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両手に花?

 「おい、今回の期末テストの学年順位見たか?」

 「ああ、全教科満点で学年一位を取った奴がいたな。しかもA組の奴じゃなかったぞ」

 「先生達も学園始まって以来の快挙だと驚いてたな」

 「一体誰なんだ?そいつは」

 「たしか、1ーCの鈴星創星とかいう名前だったと思ったが、お前知ってるか?」


 ・・・・・。


 うちの学校では、テスト休みが明けた初日の朝に各学年の順位が、それぞれの学年の階の廊下に張り出される。


 普段なら、上位40位以内は殆んどA組の生徒で占められる。のだが……しくじった……まさか、こんな事になるとは……問題が何時に無くスラスラと解けるもんだから、つい、いい気になりすぎた……。


 何時もは中間辺りをウロウロしている僕が突然トップを取ったのだ。しかも全教科満点という偉業をなして。って、そりゃあ、話題にするなと言う方が無理があるわな……ははは……余り目立つことは嫌なんだけどなぁ……恥ずかしいから……。


 この事が、学校中に広まるのにそんなに時間はかからず、一日中その事で学校中の注目を浴びたのだ。


 ・・・ただでさえ、テスト期間の初日から未来の事で注目を浴びているというのに・・・


 「すごいね鈴星君、この学校のテストって普通でもレベル高い上に二三問ははまず解けないと言われてる超難問が含まれているんだよ。それを、全教科で満点を取るなんて」

 あはははは、「たまたま、まぐれだよぅ」『まぁ、生命の女神の知識も引き継いでいるせいもあるから……純粋に自分の実力じゃないというところで、何となく後ろめたい感じもあるし』

 『いえ、マスターにはそれだけの能力が有ります。なぜなら、生命の女神様の知識が有ってもそれを理解し説明できなければ、どんな問い掛けにも答えることなど出来ないのですから』

 『そうかあ?』

 『そうなんです!』

 『まぁ、どちらにしろ、余り目立たないように今までどうりの生活を心がけないとな』

 ・・・・。

 『ごめんなさい、マスター。私の所為で地球人としての平穏な日々を壊してしまうかもしれません』

 『そう思うんだったら学校まで付いて来んな!』

 『えー』

 ・・・・。

 『まぁ、しかし、未来おまえを受け入れると決めた時点で覚悟は出来てるよ』

 『ありがとう、マスター。だーい好き!』

 『ああ、わかったわかった』


 ・・・未来の奴・・・子供っぽいのに時々大人びた様な口調になるよな・・・何故なんだろう?・・・


 僕が冠城さんと話しながら帰り支度をして窓の外を見ると、校門のところで未来が嬉しそうに手を振っていた。

 しかも、未来の周りには黒山の人だかりが出来ていた。


 ・・・テスト期間初日から、何時もの光景となりつつあるな・・・


と、僕が思いながら一つ息を吐くと、

「未来ちゃん相変わらず、すごい人気ね」

と、冠城さんが声を掛けてくる。


 「ああ、家で待ってろと言っても言う事聞いてくれなくてさ」

 「家で一人なんて退屈だし、大好きな鈴星君と出来るだけ一緒に居たいから迎えに来てくれてるんだよ」

 「そうかなあ?」

 「そうだよ」



 未来は僕が「家で待っていろ」と言っても、「マスターを守るのは私の役目です」と言って毎日学校まで付いてきた。

 しかも初めて学校に来た日には教室まで付いてこようとしたので、学校内に入る事を【命令】により禁止した。

 その為、初めて学校に来た日に未来は授業が終わるまで校門で待つ、という行動をとったのである。


 未来は誰もが振り返る程の美少女である。

 家から学校に来るまでも、すれ違う人達は皆一様に未来に目を奪われていた。


 そんな美少女が授業が終わるまで、ずっと校門の所で待ち人来たらず状態で立っているのだ。

 あっという間に校門には黒山の人だかりが出来てもしかたがないだろう。


 未来は『そんな事全く気にしません』という事だったが、先生には「何とかしろ!」と言われるは、学校中の生徒には〈女の子をあんな所で一日中待たせておくのか?〉という白い目で見られるは、僕の細い神経では耐えられませんでした。

