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18.おのれ貴族3

まだ失踪しないので初投稿です。

翌日、1日たっても収まらなかった怒りとともに俺は村の入り口にいた。依頼の会い方である『森に詳しい兵士』との待ち合わせのためである。


待ち合わせ場所の詰所の前には一人の男がいた。


「よお、依頼を受けた冒険者ってのはあんたかい?」

「そうですが。貴方が?」

「おう、ハンネマンってんだ。よろしく」


年の頃は30ほどだろうか。装備も改造されており、隠しポケットが多い。余り兵士らしくない兵士だった。

想像と違う人が笑いながら出てきたことで毒気が抜けてしまった。あれほどあった怒りが抜けていくのがわかる。


「ああ、良い顔になったじゃねえの」

「……気づいてたんですか」

「何で怒ってたのかわかんねえけどよ、人殺しそうな顔してたぜ。任務前にそんな顔する奴は大体死ぬってのが相場でな。そんな奴に命預けるわけにはいかんかったからな」

「ああ、確かに。忘れてました」


お互いに笑いあって。俺は気を引き締めなおし、依頼が始まった。


「先ずは森全体を回る。そんでもっておかしなやつを調べる。森に異常があれば俺なら気づけるはずだが、前に見た時は何もなかったんでな。あんたも何か気づいたことがあったら伝えてくれ」

「わかりました。その間の護衛は任せてください。絶対に守ります」


森の入り口で作戦会議を行う。俺はミスリルのナイフに魔力を流しながら、ハンネ(こう呼んでくれと言われた)も武器のチェックを行いながらだ。

相当森における戦いになれているのだろう。説明もチェックの流れにもよどみがない。


「前に探索したのはいつですか?」

「1月ほど前だな。色々あって期間が開いちまったからなるべく念入りに調べたつもりなんだが」

「それで何もなかったなら確かに人為的な可能性が高い……ですね」

「ったく何考えてんだろな、あの阿呆共は。下手すりゃ王国の危機につながりかねないようなことを」

「本当に……。それで魔物の群れがいた場合は殲滅ですか?」

「いや、急造だが兵士が陣を張ってる。精霊術師に金を払って作り上げた大盤振る舞いの陣だ。出来ればそこにおびき寄せる。魔王のいない普通の群れなら群れのリーダーを引っ張って来れりゃ何とかなるはずだ。つーかなんともならなかったらおしまいだな」

「わかりました」


本当に何ともならなそうなら自分もできる限りのことをする。具体的には死蔵してるあの呪いまみれのキメラナイフを使ったりだ。


「そいじゃ、準備も終わったとこだし始めますか」

「はい」


そうして森の中に入っていく。

「……外から見た感じは大丈夫そうだったが、やっぱ入り口のあたりは何もないな」

「魔力も特におかしなところはありません」

「……お前さんもしかして精霊術師だったりする?」

「いえ、どちらかというと錬金術師ですけど」

「なんで索敵できんの?めちゃくちゃ戦闘なれしてるっぽいし」

「魔法は戦いの手段として学んだので」


どちらかというと魔力を使わないで一瞬で異常がないことがわかる方がおかしいと思う。緊張を解いてるから。問題がないことを確信してるのはわかるのだが。


そう聞くと

「そりゃおめえ、俺はあの木が苗だったころから親父にどやされながら潜ってたからな。俺の家みたいなもんだ。自分の家が可笑しかったら流石にわかるだろ」


とかえってきた。

自分の家云々はよくわからないが木の大きさからして少なくとも20年は森に入っているのだろう。

日本なら控えめに言って虐待だが、15で命のやり取りをする冒険者になるものがいるこの世界なら少し早いぐらいだろうか。

いずれにせよ頼りになることは間違いないらしい。


「お、ゴブリンだな。多分3匹。俺がやってもいいがどうする」

「……俺が行きます」


俺よりも広い範囲が索敵できるらしい。

魔力を感知するより早く気付くならもう特殊な能力なのでは?

