15 後始末
んー―――六人組のリーダーさんは確かにTFOを一つのゲームとして遊んでいたみたいですが……ゲームで悔し涙を流せる人って素直にすごいと思います。そこまでゲームに打ち込むなんてぼくには難しいですし。まあ、死を体験したいがためにTFOの世界を現実としてとらえようとしているのが異常ということは分かっているんですけどねー。
そういえば、童子切りさんが六人組を倒し終わってからずっと動かないんですよ。まるで何かを考え込むかのようにじっと佇んでいるのですが………あ、顔あげた。
「―――我が友よ……この我に五日を。いや、後三日ほどの刻を預かりたくぞ思ふる…のだが…」
「……今回の借りを返すためですか…?」
「―――……御意にございます。」
「……うん、わかった。ぼくの三日を預けます、童子切りさん。」
本当は了承したくなかった。けど今の童子切さんからは強い覚悟がみえるんです。なにか大切なことを決断した者が背負うようなものが。
それに“借りを返す”というぼくにとっては重要な線引きである理由を付けられたら、断ることなんてできません。
「……御礼申し上げます。」
「――んっ、じゃあさっそく何をするのか教えてくださいっ。三日しか無いんですから」
なら空気を軽くして、雰囲気を和らげることがせめてものぼくにできること。こういった気持ちの問題は大変難しいことですし……覚悟を台無しにするのにも覚悟が必要ですから。
「……我がいつか一部のスキルは得ないほうが良し、と言ったのは覚えているだろう。」
「うん、確かに覚えています。」
確かあのときは剣術系統のスキルはとらない方がいいと言っていました。そのため現在のぼくのステータスはこんな感じなんですよね。
名前:ユウ
種族:吸血鬼 Lv56
属:高位不死者
SP:217
種族スキル
《物理耐性 Lv2》《魔法無効Lv1》《HP自動回復 Lv6》《吸血Lv10》《血の契約Lv1》《ブラッドオペレートLv5》《影化Lv3》《魔霧化Lv2》《高位不死者》《不朽の魔力体》
異邦人スキル
《敏捷強化Lv2》《筋力強化Lv1》《器用強化Lv3》《鑑定Lv6》《空間把握Lv50》《忍び歩きLv3》《隠密Lv2》《不意討ちLv1》《歩行術Lv2》《魔力視Lv3》
《解読Lv1》
称号
[無病息災:自分への悪影響を無効化(一日に1度)、自動回復系の効果上昇(大)]
[鬼の因子:体力・筋力に補正1.2倍]
[吸血鬼の真祖:吸血衝動をコントロールできる。不死族から尊敬される]
[死を受け入れた者:死の理解が深まる。カルマが死ぬ度にリセットされる]
そういえばスキル《解読》を獲得したとき、他のスキルとは別枠のところに表示されたんですよ。んで調べてみると、この異邦人スキルの装着可能数が最大で十個みたいです。丁度《解読》で11個になったので自動的に外れたみたいですねー。
当たり前だけどスキルを外した状態では発動出来ないみたいです。
「……そこでだ。我のステータスをもう一度見てもらいたい。特にスキルの欄をだ」
んっ!童子切りさんを鑑定してもスキル欄だけは“不明”で見えなかったと思うんですが……。
名前:童子を切りし者
種族:死体歩き Lv70
属:中位不死者
スキル:《物理耐性Lv?》《HP自動回復Lv?》《中位不死者》《死体保存の呪い》
「えっ?……スキルが、ほとんど最初に得られる種族スキルしかないみたい?」
「……然り。我には後天的に獲得したスキルは一切合切無く、まだ人間だった頃から既に持っていなかった。」
「ということは……童子切りさんの動き全てが地力そのもの…?」
「……それも然り。
そもそも、種族スキル以外のスキルは全てが紛い物に過ぎない。」
んー、わざわざ紛い物と表現したことからどこかに本物があるって言うことですよね…。だけどなんで紛い物なんでしょう……?
「……順を追って説明する。
前提として、スキルとはその種族が持つ共通体質のようなものだった。
だが、どのような生き物にも個性といふものは存在する。長寿な生物ほど繁殖能力が低いため、スキルに種族スキルに昇華されるほどの個性は存在し得なかった。しかし繁殖能力が高く、尚且つ個性の強い生き物がゐた。」
「――人間ですか」
「……左様。昔、剣神と呼ばれた人がスキル《剣術》を産み出した。またある時代では、剣神の弟子を名乗った者がスキル《短剣術》を。またある時には賢者と呼ばれた者が魔法に関する諸々のスキルを産み出した。
このように、過去の偉人たちは何かしらのスキルを産み出し、世界はこれらのスキルを記録した。結果として今の膨大な数のスキルが存在するようになった。」
ということは、世界のどこかには膨大なスキルを記録する場所がある……んー?それってつまり命あるもの全てを監視しているってことですよね…。じゃあスキル獲得などのアナウンスの元って、それに繋がっているのかも?
