大晦日 嵐の前の静けさ (2)
大変長らくお待たせ致しました。
2月中に投稿できるか、非常に厳しい状況でしたが何とか間に合いました………ギリッギリでしたが……。
非常に拙い文章だと思いますが、というか相変わらずの下手くそ-な文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
僕達が冠城さんの家に着いたのは、夕方近くだった。
僕と未来は冠城さんに連れられて緑豊かな大邸宅の裏門をくぐり、その立派な門構えの裏門近くにあるという離れへと向かう。
離れとは言っても、建坪五十坪ほどの純和風の一軒家で、立派な造りの建物だった。
しかも、その前庭には大きな池がある。
その離れの脇にはまるで壁のように庭木が植えられていた。
その植木の隙間からちらほら見えるのは、この離れの数十倍はあるのではと思われる立派なお屋敷と幾つかの石灯籠の灯火に照らし出される大きな池と美しく刈り込まれた庭木や立派な石に飾り立てられた美しい日本庭園だった。
そんな母屋と比べると、この立派な建物の離れでも少しみすぼらしく見えるほどだ。
そんな離れの二階にある冠城さんの部屋へと僕達は冠城さんに案内された。
「今、この離れを使っているのは私だけだから、その、二人とも気楽にしていてね。お手伝いさん達はみんな母屋の方へ行っていて、私だけでは色々と気の回らない所もあると思うけれど……あ、そうだ、お茶、今お茶を持ってくるから、二人とも炬燵にでも入って少し待っていて」
冠城さんは余り友達を家に上げたことがないのか、少し動揺しているような話し方でそう言うと慌てたように部屋を出ていった。
・・・僕達を部屋に入れるとき、少し恥ずかしそうにしてたし……当然のことながら異性を部屋に入れるのも初めてだったんだろうなぁ・・・男で冠城さんの部屋に入ったのは僕が初めてかもしれない、と思うと何だか嬉しいけど、恥ずかしくなってきたな・・・
僕はそう思いながら襖が閉まるのを確認すると、炬燵に入り部屋の中を軽く見回す。
・・・これが、女の子の部屋か……何だかいい香りがする・・・
畳の8畳間に勉強机、本棚にベッドに鏡台、そして冬の定番炬燵が置いてあり、それぞれに女の子らしい小物やヌイグルミ等が綺麗に配置され飾られている。
因みに、冠城さんの部屋にはテレビやパソコンといった物は置いてなかった。
僕が生まれて初めて入った女の子の部屋に感動していると、隣からからかうような声が聞こえてくる。
「沙耶香の家って、マスターの家の何倍の広さがあるのかなあ?」
「……お前、それ分かっていて聞いているだろう」
僕の感動に横から水をさしてきた未来に僕は不機嫌になりながら目を向ける。すると、未来は、てへ、と言うように舌を出して見せる。……可愛いなこのやろう。
僕の家は両親ともに外交官で、それなりに裕福な家庭だと思う。
家もそれなりの大きさがある。
だが、上には上があるということを冠城さんちに来て痛感させられた。
もちろん、大金持ちで大邸宅に住んでいる人達はいる、ということは知っていた。
だが、身近にそんな人がいるなんて事は思いもよらなかったし、冠城さんは確かに立ち居振舞いは良家の子女のように凛とした風情はあったが、クラスの誰とでも気兼ねなく接する姿は普通の女の子にしか見えなかった。
・・・現実にこんな大邸宅を見なければ、礼儀作法のしっかりとした普通の女の子だったんだけど……これを見せつけられたら格差を感じざるを得ないなぁ・・・でも、これより凄い屋敷があるってんだから、世の中平等とはいうけれど、全てが全て平等なんて事はあり得ないよなぁ・・・
僕が冠城さんの部屋の炬燵で暖まりながら、そんなことを考えていると「お待ちどう様でした」と冠城さんが戻ってきた。
冠城さんがお茶とミカンを持ってきてくれてから暫く、古いボンボン時計の振り子の音を聞きながら僕達3人は黙々とミカンを食べお茶をすすっていた。
因みに、未来は当然のように僕にくっつき炬燵に入っている。
冠城さんは僕達に向かい合って炬燵に入っている。
その冠城さんの表情には何処と無く不機嫌なものがあるように僕には感じられた。
・・・うん、何だか気まずい雰囲気だな・・・
そう思いながら、何とか場を和まそうと僕が話題を考えていると、僕の隣にいる未来が突然口を開いた。
「沙耶香、創星さんの隣でなく、何でそんなところに座っているの?」と、未来は不思議そうに問い掛ける。
「えっ?!」と、冠城さんが驚いたような声を出したとき、丁度、ボンボン時計が午後6時の鐘を打ち鳴らした。
「えっと、丁度6時だし、軽く食事を済ませちゃおうか。未来ちゃん、その後、着物に着替えちゃいましょう」
冠城さんは慌てて立ち上がりながらそう言うと、「母家から何か貰ってくるからちょっと待っていてね」と言ってそそくさと部屋を出ていってしまった。
その冠城さんの表情は少し恥ずかしげで頬はほんのり赤かったように僕には見えた。……未来、お前はホントにブレ無いな。というか、お前に恥じらいというものはないのか?
