社長には色々とお世話になった。

 その社長にどんな形であれ恩返しができたことはかなり嬉しかった。


「じゃあ、俺はこのまま港のほうに行くから。お前も達者で暮らせよ」

「はい。社長もお元気で」


 颯爽とさっていく社長の背中を俺は少しの達成感を抱きながら見送った。


◇◇◇


【あつまれ】探索者情報共有掲示板274【探索者】

1:名前:名無しの探索者

ここは『ダンジョンGo!』ユーザーの情報共有掲示板です。

謎パワーによって一般ぴーぽーは見つけられないので、安心して書き込みましょう。


称号の取得方法や効率的なモンスターの倒し方など有益な情報の情報共有をしましょう。


ここで嘘や煽りなどはお控えください。

こう言っても、嘘や煽りをする探索者はたくさん出るので、話半分で聞くように心がけてください。


232:名前:名無しの探索者

おい!新情報だ!『最速ダンジョン踏破者』の称号が移ったらしい!


233:名前:名無しの探索者

>>232

まじか!あの1分攻略が更新されたのか!どうやったんだ?


234:名前:名無しの探索者

>>233

わからん。だが、竜也が称号を失ったのは事実らしい。さっきめっちゃ荒れてたから多分間違いない。


235:名前:名無しの探索者

>>234

竜也ザマァァァァ!今日は飯がうまい!


236:名前:名無しの探索者

>>234

竜也は一年位前から探索者を集めた半グレ組織とか作ってかなりあくどくやってたからな。俺も飯がうまい。警察にもマークされてるみたいだし、このまま潰れてくれたらいいんだが。


237:名前:名無しの探索者

>>236

警察にマークされる組織作ってるとかまじかよ。それって捕まらないのか?


238:名前:名無しの探索者

>>237

どうやら、ダンジョンに逃げ込んで逃げおおせてるらしい。本拠地に行く前に一度ダンジョンに入って追っ手を巻いてから集合してるんだってさ。


239:名前:名無しの探索者

>>238

頭いいな。突入場所と出てくる場所は一緒だし、ダンジョン内では時間の進みが10分の1になるとは言っても時間は進むから、ダンジョン内である程度時間を潰せば尾行も撒けるってことか。


240:名前:名無しの探索者

>>239

それに、謎パワーのおかげでダンジョンから出た直後はパーティメンバー以外からは見つからないようになってるらしい。おそらく、同一ダンジョンに潜っていたもの同士で揉め事になるのを防ぐための仕様だと思われる。


241:名前:名無しの探索者

>>240

なるほど。先に攻略されたとかギスることもありそうだしな。そういえば、俺もダンジョンを先に攻略されて、一言文句を言ってやろうと思ったのに、周りに人がいなくて疑問に思ったことあったわ。まだダンジョンの中にいるのかと思ってたけど、そんなふうになってたとは。


242:名前:名無しの探索者

>>241

お前みたいな奴がいるからこんな仕様になってんだよww

俺も文句言おうとしたことあるけど。


243:名前:名無しの探索者

>>240

大声を出したりこちらから話しかけると解除されるらしいけどな。

この仕様のおかげで揉め事が減っているのは間違いない。

竜也達みたいに悪用する奴もいるけど。


244:名前:名無しの探索者

>>243

『ダンジョンGo!』の運営はあんまり日本の法律とかには配慮しなさそうだもんな。

犯罪する奴がいたらそれはそれでどうぞ?みたいな。

外国では竜也みたいなマフィア集団もいるんだろ?


245:名前:名無しの探索者

>>244

俺は反政府組織やテロリストなんかにも探索者の集団が居るって聞いたぞ。

政府側にもそれに対策する組織がいるとか。

竜也達の組織もそろそろ日本の探索者対策組織が動くとかなんとか。


246:名前:名無しの探索者

>>245

まじか!

じゃあ、今のうちに縁を切っておいた方が得策か?


247:名前:名無しの探索者

>>246

お前竜也の部下かよww

もう全員警察にマークされてるだろうからおせーよww


248:名前:名無しの探索者

>>247

ちょ、まじか!俺どうしたらいい?捕まりたくねぇよ!


249:名前:名無しの探索者

>>248

自首することをお勧めする。

国の探索者組織が動いたということは構成員は全員把握されているだろうから、今からではどうしようもない。

大人しくお縄についた方が得策だ。

真面目にしてれば恩赦とかもあるだろうしな。


250:名前:名無しの探索者

>>248

政府の秘密組織は『ダンジョンGo!』を消す方法も知ってるらしいから、抵抗して捕まるより、従順にしておいた方が得策だと思うぞ?

探索者を続けていれば出所後も食うには困らないだろうし。


251:名前:名無しの探索者

>>249-250

自首とか絶対に嫌だ。

俺は逃げ切って見せる。


252:名前:名無しの探索者

>>251

そうか。無理だとは思うが頑張れ。


253:名前:名無しの探索者

そんなことより、新しいユニーク称号保持者だよ!

どんな奴なんだろうな?

竜也みたいな奴じゃないといいんだけど。


254:名前:名無しの探索者

>>253

わからん。

ちょっと確認してみたが、『閃光のケイン』や『疾走のハヤテ』ではないらしい。

二人ともユニーク称号が動いたことに素で驚いてた。

たとえFランクダンジョンでも一分ギリとかまず不可能だってさ。


255:名前:名無しの探索者

>>254

おぉ。二人のフレか。

上級探索者様、確認サンクス。

あと候補とかいたっけ?