俺はゴブリンを狩りながらそう思った。




それからしばらく探索して。

「止まれ」

ハンネが手で遮った。

「人が通った跡がある。向こうの方だな」

「……何もないんですけど」


俺も前回森で索敵をした経験はあるが、全く分からない。


「この辺じゃない。30歩は先だな。あっちの方だ」

「やっぱり人間やめてますよねハンネさん」

「この辺に巣づくりしてた鳥がいないから気づいただけだ。人間だよ俺は」


近づいて初めて人の通った痕跡に気づいた。


「1~2人ではないですね。5人、ですかね?」

「恐らく、周りを伐採しながら進んでる。貴族のためにやってるとしたらあいつら自身もここにきてるな。一人が重い物運んでる。こいつが絡繰りだろう」

「この先ですね。いきましょう」

「作戦とか建てねえでいいのか?」

「何が来るかわからないのに?あぁ、やばいのが来たら俺が残るんで頑張って逃げてクララさんに報告してください。」

「お前も大概可笑しいこと言ってるからな、2人とも逃げる選択はないのかよ」


だって魔王以外なら何とかなるし……。

「少なくとも貴族2人どうにかする必要があるんで」

「やばいやつがいたら多分そいつら残ってねえと思うが……。まあ、戦いぶりを見る限り大体の奴は大丈夫だろうから任せるわ」

「任されました」


そうして、俺たちは慎重に痕跡を追って行った。「周りの感じがだんだんやばくなっていく」というハンネの言葉を信じ、最大限に警戒しながら。


「いた。5人だ。走り回ってる兵士3人、貴族2人」

「こっちも見えました。その後ろは……はぁ?」


開けた場所の手前、茂みの中で俺たちは敵の姿を見た。

手前には仲良く談笑する貴族共。

その奥には何かを運んだり何やらデカい石に魔力を込める兵士。

更にその奥にはゴブリンやオーク、中心にはオークキングがいて、結構な規模の魔物の群れ。

だが、俺が声を上げたのは更にその奥にいる別の魔物の群れだった。


「なあ、……奥にいる魔物が1匹も見たことないんだが。本に乗ってた奴が何匹か見えるが……」

「ハンネさん。」

「あいつら1匹相手するのに兵士200人くらい必要だよな?おい」

「すぐに逃げてください」

「……本気で言ってんのか、おい。2人で逃げた方が「早く」……わかった」


小声で「気を付けろよ」と声をかけつつ音を立てずにハンネは去っていった。

この位置ですら去ってゆく音が聞こえないのは本当に人間やめてるだろと思いつつ、ミスリルナイフとキメラナイフの2本を用意して俺は戦闘態勢に入る

それにしても……最奥の敵を見つつ思う


「ヒドラ・オーガキング・リッチー・ワイバーンに……あれは地竜か?魔王軍最前線かよ」


ここまでの質の魔物がそろっているのは200年前に見たきりだった。これで雑魚がもっと多かったら完全に魔王軍だ。

どうやってこいつらを用意したのか、どうやって向かわせるつもりなのか、全く不明だが魔物どもは大人しく……、いや、違う。


「魔物を食ってる?……なんで?聞いたこともないんだが」


手前側の雑魚は大人しくしているのだが、奥の方の強力な魔物は手前側のゴブリンやオークを食っているのが見える。キメラ以外でそんなことをする奴らは初めて見た。


元来、魔物は環境を魔物が住みやすく、発生しやすいようにするためであったり、肉体を維持する(要するに栄養補給)ために生物を襲って殺すことはあっても、魔物同士で食いあいをすることは無かった。

魔物が増えることは住みやすい環境を作ることにつながるからだとも、魔物同士は別種でも共食いになるからだ、とも言われていた。


「200年で変わったとか?まあ、魔物が減るのはいいんだけど」


このまま食いあいで数が減るなら万々歳である。強いのが残ることを予想して準備しておけばどうとでもなる。

数が多いと一度に魔法を使って大量の魔物を殺した際に、環境が悪化(魔物が出やすい環境ができる)し戦闘中に強力な魔物が出現したり、魔物が大量にリポップしたりとさんざんであり、それなら強力な少数の魔物を相手にする方が楽なのだ。

