16.おのれ貴族
投稿の遅さと描写の不足による展開の速さで実質釣り合っているため初投稿です。
なぜか15をすっ飛ばしていました。申し訳ございません。
『鉄壁の』ドノバン。彼の評価は俺との合流前と合流後で大きく変わる人物だった。
そもそも『鉄壁の』という通称自体が聖剣を手に入れたあたりで呼ばれるようになったものである。
それ以前、もっと言うと勇者召喚前の彼の評価は決して高いものではなかった。
「断る。われら父祖の墓を貴様らの薄汚い策謀に使わせるつもりはない」
現在俺はドノバンの墓を探しに教会にやってきていた。彼は自分のものに過剰な装飾をかける人間ではないため教会に小さな墓があるか、自らの自宅の庭にもっと小さな墓があるかのどちらかであると考えていた。
そこに突然この言葉である。
ただ、これは俺に向けられた言葉ではない。
「策謀などと、我々は貴方の両親の死の理由がドノバン卿にあるのではないかと考えているだけです」
「『無能の』ドノバンが有能であったあなたの父をたたり殺した。ありえない話ではないと思いますが?」
『無能の』ドノバン。彼のかつての通称である。
目線を向けた先には3人の人族が言い争っていた。
「父祖を愚弄するか!」
気の強そうなつり目の女性が語気を荒げる。
「いえいえそのようなことはございませんよ?」
「ええ、まったく。呪いによる死というのはよくあることですので、可能性の話ですよ?」
2人の男が、こちらはあくまでも静かな調子で話す。とはいえ目が笑っており、女性に対して敬意などはどうやら持ち合わせていないようだ。
「それにしてもドノバンを『父祖』……、か」
じゃああの人はもしかして
「もしそうなら話が早いんだけど」
俺は3人のいる方に向かうことにした。
三人の言い争いは平行線だった。いや、男2人は初めから意見を通す気が無いように見える。嫌味な言い方に女性の眉が吊り上がっていき、殺気すらにじませているところに俺は割り込んだ。
「あの、すみません」
「何だ?平民風情が。我々が話している最中だとわからんか?」
「所詮は平民か。失せろ」
男2人が息をするかのように罵倒してくる。ただ、女性の殺気は虚を突かれて霧散した。
「いやぁすいません。中身がまるでない話だったので、てっきりもう終わったものかと」
「貴様ぁ!その口の利き方はなんだ!」
取り合えず怒らせておく。どちらかというと女性に冷静さを取り戻させるために。ほら、自分より感情が昂っている人を見ると冷静になるでしょ?
「そんなことより、良いんですか?勇者サマに近づきに行かなくて?」
その言葉で女性は気づいてくれたらしい。
即ち、勇者のいる王都ではなくこんなところにこいつらがいる意味が。
「なるほど。貴様ら、さては勇者に相手にされなかったか」
「ぐっ」
図星だったらしい。
そう、そもそもこの村に一人でやってきたのは、王都にいる勇者を見ようと王都に向かう人ばかりで王都から出る人が少なかったことが原因である。
貴族も最前線にいる人以外のほとんどが王都にいる。わざわざ王都から外れた村に滞在している貴族は彼女のように領地を治めるうえで問題が発生したか、勇者に相手されない(嫌われた可能性が高い)奴らぐらいである。
女性は反撃の糸口を見つけ、言葉をつづける。
「聞けば、勇者殿ももうすぐ最前線に向かうらしいじゃないか。それなのに相手にされず、わざわざこの村までやってきて点数稼ぎ、というわけだ。ご苦労なことだなあ、ええ?」
最前線に向かうのは普通に知らなかった。会いたくないから早めに前線を抜ける必要があるな。
言葉遣いがなんだかチンピラっぽいがニコニコの女性に対し、男2人は不利を悟ったのか
「この屈辱、必ず返してやる!覚えておけっ!」
と吐き捨てて帰っていった。
「さて、……どなたかは存じないが助かった」
「いやぁ、突然すいませんでした。ちょっと彼らの態度が目に余ったので、それに……」
「それに?」
友達の子供みたいなものだから、と言いそうになってしまった。正確には友人の子孫だが、時間の感覚からか彼女とドノバンを重ねてしまう。
