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ある冒険者ギルドの一日  作者: めび
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朝の受注課(コルナのお仕事)

太陽が顔を出し、朝を告げる鳥の鳴き声が街に響く。

そんな中、大量の書類の束を前に呆然とする男がいた。

「後数時間で、どれだけやれるかな。」

書類には、完了報告書と表題がされていた。


ここは、様々な物語の出発点、冒険者ギルド。

冒険者は、ここで様々な依頼を受け、それをこなして報酬を得て生活している。

そんな冒険者がこの世界には無数に存在し、昼夜を問わず活動するため、冒険者ギルドは常に大忙しだ。

「全く、今日は一体何があったんだ?」

完了報告書をめくりながら男が愚痴をこぼす。

「夜間に畑を荒らすモンスターを討伐、夜間にしか現れない水源の水採取、夜間の護衛・・・。」

大体が夜に発生する仕事の完了報告だった。完了したその足で報告に来たのだろう。

男は、ふと机に置いてあるカレンダーに目を落とす。そこには、この報告書の山が出来た理由が書いてあった。

「あぁ、そうか。月末な上に、昨晩は満月だったか。」

満月の時は、夜とはいえいつもより周囲が明るく照らされるため、魔物も活発に活動する。様々な現象も大体満月の時に発生する。

そして、月末は冒険者ギルドが依頼残存率を下げるために、不人気な依頼に報酬を上乗せする時期でもある。

夜に行う仕事は、大体人気が無いため、報酬上乗せの常連である。そして、そう言った依頼を受ける人達が増えるのも恒例だった。

その二つが重なった結果が、目の前の完了報告書の束という事になる。

「報告は日中でもいいだろうに。夜のお勤めご苦労な事だな。」

男はそう言って、完了報告書にサインを入れ始めた。サインは、ジュールと書かれていた。

数時間机に向かい、殆どの報告書にサインを入れたジュール。次はその山になった報告書の分類が待っている。

そんな時、ギルド内に鐘の音が響いた。

「もう、そんな時間か。」

ジュールは周囲を見渡す。いつの間にか職員が増えており、その状況が、自分の仕事の終了時間が近い事を教えてくれた。

「おはようございます!」

いつの間にか、ジュールのそばに女性が立っていた。

その女性がジュールの目の前で頭を下げる。その女性に見覚えもあるため、ジュールは驚くこともなく、女性に挨拶を返した。

「おはよう、コルナ。」

顔を上げたコルナと呼ばれた女性が、ジュールの机にある完了報告書の山を見つける。

「先輩、これ、どうしたんですか?」

「昨晩、忙しくてね。まあ、残ってた依頼が片付いた結果だよ。」

苦笑いするジュールと、あっけにとられるコルナ。

「そうだったんですか。お疲れ様です。」

「で、早速なんだが、この仕事の続きをお願いしたい。」

ジュールがコルナに仕事の引継ぎを始める。

「はい。」

「サインはし終わってるから、分類別に分けて、保管庫に保存してほしい。」

ジュールが保管庫を指さして指示をする。そこには、大きなハンドルが付いている鉄製のドアがあり、如何にもな雰囲気を醸し出していた。

「判りました!」

元気よく答えるコルナ。そんなコルナを見て、ジュールは一つ問い掛ける。

「ところで、ここにきて三ヵ月、仕事には慣れたかい?」

ジュールがコルナに仕事の調子を尋ねる。その質問を待っていたと言った表情でジュールを見る。

「まだちょっと不安ですけど、頑張ります!」

「頼もしい答えだ。でも、あまり飛ばし過ぎるとばててしまうから、ほどほどに。」

「はい!」

再び元気よく答えたコルナ。それを見て、ジュールは笑顔を見せた。

その直後、再びギルド内に鐘が鳴り響いた。

「それじゃあ、僕はこれで失礼するよ。」

「お疲れ様でした。」

そう言って、コルナが一礼する。それを見ながら、ジュールはギルドの事務所を後にした。


ジュールの後ろ姿を見送ったコルナは、机の上にある書類の束を見て大きく息を吸い込んだ。

「よし、やるぞ!」