「でも、それとスキルを獲得しないことってどう繋がるんでしょうか?」
結局、過去の偉人たちの持っていた力を使えるのであればそこまで問題ないように思えるんですけども。
「……そこでスキルの前提が重要になる。
……過去の偉人たちはそれぞれのスキルを体質として扱えていた。ということは、彼らにとってはスキルではなく体の一部であると言えよう。
……我が友よ。友は他人の体の一部を移植されても問題なく動かせるか?」
「確かに。そんなことできるはずがないです。それこそ、そういった体質でもない限りは。」
「……ああ。
……先程の斧使いが使っていた《地裂撃》。本当はな、技後硬直なんてものは存在しない。これは全てのスキルに言えよう。
……また、魔力もスキルを作り出した本人なら消費しなかった。魔法はある理由で例外になるのだが。」
つまり、空間把握も魔力視も、隠密も――これら全部、魔力を使用してたってことですか。
「……作り出されたスキルは、全て魔力によって再現されている。例えば、体に直接作用する系などは筋肉組織や神経などに魔力が働く。鑑定や空間把握は一種の魔力探知と言えるだろう。
……我にも魔力とは何なのか解らない。だが、限りなく万能ななにかであることは間違いない。昔の話だが、魔力そのものを全知全能の神として信仰していた宗教もあったほどだ。」
ん。たしかなことに聞けば聞くほど魔力がいかに万能かわかる。遥か昔の体質さえスキルとして再現できるのであれば、全知全能と云われてもあながち間違いじゃないかもしれないです。
「では、結局ぼくはこの三日間何をすればいいのでしょう?」
「……我は今から無茶なことを言う。だが、友の武器はその剣でもなければスキルでもなし。恐らくは覚えることならできるだろう。」
「……うん、できますねー。」
「……我が友よ。最初の二日は《鑑定・空間把握・身体直接作用系統》以外の、今スキルでできることをスキル無しでも出来るようにしてほしい。取っ掛かりは既に掴めている筈だ。」
うっわぁ……いきなりとんでもないことを言い出しましたよ、童子切りさん。それってつまり、あっちでもにたようなことが出来るようになるってことですからねー?!たしかに取っ掛かりは掴めているので出来なくはなさそうですが………今のスキルレベルと同等の再現が出来れば上々でしょう。
やっぱり、聞かなくちゃいけないですよねー……最期の一日に何を行うのか。
「では、残りの一日は……?」
「――我の持つ全ての技術を覚えてもらおう」
うん。やっぱり、そうですよねー……でも、童子切りさんと過ごす時間は楽しいですし――頑張りますか。
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◇ 旧精霊の森(精霊の泉)
ったく、年寄りをこんなにも働かせるなんてとんだギルド長だよ。まったく。まさか組合証の借りがこんなとこ出回ってくるとはねぇ…。
まぁ、いいさね。今回の事件の原因はさすがにわかったよ。水の精霊に井戸。被害者の分布が比較的大門に近いところから広がっていってると考えればねぇ。
(ここしかないじゃないか。今も精霊が隠れ住むとの伝説が残る湖。)
ここの湖の水はどんなときでも枯れることがない。それだけじゃなく周りの水脈を活性化させていたりもしているのさね。そのおかげであの街では井戸水がメインなのさ。
つまりはだ。街の混乱を狙うならここの湖を狙えばいいって訳さね。呪いと気づかなかったら本格的に不味い状況に陥ってただろうねぇ。
(さぁて、呪いの根元がこの辺にある筈だよ。
―――ほぅら、みつけたよ)
湖の向う側。木の上に一人ねぇ。監視役といったところかい。距離は1キロ近くはあるねぇ。まっ、残念さね。
『そこも範囲内なのさ』
「…っ?!」
ふぅ~、捕縛完了さね。これであたしの仕事は終わりにしてほしいところだよ。
◇水流る海原
そこは命生まれ、流れる場所。冷たき水に包まれる場所。
下には暗き水が流れ、下には生物すらも息絶える。
ここに精霊の面影無し。
残るは弱肉強食の因果のみ。
只運命は循環する。
今も水は流れ続ける。