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ある冒険者ギルドの一日  作者: めび
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裏の顔(ファーティの業務)

「よぅ!姉ちゃん!ギルド長は居るか?」

深夜だというのに、白髪の男が大声で受付の女性に話しかける。

「アポイントはありますか?」

「アポイント?あぁ、アポイントね。あるある。これを見せりゃわかるからさ。」

そういって、一枚のメダルを受付に見せた。しかし、受付の女性はそれを見て首をかしげる。

「えっと、それは一体何でしょう?」

受付の女性の質問を聞いて、頭を抱える男。

「いやいやいや、だから、ギルド長にこれを持ってってよ。」

困惑する受付の女性に、メダルを無理やり渡して催促する。

「はぁ・・・少々お待ちください。」

そういって、受付の女性はメダルを持って、奥の部屋に入って行った。

「全く、こういう事はちゃんと伝えておいて欲しいものだよな。」

隣に居たもう一人の女性に話しかける。

「は、はぁ。そうですね。」

女性は困り顔で答える。それを見て、男はにやりと笑う。

男は、しばらくの間受付の女性と世間話をして時間をつぶす。数分後、奥の部屋からさっきの女性が戻って来た。

「お、お待たせしました。こちらへ。」

「だから言ったろ。へへっ、それじゃな。」

そういって、男は受付の女性からメダルを受け取り、後ろ手に手を振り奥の部屋へと入っていった。


「邪魔するよ。」

男は、そう言いながら部屋の中を覗き込む。部屋の中はきれいに整理されており、中央に応接用の机とソファーがある。

さらにその奥には大きな机と椅子があり、そこには金髪の女性が座っていた。

「おや?ギルド長の爺さんは、どうしたんだ?」

「すみませんが、ギルド長は本日の朝からの勤務となります。私はギルド長代理のファーティです。」

そう言って、ファーティは頭を下げた。

「お、おう。一応、メダルの意味が分かったってことは、こっちの事は知ってるって事で話を進めていいんだよな?」

「はい。先ほどは失礼しました。00923号さん。」

数字で名前を呼ばれた男が、ばつの悪い顔をしてファーティを見る。

「あー、ナンバーかぁ。言いづらいだろ。アランって呼んでくれ。」

「わかりました。アランさん。」

「そうだ、それでいい。」

男は、アランと呼ばれて、笑顔を見せる。それを気にせずにファーティは封筒を机の引き出しから取り出す。

「それでは、アランさん。早速ですが、今回はこちらになります。」

アランは手渡された封筒の中身を確認する。その中には、依頼書が四枚入っていた。

「今回は四件・・・。ちょっと多くないか?」

「そうですね。あなた方に依頼する件数としては、多いかもしれませんね。しかし、あなた方なら問題ないでしょう。」

ファーティが冷静に答える。そして、今度はアランに問いかける。

「前回の依頼は、どうなりましたか?」

「ん?ああ、粗方片付いたよ。レポートでもいるんだっけか?」

「いえ、ターゲットの消失は把握してますから。」

「よかったよ、作文は苦手なんだ。」

そう言って、アランは笑うが、ファーティはその表情を崩さない。

「あなたの作文は、読みにくそうですね。」

「そういうなよ、こう見えてもガキの頃は文学少年だったんだぜ。」

両手を広げて、自慢するアラン。しかし、ファーティは冷めた目で見つめる。

「ギルド長の爺さんなら、もうちょっと話に乗ってくれるんだがな。これがファーティの持ち味か。」

苦笑しながらファーティに話しかけるアラン。

「もうちょっと、愛想をよくしたほうがいいぜ。可愛い顔してるんだからな。」

さりげなくアランはファーティを口説こうとするが、ファーティは気にする様子がない。

「そうですか。それにしても、最近のアサシンはよくしゃべるんですね。」

