1.おのれ聖剣
初投稿なので初投稿です
突然、目の前が極彩色に染まる。
平衡感覚がなくなり自分が立っているのか座っているのかわからなくなる。
やがてふっと意識が明滅した時
「おお、成功したぞ。」
「勇者様、どうかこの世界をお救い下され。」
俺は魔王を倒す勇者になった。
正岡健二 14歳の春のことであった。
そこからは激動の日々だった。
末期戦といえばよいのだろうか?俺が呼ばれた時点ですでに多くの国が魔王率いる魔物の群れの手に落ちていて、僕を呼び出した王国も劣勢を強いられていた。今回の勇者召喚は世界で初めての試みだったらしく、初代国王が神から授けられたという怪しげな術式を用いて、藁にも縋る思いで行ったのだそうだ。本当にギリギリの状況らしく、説明もそこそこに剣を持たされて戦場に放り込まれたのはよく覚えている。
そこで自分が勇者であると自覚した。
魔物相手に臆するどころかむしろ積極的に踏み込んでどんな魔物も一太刀で切り捨てることができたし、戦場だというのに最適な判断が下せたらそれは勇者だろうとあきらめざるを得なかった。戦いが終わってからはぶっ倒れて3日ほど寝込んでしまったが、
まあ、初日からこんな感じだったのだ。
そこからも闘いの日々だった。王都を守るために戦い、エルフの里を守るために戦い、敵の手に落ちた隣国にある聖剣を手に入れるために戦った。
一人ではなかった。国を守るために戦った王国の騎士団。里からの助力としてやってきたエルフの精鋭、故郷を取り返すために加入した獣人達、彼らと助け合い(何せ途中からは敵地に補給なしで乗り込んでいくのが当たり前になった。)少しずついろいろなことを学びながら5年かけて魔王を倒し、俺は元の世界の転移した直後の時間に戻った。成長した体が元に戻っていたものだから夢だったのではないかと不安になったりもした。
そこから1年と少しが経って、15歳の夏。
「おお、成功した…のか?」
「勇者様、はどちらだ?」
俺はまた異世界に召喚された。
前回と違って隣には俺と同じ学校、同じ学年の名前も知らない生徒がいた。
(どういうことだろう?)
最初の感想はそれであった。
現状を全く理解できなかったわけではない。
自分が尻に敷いているそれは記憶の中の勇者召喚の際に使われる魔法陣と何となく同じ形であることはわかる。
体感で6~7年前なので確かな記憶では無いが多分同じものだろう。
違うのは周囲の状況
(知っている人が一人もいない)
何というか見知らぬ老人ばかりであった。
何なら当時呼び出された時とは違う部屋のような気がする。
魔王を倒した当時の状況から行って宮廷で働く人を一新できるほどの余力があったとは考えにくいし、当時は老人や子供のような弱い人から死んでいったはずだ。周りを囲んでいるのが老人ばかりというのは考えられない状況である。
そして隣にいる俺と同じぐらいの年の学生
(同じ学年の、名前なんだっけな…)
3ヶ月近く同じ学校に通っていたとはいえ親しかったわけでもないので名前はわからない。
そこまで考えたところで前に立っていた老人たちの話がまとまったらしい。
「ひとまず、話を聞いていただけますかな」
老人の中で最も豪華な身なりをした人がそう言い。僕らの注意が向いたのを確認してから話し始めた。
話の内容は思っていたものとそうは変わらなかった。魔王が現れたので初代勇者の伝説に倣って勇者を召喚したのだという。
(初代は俺のことで間違いないが伝説?)
