表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/28

19 特訓開始!最終日


「遂にだよっ、遂に!あ~、早く明日にならないかなぁ!」


 皿を洗いながら楽しげに話してるのがぼくの妹。どうやらTFO内ではクレインと名のってるみたい。


「あっ!そういえばユウは一人で参加?」

「ん。」

「そっかー……実は私もそうなの!」

「んー?チトセって確か、いつも三人でパーティーを組んでなかった?」

「そうなんだけどねー。みんながね?自分の力だけでどこまで行けるかやってみたいとか言い出すからさー。

 まっ、私もそのうちの一人なんだけどねっ!」


 今回のバトロワイベントは最大で三人パーティーでの参加が可能でした。うん、ぼくにとっては組む相手がいないから関係ないんですけどね。NPCは参加できないそうですし。

 きっとチーミングとかもあるんだろうなー。ルールを見ても抜け道はいくつかありそうでしたし。例えば、"持っていけるアイテムは装備・インベントリ内合わせて30個まで"というルールについてですけど……たぶんこれ、空間魔術に入れてるアイテムはインベントリに入ってる判定じゃないので……

 んー、他にも"プレイヤーの死亡時、アイテムのロストはありません"とかも盗むことができないってことじゃなさそうですし…。


「ふぅー。やっと終わったよ~!んじゃっ、お先にログインするぜ!」

「んー。」


 掲示板も明日のイベントの話題で盛り上がってますねー………んー、レベル差とかもありますし装備とかアイテム運用、スキルの使い方が重要になってくるのかな。そういった書き込みが多いですし。

 装備ですかー……思えばぼくの装備って童子切とExのパリィダガーしかないんですよね。後はヴィンさんからもらった私服………ん?そういえばあの服っていまだに壊れるというか、傷ついたことって………うん、無いですね。そういえば鑑定もしたこと無かったです。明日までに確認しないとですね。

 後はアクセサリー系の装備かな。どうやらダンジョンとかでよく入手できるみたいですが……店でも買えるみたいですし、これも明日までに用意しないとですねー。


 そういえば、あのあともう一度会おうと影の世界に行ったんですがもういなかったんですよね。んー、何か再び会うための条件とかがあるのかな…。

 ちなみに新たに付いた称号は[深淵に触れた者:あなたは深淵に少し触れた。恒久的に人間性を5喪う]という効果のものでした。

 この人間性というものなんですが、ベセミールさんに聞いたところ

「あー…人間性はな、魂の形が人に近いかどうかの距離を数値化したようなものらしい。教会がそう提言してたな。確か人間性が高いほど善、低いほど悪なんて云われたんだったか?

まっ、善だ悪だとかを勝手に決めつけられるのは個人的には嫌なんだが……。」

 という言葉が返ってきました。

 他にもカルマ値の低い者ほど人間性が低かったり、その逆もまた然りなようで、どうやらカルマ値と人間性はなにか繋がりがあるみたいです。んー、ぼくは未だにカルマ値が0ですけど……人間性は低いと言える値なんですよね。この事に関してはベセミールさんも首を捻ってました。


 少し早いですが、明日を調子が悪い状態で迎えたくはないので寝るとします。13時に開始なので確認も含めて9時にはログインするとすると……ん、10時間も寝られる。んふふ~♪やったね。






  *  *  *






  

「―――んっ?…」


[装備・防具(上)]ユウのシャツ(灰色)

レア:Extra 品質:A+ 耐久:――

特別な魔力糸を用いて造られたシャツ。魔力糸の性質である魔力を留める力が働いており、魔法に強いシャツとなっている。

装備者固定の魔術が掛けられている。

《魔力残留Lv2》《魔法耐性Lv1》


[装備・外套]ユウのローブ(深藍色)

レア:Extra 品質:A+ 耐久:――

特別な魔力糸を用いて造られた短めのローブ。魔力糸の性質である魔力を留める力が働いており、魔法に強いローブとなっている。

装備者固定の魔術が掛けられている。

《魔力残留Lv2》《魔法耐性Lv1》


[装備・防具(下)]ユウのハーフパンツ(青色)

レア:Extra 品質:A+ 耐久:――

特別な魔力糸を用いて造られたハーフデニムパンツ。魔力糸の性質である魔力を留める力が働いており、魔法に強くなっている。

装備者固定の魔術が掛けられている。

《魔力残留Lv2》《魔法耐性Lv1》



 …………開いた口が塞がらなくなるってこういうことだったんですか…。

 たしかに童子切とはちがって、死んでも一切ロストしないですし、壊れる兆候も見られませんでしたけども!

