12.おのれ魔剣
色々あるので初投稿です。
「どうしよう」
もはや何度目の困惑だろうか。
原因は明白である。
俺の目の前には剣がある。
俺が初めて作ったといえる剣。
キメラの死体を丁寧に錬金術で分解し鉄と混ぜ合わせ、鋳型に流し込んで作ったそれは錬金術で素材が持つ「成長」「再生」の特徴が付与された「成長する剣」。
俺なりに考えた「強さ」と「セキュリティ」を両立させた武器である。
そもそもこの剣は単体としてみると対して強くない。
魔力と魔物の素材などを与えると刀身が欠けていようが、多少折れていようが治る。というだけで強度は鍛造ではなく鋳造なこともあって鉄の剣と同等か少し落ちるぐらいである。
魔王含め力の強いやつらが振るえばたやすく折れる作りになっている。
この剣の真の強さはその成長性。
魔物を切りつけた時に剣は魔物を食らい、その力の一部を手に入れるようになる。
属性を持った魔物を切れば火の噴き出る剣になるだろう。
生物の骨や木の幹など硬いものを切っていればその刀身も固くなる。
敵を倒し続けていれば、いずれは聖剣に勝る可能性もある武器になっている。
最初期のうちは弱い者しか振るえず、持ち主とともに強くなっていく剣。
そういったコンセプトでこの剣は作られた。
今回の剣には付けなかったがこれに使い手が死んだら強さをリセットするような機能を付ければセキュリティの面では万全になると思っていた。
問題は
「悪食すぎる……魔物の恨みとかまで喰ってるだろこれ」
俺の目の前にあるのはスライムから順に初心者が経験するような魔物相手に試し切りをした後の物である。
その刀身は硬さはあるがなぜか泡立ち、泡からは常人が吸ったら発狂しかねない瘴気のようなものが発生している。瘴気は剣を中心に渦を巻き、周囲の空間が歪んで見えるほどである。
純粋なキメラの素材は切ったものを本当に無差別に取り込んでしまうらしい。
痛みから生まれる恐怖・絶望・怒りなどの感情。そういったものが持つスピリチュアルなエネルギーなんかも吸収していたのだろう。
でなければゴブリンやオーク、スライムなどを切っただけでこうはならない。
「……とりあえず亜空間にしまっておこう」
次に作るときは呪いについての対策必要があるだろう。
そうして俺は、目の前にあった問題を見なかったことにした。
いや、まあ今後使うときはあるかもしれないしね?
次の日
俺はギルドに来ていた。
目的は依頼を受けることのほかにもう一つ、
「お、来た来た」
「こっちですよー」
「お疲れ様です」
「依頼の目星は付けてあります。行きましょう!」
錬鉄の絆の4人との待ち合わせである。
彼らはパーティ内の資産で剣を1本ずつ買っていた。一人は魔法使いで後衛なのでナイフで十分だとして3本をスライムを狩りながら揃えていたらしい。
つい先日ようやっと3人分の剣がそろい、森に入り始めたばかりだった。
ところがキメラとの戦いで剣が折れてしまった。
キメラの死体は人肉らしき部位があることもあり魔石以外ほとんど捨て値で、死体は全て俺が引き取ることで俺の取り分は辞退したが剣をそろえる段階で生活費も切り詰めて無理をしていたらしく、ここから剣をもう1本買うというのは難しかった。
彼らもスライム狩りに戻るか、剣2本で森に入るかで話し合い、ギルドにも相談したらしい。
そうしてギルドを通して、もっと言うとリンダさんから俺に話が来た。
俺としてもキメラ戦での助力は助かったし、支援はしたいと思っていた。
その結果
「よし、じゃあ早速森に行こうか」
「「「「はい!」」」」
一時的にパーティメンバ―兼引率役になることにした。
稼ぎは消費した薬などの資金を引いて5等分にした後5分の1を俺が、5分の4を錬鉄の絆が分けることになっている。
「今日はいつものゴブリンなどのモンスター討伐とポーション用の薬草の採取です」
今日の予定について話すリーダーのオーソンは剣をぶっ壊した張本人である。
最後の切り詰め時期に安物の中古品の剣を買い、それがぶっ壊れた現在は俺の買っただけで使っていないスライムコーティングのナイフを使っている。金をとるのも忍びないのだが向こうも遠慮してくるため、間をとってメンテナンスは彼らにしてもらう貸与という形になった。