「まさか、喋るのは俺ぐらいなもんだ。他の奴らは寡黙に仕事してるさ。」

笑いながらファーティに答えるアラン。

「それでは、これを報酬課へ持って行ってください。お疲れさまでした。」

そっけない表情でファーティがアランにギルドの印が押された書類を手渡す。

「お、あんがとよ。それじゃな。」

アランがそれを受け取り、手を挙げてファーティに挨拶をする。

大した反応が返ってこないところを見たアランは、足早に部屋を後にする。

「ふぅ・・・。」

アランが部屋を出たのを確認して、小さくため息を吐くファーティ。

その直後、扉をノックする音と、女性の声が聞こえてきた。

「開いてるわ。どうぞ。」

ファーティがそう答えると、扉が開き、最初にアランに絡まれた受付の女性が入ってきた。

「お疲れ様です、ファーティさん。」

そう言って、受付の女性はファーティの前にお茶を置く。

「ありがと。リン。」

ファーティはリンの淹れてくれたお茶を飲み、一息ついた。

「さっきのお客、驚いたでしょ。」

ファーティの問いかけに、リンは首を何回も縦に振った。

「はい。いつもはもっと寡黙な人が来ていたので。」

「まさか、あんな軽い人が来るなんてね。向こうの人材は豊富だわ。」

ファーティはそう言いながら、控えと書かれた書類に目を通す。

「うちの管轄の冒険者が、今月は四人・・・。心苦しいけど、仕方ないわね。」

その書類には、討伐依頼と書かれていて、そのターゲットの中に、ジェルミの名前があった。

「そうそう、言い忘れてたのだけど、今日はもう一人、お客が来る予定になってるから、その時には通してあげて。」

「あ、はい。判りました。」

ファーティはリンに今後の予定を告げ、リンはそれを了承する。

「それでは、失礼します。」

一礼して、部屋を後にするリンを見送りながら、ファーティは再び書類を眺める。

「もう後戻りができない・・・か。」

ファーティは、アサシンギルドに渡された四人の命を眺め、肩を落とした。

「どうして、カルマ値をここまで貯めてしまったのか・・・本人にしか判らない。」

カルマ値が一定以上貯まり、ギルドから依頼を受けられなくなった時点で、ギルドは警告を出していた。

それでも、自らの行為を改めない場合、このようにアサシンギルドに依頼書が回る。そして、発行されたが最後、生きている限り命を狙われる。

「詳細な報告がないのは、彼らなりの気の使い方なんでしょうね。」

そう言いながら、ファーティは依頼書を片付け、次の客を迎える準備を始めた。


それから数時間後、ファーティの扉をノックする音が聞こえた。

「どうぞ、開いてるわ。」

リンに案内された次のお客が、ファーティの部屋に入ってくる。暗めのフードを被り、全身をマントで覆い隠し、体のラインは全く見えない。

「今日は、おじいさんじゃないのね。」

今度のお客は、声色からして女性のようだ。

「あいにく、ギルド長は朝からの勤務なんです。」

「そうなの。」

「挨拶が遅れました。私はギルド長の代理、ファーティです。よろしく。」

右手を差し出すファーティに答えるように、フードの女性がその手を握る。

「代理さん、今日は何かわかってる?」

「ええ、これですよね。」

そう言いながら、フードの女性に封筒を渡すファーティ。

「へぇ。今回も結構あるのね。」

封筒の中身を覗き、少し驚く女性。そして、おもむろにファーティに尋ねる。

「そうそう、最近どうなの?私達用の依頼が増えてるようだけど、何かあったの?」

女性の質問に、首をかしげる。

「まあ、治安の悪化がありますね。」

「治安ねぇ・・・。」

「そのあたりの情報は、そっちの方が詳しいんじゃないの?」

逆に尋ね返すファーティ。その質問に、女性は微笑みながら答える。

「そうでもないわよ、いくら私たちが情報通だとしても、冒険者ギルドとは規模が違うわ。」

「それもそうですね。」

