05 進化と最初の死に場所
〈人殺しによりカルマ値が下降しました〉
〈これまでの行動により《歩行術》が開放されました〉
〈これまでの行動により《不意打ち》が開放されました〉
〈《敏捷強化》のレベルが上がりました〉
〈《隠密》のレベルが上がりました〉
〈《忍び歩き》のレベルが上がりました〉
〈種族レベルが上がりました〉
〈種族レベルが15になったため、進化が可能になります〉
うわぁ、一気にいろんなアナウンスがきた。むー、せめてスキルのレベルアップのお知らせはまとめてほしいですね。
っと、そんなことはさておき遂に進化ができる!やった♪
といっても進化するには……うん、これか。種族レベルの横に"進化"の文字が主張激しくある。
〈進化先を選択してください〉
ハイゾンビ
ヴァンパイア(特殊種族)
んー?……特殊種族ってなんだろう。何かしらの条件を満たしてたのかな……ヘルプにも乗ってないし。むぅ、とりあえず進化先はヴァンパイアにしますか。
〈特殊種族のヴァンパイアが選択されました。進化中は動くことができません。進化を開始しますか?〉
んー、進化中に動けないなら一応セーフエリアでした方がいいよね。ということで朽ちた神社の中に入って開始します。
〈進化を開始します〉
β版では進化中は視界が真っ暗になって音も聞こえないらしく、無防備な状態になると聞いたけど……ここでも空間把握が働いているみたいで周りの景色どころか音も聞こえる。でも、動けないので結局は意味ないですが。あ、無防備と言っても童子切りさんが警戒してくれてるので問題はなさそうです。
おー、進化中はどんな状態かログで流れるようになってるみたいです。例えばほら、こんなかんじで。
〈鬼の因子によってオーガゾン――鬼の呪縛が存在しません、エラーが発生しました〉
〈ヴァンパイアに進化―――進化元が違うため進#&きません、エラーが%&#しました〉
あれ?なんかバクが発生してる?……もしかして大変なことが起こってるんじゃ……
〈進化元をヴァンパイアになるよう造り変え#&*+@#無病息災によって拒否されました〉
ん?なんで無病息災が働いてるの?!あれって日に一度なんじゃ……
〈プレイヤー専用進化先カテゴリーより――該当する種族が見つかりません。新しく進化先を作りますか?#%&#*+-%新規創造の権限がありません。対処方法を模索します〉
うん、確実に不味いやつですねこれ。自分を含めてその周りの景色が0と1の数字に分解していっていますし。一応運営にバグ発見の報告をしておきましょう。
〈@%&@#**%&+-@#―――対処方法が"一件"見つかりました。進化を開始します〉
〈NPC専用進化先カテゴリーより参照――不死族の派生に鬼の因子を使用――吸血の効果を拡張します〉
〈特殊種族:吸血鬼へ進化開始します。〉
〈"運営からの緊急のお知らせ!!"が届いています〉
うん?運営からの緊急のお知らせ?…なになに………
"今から三分後に緊急メンテナンスを行います。なるはやのログアウトをお願いします!その場に残る体に保護プログラムを設定するのでその場でも大丈夫です。急なメンテナンスですいません!"
……自意識過剰かもしれないけど…これってもしかしてぼくのせいだったりするのかな?