「ケンジさんが来てくれて本当に助かっています。狩りの効率も上がってますし、薬草の採取なんかも教えていただいて」
もう一人の男であるシャロン君はチームの中で金銭管理などを行う参謀役である。
彼らを助けようにも金の無さでは俺も同じぐらいなので、薬草の採取や剣の研ぎ方など冒険に必要なことを教えつつ冒険に参加している。そういった知識を吸収するのが最も早いのは彼である。
ちなみに彼らから何か返したいといわれたので、精霊魔法についてや彼らの住んでいた村(全員幼馴染だそうだ)での話なんかをしてもらっている。
彼らには対価になっていないと思われているが、俺としてはこの時代の常識や精霊魔法について教えてもらうのは意外に助かっている。
「それに原理魔法がとっても便利で、本当に何でもできますよね!いいなぁ」
そう言ってくれるのは精霊魔法使いのケイトである。
キメラとの戦いでも使っていた水の精霊と契約しており、水魔法が使える。
精霊魔法について、よく知らない俺にもわかりやすく教えてくれるあたり話し上手であり、驚くことに原理魔法についても少しだけ知っていた。
俺が原理魔法を使えることを知って、貪欲に学ぼうとしているらしい。
「それに以前と比べて連携がしやすくなった気がします」
女剣士のディアナがそう付け足した。
俺が思うにこの中で最も戦闘能力が高いのが彼女である。
それはパーティ全員がわかっているらしく、一番最初に彼女の剣が買われたそうだ。
彼女自身もそれに驕らず今なお戦いに関しての知識を得ようとしている。
この4人で構成されるのが錬鉄の絆である。
新しい剣を買えるようになるまで彼らとは一日おきに依頼を受け、残り1日はキメラの素材を使った武器の試し切りを行っている。
「っと、いたね。オークが2体」
「では、いつも通りケンジさんが遊撃で俺とシャロンで1体、ディアナとケイトで1体で行きましょう」
戦闘では大体俺が援護にまわる。敵がオーク3体を超えるようなときは前衛に回ることもあるが大体は後衛で戦場全体のサポートをすることになっている。
これは話し合いの結果決まったものである。
一時的な加入で、尚且つ実力がある程度離れているため下手に戦闘に参加するとその後の影響が大きくなってしまう可能性があるからだ。
「シャロン今だ!」
「おおおおおおおおおおおォ」
シャロンとオーソンは2人で連携をとって相手を追い詰める戦い方である。連携の精度は高いのだが引き出しが少なく大体が挟み撃ちでゴブリンのような弱い魔物2体以上を相手にしたり、素早い魔物を相手にする場合は途端に輝かなくなる。
しかし、はまれば格上相手でも勝てるというのは大きい。
「ディアナ!準備できたよ」
「わかった、下がる」
ディアナとケイトは前衛と後衛を分けて戦うタイプだ。連携は拙いため、入れ替わりの激しい戦闘ではケイトの魔法が味方にあたってしまう可能性があり、魔法を打つときはディアナが距離をとることになる。
それでも精霊魔法は強力で決まれば大体勝てる。ディアナの間合いの管理もうまいため魔法で倒せなくても追撃が入り、何とかなることが多い。
これが4人になると男2人が敵を誘い込んでケイトに魔法を打たせやすい状況を作ったり、ディアナとも即興で連携して3対1の状況に持って行ったりとできることが広がっていく。
「よっし、倒せた!」
「おめでとう。みんな成長してるね」
総合して、技術的に拙い部分はあるがパーティの戦法はほぼ固まっており今後が期待できるパーティである。
この日はオーク5体とゴブリン他多数の魔物を特に問題なく討伐し、帰還した。
モンスターの使う魔法について
一部のモンスターは魔法のようなものを使う。
特にゴブリン系統やオーガ系統が使う魔法のようなものは原理魔法によく似ている。
しかし、これらは全て魔物が持つ固有の能力であり、原理魔法とは微妙に違う。
この2つの主な違いは属性に縛られるか否かであり、ゴブリンメイジなどであっても個体によって使える魔法の属性は異なり、あらゆる属性が使えるとはならない。




