そして、また一日が始まる
受付に戻ってきた二人。それからしばらく対応業務をしていたが、流石に早朝となると、暇になってくる。
「ねぇ、リン。」
「なによ、ミト。」
何か考えていたミトが、リンに問いかける。またかといった感じで、リンがそれに答える。
「受付って、色々な人が来るわよね。」
「そうね。」
「でも、一度も命の危険は感じたことないのよ。あなたもそう?」
リンがそう言われればと考える。
「うーん、そう考えれば、確かに。面倒な人が来るのはしょっちゅうだけど、危害を加えられたってことはないわね。」
「どうしてかしら・・・?」
「報酬課なんて、金目のものがたくさんあるはずなのにね。」
「依頼人から直接奪うこともできるだろうし・・・。」
襲われる理由は沢山思い浮かぶが、襲われない理由がわからない二人。
「何か、襲うとひどい目に合うって事かしら。」
その時、ギルドの入り口から、大きな声が聞こえる。
「おはよーございます!」
「あら、コルナ。どうしたの?今日は早いじゃない。」
「リンさん、ミトさん、おはようございます!」
声の主は、コルナだった。もう交代の時間かと思って、リンが時計を見るが、交代までまだ一時間以上ある。
「朝ごはん、今日はここで食べようかと思いまして。」
「なるほどねぇ。」
「それに、ちょっと、昨日色々とありまして。」
コルナが頭を掻きながら二人に説明する。
「あぁ・・・また失敗したのね。」
「失敗というか、何というか・・・。」
言葉に詰まるコルナ。
「ま、まあいいじゃないですか。それより、二人して何を話してたんですか?」
わざとらしく話を逸らすコルナを見て、ほほ笑む二人。そして、今話してたことをコルナに伝える。
「ギルドが襲われない理由ですか。それなら、聞いたことありますよ。」
その疑問の答えを意外な人が知っているという事実に、リンとミトが驚く。
「ほら、あそこに居る守衛さん。」
コルナが入り口を指さす。そこには、チェーンメイルを身に纏い、槍を持って立つ兵士の姿があった。
「守衛?衛兵じゃなくて?」
「その辺り、私も気になって聞いてみたんです。」
「そういえば、あなたは気になったことは調べずにいられないタイプだったわね。」
リンがコルナを見てしみじみと話す。コルナは、それを聞いて笑顔を見せる。
「はい。丁度食堂で一緒になりましたので、その時に聞いちゃいました。」
「で、何て言ってたの?」
なんだかんだで、興味がある二人は、コルナに真相を尋ねる。
「自分は、ギルドに雇われてるから、守衛だって。あと、自分以外に後六人ほどいて、昔はパーティを組んでたって言ってました。」
「へぇ・・・やっぱり、元冒険者って事なのね。」
予想通り、といった感じで相槌を打つリン。
「なんでも、昔は色々と危ない場所に行ってたって聞きました。地下世界にも行ったとかどうとか。」
「地下世界って・・・あの地下世界?!」
ミトが大声で驚くが、無理もない。地下世界は、冥府と言われる場所で、普通の冒険者は入り口にすら立てない。
「ええ、そう言ってました。地下世界は美味しい依頼が多かったって。」
「美味しい依頼・・・そうよね。」
何度かそう言った依頼を見たことがある三人。
何しろ、地下世界に生えている何の変哲もない草一つで、一年は生活に困らない程の報酬が手に入る。
「そんな人が守ってたんだ・・・。そりゃあ、誰も襲わないわね。」
「でも、そんな人がなんでギルドの守衛やってるのかしら?お金ならいくらでもあるんじゃないかしら。」
リンが首をかしげる。リンが同じ立場なら、間違いなく仕事はしないだろう。
「その理由は教えてくれなかったけど、お金が欲しいというよりも、平凡な日常が欲しいって言ってましたよ。」
「日常ねぇ・・・。確かに、地下世界にまで行ける冒険者だと、流石にいろんな場所に呼ばれるから、大変よね。」
リンの言葉に、他の二人が頷く。
「それにしても、私たち二人はあの人の正体を知らなかったぐらいだから、知らずに襲う人も居るんじゃないかしら。」
「襲ったとしても、あっという間に制圧されそうですね。」
「間違いないわね。」
「でも、実際居たらしいですよ。」
「居たんだ・・・。」
コルナの答えに、二人が呆れ顔を披露する。
「結果は・・・まぁ、聞かなくてもわかるわ。」
「そこの石像が結果らしいですが。」
「え?!」
コルナが入り口付近にあるガーゴイルの石像を指さす。
「襲撃してきたの、モンスターだったの?」
ガーゴイルの石像は、角が不自然に崩れていて、顔も口を大きく開くような驚愕の表情を浮かべている。
「通りで、普通のガーゴイルの石像とは少し違うと思ってたのよ。」
「そうらしいですよ。モンスターでも会話が通じればよかったんだけど、あのガーゴイルは無理だったって。」
「なんでガーゴイルがこんな町のギルドを襲ったのかしら。」
「それは、誰にもわからないようです。その本人、今は石像ですから。」
三人が石像を見つめる。傍から見ると奇妙な光景だが、幸い冒険者は誰も見ていなかった。
「さて、そろそろ行かないと、朝ごはん無くなっちゃう。」
コルナは時計を見て、二人に話しかけた。
「そうね、私たちもちゃんと仕事しなきゃね。」
「コルナ、またね。」
「はい。また。」
コルナは、二人に軽く手を振って、食堂に向かった。
「私も、今日はご飯食べて帰ろうかな。」
リンの言葉に、ミトが同意する。
「私もそう思ってた。」
「それにしても、あの子の行動力は、私たちも見習いたいわね。」
「知りたいことにまっすぐだもんね。」
「でも、誰かがブレーキ握っててあげなきゃ、いつか痛い目見るわね。」
「ブレーキ役なら、このギルドにたくさんいるでしょ。アクセルと燃料も同時にあるけど。」
「・・・いつか大暴走するわね。」
そう言って、リンとミトはくすくすと笑った。
朝食を食べ終わり、自分の机の前にやってきたコルナ。いつものように先輩に仕事の引継ぎを受けていた。
「じゃあ、今日もよろしく頼むぞ。」
「はい!ジュール先輩!」
コルナの元気のいい声がギルドに伝わる。こうして、ギルドの一日は今日も始まる。