14 再チャレンジ
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急いで空間把握を広げると、いつか見た六人パーティーが階段を降りてきていました。見た感じ、結構苛立っている様子です。特に斧使いさん。
おお、怒濤の勢いでこの層のハイゾンビたちが倒されていってます。鑑定してみるとLvが55~60くらい。んー、すぐに倒されるのも納得です。
ただ童子切りさんもこの一週間でLv70まで上がったんですよね。本人曰く、ぼくとの戦いで因果から一時的に外れることができたためレベルが上がったとかなんとか。要するに運営の設定でレベ固定だったのが、ぼくの持つ何らかの効果で変化したってことかな。
まぁ、そんなことはおいておいてですねー。逃げることは出来ないので、隠れるか戦うかしかないんですよ。童子切りさんを囮にすれば、もしかすると逃げられるかもしれませんが……友達を見殺しにはしたくないですし。それにぼくは何回でも死ねますけど、この世界の住人さんの命は一度きりですから。
「ん…、たたかいますかー…」
「…かたじけない。……この借りはいつか必ずや」
「うん、そのときはよろしくね」
んー、やっぱり童子切りさんとは付き合いやすくていいですね。線引きがしっかりしていますし。
あ、リッチさんがやられた。といってもユニークモンスターじゃない限りはダンジョン内に限って同個体は復活するそうですし、大丈夫ですね。
ん、そろそろここに着くかな。
さて、分断されると怖いですけど……人数差的に初手はこっちがとっておきたいかな。というわけで、隠れておきますか。
今回の敗北条件は“童子切りさんの死亡”で、勝利条件は“六人パーティーの撃退または殺害”かな。よーし、がんばります!
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◇ 地下墓地(ガルディア王国領)
くそがっ! …最悪だ。
なぜ俺らがこんな初期の段階で躓かなければいけねぇんだよぉ?!
何が悪かった?何をしくじった?いいや、何一つとして間違ったことはしてないはずだ。確かにβ版よりも多少強くなっていたとはいえ、動きに変化はなかったはずだ。
なら、何故か?
そう、全てはあいつのせいだ。途中で乱入してきたと思われるプレイヤー(青マーカーだから間違いねぇ)。あいつが言うには見た目は人だったらしい、が……かち合ったとしてもソロでパーティーに挑んでくるかぁ?普通。これでも紅蓮の鷹の2群だぞ?今では3群に落ちたがなぁっ!
それにあいつの乱入してきたタイミングに違和感を感じる。なんとなくボスと協力していたようにみえるんだよなぁ、おい?
まぁいい……さすがに一週間もあければあのプレイヤーはいねぇだろ。
「おい、おめぇら……今回こそ勝つぞ。準備はいいな?」
「了解!」「当たり前だぜ」「はいよ」「わかったわ」「もちろん」
はぁ、こいつらには申し訳ねぇな。ここまで前線から落ちても、わざわざついてきてくれてるしよぉ。こんな俺にはもったいねぇほどの人と成りをしていやがる。
「じゃあ、行くぞぉ!」
* * *
相変わらず強そうなやつだなぁ、おい。前回よりも圧が増してんじゃねぇか?あれ。
「リーダー。ボスのレベルが70と前回から20も上がっています」
おいおい、マジかよ。余裕を持たせるために上げてきたレベルの意味がねぇじゃねえか!こりゃあギリギリの戦いになるかもしれねぇなあ……が、ここで停まれば良くても4群落ち。最悪クラン脱退までいくかもしんねぇ。そうなればこのパーティーはよぉ……。
―――情けねぇなぁ……