そんな冠城さんの態度に未来は関心が無いようで美味しそうにミカンを頬張っている。……恥じらい……うん、君には無いよね。僕も教えた覚えはないし……未来のことだから常識と一緒にそのうち覚えてくれるだろう……そうだと信じたい。
冠城さんがお手伝いさんと一緒に、持ってきてくれた、非常に上品で美味しい食事に舌鼓を打ち、食べ終わった後、冠城さんと未来は振袖に着替えるため隣の部屋へと移動した。
冠城さんは食事を運んでくれたり食後に食器を引き取ってくれたりしたお手伝いさんを部屋に入れようとはしなかった。
・・・恐らく僕の存在を知られたくなかったんだろう。女友達である未来だけならまだしも……これだけの家柄だと付き合う人物について色々とうるさいだろうから・・・それに、家の人に変に勘ぐられたくないだろうしね・・・
冠城さんは隣の部屋に移動するとき、「鈴星君、覗いたらダメだからね! 絶対にダメだからね!」と念押ししてから襖を閉めた。
・・・念押しされてしまった。僕はそんなに信用がないのだろうか?・・・
そんな冠城さんに対して、「えー、別に私は創星さんに見られてもいいよー。何時ものことだもん」と言う、未来の声が聞こえてきた。って、何言っちゃってくれちゃってるの?! 未来さん!!
その未来の発言に冠城さんからは何にも反応がない。いや、恐らく絶句してあるのだろう事はわかる。
その少しの間ののち、二人が振袖に着替える衣擦れの音が隣の部屋から襖越しに聞こえてきた。
それから暫く、冠城さんからも未来からも何にも発言がなく重い空気が流れ始める。
ボンボン時計の振り子の音と衣擦れの音だけが室内を満たし重い空気をさらに引き立てていた。
・・・まあ、なんというか……未来は話すことが無いから話していないだけだろう。問題は冠城さんだ。さっきの未来の発言で冠城さんは僕と未来が破廉恥な行為をしているのではないか? と疑っている可能性が高い。いや、温泉宿での事もある、間違いなく疑っているだろう。さて、どうやって釈明するか・・・というか、冠城さんの僕に対する信頼を地に落としているのは間違いなく未来だな………未来の奴め後でとっちめちゃる・・・
等と僕が考えていると、隣の部屋との間の襖がスッと開く。
「創星さん、どうですか?」と、振袖姿の未来が姿を現した。
落ち着いた濃紺を地色に流れるような藤の花をベースとし、桜などピンクや紫の色違いの小花をグラデーションに配した辻が花の美しい振袖が、それを纏い満面の笑顔を見せる未来の美しいお姫様のような顔や結い上げた銀髪に負けず、その幼さの残る未来を艶やかに見せている。
その未来について振り袖姿の冠城さんが少し恥ずかしそうにしながら隣の部屋から出てくる。
スカイブルーの鮮やかな地色とピンクの花の配色が美しく、重なって咲き誇る小花たちがボリュームを出す古典柄を色彩豊かに盛り上げている正絹 京友禅の振袖は、落ち着いた雰囲気のある冠城さんを更に知性的で清楚な雰囲気を纏う美しい大人の女性へと変えていた。
未来の失言の後、僕は炬燵から出て正座していた。だって、そうしないといけない気がしたんだもん。
そんな僕は艶やかな二人の姿を目の当たりにして、少しの間我を忘れて見とれてしまっていた。が、ハッと我に返ると僕は冠城さんに深々と頭を下げていた。だって、そうしないといけない気がしたんだもん。
そんな僕の姿を見て冠城さんは、「鈴星君、どうして私に土下座しているの?」と、何時もより少しトーンの低い声で僕に問い掛けてきた。うひー、こわー。
「それは、その、未来がさっき言ったのは、その、不純なことをしているという意味ではなく。その、いってしまえば、そう、スキンシップ、スキンシップだよ」
・・・うん。自分で言っててなんだけど、言い訳にもなってないし、何を言っているのかよく分からん・・・
