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「―――っ……」



[エリア]山の祭壇(秘境:最奥部)

[備考]:山の祭壇の禁足地。弱きに寄り添い、強きに立ち向かってきた竜の眠る場所。空間を隔てる結界は強い生命の魔力で構成されており、辺りを薄く満たす水にはその生命の魔力が溶け込んでいる。また、一本のみ存在する中央の大木は浄化する能力をもつ。

これらの結界も、大木も、全て最期の住民が用意したもの。そこには竜への感謝と謝罪の念が込められている。



 

「……なぜかすごく緊張するような………荘厳な雰囲気?…」


 水と洞窟最奥部ということもあってか気温がかなり低い。ただ、暗くはない。逆に仄かに明るいほど。原因は……あの大木のようです。

 トレントさん関連で考えると、やはりあの大木がキーになってるかんじでしょうか。まるで湖かのように一帯を薄く満たす澄んだ水の中で、一本だけ存在する仄かに輝く大木。いくら広いとはいえ洞窟内であることは変わらないから、高さとしては一般的。それでもどこか"大きさ"を感じます。幹が人の背丈の3倍位の太さに加えて、天井を殆ど覆うほどの葉の広がり具合いが原因の一つでもありますが……。




 ピチャピチャとぼくの水を踏み抜ける音だけがうるさく辺りに響いて、やっと大木に触れられるほどの距離まで来ることができた。そう、"やっと"。短い時間だったはずなのに、やけに遠く、長く感じた。自然の大きさとかじゃなくて、そこに積み上げられてきた時の長さによる重みに気づいたから。だから長く感じたんだと思う。


 この大木は思いのほか傷だらけだったから。


 皮はところどころが剥がれ落ちていて、見上げた先に写るあんなにも広がっていた葉は、その実内側は枯れかけ茶色く濁ったものが大半でした。ただ、葉焼けするには日光の存在がここにはないですし、水不足も考えられません。


 それに、そんな生物科学的な原因よりもあからさまなモノが見えてました。

 このマップの基本的な現象と予想されるモノ。()()()()()()()

 これが、大木に纏わり付いているのがぼくの目に見えてました。このエリアまでもを囲っている空気さえ遮断していたあの結界が通した?


 ううん、それはありえない。

 じゃあ、何で?


 その答えは、大木に絡み付く汚染された魔力の根本。発生源まで魔力の流れを視るだけで簡単に得ることが出来ました。



―――殆ど朽ち果てた竜のような生き物。

  大木の裏で伏すように、体を少し丸めるように。

  その体から煙のように出ていました。



 全体的におそらくはワイバーンと呼ばれているような竜だと思います。

 その片翼は根元から千切られ、もう片翼は翼膜すら無い骨格だけが。細身だったであろう体についている脚は、もはや見る影もない程の肉塊でした。

 辛うじて頭と胸に当たる部分の損傷は軽いようですが、それでも無傷な鱗はなく、その悉くが砕かれ内部の肉と混ざりあってしまってる状態です。他にも色々とこの竜を構成していた部位はあったのだと思います。千切られ、ぐちゃぐちゃになったその断面からその痕跡が見られるので。


 そして、一番目につくのがやっぱり立ち上る煙。汚染された魔力そのもののようです。この魔力があるせいなのか、大木とこの竜に対する《鑑定》が弾かれましたし(イビルトレントさんは鑑定できてたので、おそらくは濃度の違い?)


