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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

チートレス転生者の冒険記

チートレス転生者の冒険記外伝 ~ツミビトはバツをのぞむ~

 https://ncode.syosetu.com/n8955eq/

 ↑本編です。これを読んでいただくとよりわかります。



 何が罪で、何が罰なんだろう。

 ずっと、考えてた。


 何が正義で、何が悪なのか。

 ずっと、分からなかった。


 僕は、ずっと、何かを秘めてた。

 凶暴性か、悪魔か、狂気か。自分にも、分からない。


 ただ、一つだけ分かるのは。


 僕は、罪人だという事実(こと)だけだ。


**********


 僕たちは、エンテの町を発った後、ゆっくりと旅をしていた。

 聞けば、王都への中間地点まであと七日はかかるそうだ。まあ、馬車の旅は快適だからいいが。

 そして、一日目の夜。同じテントに泊まることになった友人が話しかける。

「そういえば、あなたって何で転生することになったんですか?」

「ああ、気になる気になる~」

 純也とラビ。若い男子二人である。

「純也には説明したよね」

「そうだったっけ」

「まあいいや。詳しく説明しよう」

 そういうと、ラビが身を乗り出した。

「おっ! ありがとうございま……」

平静(サニティ)睡眠(スリープ)

 僕は、ラビだけを眠らせた。

「何でラビを眠らせたんだ?」

「今から話すことは、異世界人が聞くとSAN値チェックが入っちゃいそうな内容だからね。こういうことは同郷の者にしか話せないよ」

「ああ、そういうことか」

 僕が生まれた世界は、ここではない。僕は、読者の皆さんがよく知る地球、それも日本で生まれ育った人間である。そのことはさまざまな理由で、この世界のさまざまな地域に伝わっている。

 そして、いま隣にいる純也も同じ国で生まれ育ったのだが、彼の場合はそれを知られてはいない。また、諸事情とかで隠している。

「どうせだし、僕の向こうにいた頃のことも話そう。懐かしいな」

「ああ、確か、ヤンキーをやってたんだろ?」

「なんだ、覚えてるじゃないか」

「あはははは~」

「まあいいや。そのとおり。僕は、不良グループの頭だったんだ。話すと長くなるけど、いいかい?」

「ああ。そもそもそのつもりだし」

「じゃあ、語ろう。一年近く前になるかな。2016年ぐらい。僕、血臭(ちぐさ) (ゆう)は、横浜のとある地域を統べる不良グループ“菩殺(ボサツ)組”の組長をしていたんだ――」

「いや、名字がものすごく剣呑だな!?」


**********

 

 僕はヤクザの息子なんかじゃないけど、気はすっごく強かった。喧嘩っ早くて、小学校の頃から気に食わないやつと喧嘩して、舎弟にしてたな。懐かしいことだ。

 そんなこんなで中学生になった頃、その舎弟たちとともに他校に殴りこみにいって、さまざまなやつらを仲間につけていった。

 ヤクザの息子だったり、政界に強いコネクターを持つ高校生だったり、暴走族を丸ごと味方につけたり。

 次第に仲間は多くなり、僕のグループは大きくなっていき、高校生になったときには、自然に巨大不良グループができていた。それが菩殺組である。ちなみに、その名前にした理由は「かっこいいから」である。

