変化
煮詰まって、他の事を考えたいときに書いてます。次話投稿は未定です。
翌日の朝、僕が学校に登校して正門をくぐると、別のクラスの顔に見覚えのない男子生徒に呼び止められた。
そいつは、この学校で全ての者に恐れられている人物の舎弟だと名乗り、僕に「今すぐ校舎裏に行け」と伝えると直ぐに歩き去っていった。
この学校には、この地方の裏社会を牛耳るヤクザ組織の総長の息子が通っていると聞いたことがある。
そいつは僕と同級生で、先生達もビビッてそいつの言うことには逆らわない、ということだ。そんな奴が僕に何のようだ? 僕なんかしたか? 何かした記憶は無いが……。第一顔も知らないんだけど……。まさか……僕、知らない間にそいつの機嫌を損ねるようなことでもしたのか? 全くそんな記憶は無いんだけど……。インターネット上の僕の誹謗中傷を見て他の奴等と同じように、僕に不快感でも感じたのか? 事実無根の上に理不尽だ。かといって僕の言うことを聞いてくれるだろうか? いや、人間そう思い込んだら当人が何を言おうと聞いてはくれない。今までがそうだった。だったら、このまま校舎裏に行くのは自殺行為なんじゃないのか? ……いや、今逃げ出しても、後が酷くなるだけか……。
などとビビリながら考えていたら、何時の間にか僕は校舎裏に来ていた。あ、あれ?い、いつの間に?
そこには、黒髪をオールバックにした目つきが鋭く周りを威圧するような雰囲気を纏った男子生徒が一人だけ立っていた。あれ?こいつどっかで見たような……。
周りには他に人の気配は無い。
・・・き、気付かれる前に逃げよう・・・
僕が気付かれないようにUターンして行こうとした時、その男子生徒は僕に気が付き、「鈴星!」と怒鳴りながら僕の方に駆け寄ってくる。うっわ! 何かこの人めっちゃ怒ってる?!
僕はその声にビビリ、飛び跳ねそうになるのを何とか堪え、どんな暴力にも耐えるために身構える。が、
「すまなかった!!」
僕が身構えた時、その男子生徒は僕に対して土下座した。しかも走って勢いが付いていた為、土下座をしたままズザザザザザーーー! と、僕の直前まで滑り込んできた。は、初めて見た、これが彼の有名なスライディング土下座というやつか……。
僕は予想だにしていなかった状況に暫らくの間あっけに取られていた。
「一昨日の晩、学校の屋上にお前を閉じ込めたのは俺だ! 赦してくれ!」
「はい?」
僕は突然の彼の告白に声が上擦ってしまった。
「お前が俺のブログで俺の大好きな愛理ちゃんの悪口を書き込んだのだと思い込んで、その仕返しにお前を屋上に閉じ込めたんだ」
「ああ……」見たことがあると思ったが、こいつ昨日僕の教室の前で話してた奴か……ん? あれ? ……あれって夢じゃ無かったのか?
