04 妹の帰宅と参戦
一度ログアウトして休憩した後、もう一度ログインする。しかる場所でログアウトしないと体がその場に残るらしく、いろんな危険があるみたいで推奨はされてないんだけど……回りにプレイヤーも敵もいないから問題はないよね?そして現在の時刻は午前1時半なのです。ログアウトした時間が12時30分と考えるとちょっと長かったかな。え?短いって?……だってリアルですることなんてないですし……
「あ、こんばんわー」
「……。」
童子切りさんに挨拶を済ませて、大きな墓に礼をしてからおもむろにその場に正座する。
なんでこんなことをしてるかと言うと、貰った大きな片腕を使うための儀式がこれだからです。あ、大きな墓に礼をしたのは童子切りさんもそうしていたからです。
あ、ぼくの目の前に童子切りさんが正座した。何か対面で正座してると抱負を述べてお年玉をもらうときを思い出すよねー。
「………。」
「んー?今取得できるスキルをできるだけとっておけばいいの?」
現在入手可能になっているスキルはあのときの《吸血》以来、《忍び歩き》と《隠密》の二つしかふえていないんだよなぁ…。いつ増えたんだろうね?……それにしても二つかぁ。もしかしてこのゲームにおいてスキルを入手するのはけっこう難しいことだったりするのかな?
もちろんすぐに取得する。どちらも必要ポイントが4だった。
「じゃあ、食べるよ?」
「……。」
そうなんだよね……この童子切りさんが要求してきたことはこの大きな片腕を食べることである。うん、なかなかにすごいことを頼んできたよね?
要求って言うと上から目線に聞こえる。正確には
"友人の印にこれをもらってほしい。ただこれの使い道はほとんどない。それこそ食べる以外は。ゾンビという種族は生き物の肉を食べれば強くなると聞く。お主ならこれを使えるんじゃないか?"
てなかんじですね。
要するに在庫処分のようなものらしい。童子切りさんってゾンビさんじゃないのかな?
で、食べたらどうなるのか興味があるみたいで……もし貰って食べるつもりであれば是非それを見てみたいとのこと。
んー、誰かに食事中を見られるのって意外と恥ずかしいですねー。
「じゃあ、食べるね?」
「……。」
うっ………硬い……。ほんとにゾンビのお陰で味を感じないことが幸いだよ…。ただ、食感が……硬い…硬いです………ほんとのほんとに、ゾンビで良かったよ~!
食べ始めてから丁度2時間が経った。現在の進行状況は45%程を食べ終えたくらいかな?童子切りさんは飽きずにはじめから今までずーっとぼくの方を見ている。そんなに面白いものかなぁ…。
ゾンビという種族はほとんどの種族にある満腹度っていう概念がないから率先して何か食べる必要があるわけではない。ただ、食べることができないわけではないんだけどね…………どれだけお腹にはいるかな~?体感的にはまだまだ食べれそうなんだけど太りたくはないし…。まぁ、食べきるつもりでいるけど。
現在の時刻は午前6時まえです。ええ、あれからさらに2時間以上経ちましたとも。そんな長き奮闘の末、ついに残すは一口ぶんとなりました!