 高校は入って一週間で全校生徒を味方につけ、地域の不良たちのほとんどが僕に従うようになった。つまり、それはその町を統一してしまったということだった。

 その頃のあだ名は、「人脈と悪評には定評のある化け物」とか、「無敗の喧嘩屋高校生」など。そのとき、僕は負けた事がなかった。

 僕は、少年漫画のヤンキー主人公のような奴になりたかった。強くて、かっこよくて、やさしくて、人望もある。そんな最高の人間に。

 だから、自分は弱いものはなるべく傷つけなかった。仲間がやってもなるべく咎めていた。

 でも、よく人を殺していた。倒すべき者や、殺したいと本気で思った者などは、何も考えずに殺していた。今考えると愚かなことだったと思う。

 だから、僕は罰を受けた。


 ある日、僕はツーリングをしているとき、とある駅の駅前広場を通りかかった。その近くのコンビニで飲み物を買おうとしていた。

 そんな時、改札の前で知らない男が僕を殺そうと突進してきた。包丁を持ち、そのは先を僕の腹部に突き刺そうとするように。

 僕はとっさにかわした。

「何の用だ。俺は今忙しいんだよ」

「ははっ、そんなの関係ねぇぜ。殺してやる……」

「それは、相手が悪かったようだな! ちょうどいい、そっちがその気なら、俺は全力で殺し返してやろう!」

 そんな言葉の掛け合いをして、僕はその人生で最後になった殺し合い(けんか)を始めた。


**********


「その頃のお前って、今とは口調も何もかも違ったんだな」

「うん。なんか、不思議な気分。そのころのことを思い出してみると、自分じゃない誰かの記憶を思い出しているような気分。でも、それは紛れもなく自分の記憶なんだよ」

「へえ、そうなのか。でも、殺戮形態(ジェノサイドモード)の時ともまた違うな」

「そうなんだよ。それは、僕の罪と罰の末に出来てしまった、禁忌の人格なのだから」

「……」

「では、続きを話そうか」


**********


 すぐに終わると思っていたそれは、意外と長く続いた。

 殴ろうと思えばかわされ、蹴ろうとすれば受け止められ、銃も効かない。

 逆に、僕のほうが追い詰められた。攻撃は大体回避できたが、それでもいくつかは当たってしまう。それゆえに傷がついていた。

 こんなふうに、自分が不利になったことはなかった。

 僕は人に比べ喧嘩の才能はあったらしく、それゆえに負けた事がなかった。

 初めて経験する、“追い詰められる感覚”。

 それは、僕に焦りと恐怖を与える。

 僕の中の何かが、「早く殺せ」「殺せ」「殺せ」と、急かしてくる。

 避け、かわし、殴り、空振り。蹴り、屈み、銃を出し、撃ち、しかし受け止められ、だが果敢に攻め入ろうとする。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

 僕は、何かを吹っ切った。

 普段の戦いでも、こんなにはならない。

 限界まで追い詰められて……恐怖に押しつぶされて、初めて全力が出る。

 だが、相手はプロフェッショナルだった。

「死ねェェェェ!」

「お前がな」

 通り魔、つまり“殺す”ことに人生を費やした人間。

 対する僕は、“戦う”ことには慣れていても、それは、あくまで“殺す”ためだけのものじゃない。

 つまり、“殺す”事に関しては、相手のほうが一枚上手なのだ。

 包丁が僕の首の皮膚を切り裂く。

「ウァァァァァァァァァァァァァッッッッ」

 その痛みに、思わず叫ぶ。

 僕の命が尽きる、カウントダウンの始まりだった。

「フフフフッ。ついにっ! ついに僕はっ! やるっ! 殺せる! この町を支配したっ! 闇をっ! この手でっ! 殺せるゥゥゥッ!」

 高ぶったかのように笑う、通り魔。

 殺すなら、今っ!

 首から流れる血を気にも留めず、腰から銃を抜き、撃つが。

「無駄」

 その銃弾はあっさりと受け止められる。

 そして、僕の腹を殴る。僕は、簡単に飛ばされて、地面に伏す。そのときに、銃を手放してしまった。

 通り魔は、僕が落とした拳銃を拾い上げ、少し微笑むと、残酷なことを告げる。

「ははっ。ならば、これを使って殺すとしよう。どうだ~、自分の獲物でやられる気分はよぉ~」

 挑発するように言う通り魔。

 ああ、皮肉だな。僕が一番使った武器で殺されるなんて。そんなふうに思った。

「じゃ、そろそろ死ね」

 彼は、指で十字を切って、それから銃を構える。

 Bang

 銃が撃たれる。

 その音は、町の人々を動揺させ、警察を呼び、通り魔の彼をさらに昂らせ、僕を殺した。

 胸に一発。僕の意識はその瞬間に切れた。

 即死だった。


**********


「……壮絶すぎる」

「そう? この世界では結構普通だよ?」

「そうかもだけど……。でも、むこうでこれは……」

「平和な日本がうそみたいだね。でも、実際にあったことだから(※この作品はフィクションです)」

「マジか」

「マジ」

「すご……」

「じゃあ、続きを語るとしようか」

「まだ続きがあるの!?」


**********


 こうして僕は死んだわけだが、次の瞬間、なぜか別の所で目覚めた。

 僕は、びくりとした。

 正直、負けたけれども死んでよかったと思っていた。負けても生き続けられる自信がなかった。負けたことで、もう組織のリーダーではいられなくなる……。組織の恥さらしになるくらいならば、死んだほうがいいと思った。

 だが、何故目覚めたのだろうか。ここは地獄だろうか、もっとひどいどこかだろうか、と考えた。天国に行くだろうと言う楽観的思考はない。

 しかし、その白い部屋には何もなくて、代わりにひげを長く伸ばした老人が立っていた。

「やあ、君が、今回の死者か」

「誰だ」

「自己紹介がまだだったのう。わしは、冥王神ハデス。転生関連の仕事をする神じゃ」

「ハァ? 転生? そんなのいいんで、早く俺を地獄でも何でも連れてけ」

「そういうわけには行かぬのじゃ」

「どうして行けねえんだよ」

「お前さんは、罪を犯しすぎたのじゃ」

 その神の説明を要約する。

 生前と同じ体で転生する人は、この二種類に分けられる。

 一つは、その世界に必要とされた者。その世界を救ったりする。

 もうひとつは、あまりにも多くの罪を犯した者。それを償うための“罰”として送られる。

 僕は前者ではなく後者だったらしい。

「どうしてだ。どうして、死んでもまた生きなくてはいけない!?」

「それが、罰だからじゃ」

 僕は辛かった。死ねばもう生きることでは苦しまないと思っていたから。だが、受け入れるほかにない。

「……最後に、俺が死んだ後の組織の様子を教えてくれ」

「分かったぞ。……お前さんの葬式後、組織は自然分解。そこから分かれた不良グループや暴力団が互いにいがみ合って暮らしておる。悲しいことじゃの。ちなみに、組織の大体の人間は通り魔ごときに負けて犬死にしたお前さんを嘲笑っておったわい」

