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 俺の名は熱井根性(あついガッツ)、趣味は筋トレとテレビ鑑賞。

 さて、少しだけ自分語りをするのを許して欲しい。


 皆さん! 俺は! 特撮ヒーローが! アクション物が大好きだ!


 武装集団に軽装備で挑む強者が大好きです!


 怪物相手に真正面から挑むヒーローが大好きだ!


 実際には犬死にする様な状況をその身一つで乗り切る主人公に俺は幼い頃から憧れていたんだ。

 ヒーローごっこが好きだったし、お気に入りのアクション映画は何度もレンタルし、特に好きなのはたった一人で巨悪に立ち向かう等身大のヒーロー!






「あっ、うんうん。君の趣味嗜好は分かったよ。何が好きかってだけで、こっちは君達人間と同じサイズだけれど全知全能だから分からないけれどね。じゃあ、君が欲しいのは特撮ヒーローみたいな超人的な戦闘力で良いのかい?」


 俺の目の前には胡散臭いと一目で分かるけれど同時に間違い無く神様だとも本能的に理解させられる男。

 俺の話を適当に聞き流し素っ頓狂な頭を疑う事をほざいているが、俺はそれが真実だと悟った。


 なんかな、家で十年以上前の特撮ヒーロー(改造人間が悪の組織に単身立ち向かうタイプ)を見ていたら今居る周囲が真っ白な空間に居て、宇宙人に征服されそうな別の地球に誰か送るからって、決定した瞬間から35864回目に特撮物の視聴をした奴の分身……つまり俺を送り出すそうだ。


「えっと、俺は分身であって、本物じゃないから家族の心配はしなくても良いんだよな?」


「そうそう、君は運が良いよ。転生させる為に事故を起こして家族を別々の世界に送ったのや杖になった犬やらトイレを召還する女の子やら扱いきれない強い力で自滅したのやらが居る中、今回の実験は恵まれているんじゃないかな? ちゃーんと向こうでの生活の援助と力のコントロールは約束するからさ」



 相手は神だし、胡散臭いけれど従うしかないのも分かっている。

 でも、どうも気に入らないからせめてもの抵抗で敬語は使ってやらねぇ。

 ……てか実験だの語った内容だの、此奴はギリシャ神話の神くらいに悪質なんじゃねぇのか?



「じゃあ、いってらっしゃい。向こうには性格が悪いのが居るけれど君に気を掛けてくれるだろうからね」


 俺に向かって神は笑顔で手を振り、視界が真っ白に染まる。

 次に視界が戻った時、時刻は夜で立っていたのはビルの屋上、背後には法律上大丈夫なのかって感じの小屋があって俺の家だという情報が頭に入っていたが、そんな物より驚かされたのは空……正確には月だった。


 空に輝く月は怪しく光る赤色に……いや、違う。


「何だ……ありゃ……?」


 月は俺が知っている月のまま、ルビーみたいな赤い球体から伸びた三本の銀の爪がガッチリと掴んでいる。

 侵略者に狙われている世界って話だったが、まさかアレが敵の基地か何かかと思った時に遠くから響いた爆発音。

 強化された感覚五感によって、遠く離れたビルの隙間の更に向こうで建物が倒壊し断続的に爆発音が聞こえて来る。


「おいおいおいおいっ!? まさかあんなのの相手をしろってのかっ!?」


 それを起こしているのはビル程の巨体を持つ鉄身の巨人、四角い頭に四角い胴体を持つシンプルな見た目だが、左右のマジックハンドは一撃でビルを倒壊させ、爪の先からは巨大なエネルギー弾は着弾と共に爆発を起こす。


「……ちっ! 何を迷ってやがるんだ、ガッツ!」


 俺が感じるのはロボットが生じさせる破壊音や光景だけじゃねぇ、街を破壊されて逃げ惑う人達の恐れ逃げまどう時の悲鳴もだ。


 感じるんだろうが、貰い物だろうが何だろうが凄い力を自分の中に!

 憧れたんだろうが、巨悪に立ち向かうヒーローの姿に!


 決意を決めた時、俺は何をすれば良いのか自然と理解した。

 あのデカブツの所に速攻で行く為に何をすべきなのか、それは俺の相棒となる存在の名を呼ぶ事だ。



「ヒーローごっこは餓鬼の時に卒業した! 今日から俺は本物のヒーローになってやる! 来い! ”フラインググレートマザー”!


 叫ぶなり屋上から飛び出した俺の真下に向かって小屋から飛び出した物に乗り込み、ハンドル握ってペダルを全力最大速度で漕いで宙を駆け抜ける!

 最大速度時速九百キロ……のママチャリ、カゴには正体を隠す為の他、水中だろうと毒ガスの中だろうと呼吸が出来る……フルフェイスのヘルメット。


 それを片手で掴んで被っている間にもロボットに俺は近付き、景色は矢みてぇにビュンビュン後ろにかっ飛んで行くが、動体視力も反射神経も最高に上がっている今の俺には問題無しだ!