そう言って、ファーティがほほ笑む。

「とにかく、依頼品の回収はお願いします。」

「ええ、任せといて。」

その答えに、ホッと胸をなでおろすファーティ。

「貴女が話しやすくてよかったわ。」

「どうかしたの?」

不意におかしなことを言うファーティを心配そうに見る女性。

「こっちの話。」

「ま、互いに深入りしないのがルールよね。私も、おじいちゃんの相手じゃなくてよかったわ。」

その言葉に、二人がほほ笑む。

「では、これをもって報酬課に行ってください。」

「ありがと。それじゃね。」

ファーティから書類を受け取った女性は、笑顔で部屋を後にする。

「さて、これで今夜の仕事は終わりね。」

出て言った女性と入れ替わりで、リンが同僚を連れて入ってきた。

「お疲れ様です、ファーティさん。」

そう言って、リンが再びファーティにカップを差し出す。今度はコーヒーのようだ。

「リン、毎回ありがとう。ところで、どうしたの?」

「はい、さっきの女性の件で、ミトが聞きたいことがあるそうで。」

「何かしら?」

リンの隣に居るミトを見つめて、ファーティは問いかける。

「さっきの人、シーフギルドの方ですよね?」

「ええ、そうだけど。それがどうかしたの?」

その答えに、ミトは怪訝そうな顔をして、ファーティに聞き返す。

「シーフギルドって、非合法の盗みをするとかで、悪い冒険者の集まりなのでは?」

「ギルド全体が悪い冒険者って訳じゃないわよ。彼女も、特に素行に問題がない人だったわ。」

「そう・・・ですか。」

いまいち納得できてない様子のミト。その表情を見たファーティは少し話をすることに決めた。

「いろんな人がいるから、この世界は回ってるのよ。それに例外はないの。」

「でも、悪い人がいるから、他の人が困るわけで・・・。」

「そうね、困る人も居るわね。でも、どうして悪い人は悪い事をしたのかしら?」

「え?!」

困った顔をするミト。それを見て、ファーティは話を続ける。

「それは、本人にしかわからないのよ。でも、大体がやむを得ない事情を持った人なのよ。」

「それでも、悪い事は、悪くないですか?」

「みんなが見て、悪い事は確かに悪いわね。でも、その線引きって一体どこにあるのかしら?」

「線引き・・・?」

そう言って、ミトは考え込む。しかし、その先の言葉が出てこなかった。

少しの沈黙の後、ファーティが答えを話す。

「これって、答えられないと思うわ。この線引きって、実は存在しないの。あるとするなら、その人自身の中にあるの。」

「でも、それじゃあ・・・。」

ファーティの思った通り、困った表情をするミト。

「そう、今のあなたのように困っちゃうのよ。だから、一定の基準を設けた。それが、各村や町、国で作られた決まり事や、条例や、法律と言ったもの。」

「あの、悪い事の基準が、あやふやだと言う事はわかりました。でも、それとシーフギルドと冒険者ギルドの繋がりが見えないのですが。」

「そうね、今までは悪い事の基準の話。ここからは、人の話。」

ファーティは自分につけている指輪を外してミトに見せる。

「シーフギルドに居る人達の所属って、どこになると思う?」

「え・・・まさか?」

「そのまさかよ。殆どが冒険者ギルドに所属してるわ。だから、私たちとも繋がりがあるって事。シーフだけじゃなく、アサシンもね。」

ファーティの言葉に、ミトの顔に戸惑いが現れる。

「ちょっと待ってください。悪い事をする冒険者には、受注制限がかかるはずでは?」

「ええ、確かにね。でもそれは、依頼を遂行している時にした行動を監視して、その制限をかけるかどうかを決めているのよ。」

「じゃあ、ここに来たあのシーフギルドの人は?」

「冒険者ギルドに来たシーフギルド向けの依頼を一括で受けに来たのよ。ギルドの仕組上、あの人達は受注制限がかかる事が多いから、受けた依頼を全て遂行するという条件を付けて、報酬を前払いしてるというわけ。」