(そんなこと望んでいなかった。死ぬ前に跡継ぎを見繕っておけばよかった。あと、俺の人望は大体薄くて、何かあればすぐに砕けてしまうものだったんだな。俺が目指していたものとは正反対じゃねえか)

 後悔すれども、もう遅い。すべては、自分が積み上げたものの結果。受け入れるしかない。

「お前さんは、この世界で暮らすことになるが、その際にこのような能力を得る事ができる。さあ、この中の一つを選びなさい」

 手渡された二枚の紙のうち一つには、その世界を説明した文が載っていた。見た感じ、ソー○ワー○ドやドラ○ンクエ○トに似たような、王道ファンタジーな世界観のようだ。

 もう一つには、何かの一覧表だ。今この神が言っていた“能力”とやらだろう。僕は適当なものを選んで、「これで」と言う。

「超魔力、か。それで良いのかな?」

「ああ。かまわねえ」

「では、その場所から離れるでないぞ」

 床には、さっきまでなかったはずの模様が描かれていた。

 丸になにやら謎の文字に様なものが書かれていて、その中には幾何学模様が描かれている。

 その模様は回り、そのうちに光り始める。

 そんな不可思議な現象が起きているが、僕はそれを気にも留めず、ただ無心になっていた。何も考えず、それを見ているしかできなかった。


**********


「僕は、罪人としてこの世界に来たんだ」

「へえ。というか異世界転生のときって、そんな事が行われるんだな」

「え、そっち? あと、

 まさか経験してないとか?」

「何かされてたとは思うんだけど……。そのとき、俺は発狂してたからなぁ」

「クトゥ○フ神話かい?」

「違うよ! リアル発狂してたんだよ。死んだときのショックで。そのせいで、その時のことは何も覚えてないんだ」

「じゃあ、続きを話そう」

「話を聞かないんだ!?」

「あのあと、目覚めると僕は異世界の大地に立っていた。でも、僕はまだこの世界の恐ろしさを知らなかったんだ――」


**********


 僕はとにかく歩いた。町を目指して、前へ。

 まずは飲み水の確保、食べ物の確保、いろいろとやらなくては。

 そう思いながら歩き続けた。

 そうすると、突然目の前に謎の生物が現れた。

 スライム状の生物、というか、スライムそのもの。RPGではよくいる雑魚敵である。

 僕はそれを殴って倒そうとした。それを食べればとりあえずは生き延びられると思って。

 しかし、確かにそのゼリー状の体の中心を狙って放ったその拳は――


 つるんっ


 かわされてしまった。人間にはありえないようなスピードで。

 もう一発拳を放つが、それもかわされる。人間との戦いではそんなこと無かったのに。

 僕は、人間同士での戦いしかした事がなかった。向こうでは狩りなどする必要が無いのだから、当たり前のことではあるのだが。

 それゆえに、そのほかの生物がどれだけ強いかを知らなかった。

 こんな生き物は向こうの世界には存在しなかったが、考えても見れば、僕は熊などのほかの生き物も倒せるに違いないと慢心していた面もあった。

 それが、これを引き起こしたのだろうか。

 僕はスライムに体当たりされて、押し倒される。

 明らかな殺意。これは人もこいつも変わらない。殺そうとしているんだ、こいつは、僕を。

 それを自覚したとたんに、スライムを殴り飛ばしていた。僕の体にしがみついているところで避けられなかったらしい。

 間一髪で助かった。

 落ちてくるスライムにもう一回拳を振るう。今度は空中にいるから避けられない。

 スライムはぐしゃっとつぶれて溶けた。死んだようだ。

 殺した。苦戦して、勝った。そして、潰した。

 その快感は、すべてを忘れさせた。

 それから、僕はどんどん歪み始めた。


 それからしばらくして、町に着いた。

 スライムの死骸から出てきた小銭を使って食べ物を買い、水を汲み、寝床(となる路上のスペース)を確保し、寝る。その程度の理性はあった。

 翌日、近くにいた女に「日銭を稼ぐなら冒険者が良い」と教えてもらい、冒険者登録を行った。

 初仕事は、スライムの討伐。

 その前の日と同じように、素手で殺した。昨日よりもコツがつかめていたようで、すぐにこなせた。

 殺したときに味わう快感は、ほかの人間からは狂気といわれるそれと化し始めていた。殺すことが、楽しくてたまらなくなっていた。

 そんなことを繰り返すこと、10日。

 スライムじゃ足りなくなっていた。依頼の5倍くらいは狩っているというのに。

 なので、別のものを殺すことにする。ターゲットは、ゴブリン。

 やつらを殴ると、人間みたいな音がする。

 骨が折れる音、肉が潰れる音、そして、死を恐れる悲鳴。

 それを聞くのが楽しい。絶望に陥れるのだ。じわじわと、責めるように、少しずつ、まるで拷問のように。

 日に日についてくる力。それとともに、狂気に染まっていく。

 殺せ、殺せ、絶望、すべてを、陥れ、壊せ、すべて、周りを、すべてを、自分さえも、破壊せよ……!

