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13 帰郷?


 朝です。


 あの一件の後、ヴィンさんの『あんたはもう寝ときな』の言葉に甘えてログアウト。習慣になりつつある体幹トレと柔軟をした後、シャワーでさっぱりした。軽く汗を流したあとのシャワーって気持ちいいですよねー。あとはそのままマイ布団にレッツゴー。


 で、目を覚まして現在に至ります。んー……二度寝しようかなぁ。睡眠こそ最大の欲求ですよね!というわけで、おやすみ~……。



  *  *  *



「んんぅ~……んはぁっ~……よく寝た」


 ん、やっぱり二度寝って最高ですー。このままずっと寝るのもいいんですけど、そろそろ13時になるので店に入らないとですね。……お客さんは来ないですし、ぼくの試行錯誤する時間になってるんですけど…ね。

 ん、ログイン開始です。




「ん?……なにか置いてある?」


 部屋(ヴィンさんが貸してくれたぼく用の部屋)の机の上に紙があります。重しつきで。

 どうやらガルディア王国文字で書いてあるみたいですね、これ。と言っても内容は簡単で

『あたしはしばらく家を空けるよ。だから店は閉めときな。まあ、あんたが品物を作れるんなら開けてもいいさね。』

とのこと。


 んー、ぼくが文字読めなかったらこの置き手紙の内容も分かりませんでしたよね…。いまでこそ他プレイヤーも少しは読めるようになってるみたいですが、言語はガルディア王国文字だけじゃないみたいですし…なまじ発声した言葉は全て勝手に自動翻訳されてるみたいで、どの言語を話してるのか分かんないのがたちが悪いですよ、ほんとに。設定でもoffにできないですし。


「んー暇な時間ができちゃいましたし……里帰りでもしてみますか!」


 ということで久しぶりの幻想墓地に参りましょー。




  *  *  *




「うわぁ……なんでしょうか、この光景は…」


 幻想墓地に行く前の地下墓地1層目に入ってすぐのところで、強そうなゾンビがわらわらしてた。

 鑑定すると全部ハイゾンビ。レベルは平均35くらいの。なんでこんなことになってるんでしょうか…。

 あ、なんかぼろぼろのマントを着たミイラみたいなのが前に出てきました。


「おおっ……我らが主よ…よくぞ帰還なされました…ささっ…こちらへ」

「え、あっ、うん。」


 んー、わらわらいたハイゾンビたちが大分古くなった駕籠をもって待機しているんですが……あ、乗ればいいんですか……わかりました…。


 ところで、話しかけてきたミイラさんは鑑定によるとレベル50のリッチのようですが、いつのまにリッチさんは生まれたんでしょうか。なんだか見ないうちに、大きく変わっているようです。


「あのー……どうしてリッチさんたちはここまで優しくしてくれるんでしょうか…?」

「何を言っているのですか!我らが主よ。主に仕える私達は謂わば臣下。臣下たるもの主をお支えするのが使命でございます!」


 な、なるほどです。でも……使命感からくる関係はちょっといや…かなぁ……優しくしてくれる気持ちは十分うれしいですし、ありがとうと思うんですけどね。


「では、ぼくはここのゾンビさんたちに何をすればいいでしょうか?」

「まさかっ。主が安全にいてくれるだけで私達には十分でございます。」


 んー…無償の優しさは……ちょっと、怖いかなぁ。


「いやはや、前回主が外出なさるときもお出迎えをご用意したかったのですが……なにぶん統率者のいないハイゾンビは本能的に動いてしまいますので……」


 ということはこのリッチさんがゾンビさんたちの統率者にということですかー。なら童子切りさんは統率者には該当しないのかなぁ…。


 駕籠の中はぼろぼろの見た目に対して意外と小綺麗に保たれてました。なんとなく魔法の気配がするから、たぶんきれいに保つ系統の魔法があるのかも。

 あ、外の様子は目視ではわからないので空間把握をオンにしてます。んー、ここでさんざんお世話になった空間把握がまさか魔法の一つだとは思いませんでした。そういえば精霊の子と対峙したとき、“鑑定も混ぜた”ってヴィンさんが言ってましたけど……鑑定ももしかすると魔法の1つなんですかねー?