カルマ値の穴をついた方法を説明するファーティ。それを目を丸くして聞くミト。

「え・・・それって、いいんですか?」

「いいのよ。それがお互いの為になるのですから。」

「お互いのため?」

「そう、こちらとしては、一括で請け負ってくれることで、厄介な依頼の残存率が下がります。」

「向こうのメリットは?」

「街に出向くというリスクを回避すると同時に、向こうのギルドに報酬という資金が手に入ります。」

ファーティの説明を聞くが、ミトはいまいち納得出来なかった。

「相手は信用できるかどうかわからないんですが。」

「それは、信用しているのは個人ではなく、ギルドだからです。」

「え?」

意外な言葉に、ミトは驚きの声を上げる。

「さっきも言ったように、ギルド全体はしっかりとしていて、悪い人たちばかりじゃない。だから、そのギルドに対して、請負という形で依頼を丸投げ出来るんです。」

「あの、きちんと依頼をこなしてくれるんですか?」

「依頼がキャンセルされたという話は聞かないし、伝聞だと、それぞれのギルドは、請負った依頼に対してはかなりの報酬とペナルティを与えてるそうよ。」

「ペナルティ?」

「内容までは聞いたことはないですが、まあ、思っている通りだと思うわよ。」

ファーティの説明を聞いて、ミトの表情から笑顔が消える。

「そうなんですか・・・。あと一つ、教えてもらっていいですか?」

「何かしら?」

「それぞれの依頼って、どういったものがあるんですか?」

「そうね、アサシンギルドには、カルマ値が一定以上の冒険者の討伐依頼。シーフギルドには主に護衛ね。」

「護衛?!」

ファーティが予想外の答えをしたため、ミトが驚いて聞き返す。

「一体、シーフが何から何を守るんですか?」

「シーフギルドは、主に管理されていない場所の安全を守ってるのよ。」

「管理されていない?どういうことですか?」

ミトは、ファーティの言葉に疑問をぶつける。その疑問を受けて、ファーティは机の引き出しから世界地図を取り出した。

「この世界って、広いからね。人が到達できてない場所もたくさんあるし、全部の街道を大きな国家や街が管理してる訳じゃないですからね。」

ファーティが世界地図の場所をいくつか指さす。それは、北の果てであったり、黒く塗りつぶされた場所であったり、一見普通の場所だったり。しかし、どこも現状普通の人では立ち入れない場所だ。

「それは、そうですけど。それって、勝手に管理してるってことですか?」

「簡単に言えばそう言う事ね。でも、彼らのルールを守れば、こちらのルールも守ってくれるわ。」

「ルール?」

「シーフギルドは、自分の縄張りを荒らされるのを一番嫌がるの。だから、その障害や障害になり得る事象を全力で除去するわ。」

「障害の除去・・・ですか?」

「そう、他の野良シーフや、モンスターが主な障害ね。後、一般人もだけど。それらを一掃してくれるわ。」

「一般人も・・・って、相当厄介な集まりなのではないですか?」

「そうね。でも、逆に言えば、きっちり話を通せば、安全に管理外の街道を通行出来るの。シーフギルドに対する依頼は、大体それがメインね。」

「それじゃあ・・・。」

ミトは、ファーティの説明を聞いて納得がいったようだ。

「普通の人たちに、シーフギルドと交渉するのは難しいでしょう。だから、私たち冒険者ギルドが仲介してると言う事。」

「そうなんですか。」

「でも、普通の冒険者に頼むのは危ない依頼もあるから、そう言った物はシーフギルドに頼んでるわ。」

「なんだか、知らない世界を聞いた気がします。」

「いい勉強になったかしら?世界は知らないことだらけよ。私も含めてね。」

ファーティの説明で、疑問のほとんどが解消できて、ミトの表情がずいぶん柔らかくなった。

「私たちのギルド、てっきり悪い事をしてるんじゃないかって、心配してました。」

「そんな心配はしなくても大丈夫よ。あなた達はしっかり自分の仕事をしててくれればいいのよ。難しいことは上の仕事ですから。」

「は、はい。」

「じゃあ、もうすぐ仕事も終わる時間でしょう。明け方の仕事もあるでしょうし。仕事に戻りなさい。」

ファーティに促されて、リンとミトはファーティの部屋を後にした。

二人が出て行った後、ファーティは二つのギルドに渡った依頼書を眺める。

「悪い事をしてるかも・・・かぁ。」

ミトの言葉を思い出して、クスリと笑うファーティ。

「気付かなければ、悪い事も良い事もわからないと言う事よね。」

ファーティが窓の外に目を向ける。外は夜の闇がうっすらと明るくなっている。

「私の仕事も、もう一頑張りといったところかしら。」

そう言いながら、ファーティは机に向かって仕事を再開した。

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