 故に、授業が終わるまでは【対生物不可視モード】を使うように僕は平身低頭、未来にお願いした。

 対して未来は『マスター、貴方の所有物である私に対してそんな態度とらないでください!』と、僕よりも低く平身低頭されてしまった。いや、未来さん、自分の事を物扱いするのも如何なものかと僕は思うのですが……。


 【対生物不可視モード】とは未来を視野に入れたものの視神経を通して直に脳の視覚野に信号を送り未来の姿が見えないと錯覚を起こさせる電気的な信号のフィールドを作るというものだ。


 その為、取り敢えず授業が終わるまでは校門に人だかりが出来ることは無くなった。

 しかし、授業が終わると同時に未来は【対生物不可視モード】を解除するので、下校時刻にはまた人だかりが出来きているのだ。


 ・・・そのうち、また先生に何か言われそうだな・・・ははは・・・



 僕が冠城さんと話ながら教室を出ると、ガシッ!と後ろから誰かに抱きつかれた。


 「なっ!?……」

 「少年、少し保健室に寄っていってはくれないかい?」


 教室の外で待っていた。いや、待ち伏せていた、と言うべきか……。保険医のシンシア先生が〈つっかまぁえたぁ〉と言わんばかりに僕に抱き付き声を掛けてきた。


 「……何ですか?シンシア先生」

 「いやね、この間、鈴星君突然倒れたろ。その事でちょっと話がしたくてね」

 ・・・。

 「はあ……」

 「そんなに時間は取らせないからさ」


 そのシンシア先生の態度に冠城さんは苦笑いを浮かべながら、

「鈴星君、私、先に行って未来ちゃんの所で待ってるから」

と言い、

「ああ、分かった」

と、僕が応えると笑顔で手を振って廊下を歩いていった。



 「少年、今は体の調子はどうなんだい?」


 シンシア先生は保健室に入ると僕を奥の椅子に座らせ自分は出入口側の椅子に座り、真剣な表情で僕の体調について尋ねてきた。


 「ええ、もう全然大丈夫ですよ」

 「そうか、あれから病院には行ったのかい?」

 「いえ、……寝てたら楽になりましたから。多分食あたりでもしたんだと思います」

 「聞いたよ。あの時は何時に無く大量の食事をとっていたそうだからねぇ。でも、それから一週間も学校を休んでいたんだろう?……私には食あたりの症状には見えなかったんだが?」


 シンシア先生は疑いの目を僕に向ける。


 あはは、「そうですか?」

 ・・・。

 「まぁ、何かあったら困るし、少し調べさせて貰えるかな?少し採血をさせてくれ。校長には許可を取ってある」


 そう言うと、シンシア先生は何故だか嬉しそうに採血キットを取りだし鼻歌を歌いながら採血の準備を始める。


 「え? い、いや、そこまでしなくても大丈夫です」・・・先生・・・注射器を取り出した途端、目付きが怪しくなってきてるんですけど?・・・先生、採血をするんですよね?・・・何ですか? 手に持ってるその怪しいクスリ・・・


 「いやいや、怖がらなくても大丈夫、痛くしないから。すぐ気持ち良くなるから」


 ・・・いやいやいや、先生、目的が変わってません?・・・


 シンシア先生は注射器を構えると獲物を前にした女豹のような表情で、えものにジリジリと迫り寄る。


 「序でに体の隅々まで調べようねー。(若い男は久しぶりだぁ)」


 シンシア先生は、ハアハアと呼吸を荒くして今にも涎の垂れそうな表情になっていた。僕、貞操の危機を感じずにはおられないんですが?先生、目がいっちゃってるんですけど?!


 「シ、シンシア先生。採血は本人の許可を取ってからという条件を校長から付けられませんでしたか?」


 僕が苦し紛れに言うと、「う、そ、それは……」と、シンシア先生は少しひるむような態度をとった。

 その隙に僕はシンシア先生の脇を通り抜け、「シンシア先生、何かあったらまた来ますから」と言って、保健室(女豹の巣)を脱出した。

 僕が保健室を出るとき、チッ! と舌打ちをするような音が聞こえた。シンシア先生、そんなに男に飢えているんですか?誰か貰ってあげてよ、ほんと……でないと、僕の貞操が非常に危険だから! 誰かお願い!



