06 始まりの街へ
……しばらく心地好い死の余韻を味わった後、童子切りさんのところに向かう。どさくさに紛れて変な称号をもらったけど、効果は死ぬことでカルマ値をリセットするって言う微妙なものでした。というか、カルマ値なんていうものがあったんだ。ステータスを開いてもどこにも乗ってなかったから気づかなかったです…。
そんなことはさておき、銀製の小刀を童子切りさんに返した後は…うん、外に出てみようかな。予想では太陽を浴びて即死亡ってことにはならないでしょうし…そろそろ街にも行ってみたいですし…。
「あ、童子切りさん。この小刀ありがとうございます。しばらく外に出て来ますので、何かあったらフレンドからメールで知らせてください」
「……小刀は預けておく。何かあったら連絡をするといい、我が友よ」
おおー、自死用の小刀をくれるなんて太っ腹ですね!あ、でもいまだに装備がないんですよね……むぅ、これは困った。
さっき倒したプレイヤーのドロップ品は残念なことにポーション系と斥候役が落としたダガーしかないしなぁ…。あ、鑑定してみるとなかなかに強いダガーだったので許します!でもパリィ用だから武器と言っていいのかわかんないですけど…。
[装備・武器]不死騎士隊隊長のパリィダガー レア:Extra 品質:A+ 耐久:――
不死の血と数多の怨嗟を受け入れたこのダガーは主と同じ不死性を持つ。装備者が不死族の場合、真の効果を発揮する。
《パリィLvMax》
潜在開放:《不死の護り》
戦闘中に一度だけ致命傷となる攻撃をパリィする。
備考: はるか古代より活動している不死騎士隊の隊長が用いていたパリィダガー。長き時間を一つの約定に従い守ってきた不死騎士の隊長。遂には自身の名すら忘れるほど護り戦い続けてきたその歴史をこのダガーは知っている。
〈《鑑定》のレベルが上がりました〉
んっ、一気に情報量が増えました。鑑定ってなかなかにレベルが上がりにくいんですけど、その分効果がダンチですねー。
今回は備考欄が追加されたのかな。なかなかにシリアスな物語です。こんなにすごい武器を持ってたってことはあのプレイヤーさん達は前線にいる人たちだったのかも。
とりあえず、地下墓地の出口?入口?を目指して行くついでにちょっと調べものをしましょう!
と言うのもこの装備のレア度がextraってなってるんだけど、どのくらいすごいのか基準がわからない。てなわけでヘルプ!
※アイテムレア度とは
アイテムのレア度は以下の表記があります。
Normal:一般的またはそれ以下
Rare:よく探せば見つかるかも。
Epic:ごく稀に見つかることがある。稀少な物。
Legend:素材からすでに特殊な物でできている。見つけることはかなり難しい。
Gods:Goは所謂神器と呼ばれる神が作りし物。所有者が固定されるが、奪われず壊れず。破格の性能を持つが、見つけられることは殆ど無い。いくつかは各国の象徴として存在する。
Extra:殆どの装備が運営によって作られたもので、いろいろと運営による悪乗りで作られたものが存在する。所謂ネタ装備や悪ふざけアイテムと呼ばれるもの。例外として公式のイベントの品もこのExtraとなる。Godsと同じように壊れず奪われない。
ただ、稀にこの世界の力のみでExtraに到達する物も存在する。
装備品の性能的にはNo<Ra<Ep<Le<Ex=<Goとなり、EXにはかなり幅がある。
んー、結局この装備はどの程度のものなんだろう?目で見た感じは只のダガーなんだけど……空間把握でみた場合が…黒くてどろどろしてそうな靄に覆われたすごく悍ましい、いかにも呪われたって感じのダガーなんだよね…。
しかも、その悍ましい靄がダガーからぼくの全身を覆うようにして広がってます……呪われてるのかなぁ。装備の取り外しはできるし、特にバッドステータスにはならないから問題はないと…信じたい。それに装備外したら靄が消えるから大丈夫…うん。
で、幻想墓地から出て地下墓地の一層目の入口前に来たのはいいものの……日に当たって即死しないか心配でなかなか外に出られないです。いや、決してチキンなわけではないよ?
