閑話 : チトセも始めるTFO生活 [前編]
04話からのチトセ視点となります!
「あ"ぁ"~……やっと終わったよー……帰ってきたばっかの私に何でこういうことをさせるのかなあ!もうっ。まっ、それだけTFOにはまってくれたってことなんだろうけどね~。――よかった。」
んじゃ、私も早速やってみよう!ふっふっふ……私がTFOの波に遅れると知って尚、この冬休みの一週間を楽しく遊んでた理由……ちゃんとあるんだよね~。
んふふ、掲示板を確認したところ世界設定がβ版から100年後の世界っぽいんだよね!で、ダンジョンボスもβよりも強く感じた人が多数!その理由として“パターンがほぼなくなった”がいちばん挙げられてるんだよ。つまり、独立した思考があるってこと。
ここからは妄想になるけど、実はβ版の特殊個体って今の独立思考を持つ個体をパターン化して複製されたものだったんじゃないかなぁ~って。
てことはだよ!もしかしたら、β版と製品版の二つはプレイヤーデータと特殊アイテムの位置情報、特殊個体しかリセットがかけられてないんじゃないかなー……なんて思ってたり。他にもいろいろと理由はあるんだけどね。オブジェクトの数、サーバーへの負担、位置情報の多さ、ダンジョンの設定……etc.
私的には、β版が終わってからの出来事が口伝で残ってたって言う情報が一番の理由だね。
ちな、本もあったみたいだけど字は読めなかったそう。んー、最初に選べるスキルのなかに《解読》があったはずなんだけどな~。誰もとらなかったのかなぁ。ま、私も取る気はないんですけどね!
「よしっ!前情報はだいじょぶっ!後は賭けになるけど……ログインするだけだねっ♪」
β版からお世話になってるチェアに座ってログイン。この意識だけが解離していく感覚も久しぶりだな~。
* * *
『To Freedom Onlineの世界へようこそ。ここはキャラクタークリエイトを行う場所です。――蓮見 千歳様ですね。チトセ様はβ版のアバターデータが残っています。こちらを使用しますか?新しく作り直すことも可能です。』
「あっ!残ってるんだ……いいねっ、β版のアバターでよろ!」
『かしこまりました。それではお好きな種族をお選びください。質問がある場合は私に聞いてください。』
「そうだねぇ……んじゃ、前と同じ鬼人族でー!」
『かしこまりました。チトセ様の種族が鬼人に認定されました。確認のためメニューの表示を推奨します。口頭または脳内で“メニュー”と唱えると表示されます。』
この辺はβ版と全く変わってないね。んじゃ、メニュー表示っと。
名前:
種族:鬼人 Lv0
属:人
職業:
種族スキル
《物理耐性Lv1》《HP自動回復(微)Lv1》《鬼化Lv1》《鬼の因子》《鬼の呪縛》
異邦人スキル
《》《》《》《》《》
うん!初期ステータスも変わってないかな。マスクデータの多さも含めてねー…。
一応鬼人族は人族よりもSTRやHPに優れた種族って言われてるんだけどさ。確証がないんだよねー。まっ、前衛よりの職業かなっ。魔法にはとことん弱いけど!
『確認できましたか。――それでは、人に属する種族のため職業を選択可能です。現在の一番人気の職業は“片手剣術士”です。』
「おぉ!β版も片手剣術士が一番人気だったんだよねー!あ、私は斧術士でお願いっ!」
『斧術士の場合、職業スキルとして《斧術Lv1》が異邦人スキルに追加されます。本当に職業は斧術士でよろしいでしょうか?』
「だいじょーぶでーすっ!」
『尚、《斧術Lv1》は異邦人スキルの六つ目に該当されるため、初めの異邦人スキルの選択可能数は変わらず五つとなります。また、異邦人スキルはキャラクリエイト後にも選択可能のため保留にしておくことも可能です。』
と言われても、もう既に決めてあるんだよね!ゲーマーであるには計画性が大事なのだ!
異邦人スキル
《斧術Lv1》《槍術Lv1》《鎚術Lv1》《筋力強化Lv1》《器用強化Lv1》《敏捷強化Lv1》
「これでおっけー!」
『承認されました。スキルについての詳しい説明はメニューから該当のスキルをタップする等で確認できます。
それでは、名前を入力してください。重複はできません。』
「あ、さすがに名前のデータはリセットされるか~。」
ここは無難にチトセにしよっと……って思ったんだけど既に使われてたぁ~……。千歳も重複してたよぉ………千年……ツル!…はダサいんだよねー。クレーンもなんかなぁ……あっ!クレインはいけるんだ!
