醜い家鴨の子
僕は経理の仕事に憧れていた。思いっきり裏方の職業に憧れるなんて変だ、と思うかもしれない。でも、僕は大量の資料を扱う経理の人を尊敬していた。経理の仕事を目指して、僕は大学に入った。
就労支援の先生からは営業マンに向いていると言われたが、僕はどうしてもそういった仕事に魅力を見出せなかった。結果として、僕は東京のある企業に採用され、そこの経理部の一員となることができた。
だが、せっかく入ることができた場所で、僕はミスばかり起こした。それも同じようなミスを連発した。上司は殴るでも叱るでもなく、『改善していけよ』と優しく言ってくれるのだが、その優しさすら辛かった。
今日の帰り道、趣味の週刊誌を買うために寄った書店で、ある本のタイトルが目に入った。『醜い家鴨の子』。家の鴨と書いて何と読むのだろう。興味を惹かれてページをめくると、その答えがアヒルであることがわかった。
家鴨の群れで生まれた白鳥の子が最初はいじめられるも、最後は美しい白鳥となって羽ばたいていく。立ち読みした情報ではおおよそこういった内容だった。アンデルセンの原作に多少の脚色を加えているようで、疲れた大人向けの童話という副題がおもしろい。
最後のページに、白鳥の独白があった。
「育ててくれたお母さん。僕は家鴨にはなれなかったけど、これからは白鳥として生きていきます」
白鳥は家鴨として生きたかったのではないだろうか。僕にはバッドエンドに感じられた。