そう言って、コルナは気合を入れる。そして、椅子に座り、書類を分類し始めた。

「色々な依頼が片付いたんですね・・・。」

コルナが書類を見ながら呟く。

「あぁ、この人凄いなぁ。一晩でいくつも依頼こなしてる。」

書類を分類していると、何度も出て来る名前があった。その名前は、コルナもこの三ヵ月でよく見る名前だった。

「この人、確か月末に多く依頼こなしてる人ですね。こういう方をスイーパーさんと言うんでしたっけ。」

スイーパーは、ギルドに長い間残ってしまった依頼を専門に片付ける冒険者の事である。

名が知れたスイーパーは、ギルドから直接依頼を受けることもある。もちろん、その時は破格の報酬が約束される。

ただ、誰も受けない超が付くほどの不人気な依頼だ。その難易度は察するに余りある。

「えっと、これは・・・うん。私が冒険者なら絶対に受けたくないですね。」

そこには、ガイアワーム討伐とその排泄物の収集と書かれていた。

「討伐はともかく、排泄物の収集はちょっと・・・。私にはどちらも出来ないけど。」

コルナは苦笑いをしながら、完了報告書を分類していく。

「これでも、ギルド全体の依頼からすれば、ほんの一部なんですよね。」

山積みの完了報告書を見ながら、コルナが呟く。そんな呟きを聞いていたのか、隣の席に座った女性が声をかけてきた。

「こーら。何してるのかな?」

「ミリカ先輩?!突然どうしたんですか?」

ミリカと呼ばれた女性は、コルナの机にある大量の完了報告書を覗き込む。

「何か、楽しそうに報告書を見てたからね。何か面白い報告でもあったの?」

「いえ、スイーパーさんはすごいなって。」

コルナは、報告書の名前部分を指さす。

「どうして?」

「残った依頼を優先的に片付けるって、言ってみれば、人の嫌がる事を率先してこなすって事ですよね。」

「そうなるわね。」

コルナの言葉に、頷くミリカだが、表情は固い。

「そんなの、普通には出来ませんよ。」

「そうかしら?」

不意に否定されたコルナは、目をぱちくりとさせてミリカを見る。

「え?」

「その為の報酬上乗せだし、その人たちも、報酬が上乗せされるのを待ってるでしょうし。」

「あれ?それじゃあ・・・。」

妙に納得がいくミリカの説明に、困惑するコルナ。

「本当に偉い人ってのは、こうなる前にこの依頼を片付けてくれる人の事だと思うわよ。」

「そうですか?この人、色々と依頼を片付けてくれてますけど。」

コルナがミリカにその報告書を見せる。

「あぁ、この人ね・・・。」

その報告書の名前を見て、ミリカが予想通りと言った顔をする。

「やっぱり有名なんですか?」

「ええ。このギルドでは一流のスイーパーね。ギルドからもよくお願いしてるわよ。」

そう言って、ミリカがコルナに笑顔を見せた。

「そうなんですね。」

「この人は、他の依頼もこなして、なおかつスイーパー活動もしてくれてるから、ギルド的には無くてはならない存在ね。」

ギルドの職員に名前が覚えられるというのは、冒険者として力をつけてきた証である。

「これだけ依頼をこなしてると、沢山稼げてるんでしょうね。」

「それは、本人以外には判らないわね。」

笑いながらミリカが答えた。

「さて、お仕事に戻りますか。コルナも頑張って。」

手を振ってその場を離れるミリカ。そして、コルナも机にある報告書の整理を再開した。


一時間程で、書類の分類が終わり、それを持って保管庫へ向かうコルナ。

「結構、かかりましたね。」

保管庫の中は書類で山積みだった。しかし、まとめた書類を置くぐらいのスペースは確保されていた。

分類の通りに書類を置いていくコルナ。ふと、一つの棚に目が留まった。

「書類不備、沢山ありますね。」

他の分類の書類よりも高い山を作り上げているのが、不備の棚だった。

不備があるとはいえ、一応ギルドで作成された書類、他の書類よりははるかに短いが、保存される。

「書き間違い、私も注意しないと。」

この棚にある書類のほとんどが書き間違いである。コルナは失敗書類を見ながら、自分自身に言い聞かせた。

「さて、早く仕事に戻らないと。」

残った書類を手早く置き、コルナは保管庫を後にする。