名前:クレイン
「男っぽいけどいいかな。これでー!」
『それでは、本当にこのキャラクターでよろしいですか?』
名前:クレイン
種族:鬼人 Lv0
属:人
職業:斧術士
SP: 0
種族スキル
《物理耐性Lv1》《HP自動回復(微)Lv1》《鬼化Lv1》《鬼の因子》《鬼の呪縛》
異邦人スキル
《斧術Lv1》《槍術Lv1》《鎚術Lv1》《筋力強化Lv1》《器用強化Lv1》《敏捷強化Lv1》
「もちろん!」
『キャラクター:クレインが登録されました。人に属する種族のため、開始地点は始まりの街が選択可能です』
「始まりの街?あっ、そういうことかぁ!」
始まりの街:種族が人系統と同じ場所。いろんな施設が揃っている。
_____
|――ガルディア王国領
|――ヴィフェムント帝国領
|――バーレン共和国領
|――聖国エターフィア領
『人に属する種族が選べる始まりの街はこの四つからになります。また、ランダムで決めることも可能です。』
ふぇ~。たしかβ版のときは一つしかなかったんだけど……ヴィフェムント帝国領のフロンラインって言う街だったはず…!ここは少しでも遅れを取り戻したいから…うん!地理感のあるヴィフェムント帝国領かな。
「ヴィフェムントで!」
『種族スタート地点の選択を確認しました。メインサーバーに接続中………それでは、TFOの世界を思う存分楽しんでください。"あなたの求める自由は、ここにある!"』
ナビの音声が消えると同時に太陽の光が視界いっぱいに、都会かと思えるほどの雑沓の騒ぎが耳に入る。
うぅ~。相変わらずここはすごいうるさいんだよねー。βプレイヤーの多くがここを選んでそうだし。かくいう私もそうだからね!
「よし。探索だぁ!……といっても私の中で最初に行く場所は決まってるんだよねー。」
ちな、β版の期間は約一ヶ月とそこそこ長かった。で、舞台はここフロンラインを中心としていくつかのダンジョン攻略とボスが用意されてたんだよねー。もちろん、やるからにはβ版でできる限りを目指すわけでして……なんとびっくり、ラスボスらしきものまで登場してきたんだよ!レイドボスってやつ!。いやぁ、β版に参加していたプレイヤーのほぼ全員で戦っても討伐に三日近くかかるなんてね……強かったよ~。ま、得たものも大きいんだけどさー。
その討伐後、“残り3時間でベータテストを終了します”とのお知らせが来たからスクショタイムとか、そのレイドボスの素材を眺めたりとかで軽くお祭り状態だったな~。そのレイドボスを鑑定しても???しかでなくて、唯一称号欄に“邪神”の文字があったことだけわかってるというね!謎だねっ。そのわりには、私たちの称号欄にはMMORPGにありがちな神殺しの称号がなかったんだよねー。そんな称号が存在しないだけかもしんないけど。
しばらくβ版と製品版との差違や世界設定について考えたり、プレイヤーの設定をいじりながら歩いていくうちに、清潔感や清涼感溢れつつもどこか豪華な外観の建物にたどり着いた。要するに屋敷。外観通り格式が高く、ログインしてまもないプレイヤーがなんの許可もなしに入ることはできない。
その門前には前見たときとは違う人が立っていた。
あっ、さすがに100年もたってたら門番?の役目の人も変わるよね。私の話が通じればいいんだけど。
「おい、止まれ。そこの異邦人。ここは今のお前みたいな金の無いやつが易々と近づいていいところではないっ。」
「それに、お嬢さんはまだ子供じゃないか。組合はそこの大通りに面しているから、初めてでも分かりやすいはずだよ。ほら、早くいったいった。」
うがあぁぁっ!かんっっぜんっに相手にされてない……。見た目は変わってないんだけどなぁ。やっぱりキーワードが必要なのかな…?恥ずかしいから言いたくないんだけど~!……むぅー。いや!ぐずぐずしててもしょうがない。私、覚悟を決めました!