「やっと終わるよ……ぼくはゲームでいったい何をやってるんでしょうか………いや、まぁ、腕を食べてるんですけど」
ボケとツッコミを一人でやってしまったのは長き奮闘による精神的被害とおもってください。ええ、本当になにをやってるんだろうねぼくは…
〈称号:[鬼の因子]を獲得しました。称号:[鬼の呪縛]を獲――[無病息災]により消去されました〉
「………?」
「んー……せめて称号の確認をしてから消してほしかった…マイナス効果を持つ称号ってことはわかりますけども……」
はぁ…結局、新しい称号を獲得した以外特になにもないみたい。レベルアップしてくれると思ってたんですけどねー。ちょっとざんねん。
んで、鬼の因子ていう物騒な名前の称号だけど効果は体力・筋力が共に1.2倍になるものでした。ステータスを底上げできるものと考えればなかなかいいものかも?そもそもゾンビは体力・筋力の初期値が大きいし相性はいいよね。
かといって姿形が鬼になるというというわけでもなくて、食べる前となんら変化もない。その事に童子切りさんは不思議に思ってるんじゃないかな?それでも良い称号がもらえたんだからお礼はしないとね。
「えーっと、ありがとうございます童子切りさん。」
「………今後とも友達としてよろしく頼む」
「うん。よろしく」
念のためフレンド登録もしておく。どうやらTFOではNPCもフレ登録ができるみたい。初めての友達が人外でNPCな件については誰も突っ込まないでね?心にグサッてくるから。
そろそろ外に出てみたくはあるけど、夜じゃないと日の光ですぐに死んじゃいますし。んー、しばらくはここでレベル上げでもしようかな―――って考えてたところでアラームが鳴った。6:40にセットしたやつだ。ということは一旦ログアウトしないとだね。
「いったん落ちますね。またね」
「………会えるといいな」
「…………?…」
もしかして……しゃべったあぁっ?!……というネタはおいといて、どういう意味なんでしょうね?あ、声はけっこう渋い感じでかっこよかったです。一応死体なんだけど……あ、ぼくもか。
「ふあぁ……やっぱりこのチェアは寝心地いいねえ………んふふ…このまま寝ちゃおうかなぁ……まぁ、ダメなんですけど」
ログアウトしてすぐに微睡む意識をなんとか覚まして、朝御飯の用意をする。これでも料理は作れるんです……まぁ、結局は素人料理だからあんまり美味しくないと思うけど。
簡単な朝食を作っていると案の定6:55に妹からメールが来た。というのも帰ってくる時間が7時ちょっとすぎくらいだからだ。そして、予想通り朝食は食べてきてないようで、もう家が見えてきたそうだ。
うん、もう少し前に連絡がほしかったです。
「たっだいまー!ユウいるーっ?!」
「いるよー。もうすぐでできるから座って待ってて」
「はーい!――ふんふーん♪ふふんっ♪」
うん、お早いおかえりで。早速できた朝飯を持って席につく。
「ねぇねぇ!もうTFOはやってるんでしょ?どんなかんじ?」
「んー、結構楽しいかな。ただ人ならざる者を選んだから街にはまだ行けてないけど」
「あちゃー、人外を選んじゃったかー……人外はね?チュートリアルがないから自由度が高いけどなかなかハードなんだよねー。あっ!てことは"魂の欠片"についてもしらないんだよね?!」
?……魂の欠片てそんなスピリチュアルなものありましたっけ?話の流れ的にたぶんチュートリアルで教えられるものなんでしょうけど…。
「うんうん!やっぱりわからないよね?じゃあ仕方ないなぁ…この私がお教えしてあげよう!(キリッ」
「うん、教えて?」
「ふっふっふっ……まず"魂の欠片"は敵を倒すと出る半透明のもやもやのことで、体の中に吸い込まれるんだよ!んで、魂の欠片はどれだけでも溜め込めるけど一度死んじゃうと全部なくなるから気を付けてね?」
「うーん、じゃあどこかに預けたりとかはできないの?」
「できないっ!それができたらどれだけいいことか……トホホ」
「じゃあ、その魂の欠片を集める利点はなにかあるの?今のところたいして使い道がないように聞こえるんだけど…」
「もちろんすごいのがあるよっ!というのも各町にある教会の祭壇に魂の欠片を捧げられる場所があって、そこで現時点の魂の欠片の量を確認できて、一定量で特別なアイテムと交換できるんだ~!あ、特別なアイテムって言うのは見てからのお楽しみで☆」
