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男ゆえに

 「ようこそ、お越し下さいました。温泉旅館 清風明月へ」


 「お世話になります。清香さん」

 「お待ちしておりましたよ。才蔵さん」


 龍宮が旅館の女将さんに挨拶をすると、女将さんは嬉しそうに応えていた。


 「この温泉旅館は才蔵の母親の実家なんだ。女将さんは才蔵の母親のお姉さんなんだよ」

 「ああ、そうなんだ」


 僕は不思議そうにしてたのか、山寺君が龍宮と女将さんとの関係を教えてくれる。


 ・・・という事は、シンシア先生のお姉さんでもあるのか・・・随分と年の離れた姉妹だな・・・シンシア先生は金髪なのに女将さんは綺麗な黒髪なんだな・・・


 「さあさ、皆さんお疲れでしょう。先ずは、お部屋へご案内致しましょう。お荷物は、もうお部屋に運んでありますから。彩花、芽衣花」

と、女将さんが言うと、女将さんの後ろに控えていた若い仲居さん二人が、

「「はい」」

と応え、「「こちらへ、どうぞ」」と言って、僕達を先導して前を歩く。


 「シンシアさん、お待ちなさい」

 「はい!」


 シンシア先生は女将さんに声を掛けられると、背筋をピンと伸ばし立ち止まる。


 シンシア先生は旅館に着いてから、ずっと女将さんから隠れるように僕たちの影に身を潜めていた。


 「聞きましたよ。貴女、また男に逃げられたんですってね」

と、女将さんにキツイ目を向けられ、

「え? いや、あはははは……」

と、シンシア先生は引きつった笑いを溢す。

 対して女将さんは、パチンと指を打ち鳴らした。すると、ガシッと、中年の仲居さん二人がシンシア先生を後ろから羽交い絞めにする。


 「なっ!? 何を?」

 「貴女、この冬休みの期間、有給を使って休みにしているそうね」

 「な、何故それを? ……まさか、才蔵!」


 シンシア先生が龍宮を睨むと、龍宮は〈さあね〉というような態度で口笛を吹いていた。


 「才蔵さんは関係ありません。お母様から、この休みを使って貴女にお淑やかさを身に付けさせて欲しい、と頼まれています」

 「そんな、……私はここにお客として来たんですよ。清香姉さん」

 「いえ、貴女の予約は入っていませんよ」

 「なっ!? ……おのれ、才蔵」


 シンシア先生は更に龍宮を睨む。


 「俺は付いて来る事までは同意したが。お前の宿泊まで予約するとは言っていない」

と、龍宮は〈ざまあみろ〉と言わんばかりの態度で応える。


 「き、清香姉さん、私は帰りもこの子達を送っていかないと……」

 「大丈夫ですよ。うちの者に送らせますから」


 シンシア先生の必死の抵抗を、女将さんはにこやかに打ち砕く。


 「くっ……」と、シンシア先生は龍宮を憎憎しげに睨む。が、僕と目が合うと、

「鈴星くーん、助けておくれよ」

と、涙目で甘えるような声を出す。が、僕は、

「すみません、シンシア先生。僕には何とも仕様がありません」

と、バッサリと切り捨てた。


 ・・・シンシア先生、僕にどうしろと?・・・それに、僕を巻き込もうとしないで下さい。ハッキリ言って、この一族と関わるのは命取りだと、僕の勘が警鐘を鳴らしているのですよ・・・