 そんな声が自分の内側から出てくるのを感じた。

 ずっと守り続けてきた何かが、あふれ出すのを感じた。


**********


「アレ、どんどん雲行きが怪しくなってきたぞ?」

「そう、闇の人格が形成され始めたんだ。初めての敗北によって狂気が生まれたんだよ」

「え? クトゥルフ神話?」

「いや、現実でSAN値がピンチだったね。名状しがたい暗黒の闇のようなものが憑依したような気分だったかな」

「どんな気分だし」

「ニャ○ラトポテフ様~(笑)」

「クトゥルフ神話か(笑)」

「じゃあ、話を続けよう。どんどん狂気に飲まれていった僕は――」


**********


 僕は、どんどん強い魔物に戦いを挑んでいった。

 それだけなら、まだよかったんだ。

 しかし、二ヶ月ほどたったある日、ついにやってしまった。

 その頃の僕はもうすでに理性が薄くなっていた。人間としての倫理観が薄れてきていた。

 そう。


 もう一度、人を殺したのだ。


 何のことはない。ただ、人を殺してほしいという依頼を受けたから、殺した。それだけだ。

 おびえる相手の顔を見て、絶望する人間を見るのはやはりいいと思った。

 命を奪う瞬間、僕は快感。感じたことの無いような最高の気持ちになった。

 そのときからの記憶は、薄くなっている。

 ただ、その頃から快楽殺人を始めていたのは確かだ。

 殺して、奪って、潰し、絶望を、与える。時にはじわじわと、時には一気に。

 一般人も、冒険者も、幼い少女でも、骨ばかりの老人も。気にせず、殺して回る。

 僕は、殺人鬼だ。連続殺人犯。治安維持のための衛兵に追われ、その追ってきた兵士も殺す。そんなふうに、殺しまくった。

 そんな僕にはもう理性なんて存在しない。あるのは、ただ理性を包む狂気と、誰に向けるでもなく針山のように全方向に向けている殺意。それだけだった。

 町を巡り、殺しては、殺し、殺す。そして、いつの間にか別の町に行き、また殺し、殺す。

 時々理性が戻ってくる瞬間がある。そのとき思う。


 僕は、罪人。裁かれるべきもの。


 そして、夜が更ければ元の狂気に戻る。また、殺す。

 旅の途中で悪魔を従えることになる。その時のことはあまり覚えていない。

 そんな事があったからか、いつの間にか、冒険者の間では“悪魔憑きの狂戦士デモニック・バーサーカー”と呼ばれるようになった。


 異世界に転生してから半年が経った。

 その日は、大人数の人間が争っていた。戦争だったのだろう。

 それを見て、こんなふうに思った。

(これは、いっぱい殺せる。蹂躙しよう)

 僕が得たチート能力は、超魔力。無限の魔力を操り、果てしなく強大な魔法を使うことができる能力。それを使えば、いとも容易く国を壊滅させることもできる。

「闇の炎に抱かれ消えろ――」

 その膨大なマナを操る。そのための詠唱をする。

「――黒炎すべてを蹂躙し――」

 詠唱は続き、次第にその大魔法の全容を誰もが見る。

「――破滅への道しるべとなり――」

 人々は敵味方関係なく逃げ始める。だが、もう遅い。

「――絶望を呼べ!」

 強大な黒炎が辺りを包み――

終末の(The end of)獄炎(hell flame)!」

 爆ぜる。

 絶望は、全てを支配する。

 圧倒的破壊。破滅。敵味方関係なく、破壊されつくす。

 その中で、ただ一人(わら)う者がいた。

 それが、僕だった。


**********


「いや、やべぇぇぇぇぇぇ!」

「そのときのことはそんなに覚えていないんだけどね」

「断片聞いただけでも恐ろしいよ!」

「向こうでも警察は役に立たなかっただろうね。シティーハ○ターの冴○ 獠だったらどうにかしてたかもだけど」

「……正気? 君、正気?」

「さあ?」

「……あぜーん」

「なにその謎の名状しがたい擬音的な何か」

「さあ?」

「じゃあ言わないでよ……」

「もう眠い……」

覚醒(アウェイクン)

「……はっ! ……ん?」

「話を変えるのが急だね。まあいいよ。もうそろそろ僕の話も終わりだよ。それから僕は――」


**********


 僕は、あのあとしばらく放浪した。理由など無かった、と思う。

 しかし、あれ以来は殺すことが少なくなったのは確かだ。飽きたから、だろうか。多少は殺していたが、それでも明らかに回数が減った。対して僕の理性が戻る回数が増えていた感じもする。

 後から知ったことだが、僕が強力な大魔法を使って蹂躙したあの戦いはやはり戦争で、僕が大虐殺したことで兵士がほぼ全滅し、戦力が大幅に減った両国は戦争の継続を不可能と判断し、多少のいさかいを残しつつもひとまずの終結をしたそうだ。

