アッパーカットのお姉さんと状況確認。
いろいろ状況確認です。
一部文章に変な所があるかもしれません……すみません。
「お……?」
目を覚ますと、最初に目を覚ました時と同じ甘茶色の天井が広がっていた。
地味に顎が痛い。
さっき何が起こったのかはしっかり覚えている。あのアッパーカットはいい一撃だった。
フラフラしながら寝ていたベッドから立ち上がり、部屋の中を歩き回る。
「………は?」
壁にかかっている鏡に映っていたのは、俺ではなかった。
少し長い、癖のついた薄い栗色の髪。見開いた鈍い金色の目。スッとした鼻。薄い唇。整いすぎている。
いわゆるイケメンというやつだ。
顔面偏差値平均以下の俺の顔では絶対にない。
「はあああああああああああああああああああ⁉︎⁉︎」
異世界転移ではなかったのか⁉︎
こんなイケメンは知らない。
頭が混乱しすぎて痛くなってきた。
「起きたか〜?ケ……」
「ぎゃあっ⁉︎」
突然、背の高い女の人がばーんと扉を開けて入ってきた。
「おわあっ!お前、なんで鏡の前でひっくり返ってるんだよ!」
「いや、びっくりしてしまって……。あ、あなたアッパーカットの?」
殴られた瞬間、目の端に紫色が入ったのだ。その紫色は、まさしくこの女の人の髪の色だった。
「あっぱーかっと?よくわからんがさっきは殴ってごめんな。アタシ昔の癖で、殴ってくれと言われると反射でつい本気で殴っちまうんだ。今日デートなんだろ?ほら、早く行ってこい!」
「は?デート?」
しばらくの沈黙。
「いや、お前昨日ずっと自慢してたじゃん。彼女とデート彼女とデートって。お陰でうちに来てた客の一部がすごい速さで素振りとかを始めて、部屋の中が汗臭いったらありゃしなかったよ。」
「いや、俺、彼女いないんだが……。というか俺、誰?」
「はぁ?あんたまだ目が覚めてないんじゃないのか?頭とか体とか大丈夫か?」
「いや、正直混乱しすぎて頭が痛いし、体の節々も痛い。というか本当に、ここはどこだ?俺は誰だ?」
まさか真面目にこんなセリフを言うことになろうとは想像もしていなかった。けれど本気で気になって仕方ない。ここはどこで、俺は何者なのか。他にも気になる点がいろいろあるが、少なくともそれだけは聞けないと頭痛が治りそうにない。
「ここは『八都』の一つ、塔の街ティワン。お前はケイ・グラカイト。『幻影』の冒険者だ……って、前にうちで大声で叫んでたっけ。」
「なんだその恥ずかしいエピソードは……」
やはり別人だった。予想通りというか何というかで、気の抜けたツッコミしか入れられない。
「思い出したか、ケイ?んで、ついでに言うとここはお前が昔から世話になってるアタシの飯屋兼宿屋、『梟の懐中時計』だよ。」
「だめだ……。知らない……。」
もしかしたらゲームの中に入り込んだとかそういうのではないかと思ったが、どの名前にも心当たりがない。
「はあ〜〜。困ったなぁ。……あ、もしかしてアレのせいか?」
「アレって何だ?」
「いや、昨日の夜中にさ、お前の泊まってた部屋からごぉん!って言うすごい音がしたんだよ。それで、ベッドから落ちたんじゃないかと思って見たら、案の定頭から落ちてて。で、もしかして頭打ったから記憶がなくなったんじゃないかな〜と。昔、うちの常連客にそういうことがあったから。その常連客は、一年くらいしたら記憶が戻ったけどな。」
「なるほど……。」
多分それはハズレだ。俺にはしっかり記憶がある(ケイとやらの記憶は無いが)。まあでも、ぶっちゃけ俺もどんなことが起きたのか分かってないから、その設定は使えるかもしれない。
「そうだな……それかもな。うん!そんな気がしてきた!」
「そっか……。けどお前、どうするんだ?冒険者の仕事とか。『二つ名持ち』だからいろいろ大変だろ?」
「あー……。冒険者は、記憶が戻るまで休もうかなって。」
剣なんて振ったこともないのに、冒険者なんて絶対に無理だ。
「そうか、それがいいかもな。で、お前。本当に、これからどうするんだ?」