 「そんなぁ……」


 シンシア先生が滂沱の涙を流しガックリと項垂れると、仲居さん二人にズルズルと事務所に引きずられて行った。


 ・・・シンシア先生にも、天敵がいたんだなあ・・・





 「うおおおお、最っ高の天気だな!」


 龍宮はボードの準備をしてスキー場のセンターハウスを出ると叫んでいた。


 僕達は旅館で一眠りして朝食を食べてから、女将さんの用意してくれた車でスキー場までやってきたのだ。


 「快晴の青い空に白銀の世界、確かに最高なスキー、ボード日和だな」


 龍宮の雄たけびに山寺君が相槌を打つ。


 龍宮と山寺君はセンターハウスの前で一つ深呼吸をすると、

「よし!挙鉄こてつ、何回滑れるか競争だ!」

「おう!今年は負けん!」

と言うなり、二人はボードを担いでリフトへと一目散に駆けていった。


 「おいおい、僕達は置いてきぼりか?」


 僕がスキーの準備をしてセンターハウスを出た時には、龍宮と山寺君は僕の声が届かないだろう所まで駆けて行っていた。


 「いいじゃない、私達は私達のペースで滑れば」


 僕が二人の後姿を見送り溜息を吐いていると、後ろからスキーの準備をした冠城さんが声を掛けてきた。


 「まぁ、そうだけど……冠城さんそのスキーウェア似合ってるね」

と僕が言うと、冠城さんは、

「そうかな……」と、恥ずかしそうにしながらも、「……ありがとう」と嬉しそうに言う。


 「マス、創星さん、私は?」ドンッ!「おっ!?」


 そう言いながら、未来が後ろから僕にぶつかるように抱き付き尋ねてきた。ビックリしたな、オイ! それに、お前、時々俺の事、人前でマスターと呼びそうになってるのは………わざとじゃ、ないよな?


 「ああ、似合ってる似合ってる」

 「えー、心が籠もってなーい。これ、創星さんに褒めて貰おうと沙耶香と二人で一生懸命選んだんだよー」


 僕が適当に応えると、未来はプクーと頬を膨らませる。か、可愛いじゃないか……。


 「大丈夫だよ、未来ちゃん。好きな子ほど虐めたくなる、と言うでしょ」

と、冠城さんがホローをすると、

「ほんとー?」

と、未来の機嫌は途端によくなる。


 ・・・未来、お前、ほんとにお子ちゃまだな・・・そこがまた、可愛らしく思えるところだが・・・


 「私は、少し妬けるけど……」

と、未来をホローした後、冠城さんは呟いていた。それを、僕は聞こえなかったふりをする。だって、どう対処すればいいのか分かんないんだもん……彼女いない暦=年齢の僕にはハードルが高すぎます……。


 「さ、さあ、僕たちも滑りに行こうか」

と、僕が言うと、「「はい」」という返事が二人から返ってきた。



 「冠城さんは、スキーどのくらい滑れるの?」


 スキー場の一番上に来たとき、僕は冠城さんに尋ねてみた。


 「んー、中級者程度、かな? 鈴星君は?」

 「僕はパラレルを卒業したくらいかな?」

 「そうなんだ……未来ちゃんは?」

 「私?んー……分かんない。私、初めてだから」


 そう未来が言うと、

「え!? ……こんな所まで来ちゃって大丈夫? 鈴星君なんで未経験の未来ちゃんをここまで連れてきちゃったの?」

と、冠城さんは心配そうに未来に問いかけ僕に非難の目を向ける。うん、当然の反応ですね。対して、

「創星さんは関係ないよ。それに、大丈夫。滑り方はインターネットで調べたから。それに、ここで実際に滑っている人たちの姿勢や重心移動の仕方も確認できたし」

と、未来は応えた。

 「本当に大丈夫?」

と、更に心配そうに冠城さんは問い掛け、

「無理しちゃ駄目だからね。無理だったら、スキー場の係員さん呼んでくるから、ちゃんと言うんだよ」

と、未来に言い付ける。


 ・・・うん、冠城さんの心配はもっともです。僕も未来が普通の女の子だったら同じように心配します・・・でも、未来は女の子だけど、普通の女の子じゃないし、て言うか人間でもないし・・・恐らく、この地球上の何よりも運動能力は飛び抜けているだろうし・・・人間だったら普通死んでいる状況でも怪我一つ負わないだろうし・・・心配するだけ無駄ですよ。と言っても、冠城さんはそんな事知らないわけですしねー・・・