「それが、昨日、俺のパソコンに知らない奴から鈴星が愛理ちゃんを貶したんじゃないというメールが届いていたんだ。そして、そのメールにお前になりすまして愛理ちゃんを貶した奴のアカウントやサーバーのデーター等の証拠が添付されていた。それを、うちの組織のハッカーに調べさせたところ、その証拠に間違いは無い、という事だった」
と、その男子生徒は説明し、
「ろくに調べもせずに犯人がお前だと決め付けて本当に済まなかった」
と、再び額が地に付きそうなほどに頭を下げた。
・・・まさか、昨日のあの夢・・・いやいや、そんなわけ・・・ないよな・・・
「ああ、もういいよ。別に風も引かなかったし……」
「いや、それじゃあ俺の気がすまない。そうだな……お前の気がすむまで殴ってくれ」
「いやいや流石にそれは……じゃあ、そこの自販機でジュースを一本奢ってくれ。それでチャラということで……」
・・・だって、下手にこいつをボコッて、その事がこいつの取り巻き達の耳に入ったら、いくらこいつがいいと言った事でも、ただじゃ済まない気がするんだもん。ハッキリ言ってビビリの僕には精神的に耐えられません・・・
「本当にそんなのでいいのか?」
「ああ、僕の精神衛生上それが一番いい」
・・・。
「分かった。お前がそれでいいと言うなら……」
・・・ふぅ、よかった。何とか納得してくれて・・・
「ああ、それと、お前になりすましていた奴、昨日の内に愛理ちゃんを貶した報復に俺がそいつを絞めてやったんだが、ネット上でお前の事を誹謗中傷していたようだったから、ついでにその誹謗中傷も消去させて二度としないように言い聞かせておいたからよ」
「ああ、それは……うん、ありがとう」
・・・こいつに目を付けられるなんて・・・まぁ、自業自得だろうが、この地方の全ての怖い人たちから目を付けられたようなもんだよな。・・・流石に可哀想な気がする。僕なら耐えられない・・・
この迫力のある男子生徒は僕に話しながら自販機で買ったジュースを僕に手渡すと、
「用も済んだし、じゃあ俺は行くわ」
と言って歩き出し、ふと足を止める。
「ああ、そういやー名前を言ってなかったな……俺は1ーAの龍宮才蔵だ。よろしくな、鈴星」
何故か才蔵は一人何かを成し遂げたようないい笑顔を見せ、ぷらぷらと手を振って校舎へと歩いていった。って? えええ!? A組って言ったら超進学校のこの御雷学院第二高等部の中でも天才や秀才を集めた超エリートクラスじゃないか! ……ヤクザの息子が超エリートって……性格的に少し問題が有りそうだが……いろんな意味で負けてる気がする……。
僕は一つ息を吐き何かに打ちひしがれた様な気持ちになりながら校舎へと足を向けた。
・・・天は二物を与えず・・・神は人の上に人をつくらず人の下に人をつくらず・・・いろんな意味で信じらんねー・・・誰だこんな事言った奴・・・
「おい、お前、今朝のニュース見たか?」
「おお、見た見た。世界各国の政府が宇宙人の存在を認めたってやつだろ?」
「ああ、然もその宇宙人の……何て言ったけ?」
「統合銀河帝国?」
「そうそう、その統合銀河帝国と国交の交渉を地球の代表団が月面上で行っているって事だったよな」
僕が校舎に入ると、今朝放送されたという三流雑誌のトンデモネタのようなニュースの話題が生徒達の間で持ちっきりとなっていた。そういやー、登校途中でもこんな話ばかり聞こえてきたが……本当なのか?
僕は今朝、今日の朝食と弁当の準備で何時に無く忙しかったためテレビをつける余裕も無かった。何せ、僕は昨日から大食い王にクラスチェンジしたからな!……
僕は一つ溜息を吐き下駄箱の蓋を開ける。バキッ!! っな!? ……行き成り下駄箱の蓋が壊れた!?
僕は不意の事に一瞬あっ気に取られる。
その下駄箱は先週取り替えられたばかりの新品だった。
・・・きっと取り付けが悪かっただけだ・・・うん、そうに違いない・・・
僕はそう思い込むことに決め、・・・これ、先生に連絡しておかないとな・・・自分で直せ、と工具を渡されそうな気がしないでもないが・・・と思いながら上履きに履き替え教室へと向かった。
教室に向かう途中の廊下や、出入り口や窓ガラスを開けっぴろげられた教室から聞こえてくる話も全て今朝のニュースの事ばかりだった。
僕は自分の教室の前まで来ると、出入り口の戸を開けようと手を掛け力を入れる。と、バカアァァアン!! っんなあ!? ……と、戸が弾け飛んだ!?
