16 童子を切りし者
今回は短めの文です!
ぼくがTFOを始めてから今日で19日目。一応、最初にとった五つのスキルと《解読》以外は再現できるようにはなりました。
よく考えてみると、再現できたスキルの認定はほぼ後出しでした。つまり、スキルを覚えたから出来るようになったわけじゃなくて、出来るようになったからスキルとして表記されたということみたいですね。
でもレベルで表記されるわけじゃないですし、目安がわかりませんでした。まぁせっかくですし、自然とできる程度までにはもっていったんですけど……スキルがもっと多かったらと考えるとゾッとします。
《歩行術Lv2》《忍び歩きLv3》《隠密Lv2》《不意討ちLv1》となんとなく一連の流れがあるような構成だったから、短い期間で体に馴染ませられました。《魔力視》はスキルが出る前から使えてたので、その分の練習時間を省いたのも功を制した感じです。
そして今日。ぼくの前で童子切りさんが剣を巧みに扱っていた。
重心を自在に操って、重力を感じさせないような動きかたで剣を振る。舞を観ているような錯覚を起こしそうなほどに流麗な剣筋だけど、その実残酷な剣術に感じます。
おそらくだけど、ぼくがパリイしたとしても流れるようにして次の攻撃がくるんじゃないかな。弾かれても、流されても、躱されても、それらが無かったかのようにして次の攻撃がくる。そんな過剰なほど対人に特化した、隙の無い剣術。
「……我という存在が友に残せるものは、この剣術のみ。確と記憶に残せたか?」
「うん。ばっちりです!」
たぶんこの剣術を使えるようになるには、気が遠くなるほどの年月がかかると思います。今のぼくができるのは、剣を振る前段階の重心を自在に操ることだけ。それでも、童子切りさんの動きは1mmのズレなく記憶に残しました。この記憶があるかぎりは、ぼくだけでも修練できるから。
「この剣術に名前はあるんですか?」
「……なし。名の無しがゆえに、スキルとして登録されることがなかった。只、友なればその心配は無用だ。友の好きに名を。」
TFOの世界では、スキル《剣術》があるせいで全ての剣術が一本化されてる。その中でもオリジナルとしてあり続けたこれは、正しく童子切りさんの剣術であり存在した証そのもの。それに名がないならそのまま―――無名の剣術を受け継いだことでいいはずです。
「無名でいいと思います……ぼくが受け継いだのは童子切りさんの無名の剣術なんですから。」
「……そうか…恩に着る。」
「こちらこそ、お世話になりました…。」
「……最期だ。友よ、幻想墓地に行くぞ」
「――ん」
童子切りさんが朽ちかけた社の中へと入っていくので、ぼくもその後をついていく。
ぼくが中に入ったことを確認すると「これも憶えておくといい」と言って瞑想を始めた。
その瞬間、童子切りさんを覆うようにして計12個の魔方陣が生まれた。それらは、徐々にほぐれては別のほぐれた魔方陣と結合し、また同じようにして他の魔方陣との結合を繰り返した。最終的にはそれらが一つの魔方陣を作り出し、光を放った途端、裏口のようなものが現れた。前も通った、幻想墓地の入り口。
「……我と主は無魔法しか使えなかった。まだ我が人であった頃、無魔法しか使えない者則ち無能者という認識が常だった。無魔法の“無”とは本来無能の無を示していたのだ。その頃は魔力を色で判定する方法が無かったが故に。」
…ということは今の魔法も全て無魔法……。
「……我が主はその生涯を懸けて無魔法の本質を見出だした。
その本質とは則ち“可能性”であると」
「可能性…?」
「……いま我がしたのは可能性の具象化だ。あの魔方陣の作り方を知るのは我と主。そして、我が友のユウのみ。だが幻想墓地に至れるのはこれから先、我が友だけであろう。」
「…じゃあ…やっぱり…?」
「……あぁ…今の魔方陣の借りを返すためだ。
―――介錯を頼む。」
小さな墓のある、小さな丘には未だ色とりどりの花が咲き乱れ、どこからか吹く風は、自然の香りを供にやさしく体を包み込んだ。月明かりのようにここを照らすは薄く発光している桜のような木々。時折その花弁がひらりひらりと舞い落ちる。
その丘の頂上に、童子切りさんは正座した。
「……我は人としての生を終え、今死なずとしての生も終えようとしている。我にとってはどちらの生も、正しく我が存在した道だ。死は、その道が目的地についた際に訪れるのが一番望ましいのだろう。目的地の定めに妥協もあれば、欲も出る。だが、友よ。今の我はこの目的地に満足しているのだ。
――あの小刀を」
ぼくは借り持っていた魔銀製の小刀を童子切りさんに渡した。
「……おそらくこのダンジョンも近いうちに踏破されるだろう。だが、ここが明かされることはない。我はもういないが、ここは間違いなく友の一つの故郷だ。いつでも帰ってくるといい。
……友逹とは悩みや相談を聴き受けるものだからな。」
そう言って、童子切りさんは小刀を抜いた。それと同時に、ぼくも刀を抜く。童子切りさんが使っていた刀を。
「――呵ぁっ!!………任す、我が友よ!」
その願いの声に、ぼくは介助した。
数秒後、彼の体は無数のポリゴンと化して宙に融けていった。残ったのは魔銀製の小刀と彼の刀。そして莫大な経験値だった。
これでひとまず第一章は終わりとなります!
いくつか閑話を挟んだ後、次の章に入ります。
まだまだ続きますので、これからもよろしくお願いしますっ!