 



 っとと、後でヴィンさんにお礼するから服については一旦保留しまして。目の前にはラフな格好で一本の大剣を持ったおじさん……もといベセミールさんがいます。

 現在の時刻は午前九時十分。ぼくから見て左側から太陽が昇ってきています。んー、サラさんからもらったフードつきコートのお陰で、日光によるダメージが殆ど無くなってるのでほんとにたすかります。


「おっ、来たか。今日が本番なんだろ。ほれ、俺が一発気合いいれてやるから全力で来いっ!」


 実はこの模擬戦、前々から当日の午前に本気で挑ませてほしいと約束してもらったんです。といってもベセミールさんが攻撃に徹するとすぐに終わっちゃうので、あまり動かず受け手になってもらうんですけど……

 よし……ぼくの装備は今はパリィダガーのみ…強い相手には実力で勝てるわけがないので、目指すは不意打ちによる一撃必殺です。



「うん。では……行きます」


 宣言した瞬間に、ぼくは全力で気配を消す。もちろん魔法の《幻霧》で辺り一面を覆って《幻惑》も自分に使って、です。


「おぉー!なかなかいい気配の殺し方と、高度な魔法の使い方だな。あー、ただそれだけじゃ俺並みに強いやつらはたぶん察知できるぞ?生物としての独特な存在力みたいなものは消せないからなー。それらを消すことのできる魔道具や魔法を使う以外はな。」


 やっぱりそうですよね……ただ、空間把握でベセミールさんの姿を見る限り場所はわかっても明確な動きまでは見えてないように思えます。

 続いて、無駄に自分の体を斬って辺り一面をぼくの魔力で満たします。これと同時進行で、ぼくの影にムカデさんを待機してもらいます。最近、ムカデさんとお互いが何を思ってるのか、言葉なしに何となく分かるようになってきたんですよねー。《血の契約》の効果のひとつなのかも?


「おいおいおい、一体どんだけバカでかい魔法を放つ気だ?こんなに魔力濃度を高くしてもすぐに術者を押さえれば済む話だぞ?

 現に術者はそこに―――っ!しまった!」


 そう。辺り一面を覆った幻霧も自分自身にかけた幻惑も、さらにここら一体を埋め尽くした高濃度の魔力も全てぼくの魔力。つまり、ぼくそのものなんです。なにせ、ぼく自身が魔力の塊ですし。

 ベセミールさんからすると、辺り一体にぼくがいるように感じているはず。

 といってもまあ……展開した魔力を散らされたら、あっという間にぼくの魔力が無くなって死んじゃうんですが…。ある意味諸刃の剣です。


「くっそ、どこにいきやがった?

 ―――いや、これ全部がお前さんそのものか!」


 ほらもう!……気づくの早すぎですって。このままだと本当になにもできないまま終わってしまうので、見失っているうちにスキル《影化》を発動。


 このスキル、何度も検証しているうちにあることにきづいたんです。このスキルは文字通り影になる。言い換えると、生物から非生物になる。つまり影という概念に為るスキルだったんです。

 だから()()()()()()()()できなかった。だって、概念を捉えることなんてできないですし。


「ちぃっ…魔力は晴らせたが……案の定隠れられたか…

―――だがな、俺の影に隠れてるってのは()()()()()んだよっ!」


 ベセミールさんが、自分から()()()()()()に大剣を振り下ろす。このままだとぼくに大剣があたり致命傷を負う。だから、影から飛び出てベセミールさんに攻撃を加えるか、そのまま距離をとるか……ただ距離をとれば振り出しに戻ることになる。もう一度さっきの手段を使うには魔力が足りない。攻撃を加えるために飛び出てもベセミールさんなら大剣の軌道を力で強引に変えられる。

 だから、どちらにしても詰み。


「終わりだっ!」



 ―――という考え方をしたはずです。ベセミールさんは。

 チャンスは今。ベセミールさんが隠れているぼく(潜影してるムカデさん)を斬ったと確信をする直前。

「――っ!」


 ガキィンッ!!


「ぬおっ?!」


 おかしいです。首にパリィダガーを、峰打ちですが強く当てたはずなのに……なんで金属音がするんですか!ベセミールさんの首は金属かなにかでできてるんですかッ!?


