09
森を抜けて、朝見たときと同じあの立派な城門が見えてくる。現在の時刻は7時10分程。
んー、けっこうな時間が経ってたんですねー。意外とあっという間に感じました。賑やかにお仕事をしている様子は見てるぶんには楽しいものです。やるのは大変そうですが…。
門に向かってのんびりと歩いていると、ベセミールさんがトントンと肩を叩いてきた。ん、歩く速度が遅かったのかな?
「ちょっとな、セラ嬢さんに伝えたいことがあるんだが…後ろを少し任せても大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
「そうか…助かる!」
既に門は見えてますし、索敵も空間把握を使えばだいたい200m位なら認知できるので問題はないはずです。といっても突然近くに大きな敵が出現されたりすると察知できないかもですが……。
サラさんによるとこの辺にわく魔物(敵mobのことを指すそう)は子供たちでも倒すことのできるスライムや虫系ぐらいで、ごく稀に犬系の魔物がはぐれで出てくる程度だそうです。
(んー、そういえばレベル上げとか全然できてないですねー…いつかしないと…)
結局なにも起こることはなく街の中に戻ることができた。どうやらサラさんはベセミールさんと一緒にすることができたらしく、
「あっ!ごめんね?家に先に帰ってこれをおばあ様に渡しておいてくれるかな?」とのこと。これとはもちろん先程採った薬草類の一部です。
そして現在、家に向かって街中を歩いています。プレイヤーのすごいところって、実はこのマップ機能といつでも時刻が分かる機能じゃないかな…ってたびたび思います。本当に便利ですし……まあ、空間把握の方が万能だと思いますが。
うん、考えないようにはしてたけど……やっぱり気にならないわけがないですよねー……はぁ。
メタく考えれば、シンプルにクエストのフラグが立ったということなんでしょうけど……そうなるとNPCもといTFOの住民たちにクエストが発生しないということになりますし…となるとこの世界からプレイヤーが消えたら問題だらけになりますよね。
ということはもしかするとクエクトっていうありきたりなゲーム観念は無いほうが良いのでしょうか。現にゲーム観念でやってて得したなんてことはこの街のプレイヤーへの対応からして今のところ見当たらないですし…。
っとと、考えがそれちゃった。んーー……原因は明らかにあの呪物ですよねー。
たしか、
"精霊の宿る自然を媒体として呪いへと変貌させた人工的な呪物。媒体とするもの、呪いとする材料によって効果が異なる"でしたっけ。
気になるワードがあるとすると……
精霊……んー、あの森そのものと深く関係がありそうなんですよね。もともと精霊が棲んでいたと云われていますし。ただ、精霊はいなくなったと一般的には言われていたはずなんですが…。
人工的……このことを記したということは、当たり前ですけど、誰かの手によって造られたということを強調した……っていうことですよねー。
となると呪いは自然に発生するものと人工的に作られたものの二種類が少なくともあるというわけですか。
ただ今回の鑑定ではおそらく効果?と備考欄が見えなかったんですよね……んー、前回の短剣を見たときは見えてたはずなんですが…。もしかして各対象物ごとに抵抗値みたいなものがあったりするのかなぁ。
――ゴツンッ――
「…いたっ………あ、ヴィンさんだ~…」
「はぁー…ヴィンさんだ~じゃないよ、まったく。何でドア前で立ち尽くしてたのかはあとで聞くことにするから、とりあえず中に入んな」
素直にしたがって中にいれてもらう。
どうやら考え事をしているうちにいつのまにか家に到着していたみたいで、しばらく立ちっぱなしでいたそう。うん、これはぼくがわるかったですねー。ごめんなさい。
中に入り店奥の住居部分へとお邪魔する。意外と広いのかなぁ、思った以上の数の部屋があるようです。あ、やたらと草っぽい匂いのする部屋に入っていく。
「さて、ここはあたしの部屋さね。とりあえずあれを寄越しな。サラ嬢からあずかってるやつだよ」
「あ、はい。これですよね」
サラさんから頼まれた薬草類の入った袋を渡す。なんだかお使いクエストをやってる気分ですねー。ちょっとわくわく。
「……ほう…なるほどねぇ。……あんたはベセミールのことをどう感じた?」
「…?…ベセミールさんですか?とても面倒見がいい優しい人だと思います。」
「あい、わかった。……なら今後も仲良くやれそうだね?」
「そうできればいいなと思っています」
んー、今の質問はなんの意味があったのかなぁ。何かを探ってきたっていうのは分かるんですけど……
「ふぅ。まったく、あんたもサラ嬢も…厄介なやつだねぇ。