「よく聞け、おめぇら。こっから少し進めば*ボスの認識範囲……つまりボス戦が始まる。
……もし………もしもだ。これで俺らが負けてよぉ、脱退になったとしても―――また一緒に遊んでくれるか?」
「「「「「もちろんっ!」」」」」
「…!―――あぁ………陣形を整えろぉっ!」
(ほんとに俺はいい友を持ったようだなぁ……)
なぜここまで不安になっていたのかはわかんねぇ。ただ……もしかすると俺はこのときから既に、負ける雰囲気っていうのをなんとなく感じ取っていたのかもしんねぇ。
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んー、入ってきてから動きがないんですよね。あの六人組。作戦会議かな?むぅ、空間把握を広げれば聴けるのになぁ。ただ魔法の類らしいですし……魔法使いの職にある人には気づかれやすいみたいです。《魔力察知》というスキルがあるとかなんとか。そんなこと言ったら、ぼくなんて魔力100%の生物ですから余計に気づかれやすそうですけども……今のところ気づいたそぶりはないですねー。
とりあえず、前回光魔法を使ってきた方を最優先で倒しておきたいところです。六人組さんもレベルが上がってるみたいですけど、ぼくもレベ50台には乗っているのでそこまで開きはないはずです。スキルの数も大幅に増えましたし。
「――――――陣形を整えろぉっ!」
んっ、動き出した。ここを狙ってもいいんですが、後のことを考えると完全に陣形が固まったところが狙い目なんですよねー。ぼくがいるなんて思ってないようですし、ね?あ、固まったみたい……。
まず最初にすることはスキル《影化》を使って影の中に入ります。実はここの地下墓地って全部が影判定なんですよ。なんというか、天気が曇りの日の時……みたいな。もう少し暗いですけども。特訓の時に初めてここを肉眼で見たんですよねー。だから最近まで気づかなかったのですが……。あ、奥の幻想墓地は明るかったです。
次は影の中に入りながら魔法を使います。といっても全身を影の中にいれると魔法が影の中で発動しちゃうので、指だけ出しておきます。
使う魔法は《幻惑》。これは生物を対象とするとレジストされやすいみたい。ただ、空間に作用すればレジストはされないんですよー。イメージとしては……空間に、存在していないものを投影している感じになるのかな。
でー、投影するものは“霧”です!薄くもなく濃くもない程好い霧です!
「なんだぁ?……こいつはぁ霧か。こんなステージギミックあったかぁ?おいっ!まだ認識範囲を踏んでねぇよなぁ?!」
よし、これで舞台は整いました。後は倒すだけです。
といってもまぁ、既にぼくは六人組の最後尾、光魔法使いの影の中に移動済みなんですよー。後は童子切りさんに合図のメールを送りまして…。
『ガアァァァッ!!』
「なにぃっ?!いつのまに範囲を踏んだんだぁ!くそっ!霧で見えねぇっ
気づかれたんなら仕方ねぇっ!行くぞぉ!」
……そう。この時を待ってたんです。一番ぼくの存在が隠れるこの瞬間を。
おそらくこの六人組さんは戦闘経験をそこそこ積んできています。となると、陣形が整っていて倒すべき対象やその手札について詳しく知っている。そんな好条件で先制を取られたとき……逃げはせずに立ち向かいますよね。
尚且つ…後がない状況で、互角の戦いになりそうだと判っていたとしたら?……取られた分を取り返そうとしますよね。そこに、これがゲームという意識があれば尚更です。
六人組さんがもっと戦闘経験を積んでいて、慎重な性格だったなら、霧が出てきた所で退いていたんだと思います。ですがプレイヤーが死ぬことはないんです。なら、慎重さや臆病な性格なんてものは無くなりますよねー?