 けど……どうしてこの竜がここにいて、木が植えられていて……





「―――そういうことでしたか。

 ……感謝と謝罪の意味って。」



 汚染された魔力は現在進行形で大木に吸い込まれていく。大木はその身をゆっくりと枯らしながらも仄かに光り続けてて、水を通じて生命の魔力を外に流してる。そんな生命の魔力を多く含んだ水は結界のところで止められて、結界の構成する魔力として使用される。

 それでも余剰となった生命の魔力を含んだ水は、ゆっくりとこの竜に染み入って、傷を少しずつ、少しずつ。遅々として変化を感じられないほどにゆっくりと、それでも確実に治すために。



 ぼくの眼で視えた魔力の流れ。

 少なくとも、これらがずっと繰り返されていました。


 竜を治すためだけの、最期の住民が作ったと思われるサイクル。

 このマップがTFOでいう何年前から存在して、どれだけの期間を循環していたのかは知らないですが。長い間を繰り返してきたことは何となくわかるような気がします。

 そうでないと。木に、死に限りなく近い竜に、この空間に。

 ここまで荘厳で、緊張感のある静けさは生まれないはずですから。




 

 けど、あのトレントさんがあんなにも必死だったのは。この循環に終わりが近づいていることを感じ取ってたから。

 たぶん、それが答え。


 植えたという表記から、おそらく苗または低木の状態でここにいた。ここは日光がないですし、光合成のようなものの代行が魔力の浄化だったのかも。そんな感じで、この木が成長を続けると同様にこのサイクルは続いていたんだと思います。

 そして、成長が停止する時。ここで木がキャパオーバーした。徐々に消費できない汚染された魔力がでてきたのかもしれません。

 

 幾つかの現状に至る推察はできますが、視てない限りは本当のことなんてわからない。ただ、近いうちにこの循環は終わって、()()()()

 このマップに再度訪れることができるのかはわからないですが、次来たときにはもう事後になっているとおもいます。



 ゲームとしての進行状況やマップの造り等を鑑みると……この竜が死ぬことでマップになにか変化が起こり、新たなイベント事としてまた利用できる。いわゆるフラグを立てる基、伏線の一つなんでしょう。きっと。

 このTFOの世界は少しリアルに創りすぎたせいでイベント事を作るのが難しくなった。そう考えると、大事を起こすなら世界設定に関連した大きなフラグが時間進行で起爆するようにするしかないんです。


 要するに。

 ――出来事を作るのではなく、出来事をイベントにする。


 これがTFOにおける運営の一つなんじゃないかなって思います。




 




 



「ただ……ぼくにはどうしようもできないよ?トレントさん。」


 いくら結界を通り抜けられたからと言って、ヴィンさんやベセミールさんみたいな器用な強さは持ってないですし。ましてや、ぼくは運営が用意したイベントに参加した、というただの1プレイヤーでしかない。



 ……何て言うのはただの言い訳なんですよねー。なにかして、何も変わらなかったときの結果に対する自己保身。こういう風に自己保身をするということは、少なくともこの竜に、この状況に感情移入してしまっている証拠でもあるんですが……。




 と言っても本当にぼくにできることは驚くほどに何も無いです。回復魔法スキルを持ってるわけでもなければ、この大木のように魔力を浄化する御業ができるわけでもないですし。

 唯一出来ることとすれば……んー…どのみち戻れる程の時間もないですし……ぼくを、魔力の全てを緑色。生命の魔力にして竜に直接捧げることくらいでしょうか。


 ただ………


「ここで死ぬのはちょっと、物足りないんですよねー……。

 竜の姿が綺麗ならいい感じだったのですが…」


 そう、竜の姿が威厳のあったであろう傷を負う前なら。暗い中優しく輝く大木に、その光をキラキラと反射する全面の水。そこに眠る強き竜。そして、眠る竜によりかかりながら。大木と同じ光を放ち、息絶えている ぼく。


 なんていった、結構ぼく好みのシーンが撮れるんですけど……。



「……綺麗に……というよりかは元通りに復元した姿を………んっ!そうでした…いい魔術がありました!!」


 ぼくの使える魔術(スキル無しの魔法)の一つ《幻霧》。

 空間に作用することで対象の視覚に無いものを映すことの出来る魔術。実はこれ、スクショにも反映されるんです。最初はバグかなとも思ったんですが、よくよく考えると対象の視覚に直接作用してるわけではないので当然の結果でした。スクショはその空間を写し取るものですしねー。



