受領課の事件(カルダの業務)
フォークの問いかけに、カルダは笑いながら頷いて答える。そして、おもむろにフォークの近くに座って問い掛ける。
「そうだ。今日は、なんかあったらしいな。」
「新人が、ディグの姿を見て気を失っただけだよ。毎年の恒例行事だろ。」
フォークが笑いながら説明する。カルダも一緒に笑っていた。
「あぁ、あいつか。そろそろ、ギルドとしても動かないとな。」
「そうだな。流石に、あいつの体も持たないだろう。最後は安らかに旅立ってほしいからね。」
一瞬の静寂、そして寂しそうな顔をする二人。
「今度、会議にかけてみるよ。」
「ああ、そうしてくれ。」
カルダの提案に、フォークが頷いて答える。
「じゃあ、そっちは仕事終わりだろ。お疲れさん。」
「そっちも頑張れよ。」
そう言って、カルダは部屋を出ていく。
「ディグの野郎・・・最後に自分が厄介な依頼になりやがって。」
そう呟きながら、カルダは仕事部屋に入る。扉の上には、受領課と書かれていた。
「カルダさん、こんにちは。」
「ああ。こんにちは。」
女性職員がカルダに声をかける。声にはわずかに緊張が感じられる。
「今日はどんな感じだった?」
カルダがそう尋ねると、女性は一呼吸おいてから答え始めた。
「はい。深夜に完了報告が大量に提出されました。日中帯はいつもより少ない件数でした。」
女性は、カルダに書類を手渡して説明する。カルダはそれを見ながら頷く。
「あぁ、月末か。判った。ありがとう。」
「残存処理はありません。」
「そうか、頑張ったな。お疲れ様。」
書類を机に置き、女性の労をねぎらう。
「はい。お先に失礼します。」
「はい。お疲れさん。」
一礼して、女性は部屋を後にする。
「俺、未だに怖がられてるのか・・・。」
少しがっかりするカルダ。身に覚えと言うよりも、容姿に問題があるという事を自覚している。
カルダは、元戦士だけあって、筋肉の付きがいい。背も高いため、体だけ見れば、頼もしい存在だ。しかし、頭部がそれを全て逆のイメージにする。
戦士だった頃の癖が抜けないのか、睨みつけるような目つき、そして頭髪は無かった。
「はぁ・・・。」
大きくため息をつくカルダ。目が全ての問題だろうと考えたカルダは、一計を案じ、眼鏡をかけることにしたのだが。
「これじゃあなぁ・・・。」
普段使い出来るようにと、眼精疲労を軽減する魔法がかかった眼鏡を買ってきたのだが、魔法効果のため、レンズに色が入ってしまう。
眼鏡をかけて、鏡を見るカルダ。そこに居たのは、どう見ても人に言えない仕事をしている人だった。
「はぁ・・・。」
再び大きなため息をつくカルダ。せめてもの救いは、こう見えても妻帯者で、家に帰れば愛娘が待っているということぐらいだった。
「まあいい。仕事するか。」
眼鏡を机の引き出しに片付け、冒険者の依頼の成果物を確認するカルダ。
いつも通りの仕事を、いつも通り何事も無くこなす。周囲を見渡すカルダだが、いつも通り落ち着いている。
「日中は大変だったようだが、流石に今の時間は落ち着いてるな。」
そう呟いたカルダが、ふと思い出す。
「依頼書か・・・。どうするかな。」
目の前にあるファイルを手に取り、考えを巡らせる。
「とは言う物の、そんなのがすぐに思いついたら、今まで放っておかないんだがな。」
カルダの呟きが、今までの苦労を表している。
「全く、情報が少なすぎるからなぁ。このまま依頼を出しても期限切れになるのは目に見えてるしな。」
過去、何度か依頼を出しているが、誰一人としてこの依頼を受けた人はいなかった。
理由は簡単で、依頼難易度が高すぎるのだ。
「倒された依頼者の為に、敵の正体やらやられた状況やらを調べてこいと言うのは、流石に難しいからな。」
ファイルを閉じて、周囲を見渡す。カルダのいる場所からは、ギルド全体は見渡すことは出来ないが、大体の場所に目が届く。
「大きい街のギルドならともかく、この町のギルドでは中々なぁ。」
カルダの呟きの通り、この町はそれほど大きくはない。従って、ギルド持ち出しの依頼の報酬も限度があり、それが問題の依頼にも響いてくる。