考えると吊り目なところや有利になると笑うところなどは記憶にあるあいつにそっくりだ。少し笑ってしまった。
クスクス笑っている俺を見て不審がりながらも彼女は話を続ける。
「……まあ、良い。この恩は必ず返させてもらう。私の名はクララ=ゲルハルト。ゲルハルト家8代目当主だ」
「ケンジといいます」
「何かあれば館に来てくれ。門番に話は通しておく」
墓参りしたいです。とはこの状況では言えなかった。
あの貴族さえいなければ、とも思うがいなかったら彼女との接点もできていないだろう。
何ともままならないものである。
クララと別れた後俺は村の中心にいた。墓がどこにあるかわかったのでギルドとついでに宿を探すためである。
中心は広場になっており、相変わらずあの石像が建っていた。
「改めてみるとすげえ似合わねえなこの石像」
恐らく後世の人が作った物だろう。
よく似てはいる。
似てはいるのだが何というか俺の知るドノバンには似合わないのだ。
本人が生きている間ならそもそも建てることを絶対に否定するだろうし、彼をよく知る人ならこんな像にしない。
そんなことを考えながら冒険者ギルドを探していると石像の足元に人だかりがあった。
「これより語るは『鉄壁』の生涯。王の盾として生きた彼の忠誠の物語である!」
人だかりの中心にいるのは吟遊詩人の類だろう。その周囲に子供から大人まで人が集まっている。
「ちょっと聞いてみたいな」
主に魔王を倒した後のことを。
「……そうして、聖剣を持って凱旋した『鉄壁』は王から褒美について尋ねられ、こう答えました。『王都にもっとも近い領土を。わが盾は王国のためにあり、故に王国に最も早く駆けつけ戦うための、また王国の最後の砦となるための領土を欲する』その言葉に感動した王は王都にもっとも近いこの村をゲルハルト領としました。これにておしまい」
拍手と歓声が沸き上がる。硬貨と一緒に何かよくわからないものも飛んでいく。
俺はというと、ちょっとげっそりしていた。
「いや、誰だよそいつら」
吟遊詩人の歌を聴いてちょっとだけ後悔した。魔王を倒すまでの道のりがものすっごく美化されていたのである。200年前だし、物語だとしても誰だこれである。俺は金髪碧眼で何人もの女を誑かした(主観的評価)スーパー女泣かせになっていたし、ドノバンも何か一太刀で横並びになったドラゴン達の首を落とせる将軍の中の将軍みたいな人になっていた。
何となく俺が追放された理由がわかった気がする。王城にいた人々もこんな感じの『勇者像』を抱いていたなら、金髪じゃない人間が来たことで混乱しただろう。しかも2人、聖剣は1本なのに、傍から見ても「一人は先代の勇者だ」とはならない。
まあだからといって許すわけではないが。
「ま、いっか。肝心なところは聞けたし」
推測が入るが、ドノバンたちは恐らく人間の領地を広げるためにこの土地を欲したのだろう。元王国はもとからある人間の領地として誰かに預け、王と残った家臣達で現王国を開拓したはずだ。その時に『わが盾は王のために』とか言って魔王軍討伐者の生き残りとともに開拓者の先陣に立って戦うために、いや、無理やりついてくるための口実としてだろうか。
そのような感じでこの土地は『褒美として』ドノバンの領土になったのだろう
推測の根拠がドノバンの性格と特徴のみであるが、そう大きく外れてはいないはずだ。
「ってことはドノバン以外の奴らもここにいたのかな?」
あいつらの墓なら、教会にあるかもしれない。落ち着いたら探してみよう。
そんなことを思いながら、この日はギルドと宿屋を探して終わった。
呪い
嫉妬・怨恨などの思いが本人の死後、魔法として発生した現象。
9割はヤラセ……とまではいかないが、7割ぐらいは暗殺や謀略の政治的な言い訳である。
ただし、実際に呪いが発生した例もあり、かつて武名をはせた貴族の初代党首が、死後ろくに戦いもせずに逃げた子孫を呪って脚の無い馬で王都まで押し掛けた事例などは今も語り継がれている。