竜也があまりにもアレな行動とったから運営に取り上げられたとか?


256:名前:名無しの探索者

>>255

生産職ってだけで、俺は上級探索者じゃないよ。

Cランク以上のダンジョンなんて潜れるわけないだろ。

あと、竜也程度でユニーク称号の取り上げはないよ。

前にアメリカの大量殺人鬼が持ってた『最多殺戮者』も結局取り上げられなかった。

最も多くの探索者を殺した探索者に与えられる称号のやつ。


257:名前:名無しの探索者

>>256

うげぇ。そんなユニーク称号もあるのか。


258:名前:名無しの探索者

>>256

確か、各国の探索者がチームを組んで所持者を殺した奴だったよな。

あのユニーク称号はそのあとどこ行ったのか謎になってたはずだ。

まあ、持ってるやつは大量に探索者を殺したってことだから名乗り出る事はないだろうけど。


259:名前:名無しの探索者

あの。質問なんですが、ユニーク称号ってそんなにすごいんですか?

僕も『撲殺』っていう称号を持ってますが、称号を得る前と後であんまり変わらなかったんですが。


260:名前:名無しの探索者

>>259

確か、『撲殺』は同じダンジョンで十体のモンスターを打撃系武器で倒すやつだったよな?


261:名前:名無しの探索者

>>260

そうです。

僕は前衛でメイン武器がメイスなので、取得できました!


262:名前:名無しの探索者

>>261

おめでとう。

でも、称号にはランクがあるんだよ。

『撲殺』っていうのは『撲殺』系の称号の中で、一番ランクが低いやつなんだ。

効果も、確か、『殴打系攻撃力が微増する』だったはずだ。

『撲殺』の上位称号に『撲殺者』っていうのがある。

同じダンジョンで百体のモンスターを倒すと手に入る称号だ。

効果が『殴打系攻撃力が微上昇する』になる。

この辺りになると体感できるくらいの上昇が得られる。

しかも、微増は+1とか、+2とかの足し算で増えるのに対して、上昇は1.1倍とか1.2倍とか、掛け算で増えていくからレベルが高くなっても効果がかなり高い。


263:名前:名無しの探索者

>>262

そうなんっスね!

教えていただき、ありがとうございます!

でも、同じダンジョンで百体とか無理っス!

そんなに大量にモンスターを倒してたら途中で誰かに攻略されちゃうっス!


264:名前:名無しの探索者

>>263

FランクやEランクだとそうだろうな。

だけど、Dランクとか、Cランクとかになってくると、そもそも百体くらい倒さないとボスに辿り着けない。

そして、そこらへんのタンジョンに潜っていると、称号も勝手に取れる。

上位探索者だと称号を五つくらいは持っているらしいぞ?

そうやって俺たちと上位探索者の差は開いていくんだ。


265:名前:名無しの探索者

>>264

世知辛いっスね。


266:名前:名無しの探索者

>>264

そういうのってナーフされたりしないのか?

オンラインゲームとかだと、強過ぎるスキルとかは弱体化されるよな?


267:名前:名無しの探索者

>>266

ダンジョンGo!の運営は強いやつをより強くする方針っぽいから、強過ぎるから弱体化っていうことはまずないな。

というか、そうしないと、Aランクのダンジョンとか、Sランクのダンジョンが攻略できない。

Aランクのダンジョンはここ数百年攻略されてないらしいからな。

実際、高位のジョブの方がモンスターを倒しやすくなって、レベルも上げやすいっていうのはよく聞く話だ。

リアルマネーを一億とか払ってパワーレベリングしてもらって、Dランクあたりまで行くっていうのが確実に稼げるようになる方法らしい。


269:名前:名無しの探索者

>>267

まじかww

そんなに金があったら俺、ダンジョンなんて危ないところにもぐらねぇわwww


270:名前:名無しの探索者

>>269

昔からダンジョンの攻略をしている陰陽師の名家とかはその方法でスタートダッシュを決めてる。

それでも、Dランクあたりまでが限界だけど。

Cランクダンジョンに潜れるのは一握りの天才だけだ。

そういう天才は、得てして特殊な称号や、ジョブを持ってる。


271:名前:名無しの探索者

>>270

もしかして、そういう家系の人ですか?


272:名前:名無しの探索者

>>271

うちは分家の分家の分家の分家のさらに分家あたりの相当末端だけどな。


273:名前:名無しの探索者

>>272

なんだ。お前もクソエリートかよ。


274:名前:名無しの探索者

>>273

俺は落ちこぼれだよ。

金がないからスタートダッシュもさせてもらえなかった。

じゃないとこんなところで管巻いてない。

最初の頃は、有用な称号を取得して成り上がってやろうと思ってたけど、膝に矢を受けてまともにダンジョン探索ができなくなったせいで今ではしがない生産職だ。

フリーの生産職で、稼ぎは悪くないけど、この足を治すポーションには全然手が届かん。


275:名前:名無しの探索者

>>274

みんな大変なんっすね。


276:名前:名無しの探索者

>>274

膝に矢www

最後までお読みいただきありがとうございます。

サグルの冒険はこれからも続きますが、短編はココまでとなります。


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