「考えるのは後にするか。」
自分の机に近づいてくる職員の姿を見つけたカルダは、依頼の事を考えるのを後回しにする事に決めた。
「カルダさん、良いでしょうか?」
「どうした?ラーガ。」
ラーガと呼ばれた男性職員は、手にした書類をカルダに見せる。
「今、達成報告を受けたんですが、気になるところがありまして。」
「それは、この部分か?」
カルダが書類の一部分を指さす。それを見て、ラーガは頷いて答えた。
「今、この人はいるのか?」
「はい。今来ています。」
ラーガの言葉を聞いて、カルダがカウンターを横目で見る。
「あの女戦士か?」
ラーガが頷いて答えるが。その女戦士はずっとこちらを見ていた。恐らく、ラーガの動向を見ていたのだろう。
「わかった。俺が行こう。」
カルダが席を立ち、ラーガの持ってきた書類を手に女性の元に向かう。
カウンター越しに女戦士の前に立つカルダ。その姿を見た女戦士が怪訝そうな顔をする。
「若いのがすまないね。俺は受領課の責任者をやってる、カルダだ。」
「ふーん、責任者ねぇ。」
カルダの挨拶にそっけなく答える女戦士。カルダ程の風貌の人間が前に立つと威圧感を感じるのだが、女戦士は全く動じない。
「で、この依頼の報酬はもらえるんでしょ。」
「ええ、お支払いしますとも。ただ、少しお聞きしたいことがありましてな。」
「何かしら?」
相変わらず、怪訝そうに答える女戦士。
「まずはこれです。」
カルダが相手に向けて書類を見せる。
「失礼ですが、お名前は?」
「ジェルミ。」
「この依頼を受けたのは、エーシス。こちらで調べさせていただいたところ、男性の方のようですね。」
書類に書かれている名前と、報告に来た人の名前が違うのだ。
「それがどうしたの?」
「原則、依頼を受けた方が、こちらで報告をしていただきたいんですがね。」
カルダの言葉に、ため息交じりで答えるジェルミ。
「仕方ないじゃない。もう居ないんだから。」
「居ない?」
わざと大仰に尋ねるカルダ。
「この依頼をこなしてる間に、死んじゃったのよ。だから、私が引き継いだわけ。」
「なるほど。では、ジェルミさんはパーティーメンバーだったという事ですね。」
「そうよ。で、依頼の品はこれ。ちゃんと合ってるでしょ。」
ジェルミが袋に入った何かをカルダに見せる。カルダはそれを確認して頷く。
「確かに。ちゃんと集まってますね。」
「なら、何の問題もないでしょ。早く報酬をいただけないかしら?」
少し苛立つ様子のジェルミ。それを横目で見ながら、カルダは次の書類をジェルミに見せる。
「で、こっちが代理受け取り用の書類になるので、ここにあなたの名前を。」
カルダが書類の一部分に名前を書くよう促す。
ジェルミも慣れた手つきでサインをする。
「では、こちらの引換証を持って、報酬受け取り窓口へ。」
「ありがと。」
引換証を素っ気なく受け取り、足早に報酬受け取り窓口へ向かうジェルミ。それを後ろで見ていたラーガがカルダに声をかける。
「カルダさん、あの人は・・・。」
「ああ。色々と問題ありだな。」
カルダは自分の机に戻り、ラーガにさっきの書類を渡す。
「報酬課に、この書類を持って行ってくれ。」
「代理人受け取りの書類ですか?」
「ああ、表向きにはな。だが、これは意味合いが少し違う。まあ、持っていけば判る。」
「は、はぁ。」
ラーガは腑に落ちない様子だが、指示された仕事という事で、報酬課に向かった。
その姿を見送った後、カルダはさっきの女戦士のことを思い出す。
「あんなバレバレのパーティーキラーか・・・。」
気を取り直して、さっきの対応書類の作成に取り掛かるカルダ。
「ギルド的には、依頼をこなしている以上、何も言えないしな。」
黙々と書類を作成するカルダ。その手がふと止まる。
「そろそろか。」
顔を上げて、周囲を見渡すカルダ。丁度、報酬課からラーガが戻って来た所だった。
「カルダさん、行ってきました。」
「ああ、ご苦労さん。」