まぁ、死ぬことがなければ自然とたまっていくものみたいだし、特別なアイテムって言っても街に入れるようにならないとわかんないから今のところはどうでもいいことかな。というか今のところモンスター一体も倒してないですし……。
「ふぅ~、ごちそうさま!いやー、やっぱりユウのご飯がいちばんだよ~」
「ごちそうさまでした。さて……うん、チトセが洗ってくれるよね?ぼくご飯作りましたしー?」
「えっ?…………早くTFOをやりたかった……トホホ」
よし……インしたらなにしようかなぁ。そろそろためしにそとに出てみるのもありですかね?あ、でも日に当たったらほぼ即死でした…。
「あー、そういえばユウは人外を選んだよね?なら気を付けた方がいいかも」
「んー?どういうこと?」
「人外の初期スポーンはダンジョンがほとんどでしょ?で、そのダンジョンは早くて3日、遅くても7日くらいで攻略しに来るんだよねー。たぶん人外キャラでもすぐに街に入れるようにっていう配慮からだと思うんだけど、初期スポーンのダンジョンって街から近いんだよねー。だから、もしプレイヤーにあったらすぐに逃げてね!ぜったいだよっ!」
「あ、そうか。人ならざる者ってPKしてもレッド判定には加算されないんですかー……うん、会ったら逃げることにする。でもなんでそんなに早く攻略しようとするのかな…そんなに急がなくてもダンジョンは逃げないですし……」
「うんっ、それはね…ファーストボーナス目当てだからだよ。最初にいるボスって全てユニークモンスターだから報酬が最初だけ豪華なんだよねー。」
「ユニークモンスター?」
「いわゆる特殊個体ってやつでその一体しか他に存在しないモンスターのことだね。一体しかいないからそこからドロップするアイテムもかなりの貴重品になるんだよ~。プレイヤーはそのドロップ品をファーストボーナスってよんでるの。」
なるほど……あれ?もしかして会えるといいなって攻略されることを察して言ってたってことかな?
「ねぇ、ユニーク個体って倒されたらまた復活したりはしないの?」
「今のところはそういうのは聞いたことがないかなぁ……もちろんβ版で倒した特殊個体は復活してるよー。まぁ、倒したあとも復活してくれれば嬉しいんだけどねー?ドロップがウマウマだし!」
んー、これは早くログインしないとかなー。…なんか忘れてるような気もするけども。
「じゃあ早速TFOに入ってくるー。あ、食器洗ったら洗濯もお願い」
「………はーい。」
―――ドガアァァンッ!!
はい、入ったとたんこんな轟音が聞こえてきました。なんかもう戦いが始まってるみたい。
うん、空間把握によると六人パーティーの人たちが童子切りさんと戦っているよ。
今のところは互角だけど鑑定結果を見るにちょっと不味いかも?平均レベルがだいたい40で、スキル構成的に二人が魔法特化、一人がタンク役、一人が近接特化、一人が……どっちかと言うと魔法剣士みたいなかんじ、一人が斥候?ぽい構成で、バランスがいい。魔法特化のうち一人は《光魔法Lv8》を持ってて、ぼくたちの弱点を見事に突いてくる。光魔法は確か、どの属性の回復魔術よりも回復効果が高いから、このままじゃ童子切りさんのほうがじり貧になっちゃいますよね……。
いつも思うけど、どのゲームでもプレイヤー側って大きく何回も回復できるから強いよね。実際に童子切りさんも相手に回復があるせいで有効打を与えられてないですし……それでもさすがユニークなボスで、一人で六人と互角に戦えてるのがすごい。微量だけど童子切さんも回復してるみたいですし。これはHP自動回復の効果かな?
それに空間把握がなかったら捉えられないんじゃないかって言うくらいの速度で動いていますし……その早さを的確に見切って防いでる相手のタンクさんもすごいですけども。
「どうしよう……童子切りさんは初めてのフレンドですし…ここで死んだら復活しないんですよね……」
かといってレベルが一桁なぼくじゃ一時的な盾にすらなれない、というかむしろ邪魔になりますよねー…。
むぅ………ちょっと試してみようかな?その名も、"こっそり近づいて回復役を倒しちゃおう作戦!!"