僕が昇降口の下駄箱の前で靴を取り出していると、バン!と突然背中を叩かれ、「なっ!?」と驚きの声を上げて振り返る。と、そこには、「よう、鈴星!お前やるじゃねーか!」と、楽しそうな笑みを浮かべた龍宮と、「凄いなぁ、鈴星君」と、同じく笑みを浮かべた山寺君が立っていた。


 「な、何のこと?」

 「何のことって、期末テストの学年順位のことだ。お前、ダントツのトップだったじゃねーか!」

 「ほんと凄いなぁ、鈴星君。全教科満点なんて。二年からは俺たちと同じA組になりそうだな」

 「いや、たまたま、まぐれだよ」

 「まぐれで、全教科満点なんて取れるかよ!」

 

 そう言うと、龍宮は嬉しそうに僕の肩を抱き拳を僕の顎にグリグリと押し付けてきた。この人、何だか自分の事のように喜んでいるな。……龍宮って仲間思いのいい奴なのかもしれないな。


 「しかし、お前も隅に置けないな、あんな別嬪べっぴん二人に好かれるなんて。他のヤロー共に目の敵にされるぞ」

と、龍宮が校門の方へ目を向けて言う。


 「天は人に二物を与えず、と言う諺が有るが、君を見ていると本当か? って言いたくなってくるな」

と、山寺君が龍宮に相槌を打つように言う。


 あははは、・・・それ、ついこの間、僕が龍宮に感じた感想と同じです・・・


 「いやいや、未来は親戚だし冠城さんはただの友達だよ」

 ・・・・。

 「おい! 鈴星! そんな事、あの二人の前では言うなよ! お前はもっと女心に気付けるようになるべきだ!」


うん、・・・周りを気にしないお前に言われたくないな・・・


 龍宮は僕にそう言うと、校門の方へ押し出すように僕の背中を叩いた。って、いってー! 龍宮の奴、思いっきり背中叩きやがって!


 僕が校門の所で冠城さんと楽しそうに話している未来に近づくと、「マ、創星さん!」と言って、未来は僕のところまで駆け寄ってきて僕の右腕に絡み付いてくる。

 「おい!未来……」と、僕が文句を言おうとした時、冠城さんが僕の左腕に腕を絡めつけてきた。

 「冠城さんまで……」

 「沙耶香は創星さんの左、私は右ってこの間決めたんだ」

と、未来は嬉しそうに言い、冠城さんは恥ずかしそうに俯く。


 ・・・この二人、初めて会った時は険悪な状態だったのに、未来の服を二人して探していると何時の間にか仲良しになっていたんだよな・・・女心はよう分からん・・・


 「いいでしょう。創星さん、両手に花で」

 「それはいいが二人とも、少し離れてくれ、歩きにくいし……」・・男としては嬉しい状況ではあるが・・「……それに何より周りの視線が痛い……」・・これでは両手に花と言うより両手に薔薇だ。周りの男供の嫉妬という視線の棘に刺し殺されそうだ・・・


 「いや! 創星さんが学校にいる間ずっと一人で待ってたんだから」


 そう言うと、未来は頬を膨らませ更に僕の腕を強く抱き締める。

 冠城さんは恥ずかしそうにしながらも僕の腕を離してくれそうになかった。


 あっはははは、「女にモテるというのも考え物だな」

 くくく、「おい、才蔵あまり鈴星君を茶化してやるなよ」


 龍宮と山寺君は僕の不幸を楽しそうに見ながら、僕たちの後ろに付いてくる。


 ・・・山寺君、含み笑いを漏らしながら龍宮を注意しても、説得力無いんですが・・・


 「ああそうだ、鈴星。テスト前に言っていたスキーだが、冬休みの初日から二泊三日で行くからな」

 「はいはい、了解」


 僕と龍宮が冬休みのスキーの話をしていると、

「創星さん、スキー行くの?」

と、未来がキラキラと目を輝かせながら聞いてきた。

 対して、「ん? ……ああ」と、僕が肯定すると、「やったー!」と、飛び跳ねんばかりに未来は喜ぶ。って、未来さん、貴女が僕に付いて来るというのは、貴方の中では当然の決定事項なんですか? ……そうですか。そうですよねぇ……ははは……嫌な予感しかしないんですが……。