「うん、手の先っちょ……指先だけだしてみればすぐに引っ込められるから………大丈夫なはず」
恐る恐る人差し指を外に出しつつ、HPバーを確認してみる。あれ?そんなに減ってない?秒間0.5mmほどしかバーが減少してないようです。これはいけるんじゃ?!
一息に地下墓地から飛び出す。
「わぁっ」……TFOでは初めての陽の光に思わず感嘆の声が漏れちゃったぜ。しばらく、感動してその場にとどまってたらHPバーが3割以下になったことを知らせる警告が出てきた!
「おー、もしかしてピンチ?近くに日陰は……あった」
日が直接当たらないように近くの木陰に隠れる。うん、木陰でもダメージは受けるみたいですけど、なんとか《HP自動回復Lv1》の回復量が上回ってるみたい。いや、よかったぁ。
〈《HP自動回復》のレベルが上がりました〉
落ち着いて、辺りを見回してみるけど見えるのはところどころ低い木が生えているだけの広い草原?でした。んー、それじゃああのプレイヤーさん達はどこからきたのかなぁ?
今度は足跡に注意して、少しずつ空間把握の把握距離を広げていく……今ではたぶん半径200mくらいまでは見えるんですよー。まぁ、普段使いでそんなに広げても意味無いので半径50m程度にしていますけど。
足跡は見つからないけど、草を踏み潰した後が続いているのを見つけた。これをたどって……ん、ここから180mほど先に街道?のようなものが見えました。よし、とりあえずはそこを目指しましょー。
〈《HP自動回復》のレベルが上がりました〉
順調にHP自動回復も上がっていってますねー。そういえば、スキルレベルの上がりにくさとかはたぶんそのスキルレベルの上限が関係してるんじゃないかなぁって考えてるんですよ。上限が低いほど上がりにくい…みたいな?
まぁ、今のところは日のダメージの方が大きいから日陰を伝って行くしか無いんですけども。ちなみにここで《影化》が大活躍しました!
レベルが低いからか出来ることはそんなに多くないんですけど、数秒間だけ影の中に潜れるんですよ。その間は日のダメージもないですし。で、ぼくの影も自由に動かせるから、影を次の木陰まで伸ばして潜って移動する……なんてことが可能でした。
ただレベル1では操作できる影がぼくの影だけみたい。
「ん、思ったよりも地下墓地から始まりの街まで近いんですか…」
プレイヤーが攻略に来るまで一週間近くあったから、てっきりここから始まりの街までかなり距離があるかと思ってた。でも、近い場所にボスが50レベルもあるダンジョンがあると考えるとそりゃ準備に時間もかかるよね。
そう思うと、短時間でレベルをあそこまで上げて勝てそうだったあのプレイヤーさん達は相当すごかったんですね。まぁ、倒されちゃいましたけど。ダガーももらえましたし………あれ?確かextra装備って奪われない…というかドロップしないはずでしたよね?
むぅ、気になるし後で調べてみようかな。掲示板で聞けばいくつか情報はもらえるでしょう。
さて、街もいよいよ目前になったんだけど……ぼく今何も服着てないんでした……影に潜ってるお陰で誰にも見られてないのが幸いです……。
と言っても死体から剥いだ服は不衛生だから気分的に着たくないって言う理由で地下墓地に全部捨ててきましたし…。
なんとかスキルで乗り越えられないかな?例えば魔霧化でこっそり進入……もし魔力を見る道具的な物があってバレたらたぶん街に入れなくなっちゃいますよね。
影化……は物質を通過できる訳じゃないから城壁の影に潜っても中には入れないし…血を操ってもここでは意味無いしなぁ。
何とかして体を隠すものを……そうだ、この方法なら――
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俺の名はジャック…。この街の平和を護るため襲う日夜の悪人に対抗し、この街に入るにふさわしい素質をもった人間を探している。そう、俺はこの街の門番長である(門番歴33年3ヶ月)!
