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7 原典と偽典

「オークロード、前へ」

「デーモン、穴を塞げ」

「メイジインプ、焼き尽くせ」


 魔物たちが、一斉に動き出した。


 前よりも、はるかに早く、そしてまとまって。先頭の大きい魔物が突撃し、そのすき間から中くらいの魔物がすばやく回り込み、小さなやつらが後方から魔法のような何かを投げてくる。


 さっきまでのバラバラな魔物とは全然ちがってる!


「……即使用とはいえ“光のカーテン”を破ったんだ。対錬金装の役割を果たしている……?」


 キリオンお兄さんが、腕を前に掲げて叫ぶ。


「凍土からの贈り物、我が敵に届けん、貫け、“氷棘陣”!」


 さっきよりも太くて、とがっていそうな氷のトゲが大きい魔物たちの前に飛び出した!

──でも。


「刺さってない……!? あの硬さは、なに……?」

「簡易使用でこのくらいの耐性ね……こりゃ正式使用の“聖域”でも長くは持たないかもな」


 さっきの魔物たちを簡単に貫いたトゲでも、大きい魔物は凍ったりせず、ただ邪魔そうにしているだけ。


「デーモン、跳び越えろ。メイジインプは撃ち続けろ」


 むしろ大きい魔物を坂みたいに使って、中くらいの悪魔たちがジャンプしてきた!

 それと気づいてなかったけど、炎の玉も飛んできてる!?


「極北の風よ、刃となり切り裂け、“零刃輪”!」

「空が集いて空と成す、撃ち抜け、“疾風球”!」


 お兄さんはさっきも出した氷のわっかと、新しい白いボールをたくさん出して、空から来る魔物たちを攻撃した。


「──!!」


 氷のわっかで切られた悪魔たちから、真っ黒い血が噴き出してすぐに凍っちゃった。でも最初の時みたいに、全身が凍ったり死んだりはしていないみたい!


 白いボールは、向こうからの火の玉にぶつかって小さい爆発がたくさん起こった。一応全部、


「時間は稼げたから……」

「こっち来た!!」


 全部じゃない! 何個かこっちに飛んできてる!


「! 天からの光が敵を阻む、隔てろ、“光の帷”!」


 強い光が、私たちを守るように広がっていく。

 光のカーテンは、火の玉を1、2、3、4……9回防いでくれた。

 それでもまだ奥にはたくさんの火の玉。


「“聖域”を抜けられるとは思ってないけど、相当な威力だよなあ、これ。とてもメイジインプのものじゃない。——鏡よ鏡、この世で一番愚かなのはだあれ、全てを射返せ、“八咫鏡”」


 その全部から、ものすごく大きな円盤が私たちを守ってくれた。

 たぶんだけど、遠くの方で爆発が聞こえる。


「ノエルちゃんごめんね、怖い思いさせて」

「ううん……でも、この魔物たち、とっても強い……勝てるの? です?」


 円盤がなくなると魔物たちがぐっと前に出てきてた。

 さっきまで氷のトゲに苦戦していた大きい魔物も、撃ち落されて動きが鈍かった悪魔たちも、いつの間にか私の目でハッキリわかるくらいに近くに来ていた。


「本当はもうちょっと余裕があるんだけどね、ちょっと確かめたいことが多すぎて」

「そうなの……です?」

「うん。やっぱり“天眼”を起動すると、それ以外の動きは悪くなるよね……でもそれも、もうおしまい」


 そうキリオンお兄さんが言うと、私を抱きかかえて、洞窟の中に一歩入った。


「なぜだかわかんないけど、ノエルちゃんには見てて欲しいんだ。俺の本気を」


 そうやって私に優しく言ってくれたお兄さんの雰囲気が、変わった。


「——来い、“コンテナ”」


 キリオンお兄さんが手を止めたそのすきに、魔物たちがぐっと前に出る。さっきよりも、もっと速く、もっと鋭く!

 

「お兄さん! 前! 前!!」

「時の歩みは止まらず、ただ流れ行くのみ、されど我は理に逆らい、支配し、創り出す者、今その最果ての一つ、時間を我が手に。世界よ止まれ、“永劫と刹那の懐中時計”」


 お兄さんが言い終わると、お兄さんの服の中から太陽みたいに強い光が漏れ出して、


 最初に私と会った時みたいに、全部が止まった。

 違うのは、ここからだった。


「即席錬金釜、起動。材料合計……326個」


 いきなりれんきんがまみたいなお鍋が現れて、フライパン君の時とは全然違う数の物が、ドドドドド、って感じで飛び込んでいく。


「“操作”、“分散”、“強化”、“集約”、“テレパシー”——“抽出”よし」


 おかまの中から真っ白な光が出てきた。フライパンくんの時と同じ。でもすごく強くて暖かい。


「“成形”よし」


 次にその光が夕焼けみたいな赤色、黄色、緑色……と変わっていって


「“注入”……よし」


 最後に絵の具みたいな紫色に変わり、れんきんがまが砕け落ちていって……金色の光と一緒に何かが出てきた!


「これは……本?」


 何となくあの悪い男の人の本に似ているけど……こっちの方が全然暖かい。


「“操魔の書”って言う、ちょっと特別な本だよ。どう特別かは、見せた方が早いかな。“戻れ”」


 お兄さんがそう言うと、魔物たちが一斉に私たちの方に……


「動かない……? え、あれ? 村のみんなは動いてるよね??」


 私がおどおどしていると、次の瞬間。

 

「ば、ばかな……なぜだ!」


 あの不気味な男が慌てたように叫んだ。


「なぜ私の魔物たちが、“操魔の書”が命令を聞かないんだ!!」

「それが、“原典”と“偽典”の違いさ」


 キリオンお兄さんが慌ててる男に向かって歩いていく。魔物たちは王様を通すように、その人までの道を一直線に開けていた。


「——確かにこの“操魔の書”は第一偽典……これに干渉できるのは原典のみ! だが原典は、あの国の皇が持っているはずだ! なぜそんなものがここにある!!」


「そうだな、()()()原典にしたんだ。いやー“天眼”を使っても解析に時間がかかるなって思ってたら第一偽典って……チンピラが持てる代物じゃないよな」

「質問に答えろ!!」


 男は声を枯らしそうになるくらい、強く叫ぶ。


「なぜって、1つ作ったんだから2つ目も作れるだろ」


 キリオンお兄さんは、首を傾げながら答えた。当たり前じゃん、っていう感じで。


「——はは、何だそれは——“奇跡の工房”は、本当にあったというのか」

「あー、なんかそういう呼ばれ方もしてたみたいだな。あの町」


 きせきのこうぼう……って何?

 何となくすごそうなのはわかるけど。


「そうそう、原典と偽典の違いはいくつもあるんだけど、大きいのは口で細かく命令しなくてもいいところだ。頭の中に描いたものを、そのまま魔物たちに共有できるから」

「……おいまて、やめろ、」


 キリオンお兄さんが、静かに本を前に差し出した。


「“やれ”」


 たったひとこと。

 魔物たちが、轟音を立てて男の方へ向かいはじめた。


「ま、待て……命令だ! 止まれ! 私の命令に従え!!」


 男が必死に叫んでも、魔物たちはもう耳を貸さなかった。


「や、やめろ──ッ!!」


 その叫びは、魔物たちのうなり声にかき消された。

 わたしは、ただ──その背中を見ていた。


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