まあ、数が多くても何とかする方法はあるが、使った後が大変なことになるのでできれば勘弁してほしい。


魔法の準備をしていると、貴族2人の話が盛り上がっているのかここまで声が聞こえてくる。


「いやあそれにしても、うまくはまりましたな。私一人ではここまでの魔物は用意できませんでしたよ」

「いやいや、私だけであっても魔物を御しきることはできなかったでしょう。生み出したこいつらが人より魔物を優先して食らう性質を持っていなければ街に向かわせることなどできませんでした」

「後は、私の魔道具で操った魔物どもを軍隊にぶつけてしまえば自動的にこの強力な魔物達も操った魔物を追いかけて軍にぶつかる。そうなれば奴らはおしまいですな」

「いやあ、まったく。『無能』が我々に逆らうからこうなるのです」

「全くですなあ」

「「はっはっはっはっは」」


……あまり気分の良いものではないが、何が起きているか大体は把握できた。

言われてよく見てみると、貴族の一人が持っている腕輪と強くないほうの魔物達は微小な魔力でつながっている。


「タイムリミットは向こうが好きに決められて、魔道具か……。わかりやすくて助かるね」


兵士は魔物たちの準備(恐らくここから軍のいる方角を探っているのだろう)にかかりきりで貴族に注意を向けていない。


作戦を変更する。2人を放っておいて準備をするよりチャンスの今を狙うべきだろう。


俺はいつものように飛び出そうとした。風魔法を準備して、剣に魔力を流し、

その時、気づいた。

「ヤバいっ!」

急いで茂みから飛び出す。


「何だ!!」

大きな音を立てて飛び出した俺に流石に貴族たちも反応できたらしい。

そのせいで背後の気配に反応が遅れたようだが。


「間に合えッ」

「え、ええい魔物どもよ「ギルス殿、上!上!」は……?」


ぐしゃりと音がして

俺がギルスと呼ばれた貴族の魔道具を腕ごと奪うのとほぼ同時にヒドラの頭の一つがその貴族を丸のみにした。


「な、何故こちらを、ひ、ひぃぃぃぃ!!助けてくれぇぇ!!」


這うようにして森の奥に逃げた貴族を無視して、俺は魔道具に魔力を流す。が、


「……だめか」


ヒドラの牙か鱗にかすったらしく、魔道具にはひびが入っていた。微小な魔力の線は途切れ、魔物の群れはあたりを見回し、丁度ワイバーンがゴブリンを食らう瞬間を見て同じ方向に逃げ出す。


「最悪だ」


奴らの逃げた方向は村がある。そして、


「お前らだけでも押しとどめないといけないって?」


追いかけようとするオークキングの腕をキメラナイフで刎ねて、出鼻をくじく。危険を感じたのか、あるいは戦いが始まることを察知してこれでもかと瘴気をまき散らす魔剣に警戒したか、魔物どもはこちらを見やった。


こいつらだけは何とかしないといけない。例え援軍に間に合わなかったとしても。


「何とかなるとは思うが、どうしたものかな」


準備していた魔法は保持してある。集中する時間を稼ぐ必要があるが、相手できないことはない。

俺は魔物に飛び掛かった。

魔物を召喚する石

瘴気石などと呼ばれる、歪んだ魔力を含んだ石。魔力を流すことで周囲に歪んだ魔力が発生し、その状態でそこいらの小動物を放り込んで殺したり、放置して時間がたったりすると強力な魔物を発生させることができる。このようにして発生した魔物は強さに反して魂の量が足りないため、周囲の取り込みやすい魂である魔物の魂を優先して取り込む傾向がある。十分に満たされると普通の魔物としてのふるまいをする。

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