「仕事、溜まってるかなぁ。」

そう言いながら、机に戻るコルナ。その予想通り、コルナの机の上には仕事の書類が積まれていた。

「えっと、まずは・・・。」

椅子に座り、仕事の手順を書いたノートを開く。そこには、こう書かれていた。

『ギルドの依頼は、受注、分類、審査、掲示、発注、結果受領、報酬支払い、事後処理の流れで処理される。』

指でその文をなぞり、頭で整理するコルナ。

「で、今のこの書類は、受注が終わってるから、分類かぁ。」

朝からずっと分類作業だったコルナは、少しげんなりしていた。

「ま、まあ、これが終わったらご飯だし。頑張ろう!」

そう自分に言い聞かせ、げんなりした気分を振り払う。

そして、分類作業を始めるコルナ。受注したばかりなので、この場での分類は大まかに行われる。

「えっと、これが収集、これが討伐、これは・・・その他と。」

と言った感じで、てきぱきと片付けていく。しかし、作業をすれども次から次へと書類がコルナの机に並んで行く。

「ひゃぁ・・・。」

コルナはため息とともに小さく呟いた。

その後も、懸命に書類を片付けていくコルナ。暫くして体の異変に気付く。

「お腹、すきましたね。」

机に置いたコップを覗き込む。茶色の液体が入っていたはずだが、全てコルナのお腹の中に納まっていた。

「そろそろ、お昼ですか。」

そう言って、時計を見つめるコルナ。腹時計は正確なようで、正午を知らせる鐘の音が響いた。

待ってましたと言わんばかりに席を立つコルナ。その足で食堂に向かった。


「ここの食堂、美味しいんですよね~。」

食堂には、ずらりとジャンル別に料理が並んでいる。コルナはトレイを持ち、並んでいるその料理をトレイに並べる。

「今日は、これも行っちゃおっと。」

デザートの棚から、クリームの乗ったプリンを手に取る。コルナの好物である。

最後に、コルナは白線の上に料理の乗ったトレイを置く。そして、隣にある透明のケースに指輪の付けている右手をかざした。

ピッと音がしたのを確認して、コルナはトレイを取り、軽い足取りでテーブルに着いた。

コルナが選んだ今日のお昼は、日替わりランチだ。ハンバーグをメインにサラダとパンのセットだ。

「このサラダ、珍しい色してますね。」

たっぷりの野菜の上に、黄色で黒い点々の混ざったドレッシングがかかっている。大体のドレッシングは透明か、白色だったので、この色は珍しかった。

「どんな味でしょう?いただきます。」

手を合わせた後、気になるサラダを口に運ぶ。その瞬間、コルナの口の中に香辛料の香りが広がる。

「これ・・・カレー?」

メニューのお品書きを見つけ、眺めるコルナ。

「プレーンハンバーグ、カレーサラダ、パン・・・。」

その組み合わせを見て、コルナは一つの答えを出す。

「これ、挟んで食べるのかな?」

パンを二つに割り、ハンバーグを乗せ、サラダを上に乗せる。そしてパンで挟んで簡易ハンバーガーを作り上げた。

「美味しそうだけど、やっぱり邪道よねぇ。」

そう呟きながら、ハンバーガーを口にするコルナ。気付いた時にはそのハンバーガーは無くなっていた。

「時間を飛ばすぐらいの美味しさね。ギルド食堂はやっぱりすごいわ。」

デザートのプリンを口に運びながら、コルナは呟く。

「これで、職員割で銅貨3枚なんだから、ここに頼っちゃうわよね。」

コルナは、基本的にここで朝と昼は食事をとる。夜は大体友人のやっている酒場に向かい、たまに自宅で食事を作る。

「これだけの料理の腕があれば、私も食堂が出来たのになぁ。」

食べ終わったプリンの皿を見ながら、コルナは呟く。

「さて、午後のお仕事も頑張りますか。」

食べ終わったトレイを返却口に戻すコルナ。そして、食堂を出て自分の机に戻る。

「あ、そうだ。」

自分の机の上にあるコップを手に取り、再び食堂に戻る。

そして、コップにコーヒーを入れる。夜間の仕事があるため、職員はコーヒーを無料で飲めるそうだ。

コーヒーの入ったコップを手に、自分の机に戻るコルナ。机には、また書類が積み重なっていた。

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