『未確認飛行物体発見。破壊スル』


 ロボットから聞こえて来た感情のない音声の直後、右腕が変形し銃みたいになる。

 光る銃口、そのまま俺に狙いを定め、ビームが発射されるよりも前に俺はフラインググレートマザーから飛び上がってロボットの眼前で腕を振り上げていた。


「おらぁっ!!」


 踏ん張りの効かない空中での一撃だが、ロボットを大きく仰け反らせて装甲の一部を破壊する。

 その反動で俺の動きは空中で止まり、真下から感じる風圧に咄嗟に腕を交差して防御の構えを取れば体勢を崩しながらもロボットのデカい足が俺を蹴り飛ばし、ビルを幾つか貫通して漸く俺は地面に叩き付けられ、追撃とばかりに放たれたビームがビルを崩壊させて俺に瓦礫を降り注がせる。


「……マジかよ」


 この時、本来の俺なら赤い染みになっていただろう攻撃を受けても埋まった地面から抜け出せる筈だった。

 だが動けない、今になって戦うのが怖くなって震えが止まらないんだ。

 まあ、でかい力を貰って良い気になっていたのに敵の巨大さにびびっちまったって事だろ?


 ああ、結局これが俺の限界、困難に打ち勝つ力は持っていなかったって事だ。


 ヒーローごっこはとっくの昔に止めたんだが、ヒーローには力を得た今でもなれちゃいなかったのだと自嘲し、どうせ自分は分身だからと諦めたその時だ、小さい餓鬼の震える声が耳に届いたのは。




「……助けて」



 ロボットの攻撃で崩れたビルの瓦礫の隙間から手を伸ばして助けを呼びながら泣く女の子の顔を見た時、自然と身体が動いていた。

 降り注ぐ瓦礫は俺と女の子が居た辺りに次々に降り注ぎ、その場に居たら下敷きになっていただろう。




「……そうだよな。ヒーローってのは守る為に戦うんだ。強いだけならチンピラでも武器持たせりゃヒーローなのかって話だよ」


 瓦礫が降り注ぐよりも前に女の子を助けて脱出した俺は手に抱いた彼女を地面に降ろし、何が起きたのか混乱した様子の彼女を放ってロボットの居る方向を見ながら軽く腕を動かす。


 痛みは、無い。

 力はさっきまでより湧いて来る……気がする。




「限界は越え続ける物! だったら打ち砕けない困難なんか無いよなぁ!」


 認めよう、俺はさっきまでも今この時もヒーローなんかじゃない。

 只の力を貰って調子に乗っていた馬鹿だ。


 だから、だから俺は……。





「待ってろ、デカブツ! テメェをぶっ倒して俺はヒーローになってやる! 来い!」


 俺の呼び掛けに応え直ぐにやって来たフラインググレートマザーに跨がると女の子の方を向く。

 見た目は元の俺のまま、フルフェイスのヘルメットの上にゴッツい身体だ、怖がるだろうが、何を言うべきかは決まってるよな。




「待ってろ。兄ちゃんが彼奴をぶっ壊して来るからよ!」


 返事は聞かず、全速力でロボットの方に向かえば俺に気が付いたのかエネルギー弾を雨霰と撃って来るが避け続けて接近する。

 数センチ横をエネルギー弾が掠めるのも気にせず、足下までやって来た所で飛び降りれば踏み潰そうと足を振り下ろして来るが……狙い通りだ!







「おい、ポンコツ。今度の俺は地に足が着いているぜ、二つの意味でな」


 振り下ろされる足が間近に迫った瞬間に地面が広範囲に渡って砕ける程の踏み込みからの下半身の力を込めた渾身のアッパー。

 その衝撃はロボットの足の裏を突き抜け、装甲を内部から部品諸共バラ撒きながら内部を突き進む。

 最後に月にくっついた物と同じ赤いコアみたいなのにヒビが入って砕けた瞬間、ロボットは完全に機能停止、その場に崩れ落ちた。




「ざまーみろ、ガラクタが。にしても、此奴って一体どんな奴が……」


 背後から掛かる影と巨体が進む事で起きる振動、嫌な予感を覚えつつも振り返れば俺が倒したばかりの奴とそっくりのやらアンドロイドの中身っぽいのやら、俺が偉そうに倒したのを誇ってるのは量産品だと教えてくれる数。



「成る程、戦隊物の雑魚戦闘員みてぇな存在かよ。上等だっ!」


 俺がやらなくちゃいけない、俺しかやれる奴が居ないのなら……あっ?





「ゴリラ?」


 そう、ロボット共の背後から飛び上がったのは金毛のゴリラ、ロボット共より少し大きいのと両腕の前腕部に突起物、頭の両脇に黒い湾曲した角が生えてる以外は普通のゴリラだ。

 それが拳を振り下ろせばロボット共は一撃でスクラップ、残ったのがビームを撃つも飛び上がって避け、掴んでいたロボットの破片をぶつけて反撃する。



 一体彼奴は何者……。




「君、ロボットと生身でやり合うとか何者?」


「パンダ仙人は何も言って居なかったけれど、私達と同じなのかな~? まあ、今は戦うのが先だよね」


 ゴリラの怪物……怪獣? の戦いに見入っていた俺の背後から掛けられた声に振り向けば黒髪褐色肌のチビと森ガール(だっけ?)みたいな服装の女子二人。

 感じがバラバラだが、二人共同じブレスレットを着けていて、それを高く掲げる。




「「メタモルフォーゼ・モンスターチェンジ!」」


 カッと周囲を照らす光に目が眩み、直ぐに光が消えたかと思うと……二人が居た場所に二匹の巨大怪獣が居た。







「おいおい、何がどうなっていやがるんだよ……」


 



 

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