そんな言い訳をしている僕に対し、冠城さんは小さく息を吐くと、「分かっています。スキーにいっている間中ずっと夜になると素っ裸で抱き締められていましたから。イギリスの実家では家族全員裸で過ごしていると聞きました。裸族? ヌーディストっていうんだっけ? 私の知り合いにそういう生活習慣の人達はいませんが、そういう人達もいると聞いたことがあります、私には理解できませんが。だからと言って頭ごなしにそういう人達を否定しようとは思いません。未来ちゃんがそういう生活習慣の中で育ってきたのならば仕方がないでしょう。私は鈴星君も未来ちゃんも破廉恥なことをする人達ではないと思っています。ですが、未来ちゃん、女の子ならば羞じらいというものも必要です! 好きな人だからといって夜に素っ裸で抱きついて寝るのはよくありません! 鈴星君も迷惑しているはずです! 鈴星君、鈴星君は未来ちゃんに甘すぎます! 未来ちゃんのことが大切ならば良いことは良い、悪いことは悪いと、ハッキリ言ってあげないとダメです! 分かりましたか」と、何時になく真剣な表情で僕と未来に諭すように言う。
未来は顎に人差し指を当て、んー、と考えるような態度をとりながら「分かった。沙耶香に嫌われたくないから、最大限の努力する」と応える。
そんな未来を見て・・・うん、努力は必要だね。でも、努力だけで終わらないようにね・・・と思いながら、僕は正座をしたまま「冠城さんのいう通りです。今後気を付けます」と応えた。
・・・未来の奴、冠城さんに自分のプロフィールを上手く作って説明しているみたいだ。にしても、裸族って……・・・
僕と未来の応えを聞くと冠城さんは大きく息を吐き「この話はここまでにして御雷神社に初詣に行きましょう」と明るい声で言う。
僕と未来は再び冠城さん家の高級車に乗せてもらい、羽生市を中心としたこの地域一帯の氏神様を祀っているという御雷神社へと向かった。
御雷神社へと向かう幹線道路で羽生市へと入ると初詣に向かう車で道路が混み始める。すると、僕達を乗せた車は大型車がどうにかすれ違うことの出来る程度の道幅の脇道へと入っていく。
両脇を森に囲まれ等間隔に立てられた石灯籠に灯る光に照らされた道路を通るのは僕達の乗る車だけだった。
・・・これ、この道路の入口付近に警備用のボックスが立ってたし、雰囲気からして、もう御雷神社の敷地内に入っているのかな? でも、ここから神社まで一山二山越えないといけない距離があると思うんだけど・・・
車窓の外に目をやり、暗闇の中、後方へと流れいく石灯籠の光と、それらに照らし出される木々の風景を見ながら、そんなことを考えていると、僕の雰囲気から何か感じ取ったのか冠城さんが声をかけてきた。
「鈴星君、ここはもう御雷神社の敷地内に入っていて、この道路は神社の関係者しか通れないことになってるの。うちの場合は、父方の叔母が御雷神社の宮司家に嫁いでいて、この道路の通行の許可を貰っているんです。……御雷神社は2山ほどの広大な杜を所有しているってことなんだけど……その昔、羽生市やその周辺の市町村を含む一帯を領地としていた羽生家が隣国に攻められ滅ぼされかけた時、一人の男が現れ、敵を神通力でもって打ち倒し羽生家を救ったんですって。そして、その男の人はミカヅチと名乗り羽生家の姫と結婚して羽生家とその領地を繁栄に導いたんだそうです。御雷神社はそのミカヅチを神として祀っていて、その当時の羽生家の分家の者が代々宮司をしているんだそうですよ」
冠城さんは簡単にではあるが、御雷神社について説明してくれた。
・・・御雷神社は僕が住んでいる羽生市では一番大きい神社で僕も毎年のように初詣に来ていたけど、御雷神社の創建については知らなかったな……うん、一つ勉強になった・・・
羽生家は今でも立派に存在している。
羽生家は昭和初期に日本を出て世界中の国々で事業を起こし大成功を収めている。
その内の幾つかは誰もが知る大企業となっていた。
羽生家は今では日本だけでなく世界中の政財界に強い影響力を持っていると言われている。
因みに、僕の通う高校を含む天野原学園は羽生家が運営している。
小学校から大学まである天野原学園の敷地面積は羽生市の面積の半分以上を占めている。
その敷地の全てが羽生家の所有地だ。全く、金も物も何もかもある所にはあるものだ、と思う……べ、べつにぃ、大金持ちの資産家なんて羨ましくなんかないんだからね!