てなわけで今日も今日とてこの街に入る人達を確認しつつ、盗賊やなにか良からぬことをたくらんでいる者から守っていた。
そろそろ夕暮れどきになる頃、1人、ちょっと……いや、少し……うーむ……だいぶ変わった子供?のような人……人?がやって来た。
「こんにちは。そろそろ日が暮れるので街に入りたいのですが………どうすればよいのでしょうか…?」
見たところ、闇のように黒いローブに全身を覆ってフードで顔を隠したいかにも怪しいですと言う風貌をしている。さすがにこんな成りでは通すことはできないのだが……声と体型からしてたぶん子供だと思うのだ。
からだ全体を隠しているのは、他の場所では奴隷として扱われていた種族だからと言う可能性もあるため一概にここで追い返すこともできない。この街を治める領主様は奴隷制度を無くすことに尽力されていらっしゃるからな。
ここはまず、この子の身分証明をできるものがあるか聞かねばなるまい。
「ふむ…街に入りたいのはわかるが、さすがにそのような怪しい者を簡単に通すことはできないのだ。何か身分を証明できる物は持っているかな?」
「……持ってないです…気が付いたら地下墓地にいたので……」
なんと?!気が付いたら地下墓地にいたとな?……確かにあそこで赤子や子供を捨てる者は悲しいことにいるのだが……まさかそこから生還してきたとは…。
「ふむ……では、通行料を払えるかな?」
「…通行料……ですか…ごめんなさい、気が付いたときには何一つとして持ち物がなかったので…お金も持ってないんですよね……」
なんと?!まさか身ぐるみを全て剥いで、あの場所に捨てたと言うのか!これは…ぜひとも通してやりたいところだが………門番長の権限はそこまで高くないのだ……こっそり≪門番:鑑定Lv3≫してみたがまさかの0だったからな!
Name:ユウ
Age:16
カルマ:0
カルマ値とはこれまでの人生で積み重なったものを示すから、女神様より最近喚ばれた異世界からきた異邦人と言えど、その数値が0ということはあり得ないはずだ。
それなのに0とは……
「あ、入れないのならいいんです。迷惑はかけたくないですし……それにぼくも異邦人なので死んでも復活しますし…お時間をとらせてしまってごめんなさい……あ、それとこちらを地下墓地で拾ったので渡しておきますね」
まさか?!……この子も異邦人だったとはな……
しかもっ!これはあいつらのギルドカードじゃないか!……そうか、やはり死んでいたか…。これは後で報告しなければな。
しかし、まぁここまで礼儀正しい異邦人もいるのだな。このような異邦人達なら良かったのだが……いくら女神様から良く接してあげてと言われても態度の悪いものたちばかりとなると…はぁ、上の話では異邦人をいれない方がいいという話も出てしまっているしなぁ…ここで異邦人を入れると俺の沽券に関わるのだが…。
「すまないが、後、三日後にはこの街に異邦人が入れないようになるのだ。」
「えっ?……なるほど…同郷の人達が迷惑をかけたんですねー…」
「残念ながら、その通りだ。ひどいものだと街中で住民を幾人も殺されたこともある。他にも態度がでかく俺たち住民を下に見ている人が多いのだ。君のように礼儀正しい人もきっといるのだろうが……どうしてもそういった悪いものたちが多く、目立ってしまってな。ここの領主様が異邦人が外から入れなくなる結界を張ることが決まってしまったのだよ」
「なるほど……同郷の人達が申し訳ないことをしました…ごめんなさい。入れなくなるのは自業自得ですからね…それじゃあ、ぼくは戻ります。ありがとうございました」
そろそろ門を閉める時間だからか並んでいた人はこの子で最後だったみたいだ。
しかし、なぜここまで人格に差があるのだろうか?この子は関係の無い人のために謝れるし、自身の危機よりも俺らの生活の安全を願ってくれている。声音こそ平坦だが、長く人を見てきた俺からすると全て本心で言っていることがわかる。
それに異邦人は姿形こそ変われど、もとの世界と年齢は変わらないと聞く。なぜこの年で諦観しているのだろうか。まるで否定されることが当たり前と思っているかのような……
「おぉい!!少し待ってくれないか?!」
何故か俺はあの子を呼び止めていた。正に声が勝手に出たという感じだ。
だが、ここから俺はどうしたいのだろうか?この子を街にいれたい?しかし、門番長としての沽券が………
――そうか、俺は俺自身を否定したかったのだろうな。昔はこの街を護りたいという意思からこの職に就いたのに、今では沽券を護るために働いているというくだらない自分を。
門番の役目は飽くまでも悪い人を通さないことだ。異邦人だからと言ってこの子は悪い人か?否!!俺は門番としての職務を全うするまでだ!
