13.おのれ生態
後書きのネタが出てこないので初投稿です。
後ろからゴブリンの脳天にナイフを突き刺す。苦悶の声を上げてゴブリンは倒れた。その声に気付いたもう一匹のゴブリンの喉をもう片方のナイフで切りつける。
そうして2匹のゴブリンは絶命し、
2本のナイフは瘴気をまき散らし始めた。
「ユニコーンの角と火竜の牙、ともに効果なし。後何があるかなぁ……?」
現在キメラの素材で作った武器の実験中である。
いちいち片手剣で作ると素材がいくらあっても足りないため、ナイフのサイズで作成して確認している。スライムから倒していくのも大変なので錬金術で一時的に強化している。
今は治癒魔法のエキスパートでどんな呪いでも病でも治すといわれる動物、ユニコーンの素材とあらゆるものを焼き尽くす炎を吐ける火竜の素材を使ってみた。
結果は御覧の通りである。どうもキメラの素材がほかの素材を合成中に捕食し、勝手に劣化コピーを作ろうとするせいで上手くいかないようなのである。
大量に同じ素材を使えばこの問題を解決して剣が作れるかもしれないが、ユニコーンの素材などは回復薬としても使用していたため多くは残っていないし、そもそもそういった強い生物や魔物を混ぜすぎると最初から強くなりすぎて『成長する』というコンセプトから外れてしまう。
「無理やり何とかしないでも、何か方法はあるはずなんだけどなー」
そもそも今まで戦ったキメラはユニコーンなど捕食していなかった。にもかかわらず奴らは呪われてはいなかった。何なら魔王軍にいたやつは呪われないのがおかしいぐらいには生物を殺して喰らっていたはずだ。
それなのに呪われているそぶりは全くなかった。
何か原因があるはずなのだ。
奴らはどうやって呪いを受けずに生きていられるのだろうか。
そもそも呪いを体内に取りこまないのか。
取り込んでもそれを吸収しない何かがあるのか
呪いを消化して無害なものにしているのか。
実は呪いにむしばまれないように長期にわたって少しづつ力をためていたのか。
「魔王軍の奴からもっと聞き出しておければ……無理か」
魔王軍にいたキメラは魔物の群れを率いる将軍のような役割をしていて、魔物の軍団を人族と獣人・エルフの混合部隊で迎え撃ち、俺とリンドウ含む少数のエルフたちでキメラそのものを倒すという形で戦った。
キメラは流暢に話すうえに、戦闘になるまでは人とほとんど変わらない姿をしていたのもあって本当に魔物なのかと最初は疑ってしまうほどだった。
戦闘中もこちらを焦らせる目的なのか「お前の仲間は皆殺しにされた」だの「既に多くの人間が死んで俺の中で生きている。お前はそいつらを殺すのか」だの、挙句の果てには
「確か……「知ってるか?親子や夫婦の場合片方を抵抗できないように手足だけ食ってもう片方を食うのが美味いんだ。そうすることで残った方は絶望と怒り、悲しみがスパイスになって……」ってあれ?」
食ってんじゃん。
かつてはこちらへの挑発だとしか思っていなかったが、こうして考えると明らかにキメラは呪いのもとになる負の感情を喰らっているとしか思えない。
となると呪いを受け付けないという仮説は間違いだ。
残るは吸収しないか、消化できるかだが……。
意外なところから糸口が見えた気がする。もう少し考えてみようか。
そもそも本当に炎の魔法のみであのキメラを倒せたのだろうか。俺はその時ひたすらに前衛として聖剣をふるっていたため後方で何があったのかよくわからなかった。あの時は確か……。
「片方は細切れにしたんだけど血だまりが土喰って落とし穴掘りながら自爆しようとしたんだよな。で、聖剣で吹き飛ばした。もう片方は……勝手に死んだな?そういえば」
片方は聖剣の衝撃波で跡形もなく吹き飛ばした。
もう片方は突然苦しみだしたと思ったら体が急激に膨張して肉の塊になって動かなくなったはずだ。津波のように押し寄せてくる肉と骨から逃げるのに苦労した記憶がある。
恐らくエルフ達が何かしたのだろう。
どうやったのか、いや……覚えがある。
「確かキメラを錬金にかけた時に……」
最初はキメラの切った腕からキメラの成分を分離しようと思っていた。
ところがそこから取れた成分は雀の涙もいいところであった。そのためやむなく森の中で本体からまとめて取り出そうとしたのだが……。
「膨らんでたな、あの時」
本体が結構な量膨れ上がったのだ。
最初は死体にガスでもたまったのかと思い、内臓を取り出すなどしてみたのだが変化は見られずじまいだった。
最終的に変形したことによる気のせいとして処理したのだが、今思えばあれは本当に膨らんでいたのだろう。
「キメラって自分の体以上の体積の肉とかを保存できるのか。そのうえであの分量しか取れなかったとすると……?」
キメラの成分は肉体の量に対してとても薄くなるはずだ。食ったものを吸収する効率もその分悪くなる。
今までは特に何も考えずに大体で混ぜていた。しかし、キメラが吸収の効率を《敢えて|・・・》悪くすることで余計なものを吸収しないようにしていたなら……
「もしかしてこれが腕一本に対しての適正な量なのでは?」
今まで考えもしなかった可能性である。
だって考えてみてほしい。火の属性が問題になったら火か水について考えるだろう。
今回だってそうやって呪いという属性についてばかり考えていたのだ。
恐らく幼体のキメラは土や植物を食ってある程度まで自分の体積を増やすのだろう。
そうして、呪いを吸収しなくなるまで、あるいはする必要がなくなるまで《 肥えた|・・・》キメラがその辺の動物の死骸なんかを食って産まれるのが俺たちが戦ったことのあるキメラなのではないだろうか。
「……試してみよう」
その日、俺は初めて呪われないキメラのナイフを作ることに成功した。
魔王軍のキメラ
人を食らい、魔物を食らい、魔王並みの強さを手にしたキメラ。人を食ったことで明晰な頭脳と原理魔法の理解を得て、人よりも多い魔力で人よりも強力な魔法を打つ対魔法使い最強の存在となった。最後は2体に分裂したが、片方は聖剣で吹き飛ばされ、片方はエルフ達の錬金術で生きたまま分解されて体を維持できなくなり死んだ。