〈種族スキルを一部変更します…………〉
《綺麗な死体》から《不朽の魔力体》
《低位不死者》から《高位不死者》
〈種族スキルによって体が魔力体に進化します〉
ん、さりげなく体が作り変えられてるよね?……あ、進化だから作り替えではないのかな。作り替えるだったら無病息災で弾かれるみたいですし。
〈種族スキルが追加されます………
《魔法無効》―――取得
《血の契約》―――取得
《ブラッドオペレート》―――取得
《影化》――――取得
《魔霧化》――――取得
《視覚強化》《嗅覚強化》《聴覚強化》は《空間把握》に統合されました。《空間把握》が統合によりLv50に変化しました〉
んー、長いなぁ。早く終わってほしいです。強制ログアウトまで後一分切ってますし。
〈――――進化が完了しました〉
〈称号:吸血鬼の真祖を獲得しました〉
〈緊急メンテナンスを行います。強制ログアウトが施行されました〉
「あっ………戻ってきた。んーと、メンテナンス終了予定時間が13時だから……うん、4時間近くも眠れるね。ふあぁ……ん~…おやすみなさぁい…。」
「ん………ふにゅう……ふあぁ、もう14時ですか…ちょっと寝過ごしちゃったかなぁ。…まぁいっか」
なんとかふとんの魔力を振り払って、TFOにログインする。
「あ、童子切りさんこんにちは」
「……。」
さて、進化は終わってるみたいだから何が変わったか確認していこう。
まずは《不朽の魔力体》
体を構成するものを魔力が代替し、急所の概念が存在しなくなる。その代わり魔力を吸収、散らされると致命傷となる。
んー、よくわかんないなこれは。でも魔力ってことはもしかしたら体をいろいろと変えることもできたりするのかな。TFOはリアルなファンタジーを追い求めたゲーム(矛盾は気にしないで)だからか、HPとかMPとかの表示がわからなくて、魔法スキルを入手するにはこのMPもとい魔力を理解しないと難しいようですし。今でこそHPバーのようなものはあるけど、それすらもあまり過信できないからね。さっきみたいに致命傷を負えば即死ですし。
次に《高位不死者》
精神的な状態異常を無効化し、食事や睡眠は不要だが、光・陽に当たると継続ダメージ(中)を受ける。また、被光・聖属性4倍となり、闇系魔法強化(大)闇系魔法耐性(大)がつく。自動回復系のスキル効果上昇(大) 暗視を持つ。
とまぁ、ふつーに低位不死者の上位互換のようです。太陽からのダメージが減るのはうれしい。これでやっと街に入れるかも?
次に《魔法無効Lv1》
魔法効果が体力の2%以下分のとき無効化する。スキルレベルによって無効化する体力値が上昇。
んーと…要するに魔法が当たったときに、その効果がぼくの体力の2%程をどうにかするものだった場合無効化するってことかな。でも、これって魔法全般だから回復魔法も下手したら効かないですよね?
それに体力値の2%よりも上なら普通にくらうから、耐性スキルってわけじゃないですし……んー、これはちょっと微妙かな。
ふぅ、読むのがだんだん面倒になってきました。
《血の契約Lv1》は自分の血を与えたものの能力を強化してしもべにすることができると。一種のテイマースキルみたいな感じかな。《ブラッドオペレートLv1》は名前の通り血を操ることができるみたいで、《影化Lv1》は影を操る的な感じ?《魔霧化Lv1》は魔力体を細かな魔力の霧に変化させられるようです。
まぁ、この辺のところは実際に使ってみないとわかんないし詳細は後回しでもいいかな。
「っとと、ちょっと力の入り具合とかも変わってるのかな…あ、でもゾンビのときよりも格段に動きやすい!さすがは進化」
新しい身体に慣れるために朽ちた神社から離れて軽い運動をする。そのついでに《歩行術》と《不意討ち》のスキルをとっておく。どちらも必要なSPが4だった。
そろそろ慣れてきたかなってところで童子切りさんのところに向かう。
なんでか、あの神社の入口から動かないんだよね童子切りさん。んー、なんでだろう?とりあえず話し掛けよう!
「んーと……また会えましたね、童子切りさん♪」
「……ご助力、感謝致す。この恩は必ずや」
んー、本当に武士!って感じで格好いい。武器が刀って言うのもあるんだろうけどね?