だいぶ嫌な予感がした。
「200年前に魔王を退けたとされる初代勇者はかつてこのミットライト王国の王族が神から賜ったとされる魔法の知識によって…」
200年
それが前回の魔王討伐から経過した時間らしい。
そこから先の話は頭に入らなかった。
200年という大きすぎるスケールのせいでいまいち現実感がわかなかったのだ。
おそらく勇者になる覚悟を問われたときにうなづいて言われるままについて行って、聖剣がある広場まで行ってそこにあの時と同じように刺さっていた剣を見て、
ようやく少し現実を受け入れたところで
「あ、抜けた」
そんな気の抜けた声とともに彼は剣を抜いた。
勇者は俺ではなかった。
「いや、マジかよ」
あっという間に城から追い出されて数分後
手切れ金をもらって城門を出て勇者の誕生に熱狂する先ほどの広場をぬけ、街を歩いていく。
ここはかつて共和国と呼ばれた場所だった。前回の旅では「敵の手に落ちた隣国」であり、聖剣が広場に刺さっていた国である。滅んだ後に王国の民が入植して復興させたのだろう。
魔物に荒らされていた街は完全に復興していた。区画整理もなされたのだろうか、きれいに整った街並みだった。人通りも多く子供の姿も多く見かけた。
王国は善政を敷いているようだ。そこは前回と同じで何となく安心した。
そんなことを考えながら現実逃避しようとしたが、道行く人達の話す「勇者」の話題で現実が追いついてくる。
「ちゃんと世界救ってたんだけどなぁ。」
200年たったとはいえ誰も気づいてくれなかった。どころか一瞬で追い出されたのである。俺が一般人だったらどうなっていただろうか。
「ほんと、ひどい話だ。」
世界を救った初代勇者の扱いとは思えない。
「まあ、考えようによっては俺でよかったのかな。」
異世界が初めての名前も知らない彼がつまみ出されるよりはましだっただろう。
前回の冒険で集めた素材が魔法で作った空間にあることは確認できた。少ないが金になるものもある。
そうでなくとも前回の勇者としての経験から、最悪金がなくても野宿でなんとかできてしまう。錬金術が使えるからポーションだのを売りさばいても良いかもしれない。
どうとでもなるのだ。
そうなると当然歩きながらでも頭の中は別のことを考え始める。
「200年かあ。」
そりゃあ200年も経てば魔物に占領されていた街ももとに戻る。国の重役の顔ぶれだって何なら国の形だって変わるだろう。
つまるところそれは知り合いがほとんどみんな死んだことを意味するわけで、
「挨拶とかなんにも伝えられなかったなあ。」
一応魔王を倒す前に一緒にいた仲間とは話ができた。だが、魔王の周辺を手薄にするために陽動として別れた人達がほとんどで、最後に話ができたのは3人だけだった。
王様や故郷で戦った人たちとは全く話せなかったし、最後の戦いでだれが生き残ったのかすらわからない。
あいつらは幸せに過ごせたのだろうか。
「なんで来たんだろう、俺。」
勇者として世界を平和にして、それで終わったはずだった。
役目の終わった自分がこれ以上いる必要があるのだろうか。
きっと魔王を倒せばまた元の世界に帰るだろうに。
そもそもなぜ自分はここにいるのか。
なぜ勇者は俺でないのか。
なぜ、なぜ、なぜ
ふと、かつての会話を思い出した。
「魔王は日を追うごとに強大になり、人類は日に日に追い詰められ、聖剣の力に頼る必要があった。しかし、国の誰も聖剣を抜けず、そこでようやく勇者召喚の必要性に気が付いたのだ。」
聖剣
魔王や魔物に対して強大な特攻を持った神造の武器。
「聖剣、か。」
そうだ。聖剣だ。
よく考えたら聖剣のせいなのだ。
今俺がこんなところにいるのも、勇者しか聖剣が使えないからだ。
勇者しか聖剣が使えないから、勇者じゃない自分はここにいるのだ。
勇者しか聖剣が使えないから、勇者が召喚されるのだ。
もし仮に、
「現地人が魔王を何とかできるなら、俺はこんなところにいなくていいはずなんだ。」
そうだ、その通りだ。
急に視界が開けた気がした。
「俺が武器を作る。異世界の問題を異世界で解決できるように。」
生きるだけならどうとでもなるのだ。これはこの世界で生きるうえでの目的だ。
「聖剣よりも使える武器を。」
聖剣なんてくそくらえだ。
王国と共和国
王国は元々神から聖剣と勇者を呼び出す魔法を授かり、人類の守護者としての役割を期待されて生まれた。しかし、時がたつにつれ聖剣、正確には聖剣の刺さっている土地こそが神から権力を授けられたとする根拠であるという考えを持つ共和国と、勇者を呼び出す魔法、正確にはそれを代々受け継いだ血族こそが根拠であるとする考え方をする王国に内部分裂した。
現在は共和国が魔王の襲撃で滅び王国が合併したことでほとんど分裂前の形に戻っている。