 「とにかく、私が先に滑って少し行った所で待ってるから、私が合図したら未来ちゃん鈴星君の順番で滑ってきて。無理しないで、ゆっくりでいいからね」


 そう言うと、冠城さんは滑り出し少し行った所で止まって、ストックを振って此方に合図を出した。


 ・・・冠城さん中級者どころか上級者クラスの滑り方してなかったか?・・・


 「いっきまーす」


 未来は冠城さんの合図を確認すると元気よく飛び出した。


 そして、あっという間に冠城さんの所まで滑りきってしまう。まるで、プロのスキープレイヤーの様なフォームと滑りで……。


 それを見て、冠城さんは目を丸めて「本当に初心者?」と驚いていた。


 ・・・ほらね、何の心配も無かったでしょ、冠城さん・・・さて、次は僕の番か・・・


 結果、僕は冠城さんと未来の所に辿り着くまでに、二度ほど転けて雪塗れになりました。


 ・・・フンだ・・・僕は雪と戯れに来たんだもん・・・僕が一番下手くそだからって、別に悔しかないやい・・・本当に悔しくなんか無いんだからね!・・・グスン。


 「鈴星君、そんなに落ち込まないで。私が教えてあげるから」

 「うん、私も創星さんに教えてあげる」


 ・・・うん、ありがとう二人とも・・・でも、未来、お前人にものを教えるなんてこと出来るのか? ・・・スッスッスッといってギュッと止まるんだよ、と言われても僕には分からんぞ・・・若しくは、神船みらいの力で強制的に体に覚えさせようとするんじゃないだろうな・・・


と思っていたら、意外や意外、未来は理論的に分かりやすく教えてくれました。



 バサッ!「わっぷ!」

 「おっ、わりわりい」


 未来と冠城さんの献身的な努力のおかげで、僕がなんとか二人について滑れるようになれた頃、何十回と僕たちを追い抜いていった龍宮が僕の立っている直ぐ手前で急停止した。その勢いで大量の雪が跳ね上げられ僕に襲いかかったのは言うまでもあるまい。って、この野郎、ワザとだろ!

 その後から来た山寺君も同じように僕に雪をひっ被せる。って、おい!


 「悪い悪い、鈴星君」


 ・・・そんないい笑顔で謝られても・・・なんか腹が立つんですけど!・・・



 「お楽しみのところ悪いが、もうそろそろ晩飯の時間だ。ナイターは明日楽しむとして旅館に戻るぞ」

と、龍宮は僕の肩に腕を回し、僕の顎に拳をグリグリと押し付けながら言う。イタイ、イタイって……。山寺君は僕の頭に手を乗せグラグラと揺する。って、何なんだよ、お前ら何したいんだよ!

 僕が二人の顔を見ると二人とも何か背筋の凍るようないい笑顔で笑っていた。・・・僕、二人に何かしたか?・・・





 「ふー、いい湯だな」


 僕達は旅館に戻ってくると一っ風呂ぷろ入ってから男子部屋に集まって食事をした。それから、カードゲーム等で一頻り遊んだ後、みんな疲れたのか10時前には女子二人は部屋に戻り、龍宮と山寺君は直ぐにイビキをかいて眠ってしまった。


 因みに、未来には【命令】で、旅行中は冠城さんと同じ部屋で眠るように命じてある。

 その【命令】を受けた時、矢張りと言うか何と言うか、未来は涙目になり頬をプックリと膨らませていた。うーん、未来には悪いが、あの可愛らしい顔を見ると何だか虐めたくなってくるよなぁ……。



 だが、僕は未来が非常識な行動をとる危険性が無い時は【命令】は使わない。

 なぜなら、【命令】は神船である未来の意思を完全に縛りつけ、未来を物として扱うものだと僕は認識しているためだ。

 未来がキチンと常識を身に付けた時には、これまでにした【命令】も全て解除するつもりでいる。



 ここの温泉は朝の5時から一時間は清掃時間で入れなくなるということだったが、その時間以外は自由に入れるとのことだった。


 ・・・今は冬休みでスキーシーズン真っ只中。この旅館も満員御礼状態だけど、・・・流石に深夜の3時となれば貸切状態だな・・・広い露天風呂に浮かびなが満天の星空を一人眺める・・・最っ高だね・・・