 スキルは全部魔法?……いやいや、そんなまさか………今度調べてみます。



 二層三層と降りて、六層に辿り着く。隠し道の前で駕籠を降ろした。

 

「ささっ、つきましたぞ我らが主。この先私達は入れないので存分にお体を休ませてくだされ!」


 おぉー、今ならわかります! この入り口、どうやら魔法で隠してたみたいですねー。幻系の魔法なのかな。ぜひとも童子切りさんに聞いてみましょう!


「お久しぶりです。童子切りさんは元気にしてました?」

「……。」


 んー、少し悩んでる?あっ、縦に頷いた。よかったー、元気にしてたみたいです。


「……友よ。我ら不死たる者に元気という概念は存在するのだろうか。」

「んー、精神的なものならあると思います……たぶん?」

「なるほど、精神的なものとな。」


 いくら体は死ななくても自我が存在する限りは精神的な疲れはありますし。まー、精神的な疲れを無視することはできますけども。

 そうそう、さっきの隠す魔法について聞かないと。


「あの入り口を隠している魔法は童子切りさんが発動したものなんですか?」

「……ついに魔法に気付いたか。その解には是と言うべきであろうな。」


 おぉー!けど、なんで“ついに”なんでしょう?


「友以外にここを訪れた者は皆、偶然か情報の暗記でしかなかった。故に仕掛けに気づいた者は友が始めということだ。」


 なるほどなるほど!でも童子切りさんの魔力の色は無いんですよね……あっ、もしかして無の属性なのかな。あの魔法。

 それならぼくも使えるかも!……でもどうやるんでしょう?魔法は想像力でなんでもできるってヴィンさんは言ってたけど……魔法陣が存在するということは、少なくとも法則性があるということですし……ありますよね?


 ためしにイメージだけでやってみますかー。


 ―――おぉっ……おぉー?……んー、空間把握で見る限りはなんかもやもやしてる…。

 あれー。イメージだと、自分は透明化して他の人からは別のものに見える…という具合にしたんですけども…。魔法の技術不足とかかなぁ。


「………。なるほど。友はおぼろげならぬ魔の才を持っているようだ。まさか魔力の分解すらせずに新たな魔法を作るとは。」

「あっ……色を分けるの忘れてました…」


 そうだったー!童子切りさんの魔力は無属性のみ。だから無属性だけにしないといけないんでした。魔力を色分けして、もう一度。


「おぉー。できましたよ、童子切りさん!やりましたっ。」

「……。5年掛かったのだがな。だが、まだ無駄な消費が多い。想像力だけでは使用魔力に徒消が出るぞ。もっと魔の理を知るのがいいだろう。」

「魔の理を知る……ですか?」


 確かにドラ○エとかで、MPがどのように作用して魔法が発動してるのか~なんて考えたことはなかったです。……あのMPってどのような働きをもってたのかな。ぼく、気になりますっ。


「……我も長く生きてきた。魔の理を少しだが教えることも可能だ。なに、救命の恩はしっかりと返させていただくぞ。」

「ん!教えてくれるんですか?」

「……あぁ。何時ほどここに泊まられるか?」

「んー……では一週間程でお願いします。」

「……御意。」





  *  *  *




 んー!長いようであっという間な一週間でした!

 正月の次の日にお祖父さんとお祖母さんが帰ってきたので、その日はゲームをせずみんなと一緒にのんびり過ごしました。普段は職場に近い県外で暮らしてるからなかなか帰ってこれないので、一緒にいられる時間はたまにしかないんですよ。なのでこういった時間は大切にしていかないとですね。実は両方とも結構なお偉いさんで、本人曰くまだまだ現役だ!とかなんとか。

 翌日の早朝にはお祖父さんもお祖母さんも家を離れました。もっとゆっくりしていってほしいんですけど……チトセのためにここまで身を粉にして働いてるので、本当に感謝しかないです。