 「未来ちゃんが行くなら私も行きたいな」


 冠城さんは、恥ずかしそうに俯きながら小声でそう呟いた。


 「沙耶香も一緒に行くのは当然でしょ?」


 未来が不思議そうにそう言うと、「え?」と、冠城さんは小さく驚きの声を上げた。


 「それとも、沙耶香は創星さんと一緒にスキーに行きたくないの?」

と、未来は何故だか悲しそうな表情で冠城さんに尋ねる。と、冠城さんは慌てたように頭を振り、

「ううん、私も一緒に行きたい」

と応え、僕の顔を見ると、また恥ずかしそうに俯いてしまう。


 未来は冠城さんの応えを聞くと、「よかったー。創星さんの事が嫌いになっちゃったのかと思った」と、満面の笑顔を見せる。うーん、未来の中では、好きなら一緒に居て当然、というのが常識になっているようだ……。


 「悪い。龍宮、二人もいいかな?」

と、僕が龍宮に尋ねると、

「おう!構わんぞ!」

と、龍宮は〈がんばれ〉というようにビシッと親指を立て、いい笑顔で応えた。って、何を頑張れと?





 プァンプァーン!


 「おーい! 鈴星、早くしろー!」

 「おー! ちょっと待ってくれー!」


 ・・・って、深夜に警笛鳴らすなよ、ご近所迷惑だろうが・・・


 冬休みに入る前日の深夜、僕と未来は龍宮の誘いで山寺君と冠城さんを含めた5人で野沢の方へ2泊3日のスキー&温泉旅行に行く。のだが……僕は迎えの車の黒のデリカに乗り込み運転席を見ると絶句した。


 「何故シンシア先生が?」


 僕のその呟きに、

「やっ、子供達だけで遊びに行くのは心配だろぅ。才蔵にどうしてもと頼まれて私が君達を引率する事になった」

と、シンシア先生はにこやかに手を上げて応えた。


 「嘘こけ。お前がどうしても一緒に行くとごねたんだろうが」

と、後ろの席の龍宮が呟くと、

「あ、あ~~ん」

と言って、シンシア先生が龍宮を睨む。

 対して、龍宮は「うっ……」と呻き青ざめるが、何とか気力を振り絞るようにして、「……ほ、ほんとの事じゃねーか」と呻くように言う。


 「あの龍宮が押されてる……」

と、僕がポロリと溢すと、

「ああ、シンシア先生は才蔵の母方のおば……」と、言いかけて山寺君はシンシア先生の鋭い視線を感じ一瞬固まり、「……妹さんなんだよ」と、冷や汗をかきながら訂正した。


 ・・・なるほど・・・龍宮の奴、道理で日本人にしては彫りの深い顔なわけだ・・・この二人のシンシア先生に対する態度は、子供の頃からのシンシア先生の教育の賜物って事か・・・って、この二人にこれ程までに恐れられるなんて・・・シンシア先生、一体この二人に何をしてきたんですか?!・・・


 僕の心の問い掛けに気づいたのか、シンシア先生は僕に対して口を三日月のように歪め、ヘラッと笑った。ちょっ! 怖! ……怖いよシンシア先生!


 「おはよ、鈴星君。未来ちゃん」


 ・・・おっとー・・・シンシア先生の半端無い存在感に、冠城さんが隣に居ることに気付かなかったよ・・・


 「お早う、冠城さん」

 「お早う、沙耶香」


 僕と未来が冠城さんに挨拶を返すと、冠城さんは嬉しそうに微笑んだ。うん、美女の笑顔はいいな。……癒される。


 「よし、これで全員だな。忘れ物は無いな」

と、シンシア先生は言い、

「では、野沢に向かって出ぱーつ」

と掛け声をかける。と、

「「「「「おー!」」」」」

と、みんなが応え車が走り出す。夢と希望と波乱の待つ雪山へと……。

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