 僕が一人、満天の星空のもと、露天風呂を満喫していると、そこに人が入ってくる気配を感じる。


 ・・・早起きなお爺さんでも入ってきたか?・・・


 そう思い、僕は露天風呂の入り口に目を向け、一瞬にして固まった。


 「マスター、お背中流しに来ました」

と、布切れ一枚身に纏っていない未来は手に持ったタオルで前を隠し少し恥らいながらも嬉しそうに微笑み僕に声を掛ける。って、ちょっと待てええええ!!確か【命令】で僕が風呂に入ってる時は未来が風呂に入ることを【禁止】していた筈だろおおおお!!


 「マスターが【禁止】していたのは家の風呂だけです。温泉はその中に入っていません」


 未来は僕の動揺を見て取って僕の心の叫びに気付いたかの如く応える。って、そうだったあああ! 忘れてたあああ!


 「み、未来、【命令】だ、……」『〈ハイ、マスター。〉』「……今すぐ」と、僕が言いかけると未来はその場にペタンと座り込み寂しそうな今にも泣き出しそうな表情で〈そんな【命令】出さないで〉と縋るような目を向けてくる。うっ、そんな表情するなよ。……僕は間違ってない筈なのに、何故だか良心が痛むじゃないか……くそっ、僕が理性を保てばいいだけの話か……家では僕が風呂から出るまで寂しそうな悲しそうな表情でペタンと床に座り込んで待ってるんだもんなー……しかも、僕が風呂から出てくると、すんごい嬉しそうな笑顔を向けてきてバスタオルで僕の体を拭いてくるもんなぁ……まぁ、今回だけは許してやるか……。