僕は再びの不意の事に驚き目を丸めた。
今回は驚いたのは僕ばかりでなく教室に居た生徒達もこちらを見て驚きに目を丸めていた。あは、あははははは、そんなに見つめないでくれ……は、恥ずかしいじゃないか。
僕はその視線に驚きを忘れ顔を熱くしながら、そそくさと戸を持ち上げはめ直す。……ガラス割れてなくてよかった。
僕は戸をはめ直すと照れ隠しに一つ咳払いをしてから、自分の席へと足を向けた。
教室の外に面した窓側一番後ろの自分の席に着くと、机に風呂敷袋で包んだ十段重ねの重箱ような弁当をドン! と置く。
それを見て、シーンとしていた教室に一部笑いを含んだヒソヒソ話が広がり始める。
・・・恐らく僕が来る前まではこの教室でも今朝のニュースで盛り上がっていたんだろうが・・・ふっ、今の僕の登場シーンと、この異様な存在感を放つ弁当で完全に話題は僕のものになってしまったな。僕も罪な男だ。って、何格好つけてんだ? 僕・・・・まぁ、実際は僕を小バカにしたような事を話してるんだろうが・・・・・・やっぱり、少し気になるな・・・
僕がそう思った瞬間、『〈集音・開始〉』と機械的な声音が頭に響く。っは!? なに!?
「「なんだあれ?」「弁当? のように見えるけど・・・」「あいつ、どんだけ腹ペコ王子なんだよ」「腹ペコ王子って・・・もう古くね?」「あいつ今日なんか怒ってないか? えらい勢いで出入り口の戸を開けたが……」「しかし、あいつも根性あるよな。半年近く虐められているのに、不登校になるどころか平然としてるように見えるもんな……」「でも、今まで言われてきたこと全部、委員長のでっち上げだったらしいじゃない」「うん、皆、委員長に誘導され鈴星君が誹謗中傷通りの非道な人間だと思い込まされてきたって事みたいだよね」「お前にもメール来たのか!?」「そのメールこのクラス全員に来たらしいぜ」「あ、それ俺にも来た」「あれ、使い捨てのメールアドレスを使って鈴星が送ってきたんじゃないのか?」「聞いた話だけど、誰かが鈴星になりすまして、あの龍宮の怒りを買うような事をしたらしいんだけど……その龍宮にもそのメールが来て、龍宮が調べたら事実だったらしいよ」「だったら、今頃委員長……」「ああ……」「どうしよう、俺、鈴星に酷い事しちまった」「ああ、俺もだ」「謝るか?」「いや、ほとぼりが冷めるまで放って置いたほうがいいんじゃないか?」「だけど…………」「いや………」「俺は……」」
機械的な声音が頭に響いた直後、周りのヒソヒソ話が鮮明に然も耳元で怒鳴り声を上げられているような大音声で聞こえてくる。
僕は驚きとその音声の大きさに耐えられず、つい「五月蝿い!!」と、声を張り上げてしまった。だって、しょうがないじゃないか……。本っ当に五月蝿かったんだから。
その直後、再び『〈集音・終了〉』と機械的な声音が頭に響いた。すると、聞こえてくる声は普通の音量となった。いったい何だったんだ? 頭の中に響く声といい……まてよ、前にも同じような声を聞いたような……。
ふと気が付くと教室内はシーンと静まり返っていた。あは、あはははは、別にみんなに言った訳じゃないんだよ……そんなに静まり返らなくとも……。
僕が居た堪れない様な気持ちで顔を引きつらせていると、〔1ーCの鈴星創星君、1ーCの鈴星創星君、大至急職員室まで。〕という校内放送がかかった。
・・・おお、いいタイミング・・・
僕はホッとすると同時に慌てたように教室を後にした。……もちろん、戸を開け閉めするときは壊さないように細心の注意を払いました。
「鈴星、突然で悪いな」
「いえ」
先生は僕の顔を見るなり一瞬ばつの悪いような顔をした。