 TFOで魔法の修練をし始めて6日目には、ついにチトセの通う高校で始業式が行われた。明日からは通常日程で授業が始まるそう。


 ちなみに、魔法の使い方だけを教えてもらってる――なんてことはないです。せっかくパリィダガーを持ってるので、その扱い方とかも教えてもらいました。コツとしては目と頭を使うことで、全体をぼんやりと見つつ、重心の位置・筋肉の動き・構え等を一瞬で確認して攻撃を予測することが大切だ、とのこと。後はその予測に合わせて、相手の武器を滑らすか弾くか、または壊すことも可能みたいです。

 ちなみに空間把握は全体を俯瞰するので今はやめた方がいいとのこと。あくまでも目の使い方の練習みたいです。

 でも5日目には目を使いながら空間把握も使用できるようになったので、解禁させてくれました。そのお陰か童子切りさんのそこそこ本気の攻撃をパリィすることができるようになりましたー!

 まー……空間把握を切ると、ちょっと本気の攻撃をパリィするので精一杯でした、はい。それでも身体能力は悪くないそうです。きっと種族補正が高いのかも。吸血鬼ですし。

 ちなみに、いずれは五感を使わずに気配だけでパリィできるそう……そんなのはもう人の領域じゃないですよね…。


 そんな練習をしていたからかなぁ、習得可能なスキルに《短剣術》というのが出てきました。けど、童子切りさんはその系統のスキルはとらない方がいいって言うんです。理由としては”身にならないから”とのこと。

 あ、もちろん習得しませんでした。なにせぼくよりも童子切りさんのほうがTFOの世界を知っているわけですし。それに、ここまでよくしてもらってますし。

 出てきたスキルをとってもいいかわからないときは、フレンドのメール機能を使ってくれればいいとのことでした。



 そんなこんなで、滞在予定の最終日。いつも通りパリィ練習をした後、魔法を習う。正確には魔法というよりも魔力の扱い方ですねー。

 ぼくの身体って魔力100%な訳ですし、扱い方を覚えることは良い体の動かし方を学ぶことと同義らしいです。ちなみにこういうのを魔力生命体って呼ぶそうです。

 つまり、髪や目、骨に内臓、皮膚や筋肉等々、人と同じ性能を持つけどその全ては魔力が再現している。童子切りさんが言うには骨の固さを魔力で再現できるなら他の部位も同じ硬度にすることができる、とのことです。ためしに全身の肉を骨並みの固さにしてみると、固まって動けませんでした。ただ、瞬間的な防御方法としては使えるかもです。髪の毛も好きに伸ばしたり短くしたり、挙句の果てには想像通りに動かすこともできました!散髪屋要らずです!

 他にも魔法を発動する際、魔力がどこにどんなふうに動いているのか。そして、どれが無駄な動きになっていて、どこを動くと最短ルートになるのか等を教えてもらいました。なので覚えた魔法と言えば、体をもやもやにする《幻霧》と物体を別のものに見せる《幻惑》の二つだけなのです。しかし、一瞬でロスなく発動できます!ふふん♪


「いろんなことを教えてくれてありがとうございましたっ。」

「……別に構わない。また教えてほしいことがあれば来るといい。いつでも頼りにしてくれ。」

「うん。これからもよろしくお願いします!」


 お礼を言ってから隠し出口へと向かったそのとき、待機していたリッチの焦った声が響いた。


「主っ!冒険者と思わしき人達が侵入してきておりますっ!私達が押さえている間にお隠れを…なにっ?!もうここまで来ているだとっ?…じ、時間を稼ぐのだあっ!!」


※正月翌日のお話は必要があれば閑話として書くつもりです。内容としては蓮見千歳の視点での家族団欒になります。



◇風凪ぐ草原

そこは命芽吹き、育まれる場所。暖かき風の凪がれる場所。上には草原が流れ生き、下には木々が揺れ動く。

ここで騒ぐは魔物だけ。

いつ囀りが消えたのか。

それを知る人はもういない。

風はまだ吹いている。


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