 つまり最終的に僕が戦争終結の立役者となったわけだが、世間は僕のことを最強のテロリストだと認識したらしい。

 この地方の大体の国の、ほとんどの町の警備が強化され、捕まるのは時間の問題となった。

 それから程なくして、ある人物に呼ばれた。

 その頃の僕はもう今のようにしおれていた。あの頃の面影など見る影もないほどに。敬語まで操れるようになっていた。

 僕を呼んだ人物は、森の奥にあったいかにも魔女がいそうな小屋でタバコをふかしていた、くたびれた30代ぐらいの女だった。

「なんですか」

「おや、だいぶしおらしくなったじゃないか。ユウ」

「あなたは――……誰ですか?」

「ははははは! あたしだよ! あたし!」

「だから、誰です?」

「ああ、まだ会ったことはあっても自己紹介はしてなかったな。あたしは魔女だよ」

「本名は?」

「……それは、明かせないねぇ。ただ一つ言えることは、あたしはあんたと同郷の者という事だけさ」

「じゃあ、かつて僕とはどこであったんですか?」

「ああ、あたしは、半年ほど前あんたが最初にいた町で少し会話をした女だよ。覚えてないかい?」

「ああ、僕に冒険者になれと助言したあの人ですか。あの時はどうも」

「いいさ。ところで、お前にちょっとやってほしい事があるんだが」

「はい。何でしょうか」

「あたしの実験に協力しろ。これは依頼という形ではあるが、ホントは強制したいところなんだ」

「どんな実験ですか?」

「知らなくてもいいことだろう?」

「いえ、知る権利ぐらいはいくら私でもさすがにあっていいと思います」

「なに遠回しに言っているのさ。知りたいといえばいいことだろうに」

「……私は、裁かれるべきものなのです……」

「何だよ急に」

「僕には、権利など存在しない。生きる権利すらも」

「裁かれるもんにもさすがに基本的人権は……」

「無い。僕は、それすらも踏みにじったのだから。もうすぐ、理性がなくなると思います。そうなれば、僕は望む望まないにかかわらず、また罪を重ねてしまうのです」

「……ああ、その罪の意識に歪み切った性格も直さねーとな」

「え? それはどういう……」

「あたしがこれから行う実験は、人格を封印するものだ。その理性がぶっ飛んだ状態とやらをどうにかするんだよ!」

「はい?」

 僕は、その魔女と名乗る女に何を言われたのか全く理解できなかった。

「だ・か・ら! そのおかしい人格をどうにかするんだよ!」

「どうやって?」

「その人格をお前の中に閉じ込めて出られなくしてやる。そうすれば、万事解決だろう?」

「それができるのなら……」

「できるんだよ。今のお前の状態と、あたしの魔法の技術力があればな!」

「どうやってですか?」

「概念なら説明しただろう?」

「いや、やり方です」

「注文の多い罪人だね。まあ、心優しい魔女様はそんなものにも丁寧に手を差し伸べるのさ。どれ、説明してやろう。話が長くなるけど、いいかい?」

「ええ。僕自身はかまいません。理性が飛んであなたを襲い始めたら止めてくださると幸いでございます」

「おー、こわいこわい。くわばらくわばら」

 そういって、その心優しい魔女とやらはめんどくさそうに僕に一から十まで――魔法の理論から魔法の分類まで丁寧に教えてくださったのだった。


**********


「へー。これ、変わりすぎじゃない?」

「そういうものなんだって」

「いや、いくらなんでもその変わり方は不自然じゃない?」

「そのころの僕は、それほどまでに罪の意識に歪められていた、ということさ」

「じゃあ、その罪をもう作らないようにすれば……」

「もう、その頃には自分の中の殺害衝動は人格を持つまでに成長してしまっていた。それゆえに、その衝動は抑えられなくなっていたんだ。僕が知らない間に、その手は命を奪っていく。罪を作る。自分が何よりも、こわかったあの頃さ」

「……そうなのか……」

「それに、作ってしまった罪はもう消すことはできるはずが無いのだから」

「……」

「さあ、続きを話すとしよう」


**********


 自称心優しい魔女様の懇切丁寧で分かりやすいマンツーマンな連続三日三晩の魔法学の授業が終わり。

「そーれ、じゃあやっと本題に入ろうか」

「疲れました寝かしてください」

「あ~、あたしと寝たいのかね。童貞じゃなさそうだけど、若い精気は大歓迎だよ」

「そんなことじゃないですよ! 普通に……ねむ…………ぐう」

覚醒(アウェイクン)

「んあ? ……はっ」

「目が覚めたか」

「いや、寝たのは一瞬じゃないですか……」

「まだ寝るなよ。まあ、寝れないと思うがな!」

「はあ……」

 そんなふうな感じでまた数日間みっちりとその実験について教えられたのだった。


 そして、これまた鬼魔女にしごかれつつ勉強して数日後。

「もう……駄目……」

「よし! これで全部叩き込めたぞ!」

「やっと、眠れる……疲れた……」

「よし、そう言うお前におよそ一週間ぶりの睡眠をやろう! 存分に寝るがいい!」

「ありがとう……ございま……すう……」

覚醒(アウェイクン)