「“破滅を持ちし鬼は幾何もの時を越えて今、ここに来たれり。”」
「は?なに言ってんだお前?さっさと―――」
「ま、待て!……“その破滅が導き、鬼が得たものは”」
「な、なぁ、隊長――」
「“それ乃ち、邪神の亡骸と民の命なり”」
「…っ!―――先々代より、お待ちしておりました。お望みの武具は厳重に保管してあります。ささっ、どうぞ中へ。」
「お、おい!いいのかよ入れちまって!しかもそっちは貴族専――」「静かにしろっ!お前には後で教える。それまで待機だ。」
えっ?いったい何が起こったのかって?ふっふっふっ…。
実はベータテストの最後の時、私は二つのクエストを進行中だったんだよね。一つはレイドボスの邪神討伐。もう一つがある人物の好感度が最大値に達することで達成されるクエスト。で、このクエストとっても難しいかわりに報酬が“好きな武具または道具一つ”だったんだよ!いっけん簡単そうに聞こえるけど、んなわけないからっ!何が難しいかって?……あいつの好感度が全くと言っていいほど上がんないんだよーっ!!
けどね?その好感度が邪神の討伐……正確にはそいつとその家族を含めた民の命を率先して守っていたのが功を制して、最大値に一気に到達したんだよね。これは予想外だったなぁ。
ただねー、その好きな武具を観る時間もなければ、決める時間もなかったんですよー。だ か ら、苦肉の策として私の持っていた武器の所有権を手放してその人に渡し、次私が来たときにその武器を選択できるように契約書と共に合言葉も決めてもらったんだ~。
けどほとんど賭けなんだよねー、これ。運営に不正と見なされて消される可能性もあったし。その前にその人の家が取り壊しになる可能性もあるからね。実際のところ100年経ってたわけだしさー。
「ただいま御主人様をお呼び致します。少々お待ちください。」
おもいっきり騎士の格好してたけど、まさかお茶入れと菓子の用意まであの人がするとは思わなかった……意外と人手不足だったりしたりして。
言われた通りちょこんと座って待ってると、シワが目立ち始めたくらいの年をした女性がやって来た。
「あらまぁ、ほんとにいらしてたなんて。まるで夢でも見ているかのようだわ。フロンラインの救世主様に会えるなんて!」
「えぇ……えぇ…どれだけの歳月を待っていたことでしょうか…遂に願いが叶いましたぞ!――ではチトセ殿、こちらが私たちの渡すことのできる武具になります。一応、鑑定紙もつけておきますね」
「…あっ、はい!ありがとうございます!」
うっ、解読がないと文字は読めないんだよねー……話し言葉はわかるんだけどさ……トホホ
[装備・武器]ルインの斧槍
レア:Extra 品質:A+ 耐久:――
《重力LvMAX》
潜在開放:《破滅》
戦闘中に一度、認識した任意の対象を破壊する。
たしかこんなんだったはず。最後に見てから随分日が経ったから、うろ覚えに近いけど…。
「ふぅ…。やっと肩の荷が下りたわ~。これで心置きなく家を手放せられるわね」
「そうですなぁ…先々代との約束も無事果たせましたから」
「えっ?…えっ?!どう言うことなんです?フロンラインの家を失くしたらこの街はどうなっちゃうの?!」
そう、何を隠そう!私の受けてた依頼人はこの街の領主様だったのさっ。アール=フロンラインという名前のね。
だからこの家がなくなってしまうと街にとっては統率者がいなくなるみたいなもので!
「大丈夫ですよ。分家の方がフロンラインを継ぐ……というよりは、もとからそういう話になっていましたの。
いくら私がアール爺の直系でも、女では当主にはなれませんから。それに後3日以内にはここを立ち退かなければならないのですわ。ほんとに今日来てくれてうれしいわ~。この出会いに感謝しないといけませんわね。」
「なるほど……だから給仕の方達がいなかったんだ…」
「おほほ、気にしなくていいのですよ。もともと落ち目でございましたから。運良く分家の方が優秀で、私としては感謝していますのよ?」
コロコロと笑いながら、なるべくこっちに傷がつかないよう優しく話をしてくれている。俗に言う好い人を具現化したみたいな方だよね。
「それに私、この家がなくなっても普通の家なら一件持ってますの。無駄に広いここと違ってこじんまりとしてるからゆったりできるのよ~。
あっ、そうだわ。私としたことが自己紹介を忘れてたじゃない。
私の名前はアイラ。こんなおばあちゃんでよかったら、私とお友だちになってくれないかしら?一緒に買い物とかしてみたかったのよ~。」