「さてさてー、解決策が見つかったとはいえです。元の姿を知らないのでどう幻霧をかければいいのでしょうか……自分のセンスで行うのも悪くはないですけど、やっぱりこの竜さんももとの姿の方がいいに決まってますよね……。

 となるとなにか元の姿が残ってるもの……なんていうのはさすがに無いでs―――えっ?」



 周りに溢れていた生命の魔力が竜に集まって、元の姿と思われる型をとり始めました。いきなりのことだったので呆然としてしまいましたが……魔力に意思って無い…ですよね?意思ある魔力体ならここにいますけども。

 となると、誰がぼくの言葉に?


―――ザァァ……


 ふと、木の葉が風で揺らいだかのような音がぼくの耳朶に触れた。

 たぶん、そういうことなんでしょうね…。

 ぼくを確実に贄とするためなのか、それとも純粋な手助けのためなのかまではわからないですが。


 何はともあれ、この手助けのお陰で元通りに見えるようにはなりました。色に関しては大木の流す生命の魔力の緑より深みのある、あの結界のような色にしました。砕かれた鱗の色から再現してみたので、そこまで間違いはないはずです。





 ぼくがここで死んで、少ししたら消える。そんな一時の幻が出来ました。


 1歩ずつ竜の胴に近づきながら、ぼくの構成している魔力を緑色のものに変えていく。死後に少しでも竜の糧に成るように。

 たどり着いた。あのときの魔銀の小刀を取り出す。


 んー……首か胸か………ん、幻想墓地の時と同じにしようかな。


 スクショのタイミングはぼくが突き刺してから7秒後。ぼくの命が散るまでの約10秒で最も魔力が輝く時間。

 位置は、第三者が見ていたかのような高さで少し離れた場所。木と竜とぼくが入るように。ぼくたちが美しい景色の一つに観えるように。


 うん。設定完了です。


 後は竜さんの体によりかかって、

 さようなら


 抵抗なく刺さる銀刀にぼくの魔力が散らされて

 3秒後には外に溢れる魔力が増えて

 5秒後には緑の輝きが増して

 7秒後に、パシャリ


 9秒後には意識がなくなってきて

 10秒―――

〈称号:[汚染された魔力の感染者]を獲――[無病息災]により消――称号:[汚染され――[無病息災]により原因が消去されました〉



―――GUuuGYAAAaar!!



 機械的な声と鋭い雄叫びが、最後に聞こえた。







≪【特殊イベントアチーブメント】

『秘境に封されし古の竜』を誰かがクリアしました!≫



 【特殊イベントアチーブメント】

 『秘境に封されし古の竜』をクリアしました!


◎ 参加条件:秘境に到達した上で竜を認識する。

◎ 達成条件:祭壇で特定の魔力を一定値以上捧げる。

◎ 達成報酬:


参加者報酬

・スキルポイント5P


貢献度報酬

貢献度100%

・1000000XP


特別評価報酬

[偶然の賜物]

[ノーヒントクリア]

・スキルポイント15P

・スキル《古の竜の刻印》


◎ 全体報酬:

・イベント終了時まで、第一回FTS専用エリア内に古の竜が出現





『礼を言うぞ。意思を汲み、行動した真祖よ。

返礼は……フンッ……そうだな、下らん仕込みに対する意趣返しにでもしようか。今回ばかりは許可してもらうぞ?』

〈生命の有翼古竜がPN:ユウのパーティーに加入しました

(05:59:58)〉

『……約六時間か。充分だ』




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― 新着の感想 ―
[一言] えええ!? 6時間限定とは、パーティメンバーになってくれるの? ということは、主人公とは独立して思考し動くってことか。 今主人公は死んで待機所にいるはずだけど、 古竜はあの洞窟から自由に行動…
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