「はっ……何故ですか~?」

「ここじゃなくて、布団で寝ろ。お前の部屋にあるから」

「それってどこですか?」

「自分で探せ」

「分かるはずがないじゃないですか。教えてください」

「言うようになったじゃないか。ならば、特別に教えてやろう。付いてきな!」

「はい、ありがとうございます」

 僕はそれから数日間眠り続けた。その間に目覚めたかどうかは知らないが、少なくともその数日間の記憶はない。


 数日後、のはず。少なくとも朝ではあった。

「おはようございま……あれ?」

 小屋の中はいろいろと散乱していた。何体かの動く人影のようなものが動き回って片付けている。

「な、なにごとっ!?」

「ヒエッ……! あ、ああ、おはよう……。とりあえず、片づけを手伝ってくれ」

 魔女は、一瞬おびえた表情で僕を見てから、ほっとした様子で僕に手伝いを求める。少しやつれているようにも見える。

「分かりました……。でも、いったい何があったんですか?」

 僕は片づけを手伝いつつ、聞く。

「何って、まさか何も覚えてないのか!? あの三日間の魔法バトルを!」

「……何ですか? それ」

「あ……うん。覚えてないんだったらいいか」

「本当に何があったんですか……」

 その寝ていた時のことは本当に覚えていない。その時のことはいまだに何も聞いていない。

「ちなみに、その動き回っている人影みたいなのって、何ですか?」

「それは式神。魔力固めて人の体のような……まあ、人形みたいなのを作って、それを魔法で動かしているんだ。なあ、簡単だろう?」

「確かに(今までの魔法の授業に比べれば)」

 常人に言っても理解できるはずがあるまい。理解できたとしても、彼らは驚きを通り越して呆れると思う。これはとんでもない精神力と魔力を使うからだ。

 これを製作するのにはいくつかの魔法を何重にも重ねた上で大量の魔力を固めなければいけないのだ。さらに動かすことにも同じことが言える。そのため使える人間はわずかに限られてしまうのだ。さらにこれを何体も同時に動かしているとなれば……「本当に大丈夫なのかな、おばさん。いろいろと」と思ってしまう。

「聞こえてるぞ。失礼な。私の体はまだ30代だぞ。ギリギリだが」

「すみません……。……実年齢は?」

「にひゃ……いや言わせるな恥ずかしい!」

 30代って、充分おばさんじゃないのかなぁ? 実年齢は聞き逃したけど。

 とにかく、これほどに規格外な魔女から魔法のことを学んだ僕はさまざまな意味で強くなっていたのだった。主に知識的な意味で。


 数時間後。

「やっと片付いたな。ありがとう」

「大丈夫ですよ」

「にしても、その“闇の人格”とやらがあんなに強かったのは予想以上だったな」

「どういうことです?」

「体力も魔力も格段に増していた」

「はい?」

「もしかしたら、この人格だと無意識に力を抑えていて、あの体の全力を出せないのかな。だとしたら、無意識下でのあの体の出力は……」

「それはどういう……」

「……拙いな。いろいろ改良しねーと」

「え~と、つまり?」

「よし! ちょっと待っててくれ!」

「え?」

 そういって彼女は奥の部屋に引きこもってしまった。


**********


「なんというか、ほのぼのストーリーが続くな」

「気が抜けてくるかも。まあ、そんなに平和な日常を送っていたんだよ」

「でも、その魔女ってすごいやつだったんだな」

「それはもう」

「どれくらい?」

「国のトップ魔術師の称号を持ってるって言ってたような」

「すげぇな!」

「そーなの」

「……改めて、すごいやつだな」

「さて、続きを話そう」

「このあとってどうなったんだ?」

「そうだな。なるべく思い出したくはないんだけど――」

「無理はしないでネ?」


**********


 それから約二十四時間後。

「よっし調整完了!」

 そう宣言する魔女の大声で目が覚めた。

「おはようござ」

「よし準備が完了したぞ! さあ、早くこっちに来なさい!」

「えっ、ちょっ、まっ」

 バーン、と僕の部屋のドアを開けて侵入してくる魔女。その魔女に手を引かれ、自室からあの謎の部屋に連れ込まれる。そのまま、横に長い、人間が入るサイズの箱のようなものを持ってきて。