・・・まあ、僕には一生関わることのない人達だな・・・
御雷神社の敷地に入って少したった頃、僕達の乗った車は道路の端により静かに止まった。
「鈴星君、未来ちゃん、ごめんね。私は奥宮で行われる羽生家の年末年始の会合に少し顔を出さないといけないの。挨拶をすませたら直ぐに行くから本宮の参集殿にある参拝者控えの間で待っていて。年が変わる前には行くからね」
冠城さんがそう言うと道の脇に建てられた建物から出てきた白衣に無文浅葱の袴を身につけた神職が僕の座る席の扉を開く。
それに急かされるように僕と未来は車を降りた。
・・・旧家のお嬢様も、いろいろと大変だなあ・・・
僕はそう思いながら本宮の参集殿へと提灯で足元を照らし出しながら案内してくれる神職の後の付いていく。
凍てつくような暗闇の中、幾つもの石灯籠に照らし出されている長い石段を白い息を吐きながら降りていく。
その石段の先、遠く離れた暗い森の向こう、石灯籠や飾り付けられた提灯の灯りで出来た淡い光のドームに包まれる本宮が小さく見えてきた。なんか、嫌な予感がするんですけど……。
石段を降り始めて30数分たった頃、やっと多くの人達で賑わう本宮を見渡せる所まで辿り着いた。遠!! 冠城さん、めっちゃ、遠!!
僕と未来が案内された参集殿は奥拝殿と呼ばれる拝殿の側にあり、一般参拝者が参拝する前拝殿と呼ばれる拝殿よりも奥にある。
その周りは渡り廊下や朱に塗られた木製の柵に囲まれ一般参拝者は入れないとのことだった。
・・・アップダウンがあって中々に長い石段だったなあ、思いの外いい運動になった・・・と僕が一息吐いた時、木製の柵の隙間から数人の男達が初詣で賑わう人混みから離れ、森の中に入って行くのが遠くに見えた。
その時、『マスター、沙耶香の向かったこの神社の奥宮に地球人以外の者達の反応が2つあります』と、未来が心話を使って警戒を促すように話しかけてくる。
この地球に地球人以外の者達が侵入していることはわかっていた、が……。
・・・確かテレビでは帝国法で地球と何らかの条約を締結するまでは、異星人の地球への立ち入りは禁じられている、というような事を言っていたと思うんだけど……地球に侵入してきている者達は帝国自体からの指示か、何らかの許可を得て地球に侵入してきているのかな?・・・
その者達の位置は未来が把握していた。
その内の二人はこの御雷神社に居着いていることも。
また、地球に侵入してきている者達は、神船である未来を管理していた者達や我が物にしようとした邪な者達ではないということは、未来が生体反応などから確認していた。
・・・まあ、生命の女神やその神船に関わりのない者達で害のない者達ならほっておけばいいか……と思い放っておいたのだが・・・『そいつらは冠城さんに害をなしそうなのか?』と、僕は未来に問いかける。
恐らく未来は冠城さんに危険がないことを知っていて僕に冠城さんの近くに異星人がいることを告げ僕の気をあの男達から逸らせようとしているのだろう。僕がまた自らを傷つけるような行動をとるのではないかと心配して……可愛いなこのヤロー。
『………いえ、その二人はその行動からしてこの神社にいる一人の女性、恐らく神を身に宿している女性を守っているか監視をしているのだと思います』
『神を身に宿している?』
『はい。恐らく創造と破壊の女神様の係累の神ではないかと……』
『なぜ、そんな神様を宿した者がこの地球にいるんだ?』