ぼくじゃまともに戦って誰かを倒すなんてできないので確実に瞬殺されます、はい。けど、ここにはぼくの背丈と変わらないくらいの墓が大量にあるからその影を伝いながら行けば……ワンチャンあるかも?それに後衛は距離をとってて後ろの方にいますし。
「うん、物は試し。それに空間把握があるから全体の動きは確認できるからなんとかなる……はず…です」
よし…息を止めて……相手プレイヤーの動きをつねに確認しつつ死角になっている墓の影に隠れて、少しずつ距離を縮めていく。もし空間把握がなかったらどうしようもなかった場面ですよね……うん、これからもこのスキルは大切にしよう。
んー……近づくにつれて一つ難点が出てきてしまった……斥候役の動きが早いから死角を見つけても動けないんです。すぐに死角が死角じゃなくなりますし…しかも斥候さん後衛をちょくちょく気にかけているから……どうしよう。
あっ、気付かれた!
………童子切りさんに。
――そうだ、童子切りさんに斥候役を引き付けてもらえれば何とかなるかも。でもどうやって伝えよう……ん!…一か八かでフレンドのメール機能使ってみる…とか。ものは試しですね。
"元気ですかー?今、ぼくは相手の回復役を倒そうとしてます。けど斥候役の動きが早いせいですぐに死角が無くなります…(;´・ω・`)…何とかできますでしょうか?お願いします"
よし、これでこっちの意図は伝わったはず。後は童子切りさんがどう返してくれるかですけど……あ、童子切りさんの動きが少し止まった……あれ?このままだと攻撃が当たるんじゃ…
止まった童子切りさんに動きの早い斥候役の攻撃と二人の魔法が飛んでいき……爆発した。
もしかしてこれってぼくのせいですか?……あわわ、どうしよう―――ピコンッ
ん?フレンドからメールがきた……
"動きの早い斥候役とやらに一撃をいれた。いまなら行ける。任せた"
はっ?!……よし、今がチャンス。みんなの視線が攻撃をもろにうけた童子切りさんに向いているから、急いで光魔法持ちに近づいて……首をありったけの力を込めて折る。
魔法持ちがどっちも女性で身長が低かったのが幸いです。それに華奢な体型だったからぼくでもできましたし……罪悪感は…うん、それほどでもないかなぁ。結局ゲームですし……それ以前に中身プレイヤーですしねー。
ちなみにTFOではHPの概念はあってないようなもの(人体の構造的に即死するような攻撃を食らった場合は死亡する)なので、どれだけレベル差があっても倒せることには倒せたりします。
「ガアァァァッ!!」
うわっ……童子切りさんが吼えた。よし……今のうちにさっさと退場しよう。うん、まだ気づかれてないみたいですし……あれ、もしかしてこっちの魔法持ちも行けるかな…………よし、ついでだからこっちももらっていこう。
ということで………こう首をゴキッと…。
うん、これでぼくは退場しまーす。そろーっと墓の影に隠れて戦いを静観です。
あ、魔法剣士みたいな人が遂に気づいた!けど、その隙を狙って童子切りさんが80cmくらいの刀でもって切り裂く。んー、結構HPバーが減ってるから瀕死かな。あ、追い討ちをかけられて魔法剣士みたいな人が死んだ。斬死ってどんな感覚なんでしょうか?気になる。
残るは瀕死の斥候役と斧持ちの近接特化、あとは見切りがすごいタンクさんの三人だけ。でもなかなか隙がないみたいで、いまいち攻めきれてないみたいです。よし、もういっちょ手助けをしよう!ということで斧持ちの近接特化めがけてそこら辺の石をぽーい……なかなか当たんな…いっ…むー……あっ、当たった…………うん!後頭部にクリーンヒットです!
お陰で体勢が崩れたみたい。もちろんその隙を童子切りさんが見逃すはずもなくスパンッと斬る!うん、格好いい!
攻め手がいなくなったお陰で一気に攻勢に出れてあっという間に斥候役が死亡。少し粘ったけど一人ではじり貧でタンク役も死亡した。んー、やっぱりプレイヤーの死体は残らないみたいです。
とりあえず、初のフレンドを助けることができてよかった。