「……あー…落ち込んでるとこあれだが、今回は俺の負けでいい。さっきのは少々ズルみたいなもんだからな」

「…ベセミールさんの体って、金属でできてるんですか…?」

「はっはっ!……んなわけないぜ。」

「じゃあなんで金属音?」

「あー、これは俺の職業が原因だな。」


 ベセミールさんのジョブと言えば"ウェポンマスター"ですよね。いろんなRPGゲームからして戦士の上位互換的な職業だと思ってるんですが……。


「そうだな……まずウェポンマスターには1つ、職業スキルと言えるものがあるんだ。」

「職業スキル?」

「おっと……あー職業スキルは、基本的には上位または特殊な職業にのみ存在する固有のスキルのようなものだと思ってくれれば問題はないな。

 んで、ウェポンマスターは《武器の達人》というのがある。

 この《武器の達人》だが……これは装備している武器の効果を最大まで発揮できるっていう常時発動型のスキルだ。

 ちなみにだが、人が体につけられる装備限界数が10個とされている。これ以上はなぜか装備できないようになっているらしいな。」

「んーと……要するに、ベセミールさんはその10個の装備のうちの武器のみの効果を100%発揮できる……びみょーな職業?」

「んー、まぁ、たしかに一般的には微妙な職業って云われているな。だがな、どんな職業も全ては発想力次第なんだ。

 例えばだが、俺のようなガタイのいい体は突進するにしろ殴るにしろ、いい武器になりえるだろ?」

「……たしかに。」

「つまり、体は武器だ。スキル《武器の達人》の効果範囲に適応される。

 んじゃ、もうひとつ。体は武器だ。しかし、なにも身に付けてない状態よりも鎧や体を強化するものがあればより殺傷力を増すだろ?」

「えーっと……槍に返しをつけるのと同じ理論ということですか?」

「そのとおりだ!つまり鎧やアクセサリーは体の延長線上にある。つまりは武器の延長線上にあるのと同義だ。

 こじつけかもしれんが、こういう認識を当たり前にすることでスキル《武器の達人》の効果範囲に入る。」


 んー、……屁理屈も理屈が通るというか、言葉のあやがすごいです。でもそれが職業とかスキルに反映されるってことなので…意外とスキルの使い方って自由だったりするのかも。


「だが、それでも反映できるのは10個の装備だけだ。」

「それで充分じゃないんですか?」

「個人的には満足はできんかったな。

 そこで、だ。たしかお前さんの服もヴィンドールにつくってもらったやつだろう?俺の今着ている服もそうでな。

 ヴィンドールはその魔力糸を通して造り上げたものに、魔術を一つだけだが埋め込むことができる。」

「魔法じゃなくて、魔術……?」

「ざっくり言うが、魔法がスキル。魔術が技術という認識でいい。

 で、話を戻すが……俺がヴィンドールに埋め込んでもらった魔術は、お前さんも使っとる空間魔術の《空間箱》だ。

 《空間箱》がある服ももちろん《武器の達人》の効果範囲だ。最大まで発揮できるのなら《空間箱》に収納されている武器にも《武器の達人》の効果が反映されてても問題はないだろう?

 少々長くなったが、俺のからくりはそんなところだ。ま、職業やスキルの使い方の応用編ってことで学んでくれや」


 ん………ということは見た目的に鎧を装備してなくても実際は装備してる判定になってて、収納されている武器の効果も全て……………ベセミールさん、すごく強い。

 言うつもりはないですけど……でもこれってタネさえわかれば他のウェポンマスターも真似できるんじゃ……


「あぁ、そうだった。これを真似する前提にまず、武器の力に呑まれるまたは振り回されてるんならやめといた方がいい。次に、自分の命そのものが武器だと信じられるような、精神の強靭さも必要だな。

 まっ、要するに他のやつらに言っていいってことだ。俺を越えるウェポンマスターがいるなら見てみたいしよ。」

「んー、でもぼくは言わないでおきます。周りがベセミールさん並のウェポンマスターだらけになったらぼくの生活が困りますし……」

「はっはっはっ!…それもそうだな!まー、あれだ。今回のイベント?だかなんだか知らんが、思う存分楽しんでこいっ!」

「うん。楽しんできますっ。」


 イベント開始まで後三時間。

 んー……たのしみです!






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

― 新着の感想 ―
[一言] 童子切さんの説明では、スキルに頼るな種族特性とみなして身につけて鍛えることで有利になるという話でしたが、 ベセミールさんの話でまた変わってきましたね。 スキルには、本人の心構え次第、解釈次第…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