「そろそろ門を閉める時間だ。このあと俺は家に帰らなければならないのだが……怪しいやつの調書を取らなければならなくてな。少しついてきてくれないか?」
「えっ?……でも変なおじさんにはついていったらダメって…」
「だぁれが変なおじさんじゃ、ごらあぁっ!」
「あ、冗談です」
「分かっとるわ。そんなこと言ったら調書のくだりも冗談だ。……さて、街に入るに当たって少し約束してもらいたいことがある。」
「絶対に異邦人…だと言わないことですか?」
「あぁ、悲しいことに住民たちの殆どは異邦人を恨んでいる……まではいかなくとも怒ってはいるからな。もし君が異邦人だとばれると理不尽な怒りに晒されるかもしれない。少なくともこの街で君が異邦人だとバレる場所はギルドと領主館しかないから、自分から言わなければ気づかれないはずだ」
「……何でここまでするんですか?おそらく門番としては偉いところにいる方のはず…そんな方が独断で領主様の意見に逆らうと立場が危うくなりますよね…?」
「はっ!俺は門番だぜ?門番の仕事は街に害の無い者を通し、害あるものを通さないことだ。確かに入るにはちょっとした手続きもいるが、金なんざ後で払えば問題はないしな!」
「………。ありがとうございますジャックさん」
「おうよ!やっぱし子供は素直が一番だっ、ガハハハ!」
しかし俺の名前ってこの子に言ったか?ふむ思い出せん…俺も年ということか。だが、やっと俺の夢を叶えられたような気がするな。
門を閉めた後、大切な人が待つ家へと1人の客人を連れて帰る。
女神様、俺は異邦人のことを良くは思ってないが……この異邦人との出会いは心から感謝するぜ。
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今ぼくの格好はたぶん真っ黒なフードつきのローブで体を隠していかにも怪しいなっていう風貌をしているとおもう。
現に門番長のおじさんのジャックさんからも怪しまれましたし。
でも、ジャックさんがいい人だったお陰で大きな問題もなく街に入ることができました!
さらに運のいいことに、ジャックさんて種族が人なのに身長が2メートル近くあるんだよね。だからぼくがジャックさんの影にすっぽりと収まるわけで、歩く日陰になってくれるんですよ。ちなみに街に入るまでの間でHP自動回復スキルが5になりました。どうやら影を覆っても陽の光は貫通してくるみたい。潜ると覆うの判定の何が違うのかなぁ。
あ、今はぼくを街にいれてくれるかわりに何故かジャックさんのお家に伺うことになっています。
ジャックさんの後ろをついていきながら周りを把握してるけど、建物とかが少し荒れてるのかな?これもぼくと同じプレイヤーがやったと思うといたたまれないです。ぼくは設定をリアル準拠にしてるからTFOをゲームじゃなくて一つの世界としてみることができてるけど……きっとほとんどの人がゲーム感覚なのかな。それが悪いとはぼくが決めつけることはできないですけども。実際VRゲームとして販売していますし。
そんななかでもこの街が住民さんの活気で溢れてるのはすごいですよね。
あ、大通りから外れて裏道に入った。うわぁ…裏道にぼくを連れていって「冗談でも変な想像をすんなよ?こっちの方に俺の家があるんだ。俺のばあさんが雑貨屋を営んでいてな、これでも住民からは隠れた名店なんだぜ?―――ほれ、ついたぞ」
外から見ただけじゃ決して店だとわかんないような普通の一軒家ですね。ほんとにここが雑貨屋なのかな?
「ほれ、入るぞ。遠慮は……まぁ、多少してくれれば問題ないからな」
「……失礼します」
「おぉ、やっと帰ってきたのかい。今日は………その子はいったい何さね?」
家のなかにお邪魔すると、怪しげな紫色のローブを羽織ったお婆さんがいかにも怪しい黒のローブ(影で覆ってるだけ)を着たぼくに鋭い視線を向けていた。
今年最後の更新です。来週はゆっくりしたいので更新はしないつもりです。勝手でごめんなさい(笑)
では、暇なときにでもこれを読んで楽しんでいただけると幸いです。もし良かったら評価やブクマの方をよろしくお願いします。
んじゃあ、よいお年をーーー!!