――とりあえず、これからあんたにしてもらうことを今から言うよ。」
「わかりました」
「一つは商品を作ってもらうことさね。と言ってもいきなり素人が作ったものを出せるわけがないからね。しばらくはあたしかサラ嬢さんが指導するよ。
なにか質問はあるかい?」
ん、指導してもらえるということは何をどうして作るのかということを今聞く必要はないですよね。
「だいじょうぶです」
「そうかい、じゃあ続けるよ。二つ目は店番さね。この店は午後の13時~16時まで開けるのさ。だからあんたにはこの三時間、接客と会計をしてもらうよ。
店はさっき通ったから分かるだろうけど広くないからね、そこまで目が回るほどの忙しさにはならないさね。」
ぼくに接客?……うまくできる気がしないんですが…子供たちから避けられたほどに愛想が無いですし……。
あれ?そういえば…今のところ僕と直接関わっている大人たちは全員、この事に指摘をしてないですよね?普通は不気味に感じて自然とさけられるはずなんですけども。
「はぁ……あんたは一人で考え込む癖でもあるのかい?…また呆けているように感じられるんだけどねぇ」
「あっ、はい。しゃべらずにできることと言えば考えることぐらいだったので。ごめんなさい。
ん、でも話はしっかり聞いているので大丈夫です。」
「はいはい。まぁ、接客は顔見せのようなものさね。ここに来る人はたいてい決まってんのさ。だから最低限の計算能力と会話さえできれば問題ないね。
さて最後は、あんたの自由にやることさね。」
「………はい…?……自由にとはどういうことでしょうか?」
「言葉の通りさね。あたしらからは特にあれしろこれしろなんては言わないよ。自分に何ができるのか何をしていいのか考えて行動しな。もしあたしらが何か手伝ってほしいときはお願いするし、その逆もしかりさね。」
「ですけど……」
「なんだい?もし間違えたとしたとしてもしっかりと叱ってやるさ。わからないことがあったら誰かに聴きな。どうしたらよいかわかんないことを、ずっと一人でぐるぐると考え続けるのは愚策さね。」
うっ……もしかして考える癖についてを含めていってるのでしょうか……んー、でもそれで迷惑をかけしまうのも申し訳ないんですよね。けど迷惑はぼくがこの家に住まわさせていただいている時点でかけてしまっていますし…。
「 わ か っ た か ね ? 」
「は、はい。お世話になります。」
「わかったならいいんだよ。じゃあ早速商品作りを始めるよ。」
「はい。何をすればよろしいのでしょうか?」
「そうさね。とりあえずあたしがいつもどうやってものを作っているかを見てもらおうかね。」
そう言うとヴィンさんは軽く左手を上げた。そして軽く指を動かした。
んー、特に何かが起こったような感じはないんですけど、試しに空間把握を使ってみますか。
すると、いきなり黒いモヤのかかった複数体の何かが動き始めた。ちょっと怖いです。
「ほう…珍しいねぇ、空間把握をつかえるのかい……しかし使いこなせているわけではなさそうだね。」
「…?…なんでわかったのでしょうか?」
「空間把握は変わった魔法のようなものさね。イメージとしては自分の魔力を身体に繋げたまま空気中の魔力と同化してドーム状に展開。この範囲内の情報は直接、魔力を辿って身体に伝わり認識させるっていう相当難しいものさね」
「んー?………その説明だとMPが使用されるような気がするのですが……」
「MP…?あぁ、魔力のことかい。…もちろん使用されているさね。―――もしかして、気づいていなかったのかい?」
「はい…」
TFOでは多くのデータがマスク化しているからステータス画面を開いてもHPとかSTRの数値を見ることができないんですよね。一応HPだけならそれっぽいバーはあるんですけど。それも明確な数字で表されているわけではないですし。
確かにそういったものを数字で表すのはリアルではできないものですから、マスクデータにするのはわかるんですけどね。どうやら、ステータスの数字を見えるようにしてほしいと言う要望がけっこう多いらしいですし。
まぁ、ぼくはこのままのほうが好きなんですけど。努力した結果が、目に見えないのを辛く感じる人は多いのかもしれませんね。
「とりあえず空間把握はやめといたほうがいいさね。そっちのほうがよく見えるはずだよ」
言われた通り空間把握をきって目を開く。そこには4体の生気の無い人がいた。
最近忙しくて書く時間が……少し短くなってしまいますが頑張って書いていきます。と言うより書くことで自分の心を落ち着けることができるんですよね……まぁ、俗に言うストレス発散です(笑)
これからも引き続きこの作品をよろしくお願いします。