 「分かった。だが、今回だけだぞ」

と、僕が溜息を吐くように言うと、

「やったー! マスター、だーい好き!」

と、未来は僕に飛び付いてきて盛大な水飛沫を跳ね上げながら僕ごと湯船の中へと飛び込む。って、

「こらーっ! 背中を流してもいいという事であって、一緒に湯船に入ってもいいとは言ってなーい!」

と、僕は叫ぶも未来は聞く耳を持たなかった。


 結局、僕は風呂を出るまで未来に抱きつかれたままで、理性と欲望の狭間で地獄の責め苦に合っていた事は言うまでもないだろう。


 ・・・うっうっうっ、僕の理性、こんな生活をしていて何時までもつのだろぅ・・・


 僕と未来は温泉から出ると、男湯の出入り口の横にある自販機でジュースを買い飲んでいた。


 「おんやー、餓鬼共が。混浴でもないのに男と女が一緒に風呂に入っていいのかなー」


 ・・・うっわ、嫌な奴らに見つかった・・・この二人、もろチンピラって感じのガラの悪い奴らだな・・・


 「未来、行くぞ」

と言って、未来の手を引いて僕が行こうとすると、

「ちょっと待てよ! おい!」

と、そいつらの一人が僕の肩を力一杯掴む。と、未来の瞳が怒りでギラリと光った。


 『待て! 未来。お前は手を出すな!』

 『でもマスター! マスターの身を守るのは私の役目です!』

 『分かってる! だが、僕はまだ命の危険に晒されているわけではない』

 『でも、……マスターの体は、まだ普通の人間と変わらないんですよ』

 『だからだよ、ここは僕に任せておけ』


 「あの、何の用でしょうか?」

と、僕が僕の肩を掴んだガラの悪い男に尋ねると、

「ヤローに用はねえんだよ! っとぉ!」

と、その男は言うと僕の鳩尾に拳をめり込ませた。


 僕は激痛と呼吸困難により腹を抱え、くの字に体を曲げながら床に倒れこむ。その瞬間、未来の怒りが跳ね上がったのが僕には感じられた。


 『み、未来、手を出す事を【禁止】する !これは【命令】だ!』『〈ハイ、マスター。【禁止命令】確認シマシタ〉』

 『そんな、マスター……』


 未来は【心話】で悲しそうに僕を呼びながら、僕が痛めつけられた事に対する怒りと、僕を助ける事の出来ない悲しみに俯き体を小刻みに震わせていた。


 そんな事とは知らずにチンピラ二人は、未来に近づきその姿を確認すると、

「おっ、」と、驚きの声を上げ一瞬固まる。が、「すんげー別嬪じゃねぇか」と、直ぐに嫌らしく顔を歪めた。


 「譲ちゃん、そんなに怖がらなくてもいいんだぜ。俺たちゃあ譲ちゃんをとって食おうっていう訳じゃねぇんだ。天国のような、とっても気持ちのいい事をしてやろうっていうんだ。だからよ抵抗なんざすんなよ」

と言いながら、チンピラ二人は未来に近づいていく。


  僕はそのチンピラ二人の足を腕で巻き付けるようにして捉えると、「僕の未来に近づくな!」と言うと同時に、立ち上がりその二人の足を救い上げる。と、「「どおぅわっ!」」と、二人のチンピラは同時に前のめりになって倒れた。


 「「こぉんの糞餓鬼!」」

と言う、チンピラをそのまま引き摺りながら僕は未来から離れる。


 「未来!りょ、おわっ!」


 僕が未来に旅館の人間を呼んでくるように言おうとした時、二人のチンピラは喧嘩慣れしているようで、僕は足を掛け転ばされると同時に鳩尾に強烈な蹴りを入れられ、あっという間に僕は未来に指示を出す余裕が無くなった。


 僕がボコボコにされ身動き出来なくなったのを確認すると、「手間あ取らせやがって」と、チンピラ二人は僕に唾を吐きかけながら言い、未来へと向かって歩いてゆく。


 未来は両腕で自分の体を抱きかかえるようにして震えながら立っていた。

 チンピラ二人は、そんな未来を見て怯えて動けなくなっているのだとでも思ったのだろう、下卑た笑みを浮かべ未来に近づいていく。

 僕は「やめろ」と弱々しく言うが、二人は聞く耳を持たなかった。因みに、僕は未来を心配して言ったわけではない。


 「さあ、三人で楽しもうぜぇ」

と、チンピラ二人が未来の体に触った瞬間、「「アチッ!」」と言って、同時に未来から手を離した。


 チンピラ二人が僕をボコボコにして体温を上げていなければ、室内温度が僅かだが上がっていたことに気付いていたことだろう。

 未来の体は怒りに堪え続けた余りに人間では考えられない、室内温度を上げる程までの高温に達していたのである。


 「な、何だ、こいつ」

と、チンピラ二人が絶句していると、二人の頭をガシッとゴツイ手が掴む。と同時に、

「お客さん、当旅館での暴力沙汰は困りますね」

と言う、背筋の氷そうな女将さんの声が室内に響き渡った。


 チンピラ二人は恐る恐る声のした方へ目を向けると、プロレスラーのようなゴツイ体をした獄卒の様な大男の隣に般若の形相の女将さんが立っていた。

 それを見た二人は、「「ひっ!」」と、小さく悲鳴を上げる。


 「虎丸さん、その二人を仕置き部屋に」

 「へい、女将さん」


 「未来、もういいぞ」

と、僕が体を横たえたまま弱々しく言うと、未来は一目散に僕の所まで駆け寄ってきて僕の頭を抱き締める。


 「マスター、マスター、もうこんな事は嫌です」

と、未来は僕の頭を強く優しく抱き締めながら、大粒の涙を流して泣いた。


 「済まない未来、辛い思いをさせたな。でも、僕も男だ大切な女の子の前では格好くらいつけさせてくれ」


 僕は朦朧とした意識で、そう言いながら気を失った。

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