ん、案の定前衛組は童子切りさんのところへ、魔法使いさんたちはこの場で魔法の準備を始めてますし。一応前回のことを踏まえてか、魔法剣士さんは魔法使いさんたちのそばで構えているんですけどね。まぁ、前と横を警戒してるだけなので問題はないはずです。
影の中で自分に魔法の《幻霧》を使い、スキル《隠密》を使用しつつ光魔法使いさんの真後ろに出て首を搔っ切ります。スキル《不意打ち》とExのパリィダガーがあれば人の首の肉や脈くらいは断ち切れちゃうのです。
光魔法使いさんが崩れ落ちる音をたてる前に、少し離れたところにいる魔法使いさんを《ブラッドオペレート》を駆使して殺害。これは込められた魔力が霧散しない限りは残り続けるから、いろいろと使い勝手が良いんですよね。それにこのスキルはぼくの血を操るけど、この血だって結局は魔力で再現されたもの。ということは、理論上この血を骨並みの固さにすることだって可能なわけでして…。
崩れた音に気づいて振り返ろうとした魔法剣士さんも同様に、極薄に広げた血の刃を飛ばして首を撥ねました。
うん、これでぼくの役割は終わりですねー。ふわぁ~……あ、TFOの中でもあくびって出るんですかー……初知りです。
よーし、後は童子切りさんが倒すのを待つだけです。
と、思っていたんですけど……
「くそがあぁぁっ!またお前かぁっ!あ"ぁ"ン?ふざけた真似してくれてんじゃねぇぞぉぉっ!!」
斧使いさんがものすごい形相でこっちに向かってきているんですよ。一応幻惑で出した霧に自分にかけた《幻霧》、スキルの《隠密》等々は解いていないんですが……間違いなく、ぼくの方へ向かってきてますよね、これ。
「喰らいやがれェェっ《地裂撃》っ!!」
後ろに飛び退いた直後に大きな地揺れが起こったんですが……って文字通り地面が裂けてますし。どんな威力してるんですかこれ。
「お前のせいでっ!お前のせいでぇぇっ!」
その斧って両手持ちのはずでしたよね……なんで片手で振り回せてるんでしょうか……驚嘆ものですよ、これ!
斧の刃に近いところの柄を持ってるせいもあって、振り回す速度も速いんですよね。ただ、やっぱりぼくの姿はハッキリとは見えてないみたいです。その証拠に、縦斬りはしてこないですし肩口から下しか狙ってきませんから。
それでも、攻撃を避けたりパリィダガーで流したりするので精一杯なのですが……もちろん、パリィなんて攻撃が重くて出来たもんじゃないです。相手の獲物が剣系統ならできたと思います、はい。あっ…こ、これは言い訳じゃないですよ?…。
んー、このままではジリ貧です。ということは、ここは一つ勝負に出るしかないのかも。
よくよく見れば、どこかこの斧の使い方に一定の法則があるように見えるんです。なんというか、型があるみたいな~?時々不自然な体制からの攻撃があるので確実とは言いがたいんですけど……あと数歩で壁に当たるから……。
「あっ……」
「ここで死ねやぁァアっ!!」
ぼくの胴体を切り裂かんとする、重く鋭い横薙ぎ。
それをぼくは
―――避けなかった。
「いよぉっしゃぁあ!!」
仕掛けるなら、ぼくを倒したと油断している今。
膝をたたみ前方へ……斧使いさんの頸動脈めがけて跳ぶ。
「っ?!狙いが丸わかりなんだよぉっ!」
ただ、ベータテスター且つ前線クランの二軍を務めていたリーダーが弱いはずがないんですよ。
といっても、情報のない存在であればこその対処できない技があるんです。所謂“初見殺し”というもの。この場合は、ぼくが囮で本命はこっち。先程使った血の刃×2
(挟み撃ちです。)
「――グッ………すまねぇ……おめぇら…」
ぼくを斧の柄でぎりぎり弾き飛ばしたものの、後ろから迫っていた血の刃で脚をやられて、直ぐにぼくの後ろから追従していた血の刃で喉を裂かれた。それでも喋ることが出来るのはプレイヤーだからなのかな。
死亡判定をされて光の粒子になって行く途中、斧使いさんの目には涙が流れていた。
斧使いさんが倒れて少し、童子切りさんの方も無事片づいたようです。今回もなんとかぼくたちの勝利でおわることができました。――よかったぁ~…。
※ボスの認識範囲とは、一部のボスモンスターにかけられている制限のことです。この範囲を越えない限りは自主的にボスがプレイヤーを襲うことはできません。しかし、認識範囲外からのプレイヤー側の攻撃は無効化されます。