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9.おのれミスリル

遅れたんなら急がなくていいかな。派です。

初投稿です。

「あっ、あたった」


剣があたるようになった。

転移して7日目のことであった。



「スライムの皮、15枚合わせて銅貨18枚になります。本日は随分と多い納品ですね?」

受付の……リンダさんに精算をお願いしたところ、そのように驚かれた。

初めて剣があたったあの後も何度かスライムに剣を当てられて、5匹をしとめることができた。いつもは10匹分しか納品しないのでそのせいだろう。


「そうですね。明日以降は違う魔物に挑戦したいと思うのですがゴブリンとかは東の森にいるんでしたっけ?」


「ええ、そうです。……本当はお一人での森の侵入はあまりおすすめしたくないのですが、オークを単独で倒せるなら問題ないと思います」


森に入るにあたって安全に関しては配慮している。ポーション(自作)も用意したし、森の浅いところにしか入る予定はない、魔法もなるべく温存していくつもりだ。


前回の戦いのうち、最初の頃は魔法なんて使えなかった。スパルタな師匠がいたおかげで使えるようになったがもともとは剣1本で戦うスタイルだったのだ。自分の中では剣技が役立たずになって魔法だよりになっていた今迄がむしろおかしかったと考えている。


「大丈夫です。危なくなる前には帰還するので」

「本当に気を付けてくださいね?できれば帰還次第すぐに報告してください」


そうして、この日は武器屋にも寄った。

「ミスリルのナイフ、だァ?」

「はい、作ってほしいんです」

「そりゃ、金さえきちんと払えば作りはするがよ。片手剣使うって行ってなかったか?」

「魔道具に加工します。錬金術が使えるので。木剣を錬金して武器にするのも効率が悪いので」


「ン?お前木剣は素振り用に買ってったよな?」

「あ」

「まさかあれ使って戦ってンのか!?」

「……はい」

「何やってンだこの野郎!」


店主に拳骨で殴られた。完全に俺が悪いので甘んじて受け入れた。


「いいかこの野郎。使用用途以外で武器を使うのは最後の最後、どうしようもなくなった時だ。武器がどうなろうが俺ァ構わねえ。だが武器を間違った使い方したせいで人が死ぬのは我慢ならねぇ。それは俺にどうすることもできねェからだ」

「……はい」


「戦いのために使うってンなら最初からそう言いやがれ。そうすりゃもう少しまともなモンをくれてやったわ。聞いてるか坊主!」

「はい」

正直、ここまで真っ当に叱られるとは思っていなかった。こちらとしてはぐうの音も出ない。

これから武器を作る人間なのに武器のことを軽んじているのはだめだ。反省しなければ。


「……ミスリルのナイフだったな、金貨2枚で作ってやる」

「いいんですか?」

「作らなきゃ何使うんだよ?」

「……」

「そんなら作った方がいい、みじけぇナイフなら今あるミスリルの余りで作れる。大人しく作られた方が得だぞ?お前にとっても俺にとってもな。で、どうする?」

「……お願いします」

「はいよ。作るとこも全部は無理だが焼きの部分ぐらいは見せてやる。作業場は奥だ、来な」

「……!はい!」

そうして、作業の現場を見せてもらうことにした。


作業場はこじんまりとした場所であった。その理由の大半はデカい炉と金床である。そのほかにもハンマーや砥石などの道具が所狭しと並んでいた。

「いいか、坊主。ミスリルの加工には2種類の方法がある。1つは錬金術が使えンならわかるだろう?」

「ミスリルの強度と融点を鉄並みに引き下げて、加工後に解く方法ですね?」

「そうだ。ミスリルは鉄より硬く、鉄の3倍は熱につえェ。それを加工するなら強度と融点を下げて後で上げなおす。道理だな。欠点としては錬金術を使えるやつが少ねえのと値段が上がることだが……もう一つはわかるか?」

「……わかりません」

「正解はこいつに頼る。だ」

そう言って店主は手のひらを差し出した。その手には


「これは……トカゲ?」

「火精霊だよ。しかし、見えるんだな」

そういえば精霊は初めて見た。こんな普通の動物みたいな見た目してるんだな。


「バカみてぇな考え方だが、ミスリルが硬かろうが熱に強かろうがそれ以上の火力で焼いて柔らかくすりゃイイってな。これが2つ目の加工方法だ、緋色金とかには使えねえが錬金術師が少ないからな。今はほとんどこの方法を使って作るのが多い。」


そう言って店主は火の精霊に魔力を食わせた。精霊はいそいそと炉の中に入り、赤く光りだした。

「今こいつは熱を発している。温度が上がったらミスリルを入れ、赤くなったら取り出して叩く。余分は精霊に溶かしてもらいながら形を作るんだ」

そう言いながら彼は数種類のハンマーを使いミスリルをあっという間にナイフの形にしていく。


「形ができたら精霊に熱を食わせて急激に強くしていく。これが精霊を使った『焼き』だ」

「熱を食わせるって、そんなことできるんですか?」

「精霊使いじゃないと意外と知らねえみてぇだがな。精霊使いは精霊の持つ属性に耐性を持つ。理由はこうやって精霊が食ってくれるからだ」


火花と陽炎でよく見えなかったが店主は熱したナイフを手づかみしていたような気がする。それも熱が皮膚に届く前に精霊が食べていたのだろうか。



そうしているうちに店主は柄をつけてあっという間にナイフは出来上がった。

やや柄の長い、鍔のついたナイフで刀身はミスリルの白銀色である。


「刃はついてねえが魔道具として使うなら問題ねエだろ。削るのも時間かかるしな」

ほらよ、と店主はナイフを投げ渡してくる。

咄嗟に柄のほうをつかむとずっしりとした片刃のナイフはやけに手のひらにすっぽりと収まった。


「オレの仕事見て役に立ったか、ってその顔みりゃわかるか。まあ何にせよ払うもんは払ってもらうぞ?金貨2枚だ」


城を追い出された時の金とオーク討伐分のほとんどすべてが消し飛んだがそれだけのものはもらった。


その日は宿屋に帰って亜空間内の保存食を食べて1日を終えた。

ミスリル

本文では魔法銀と書くが銀ではない。銀のような色であり、重さも大きく変わらないが硬さ・融点は鉄より圧倒的に高く、最大の特徴として魔力を通しやすい。効率よく魔力を運用できるため錬金術を用いて魔力を込めた際に変化が起こる特徴を付与して魔道具にして使うこともある。今はほとんどただの硬い金属。

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