ラーガをねぎらうカルダ。しかし、ラーガは疑問の表情を浮かべたままだ。
「一つ聞きたいことがあるんですが、いいですか?」
「ん?なんだ?」
「さっきの書類の事です。あの意味は?」
「向こうで聞かなかったのか?」
少し意外そうな顔を浮かべるカルダ。そして、その理由を問いかける。
「はい。忙しそうにしてましたので。」
「まあ、あそこは常に忙しいからな。」
ラーガが頭を掻きながら答える、それを見て、思わず苦笑いするカルダ。
「あれは、要注意人物だという意味だ。」
「じゃあ、やっぱり・・・。」
「ああ、お前の見立て通り。報酬のためにパーティを壊滅、もしくは、依頼途中のパーティを襲って依頼ごと奪ったか。」
カルダが、何かの書類をラーガに見せる。その書類を見て、ラーガの表情がこわばる。
「これは、さっきの依頼ですか?」
「そうだ。だが、さっきのジェルミとか言う女戦士は、パーティー登録されていない。」
「道中で途中参加したんですかね?」
「それはわからんな。だが、そんなパーティーはあまりいい話を聞かない。」
ガルダは数枚の書類を取り出す。それには、ジェルミが今までもらった報酬が記載されている。
「彼女が、今まで得てきた報酬だが、かなりの高額になっているな。」
「それは、ギルドとしては見過ごせないのでは?」
「依頼をこなしてくれる冒険者が減ったのは確かだ。だが、ギルドではどうすることも出来ない。街の外で起こった犯罪行為は、裁けないし、その権限もないからな。」
ラーガに見せた書類を回収し、カルダが言葉を続ける。
「町の外で、どんな不法行為を働いていたとはいえ、依頼をこなして帰ってきたら、報酬を渡さなければならない。それがギルドなんだ。」
「わかりますが、少し考えさせられますね。」
「そうだな。だが、このくらいの緩さのおかげで、冒険者ギルドはその冒険者たちの信頼を得ている。おかしいとは思うがな。」
そう言ったカルダだが、不敵に微笑んでいる。
「そうだ。いい機会だから、カルマの説明をしておくか。」
「カルマ、ですか?」
ラーガは、思わずその聞き覚えのない単語を聞き返す。
「ああ、カルマだ。といっても、とある数値を便宜上カルマと呼んでいるだけだがな。」
「それは一体?」
「平たく言ってしまえば、依頼遂行上で著しい非人道的行為や、問題行為があれば、指輪に記録されていく数値の事だ。」
「そんな数値、初めて知りました。」
「ああ、この数値自体は、マスクデータとされていてな。俺のような課の責任者クラスの職員しか見ることが出来ないから、当然だろう。」
「その数値、いったい何に使われるんですか?」
謎の数値が出てきたときに、当然のように浮かぶ疑問だ。その疑問の答えをカルダは語る。
「この数値が高くなるとだな、まず受注制限がかかる。その後、ギルドから仕事が受けられなくなる。」
「そうなると、もうギルドがサポートできないのでは?」
「いや、ギルドからのサポートは受ける事が出来る。そういう奴らのほうが、情報や危険な場所を知っているからな。だが、味方となるかは別問題だが。」
「味方・・・ですか。」
「ああ、どんな奴であろうが、冒険者に違いはない。助けを求める以上は対応はするさ。今回のあの女戦士のようにな。」
「なるほど・・・。」
ラーガは、カルダの説明を聞いて少し納得する。だが、その先が気になった。
「カルダさん、ギルドから仕事が受けられなくなった後、どうなるんですか?」
「ん?その後か。それはだな・・・。」
カルダが、その先の言葉を発しようとしたその時、カルダは他の職員に呼ばれる。
「カルダさん、あちらの冒険者の方が、お話ししたいと。」
「お、ああ。今行くよ。」
カウンターを確認しながら、答えるカルダ。そこには、下を向いて椅子に座って待っている冒険者の姿があった。
「すまんな、ラーガ。続きはまた今度だ。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
一礼し、ラーガは自分の席に戻った。そして、カルダは次の仕事に移るため、カウンターに向かった。