『……これも恐らくですが、創造と破壊の女神様はこの地球で眠りにつかれたのだと思います。その証拠にこの地球の者達からは非常に微弱ではありますが創造と破壊の女神様とにたような波動を感じますし、何より創造と破壊の女神様の神船であるソウハが月と同化していますから。だとすると、その係累の神を身に宿すことの出来る者がいたとしても不思議ではないかと思います』
『まあ、僕みたいな例もあるしな……って言うか、僕達地球人は創造と破壊の女神様の子孫ってことか?!』
『そうなりますね』
『その事の方が神を身に宿した者がいる事より遥かに驚きの事実だよ!』
僕は地球人類に隠された秘密を知り驚愕すると同時にふと疑問が湧く。
『僕達地球人が創造と破壊の女神様の子孫ならばそれなりの不思議な力を持っていてもおかしくないと思うんだけど、僕達は何故何の力も持っていないんだ?』
何故そんな疑問が湧いたのかというと、異星人に関する政府発表の中で、異星人は大なり小なりその種族特有の力、地球人からすれば不思議な特異な能力を持つ、というものがあったためだ。
『それは、この太陽系全体から感じる力の残滓から、つい最近まで太陽系全体に創造と破壊の女神様の封印がかかっていたせいだと思います。恐らく創造と破壊の女神様が眠りについて次代の創造と破壊の女神様が誕生されるまで、その封印をソウハが維持していたのでしょう』
『その口ぶりだと次代の創造と破壊の女神様は誕生しているのか?』
『恐らく、その方を守るための封印だったと思われますから』
『その封印はもう解かれていると……ということは、これから地球人はこれまでに経験したことのない特異な能力に目覚め始める可能性があると?』
『はい、多分……成人している者で10から20%成人前の者で70から80%の確率で。また、人だけでなく地球の環境も徐々にだと思いますが大きく変化する可能性があります』
『………もしかして、精霊やら妖精のいるようなファンタジックな環境になったりなんかして……』
『さあ、それは何とも……』
最後は僕の冗談だったんだけど、真面目な未来は真剣に返していた。うん……未来のそんなところも可愛いな!
僕と未来が心話で会話している内に、僕達は神職さんの案内で拝殿に併設されている参集殿へと入り参拝者控えの間へと案内された。
その参拝者控えの間には複数の椅子とテーブルが置いてあり、僕と未来はその一つに腰を掛ける。
・・・あの男達に囲まれるように委員長がいたような……あのチンピラみたいな男達が委員長の友達とも思えないけど・・・
委員長こと新庄勝は僕と同じクラスで僕をいじめていた首謀者だ。けど、もし委員長があのチンピラみたいな男達に襲われていたら……やっぱり、放っておけないな……。
僕が席を立つと未来が不安そうな目を向ける。
『未来、お前はここで待っていてくれ』
未来は僕の指示に不満げな表情を見せる。
『マスター、あいつはマスターを虐めていた者達を裏から先導していた奴だよ。そんな奴をどうして助けるの?』
『………どうしてだろうな……僕にもわからん。けど、困っている奴を見たら、僕には放っておけないんだよ』
『なら、私も着いていきます』
『ダメだ! お前はここで待て、これは【命令】だ!』
未来はビクリと動きを止め悲しそうな不安そうな表情を僕に向ける。
『……安心しろ。僕はどんなに酷い怪我をしても直ぐに治るんだから。未来が不安になるようなことは何も起こらないし直ぐに戻ってくるよ』
そんな言葉と笑顔を残すと僕は参拝者控えの間を出て参集殿を後にした。