表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/17

6 「王国」と「続編」と「攻略対象者」

本日2度目の更新です。よろしくお願いします。

【ジャハラード王国】


ロクシエーヌのはるか南、大型船でも片道10日はかかるとされるこの王国は、南北に長く伸びる大島とその周辺に点在するいくつかの小島から形成される島しょ国だそうだ。建国当初から女性君主制を敷くめずらしい国でもあり、現女王は25代目ネイシス。19歳という若さで即位して以来20年、自国の改革を推し進めた『女傑』と謳われる人物だ。その最たる功績は、200年もの長きに渡り続いてきた鎖国政策を廃止し開国へと導いたこと。これによりジャハラードの資源や特産品の多くが広く世界に流通するようになった。

そんな彼女が統治するジャハラード王国こそ、【白き乙女ステラ】の続編として制作されたゲーム、【救国の乙女アイーシャ】の舞台なのだという。




時は【ステラ】のエンディングから数か月後の未来。

前作が中世ヨーロッパの世界観だったのに対し、アラビアンナイトの世界感がベースとなっている今作の主人公は、艶めく黒髪にエメラルドの瞳が印象的な16歳の正統派美少女アイーシャ。ジャハラード王国の第三王女という設定だ。



プロローグは、彼女がある真実を偶然耳にするところから始まる。



「なぜだ…っ!なぜあの時死ななかった…っ!私自ら用意した猛毒だったというのに……っ!我が娘ながらなんて忌々しい…っアイーシャめ…!」


時は遡りアイーシャの回想。


愛らしい笑顔で走り回る黒髪の一人の少女。

幼いころから快活で、兄弟姉妹の中で群を抜いて聡明だったヒロイン、アイーシャ。周囲から愛され何不自由なく育った彼女をある不幸が襲ったのは、12歳の誕生を祝うパーティーの最中(さなか)だった。

毒を盛られ、大量の吐血と共に意識を失うアイーシャ。それから数か月もの間生死の境を彷徨う事となる。愛する娘を害され激高するネイシス。すぐさま犯人の捜索に当たるも、結局捕らえる事は出来ず事件はうやむやになった。


それから4年────。


アイーシャは女王の補佐として政務の一部を任されるようになっていた。

後遺症もなく、この数年でますます美しく思慮深い女性へと成長した彼女は、時期女王候補として民の期待を一身に背負うようなる。それは専制政治で民を縛る母にとっては許しがたい脅威であり、疎ましい存在でしかなかった。


そんな折、偶然聞いてしまった母の独白。


4年前、自身を毒殺しようと企てた黒幕が母であった事を知ったアイーシャ。心に深い傷を負うも、この数十年に渡る母の暴政に心を痛めていた彼女は、民を救うため、母ネイシスに立ち向かう決意を固め、その一歩を踏み出す……。



そんなプロローグから始まるメインストーリーは、数々の困難を乗り越え周囲の協力を得たアイーシャが、革命を成功させ、祝福の中新たな女王として即位する…というエンディングで幕を閉じる。


大まかなシナリオはそんなところだが、これに主人公の育成要素が加わったり、ゲーム内で発生するイベントをクリアすることで、ハッピーだったりバッドだったり、はたまた「逆ハー」と呼ばれるとんでもないエンディングだったりを楽しむことができるらしい。


そして、


この単なるシナリオを「乙女ゲーム」として成立させるために必要な絶対的要素、不可欠な存在がいる。

押し並べて、タイプの違う「イケメン」を取り揃え、時に厳しく時に甘く、いざとなったら命に代えても守り愛する。

そんな彼らの一挙一動に、画面の手前で呼吸を乱し、声にならない叫びを押し殺しながら悶絶できる幸せをかみしめる熱烈なユーザーが求めるもの。



「攻略対象者」



彼らなくしてこのジャンルは成り立たない。

そして今回の栄えある「対象者」に選ばれたのが下記の5人。



・王女の異父兄であり、女性との浮名が絶えない遊び人。第一王子の「カリーム」


・アイーシャとは乳兄妹で幼馴染兼従者の「アーキム」


・敗国の王子で元奴隷。現在はアイーシャの護衛として仕える戦士「アサド」


・商人ギルドを束ねる長であり、その裏で義賊として暗躍する謎の男「カイス」




そしてもう一人。




・自国の重臣の謀略に巻き込まれ、つらい幼少期を過ごした隣国の王子「アレクシス」……







「……はい?」


ここまで、まるで吟遊詩人のように流暢に語っていたアレンの説明を、昔人気のあった刑事ドラマの主人公のような口調でぶった切る。


「なんて?」

「何が?」

「5人目…。ちょっと知ってる人だった気がする」


まさかそんなはずはないと思いつつ、つい聞き返してしまう。


「隣国の…王子?」


アレンを指さす。


「そう」


アレンがこくんと頷いた。


「……」


はい、確定しました。


「…アレンが5人目って、どういう事?」


前作で「対象者」だった彼が、なぜ続編で別の女性に攻略されなきゃいけないのか全く理解できない。


「過去の記憶だから詳しくは覚えてないけど、アレクシスって攻略がすごく難しくて炎上したって話しただろ?その救済措置として、続編のノーマル対象にキャスティングしたって情報見た気がする」


つまり運営がユーザーのニーズを反映した結果、こういう事になったと。


「どこ行くの?」


ふらふらと立ち上がった私にアレンが声をかける。


「寝る」


起きたら夢オチで笑い飛ばせることを願って自室へと向かう。

ベッドに倒れ込むように横になると、なぜかあっという間に眠りに落ちた。



それからどれほどの時間が経ったのか…。


気づけば夕刻。しかも翌日の。

丸一日以上深い眠りに落ちた私を叩き起こしたのは、ぐうぐうとうるさく鳴く自分のお腹の虫だった。






最後までお読みいただきありがとうございました。

次回更新は明日11/7(月)19時頃の予定です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