「むぅ、恩っていうのはちょっと嫌です……友達と御恩と奉公みたいな関係はなんか違いますし……」
「……友と………ふむ、なれば我も感謝の印としてなにかせねばなるまい。」
「いや、別になにもしなくていいんですが……」
「…このダンジョンは地下墓地という名で呼ばれているのは知っておろう」
「…………はい…」
「ではこの場所はなんと言う名と思うか?」
何て言う名前?……ん、じゃあここは地下墓地じゃないのかぁ…神社がある時点で確かに地下墓地っていうのはたしかにおかしいですけど。
「んー、ちょっとわからないです」
「ああ、それもそうだろう…。この場所の名は"幻想墓地"。しばし我について来い」
そう言って神社の中に入って行く童子切りさんについていく。と言ってもどこかに曲がるわけでもないから見失うことはないのですが。
んー?…神社の中に入ると今までなかった裏口?のようなものが存在している。その中を童子切りさんが入っていき、そのあとにつんだってぼくも入って行く。
裏口を通ると童子切りさんの大きな背中が見えた。そして、その背中が横にずれて隠れていた風景が眼に写る
そう、思わず目を開いてしまった。咄嗟に空間把握をオフにして、自らの五感でその景色を味わう。
「…うわぁ―――すっごく綺麗……」
「これが幻想墓地足る由縁だ。ここは我の元主の眠る場所であり…その主が守ろうとしていた場所でもある……どうだ、感謝の印になり得たか?」
「うん…これは最高のお礼ですよ……」
小さな丘に色とりどりの花が咲き乱れてて、どこからか吹く風に乗ってそのやさしい匂いが体を包み込む。月明かりのようにここの場所を照らしているのは薄く発光している桜のような木々で、時々その花びらが舞い落ちてくる。広くない場所だけど幻想的で自然の綺麗さが感じ取れる…いや、広くないからこそここまではっきりとこの風景を感じることができるのかもしれない。
はぁ……ここまで幻想的で綺麗なところなら、ぼくの死も綺麗に写るのかなぁ。っとと、死ぬのは妹と約束したからダメなんだった…てへへ。
―――あれ?でも、ゲームなら問題ないんじゃ……TFOの死はあまりにもリアルすぎてトラウマになる人もいるって言う話ですし。(設定をリアル準拠にしている場合に限りますが)
「あの丘の頂上には小さいが主の墓がある。そこから見る景色が主は好きだったからな」
「……ねぇ童子切りさん…その場所で一回―――死んでみていいですか?」
「……?……なぜそのようなことを願うのだ?我が友よ」
「ん~…死ぬことで生きることの価値を見いだせるような気がするから…ですか?」
「……何故疑問系なのだ?
……まぁ、そんな命を無駄にするようなことをするな、と言っても意味無いのだろう?」
「ですねー……
とりあえず理由は置いておきまして、ただ単にこの綺麗な場所で死んでみたいって言う一種の好奇心です!性癖って言ってもいいかもしれませんが」
んー、もしここで死ぬならどんな死に方がいいかなぁ。
うん、ここは静かな場所だから死に方も静かな方法がいいな。それこそ眠るように逝きたいところだけど……毒薬とかは効かないですし…。
「童子切りさん、なにか吸血鬼に効くものとか持ってませんか?」
「…む……これでどうだ。魔銀製の小刀だ。吸血鬼なら魔力の多く集まるところを突けばほぼ即死する。魔銀は魔力を吸い取る効果を持つ。
…では我は先に戻っている」
「おおー、ありがとう、童子切りさん~」
これがあれば吸血鬼でも簡単に死ぬことができますね♪……ん、ゲームだからこそだよね、こんなにも死を楽しみにできるのは。よし、スクショの設定もしておいて……うん、この角度がベストかな?
ん…ここで逝ったらこの風景はどこまでぼくを綺麗にしてくれるかなぁ。どれだけぼくの存在を認めてくれるのかなぁ…。ぜひとも後でスクショを確認しないとですね!
―――それじゃあ、ね。
銀製の小刀を魔力の集まってるところ…おそらく、心臓部に突き刺す。血は出なかった…かわりに朱っぽい色の何かが散っただけ。これが魔力なのかな。まぁこの体に痛みがないのは少しありがたいかな。痛いのはやっぱり好きじゃないですし。
そんなことを思っている間にだんだんと意識が薄れ遠退いて行く。手足の感覚も先の方から消えていって、体が冷えていくのを感じる。この自分が少しずつ消えていく、無くなっていく感覚が心地好いんだよね。消えていくということが、今までぼくが存在していたことを認めてくれてるような気がして。
そして、そんな感覚も徐々にわかんなくなっていって
―――ぼくは消えた。
〈スクリーンショットを保存しています〉
〈称号:死を受け入れた者を獲得しました〉