6.おのれ肉体
小説を読むときは、1話あたり1万文字を超えていてほしいなと思っていました。
今回のあとがきは物語に絶対にかかわらないと思っていますが初投稿です。
「うん、だめだ」
あの後も何度かスライムと接敵してことごとくをとり逃しての感想がこれである。
剣があたらない、横なぎも突きも振り下ろしも全部外れる。攻撃の間合いが取れないのだ。
「1年前はもっと体が大きかったからなあ」
異世界から帰ってきた際はもっと体が成長した状態だった。元の世界で体が小さくなったことで最初のうちは物を掴めずに落としたりぶつかったりが結構あった。それと同じ感覚である。かつての戦いの感覚を思い出しながらなせいで目測と間合いが合わないのだ。
「後は聖剣に頼りすぎてたせいかな」
聖剣は魔力を込めれば飛ぶ斬撃も剣身を伸ばすことも、斬撃を爆発させることも可能だった。改めて考えるとチートすぎるほど便利だが、その性能に頼りきっていた期間が長すぎたせいで聖剣ありきの戦い方になってしまっている。すぐに剣に魔力を込めようとするし、剣に集中が向きすぎているのだ。
「とりあえず最低限は魔法で狩って、後は魔法無しで剣の練習かな」
元勇者だからといってうまくいくわけではないらしい。
「魔法は大丈夫だと思うんだけど」
ここまでで亜空間や錬金術などで魔法を使用した際、発動に問題はなかった。魔法の間合いは体の大小には大きく左右されないため大丈夫だとは思うのだが。
「あ、スライム」
近くにある小さな藪の中からスライムが飛び出してきた。
とっさに小さな氷の刃を指先に形成して飛ばす。
刃はあっさりとスライムを貫通し、大きな穴が開いたスライムは体液をこぼしながら絶命した。
「うん、魔法は本当に何も問題ないね」
少なくとも冒険者として日銭を稼ぐなら問題ないだろう。
最も生活以外で必要な分、例えば武器の作成を依頼したりなんかにはもの足りないだろうが。
「早いとこ剣も使えるようにならないとな」
その後はとりあえず魔法でスライムを10匹ほど仕留め、夕方ぐらいまでスライム相手にあたらない剣を振り続けた。
街に帰ってまず冒険者ギルドに寄った。受付には登録した時と同じ人がいた。そういえば名前を聞いていなかったのでスライムの皮を売るついでに名前を聞いてみることにする。
「私の名前、ですか?」
受付嬢はしばらく悩んだ後、顔を寄せ耳元でこう囁いた。
「リンダといいます。あまり言いふらさないでくださいね?」
受付の人、もといリンダさんは耳元から離れ、話を続けた
「受付の人は登録したての冒険者の方とはある程度距離を置くんです。人によってはその、犯罪者と何も変わらないような人もいるので。ただ、同性の方や信頼できる方には教えることもあるんです」
「ケンジさんは登録の時から真っ当な人だな、とは思っていたんです。誠実な人を好むエルフの人たちに師事していた。というのもあって教えました」
特別なんですよ、とのことだった。
それにしてもリンダ、か。
「その名前って、エルフの有名な人に似てますね」
「魔王討伐をなした勇者をのぞく伝説の3人のうちの一人のリンドウさんのことですね。よく言われます。今なお最前線で働く女傑。魔王討伐時をよく知る生ける伝説として有名ですからね、私も同じ女性として憧れがあります……どうかしましたか?」
リンダさんが不思議そうに訪ねてくる。
無理もない
おそらく俺は笑っていたのだろうから。
「いや、今日はいい日だな。と思いまして。リンドウさん。魔王討伐時を知っている数少ない人で、師匠たちからも聞いています。一度会ってみたいな。とは思っているんですが」
「今はエルフの国で重役についているらしいですからね。エルフの国には私も行ったことが無いですが。そうですね、どんな人なんでしょうか」
知っている。長生きで1日が短く感じるとか言ってほかのエルフと同じように不定期な食生活くせに、他の人が不健康な生活を送っていると途端にお節介焼きになることも。
弓の腕はエルフの中でも抜きんでているが魔法は並で、実はそれを気にしていることも。
初対面の人には人見知りが発動して間合いを測ろうとするところも。
全部しっかりと覚えている
(生きているんだな)
この世界で生きる目的はあった、正しくは無理やり作っただが。そのため、この世界にいることを辛いとは思わなかった。
けれども今日、初めて
この世界に来て良かったと思えた。
魔王の討伐について
勇者の召喚は歴史上初だが魔王の討伐は初めてではない。
勇者という概念は比較的最近に生まれたものだからである。
それ以前は太陽にケンカを売って溶けた氷河期の魔王や魔王同士の怪獣大決戦で相打ちになったやべーやつらなどの例外を除き神の用意した使徒と呼ばれる存在が魔王を打倒してきた。
勇者との違いは使徒は体だけでなく魂まで神の手作りでコストが高い点である。その分自由度が高く、勇者は元の体と同じ形である必要があるが、使徒なら目からビームを出せる個体や体高が50mを超えるような個体も作れた。
なお、前者は蛙型、後者は魚型である。