「さあ、これに入って!」

「ちょっと!」

「早く!」

「待って!」

「さあ!」

「落ち着きましょ! ね?」

「入れっ!」

平静(サニティ)ィィィィィィッッッッ!」

「っ……! ……はぁっ、はぁ、ふぅ」

 気合と魔力を精一杯込めた魔法でどうにか落ち着かせた。

「で、何ですか?」

「すう、はあ、はあ……。このあたしとした事が、すまねーな。ちょっと急ぎすぎてしまった」

「と、言うと?」

「ああ、やっとお前用の封印具の調整がすんだのでな。思わず深夜テンションではしゃぎすぎてしまった」

「そうなんですか……。お疲れ様です」

 調整する必要があったのか。しかも徹夜で。

「でも、そのおかげでお前の二重人格を完全に治せるかも知れねぇんだ! そうすれば……」

「僕が、これ以上新しい罪を犯すことは無くなる。これまでの罪をこの体で償える」

「そういうことだ。だが……これは確実に成功するとは言いがたい。これはあくまでまだ実験だからな。むしろ成功する確率のほうが少ない」

「そういえば、僕はその実験の被験者第一号なんでしたよね」

 この魔女の弟子(?)をしていた一週間の間にすっかり忘れていた事実だ。僕は、気になって聞いた。

「……もし失敗すれば?」

「何度も話しただろう。忘れたのか?」

「ああ、“自分にも何が起こるかわからない”でしたよね」

「よく覚えてるじゃねえか。じゃあ、そのリスクは?」

「予想されるだけでも多岐に及ぶ。記憶が飛んだり、廃人と化したり、最悪の場合死んだり」

「正解。それでも、やるのか?」

 僕の答えは決まりきっていた。

「はい」

「即答だな。して、その理由は?」

「僕は、もうこれ以上罪を犯したくない。誰かを悲しませたくない。そのためなら、どんな痛みだって受け入れるつもりです」

「……その罪を受け入れ、抱え、生きる。その覚悟が……」

「できています。その結果、苦しみながら死んだって、構いません」

「ああ、分かった――」

 それを聞いて、僕はその棺桶のようにも見える機械の中に入ろうとしたが。

「――その前に、一つだけ言いたい」

「何でしょうか」

「もしお前が生きて出てきて、またその顔をあたしに見せてくれるのであれば――」

 なんだろうか。僕はごくりとつばを飲む。

「その敬語をやめてくれるだろうか。あと、いつも笑顔で生きろ」

 少し難しい願いだ。でも――

「分かりました。がんばります」

「いつもそうしろよ」

「善処しますよ」

「ああ、約束だ。絶対、戻って来いよ」

「はい、約束、します」

 僕は微笑みながら答えた。

「じゃあ、行って来い」

「はい。必ず戻ります」

 また、棺桶のような機械のドアを開け、中に入った。そのままドアを閉めて、目をつぶる。

「お前との数日間、楽しかったぞ。だから、また、その顔を見せてくれよ」

「さっきから言っているじゃないですか。心配しないで」

「ん? 今、何か言ったか?」

 聞こえなかったなら、仕方ない。深呼吸しながら、身構える。魔女が宣言した。

「じゃあ、いくぞ!」

 僕は、頷いた。そして、呼吸を整える。

 そして、地獄の時が始まる。


 いきなり、体の中心を激しい電流のような痛みが走る!

 ビリビリと、バリバリと、殴られるように、刺されるように、撃たれるように、斬られるように、潰される様に、意識を、魂を、肉体を、弾き飛ばし、壊し、中から、爆発させる。

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 長い、永い、悲鳴。それが自分から発せられたものだと気づくのにそれほどの時間はかからなかった。

 目玉も、脳も、体全体がはじけ飛んで、体の表皮が剥げて、その中に入る筋肉も粉々になり、神経を直接潰され、内臓は磨り潰されて、骨すらも砕かれ、あとにはそのグロテスクな余りが残る。それでも終わることはない。永劫かつ究極の痛み、苦しみ、苦痛。

 そこまでの痛みが、僕の体に走っていた。

 “これまでの痛みを味わうなら死んだほうがましだ”と思った時点で、ふと“これが、僕が殺してきた者たちの痛みなのか”と気付く。

 そうか、これが僕の罪の一端。これが地獄。これが罰。

 ならば、その痛みを僕は永遠に忘れない。何なら永久に受け続けたとしてもかまわない。

 誓いつつ、僕の意識は闇へ――――悪魔の住む闇へと堕ちていった。


**********


「おぞましい爆弾球」

「何その表現」

「前回までのほのぼのストーリーは何処へ」

「さあ?」

「で、その実験は成功したのか?」

「僕がここにいる時点でわかるだろう」

「ああ、それもそうだな。成功したんだよな」

「いや、失敗だけど」

「ズコーっ」

「いや、ずっこけるときの音を口で言うそのやり方にこっちは驚きだけどね」

「あ、すまん」

「いいのいいの」

「さて、それはどういうことなんだ?」

「それは――」


*********


 それから。

 僕は無事に生還した。

 しかし、魔女曰く「すまん、失敗したようだ」とのことである。

 何が失敗したのかと言えば、「……すまん、何がおきたかはわからん。理由もだ。ただ、失敗したと言う事実がわかったのみ。少なくとも人格の封印は不完全だろう」とのこと。

 まあ、それでも生きていられたということだけはよかった。

 そして、それから数日間は魔女の家にいた。

 何とか生きてはいたそうだが、心身ともに負担がすごかったようで、あの棺桶のような機械は僕の血でいっぱいになっていて、出てきたときは虚ろな目で何かをつぶやいていたそうだ。そのときも体の節々が痛んでいた。

