17おのれ貴族 2
サブタイを思いつかないので初投稿です。
異世界転移73日目。俺は未だにこの村にいた。
相変わらず貴族2人はクララに絡んでおり、墓参りができないのだ。
ちなみにドノバン以外の墓参りは既に終わらせた。
何をもっていけば良いのかわからなかったので酒を何本か瓶で持って行った。
墓は教会の墓地のど真ん中にあった。巨大な墓石の上段には『開拓の勇士』と書かれており、下段にみんなの名前が彫ってあった。
何人か名前がわからない人もいたが、後で教会の神父やギルドの人づてに聞いたところ、彼らの子供や開拓がはじまってからの仲間も含まれていたらしい。その時は全員に挨拶して、帰ってからのことや、昔話何かを語り掛けていたら丸一日かかって神父にちょっと不審がられた。
後はクララの家にも行った。俺の目的からすると、彼女と仲良くしておくに越したことはない、という打算というより建前が半分。代替わりしてすぐに変なのに絡まれて苦労してそうなのでなるべく助けたいというのが半分だった。
彼女とはドノバンのその後や子孫(クララからすると先祖)何かの話を聞きつつ、頼み事は(墓参りできないのもあって)「勇者の動向についての情報が欲しい」と伝えておいた。
勇者には会いたくない。周りにいるであろう奴らも無理だが、何も言わずに別れたのなら少なくとも全てが終わって元の世界に帰るまでは顔を合わせる必要はないと思っている。
それに、もしかすると勇者には戦う力なんて何ももってない奴が異世界に放り出されたように見えているかもしれない。そんな状態で会ったらあいつに余計な心労をかけて、魔王討伐に支障をきたすだろう。
まあ、そんな理由でなるべく勇者と鉢合わせることがないようにしたかったのだ。この村についた当初はここまで長居する予定もなかった。おまけに勇者が最前線に向かうことも知らなかった。むしろもう最前線にいるものだと考え、最前線の手前で情報を集め(勇者は目立つから酒場で半日も張っていればわかるだろうと考えていた)勇者のいる場所を避けて通るつもりだった。
それらができなくなった以上、せめて出発直前まで勇者のいる場所に関しての情報を細かく集め、鉢合わせることがないようにしておきたかった。
そうして話している最中にもわざわざ貴族2人が乗り込んできたのは呆れたが。俺を見るなり嫌そうな顔で帰っていったのを見て真面目な顔で「食客として招かれてみないか」と言ってきたクララは多分相当参っていたに違いない。
この約2週間であった出来事はそれぐらいだろうか。わかりやすく言って手詰まりな状況である。
いい加減後回しにすべきではないか。そんな考えも頭をよぎる中で、しかし諦めきれずにこの村に居続けている。というのが現状だ。
「何かこう……クララさんに手っ取り早く近づける。そんな依頼とかないですかね?」
「ありますよ」
かと言って村にい続けたから何か変化が起こるわけでもなくこうして冒険者ギルドの受付(男性だった)に無茶ぶりを……今なんて言った?
「領主様直々の依頼です。実力も信頼も、下手な人に任せるわけにはいかないですがキメラを討伐して、領主様とも面識のあるケンジさんなら任せられます」
依頼内容は直接聞いてください。と彼は言って俺に依頼書を渡してきた。
……俺は3日ぶりに領主の館に向かった。
「む、貴殿か」
「はい、依頼を受けまして……」
「ああそうか、そうだったな、……いや、むしろ貴殿が受けてくれるのなら話が早い」
「というと?」
どういうことだろうか
「依頼は森の調査だ。山脈ふもとにある森の中を調査してほしい。種類は不明だが魔物が群れを成してこちらに攻め込んでくる可能性がある」
「まだ調査を行っていないんですよね?何故魔物の群れがやってくると?」
「今朝あの二人が意気揚々とやってきてな。『兵を貸してやろうか』などとのたまいながら話してくれた。何を要求されるかわからなかったから断ったが、奴らの口ぶりからして魔物の群れはいるのだろうと判断した。以上だ」
なるほど、あの2人ならやりそうなことである。そしてそれを理解できる分確かに話が早かった。
問題は彼らがどうやって魔物の群れのことを知ったかであるが、あの手の奴らは大胆な嘘は付けないだろうからとりあえず群れが存在することは間違いないのだろう。
うなずく俺は続く彼女の言葉で動きが止まった。
「問題は我々が魔物を察知する前から奴らが兵を連れてきていたことだ。偶然なら余りにタイミングが良すぎる。魔物自体も奴らが用意したものだと考えられる。数は恐らくこの領土だけでは防ぎきれぬほどだろう」
「……そんなことあり得るんですか」
「魔物の群れを誘導して村を滅ぼした例はいくつかある。当然秘匿されて表では発表されないがな」
手段の話をしていると思われたんだろう。確かにそんなことをする人間が存在したことなど知らなかった。
200年前に世界中を回った時。確かにどうしようもない屑はいた。火事場泥棒なんてザラで街を守ることと引き換えに娯楽と称して人の命を奪う将軍や、戦う力を持たない人を積極的に盾として使った領主がいた。魔物を殺す兵器として街一つ分の人を錬金術で混ぜ合わせた狂人がいた。
そんな奴らでも結局魔物を使って悪さをすることはなかった。
今ならなんとなくわかる。みんなこう思っていたのだろう。『魔物は災害。人の手には負えない』と……。
そんな世界しか見たことがなかったから。魔物をけしかけるという手法は心理的に使うことはないだろうと思い込んでいた。そんなことをする阿呆がこの世界にいると考えもしなかった。
「今回奴らがどんな方法で魔物を向かわせて来るのかは不明だ。が、この村は近年急速に発展したせいで防壁はこの館のある丘周辺を覆う程度の物しかない。よって魔物の数・強さ・手段にかかわらず我々に取れる手段は野戦以外にない。貴殿にはわが領地の森に詳しい兵士を護衛しつつ、彼ととともに森を調査し魔物の群れの位置と規模を確認してほしい」
「……もしも奴らがいた場合は、どうしますか」
「可能なら生け捕りにしろ。無理ならせめて何か身分を特定できるものをもってこい」
俺は、ショックが抜けきらない中で、何とか言葉を絞り出せたらしい。返答があって初めて言葉が出ていたことに気づいた。
ショックが抜けて、次第に感情が戻ってくる。
俺が感じたのは怒りだった。
魔物と戦う力もないようなお前らを命がけで守ってるのは誰だと思っている。
挙句の果てに手に負えないからって何の関係もない人を使って魔王だのを殺させようとしているのに、そのうえでこんな風に人の努力を無に返すようなことをしやがって。
200年前にあいつらが何のために死んだのか、俺が何のために吐きながら、泣きながら戦ったのか。
「……わかりました」
俺は、依頼を受けることにした。
どうしようもないほどの怒りとともに。
魔物の群れ
大抵は魔物が同時に発生しただけ。まれに村や集落、動物の群れなどが強力な魔物に襲われ、壊滅することで魔物が大量に産まれ、人間の集団(町など)を襲うことがある。
このようにして発生した魔物の群れは強力な魔物を倒せる実力を持った冒険者でも(数を相手にできないため)手に負えず、ほとんどの場合将軍が軍を率いて討伐にやってくることになる。