 そのためしばらくは絶対安静を言い渡された。

 まあ、一週間程度で普通に動けるまでになったんだけど。

 その間、あの人格が出てくることはなかったという。


 そして、二週間ほど経って、身体はほとんど治った。

「今まで、ありがとうございました。お世話になりました」

 そう言って、また旅に出ようとした、そのとき。

「ちょっと待ちな」

 魔女は言った。

「なぜ?」

「お前、魔法のことに興味はないか?」

「え。興味も何も、あの一週間で教えられたことがすべてじゃないんですか?」

「いや、あの時教えたのは概念だけで、全部は教え切れてないんだよ」

「……でも、結構です」

「あと、敬語をやめるって約束はどうした」

「あ……」

「しばらくは帰さねーぞ?」

 そう言う彼女の顔は、少し笑っていた。少しからかうつもりで

「いやですよ。絶対に旅に出てやるんですから」

 と言ってやると、彼女はしゅんとした顔で

「……こっちこそいやだ。絶対に魔法の授業を……」

 なんていう。

 やはり、面白い。

「冗談ですよ」

「何だ……。そんな冗談言うなよ」

「本当は僕にここにいてほしいんでしょ? ばればれなんですよ」

「は!? いや、そんなわけじゃないからなっ!?」

「ふふふ、ツンデレというやつですか? そんなんじゃ本当に旅に出でちゃいますよ?」

「いや、それは待ってくれ! 今から古今東西のありとあらゆる魔法を……」

「ツンデレだね」

「くっ……私をそんなに辱めるぐらいなら……いっそ……殺せ!」

「何? くっころ? じゃあ本当に……」

「やめて! 言って見たかっただけだから!」

「ははははは! それこそ冗談だよ! ははははは!」

「……まあ、それでこそユウだよな! あたしも笑うぜ! ははははは!」

 二人でひとしきり笑ったところで。

「じゃあ、しばらくここにいることにするよ」

「ああ、魔法のことをABCからXYZまで全部教えてやるから、覚悟しろよ」

「そのつもり! 魔女さん、またよろしく!」

「ああ! ユウ、こっちも、よろしくな!」

 握手をして、もうしばしの同居が決定したのだった。


**********


「それが約半年と三ヶ月前のことだよ」

「それからどんなことしたんだ?」

「さまざまな魔法を習ったよ。今、主に使っている回復系や支援系の魔法、さまざまな属性魔術、今では禁忌とされた魔法や、常識では失われたとされるものまでたくさん」

「え……」

「さらには魔法の作り方も習った」

「すご……」

「そうして三ヵ月後」

「さんかげつっ!?」

「僕は旅に出た。そして、当てもなくさまよううちに着実に“回復師(ヒーラー)”としての名前も売れてきて、偶然寄ったこの町でさまざまな厄介ごとに巻き込まれ、今に至りこんな風に仲間と旅をしている」

「……壮絶な経歴をお持ちで」

「聞きたいことはあるかい?」

「そういえば、その実験失敗の副作用ってなんだったんだ?」

「生命力が半分を切ってしまうと理性を失い、元の人格が現れてしまうという呪いさ」

「それがあの……」

「そう、僕が殺戮形態(ジェノサイドモード)って呼んでいるあれさ」

「……今ようやくこの人の規格外ぶりとその理由がわかった気がする」

「それは?」

「そもそもその存在がやばかったんだ」

「あはは。面白いことをいうね。キミの人生もだいぶクレイジーなのに」

「それ言うなら異世界転生者は全員そうだよな!」

「ははは! 果たして、そうかな?」

「なに伏線めいたこと言っているんだ!?」

「ははははは」

 そうして、僕は話を終えた。


「もう、寝ようか」

「そーだな。眠いし。でも、あれ……? 前は刺されて死んだって聞いたけど、本当は撃たれて死……」

睡眠(スリープ)

「むにゃ……」

 純也を強制的に寝かせると、僕はもう一人の僕に話しかけた。

「やあ。元気だった?」

(ああ、俺はいつでも出られるぜ)

「ごめん、出てこないで」

(チッ!)

 そんな風に、僕のもうひとつの人格――むかし悪魔憑きの狂戦士デモニック・バーサーカーと呼ばれたものと会話した。

「そういえば、あの頃が懐かしいよね」

(あの頃って?)

「魔女と暮らしてた頃」

(ああ……。あの凶暴魔女か……)

「今日はその頃の話をしててさ」

(俺の全盛期か)

「そうそう」

(あの頃は荒れてたねぇ)

「そうだね。一日一殺以上は軽くしてたもんね」

(二殺三殺当たり前程度さ)

「あの頃のことはもう忘れたいね」

(楽しかったぜ)

「でも、後悔している」

(そうか……。まあ、そういうやつだからな)

「じゃあ、僕らももう寝ようか」

(まだ話した……)

「もう駄目。睡眠(スリープ)

 自分に睡眠の魔法をかけた。そのとたんにまぶたが重くなり、すぐに意識はどこかに飛んでいく。

 また僕は新しい日に進もう。罪を抱きながら。命を抱きながら。

 僕は、眠りについた。明日を信じて、前に進むために。

 https://ncode.syosetu.com/n8955eq/

 ↑本編です。


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