「昨日の夜、俺のパソコンにお前を虐めにあわせている元凶と、その証拠を示したメールが届いた。俺は最初悪戯かと思ったが。その後、それを肯定するようなメールが、その元凶とされた人物から届いた。まぁ、その人物が誰なのか朝のホームルームで分かっちまうとは思うが、敢えてここでは名は明かさない。ただ、その生徒は反省して当分の間休学すると言ってきている」
と言って、先生は一つ息を吐くと、
「さて、お前はどうする?」
と、僕に問いかけてきた。どうする? って、何を? と、僕が疑問顔をすると先生はもう一つ息を吐き、
「俺は放課後、その生徒の家に行き親御さんも交えてしっかりと指導してくるつもりだ。勿論、後日お前に対してもしっかりと謝らせる。それで、お前はその生徒を許してやれるか? やれないか? と聞いている」
と、真剣な顔で僕に問いかける。
「分かりました。そいつも十分罰を受けているようなので、僕としてはどうこうするつもりはありません。先生にお任せします」
と、僕が応えると、明らかにホッとしたような表情をして、「そうか、分かった。奴にはしかっかりと言っておくからな」と、先生は応じた。まあ、先生というか学校にもいろいろとあるんだろうな。今の時代、下手をしたら直ぐにマスコミに叩かれるし……。何せ今は、ある意味マスメディアの天下だからなぁ。
ぐきゅるるる……「腹減ったな……」
僕の腹の虫は四時限目の頭から催促を始めていた。
・・・昨日ほどの豪快な催促でなくてよかった。流石に、あれ程の催促をされたら先生から退出命令が下されていただろうなぁ。それでも、やっぱり白い目で睨まれたけど・・・周りの奴はクスクスと含み笑いを漏らしていたし・・・
僕は一つ息を吐き、・・・まあ、いいやぁ・・・と思いながら弁当を食べようと、風呂敷で包んだ巨大な弁当をドンッ!! と机の上に出した。
その時、一人の女子生徒が僕の席に近付いてきた。
「あの、鈴星君、弁当一緒に食べていい?」
・・・。
「ああ、いいけど……これだけの量だから食堂で食べようかと思ってたんだけど、いいかな?」
「うん! ありがとう」
彼女が不安げに尋ねてきたのに対して僕が了承すると、彼女はパアッといい笑顔になって僕にお礼を言った。うん、美人は笑顔がよく似合う。
彼女は、透き通るような白い肌に背中まで伸ばした艶やかで綺麗な黒髪、顔は整っていて可愛らしい。体は華奢だが女性らしさのある体型をしている。そして何より所作が美しく奥ゆかしい雰囲気を纏った日本美人だった。
僕が一心不乱に弁当を食べていると、教室を出てから今まで何か言いたげにしていた彼女が、何か意を決したように口を開いた。
「鈴星君、今までご免なさい。鈴星君は私の事助けてくれたのに、私は何もできなかった。本当にご免なさい。……そして、遅くなっちゃったけど、助けてくれて有り難う」
彼女、冠城紗耶香は、何時の間にかポロポロと涙を流していた。
あははは、「今日の弁当、味付け失敗しちゃった。ちょこっと塩っ辛いや……」
・・・。
「そう……」
それから僕達は黙々と弁当を食べた。
・・・このチャンスに気の利いた事を一つや二つ何故言わん! と言うなかれ・・・自慢では無いが、僕は生まれてこの方一度も女の子と付き合ったことがない・・・何を言えばいいというのだ・・・誰か教えてくれ・・・
微妙な空気が漂う中、僕は心の中で救難信号を出し続けていた。
「よう、鈴星。隣いいか?」
・・・。
「ああ、いいよ。龍宮……くん」
「龍宮でいい」
そう言いながら、ライフセーバー龍宮才蔵が僕の隣に座る。
「鈴星くん。才蔵が迷惑をかけたな」
「え?いや……」
「俺は止めたんだがな。……俺はこいつの幼馴染みで山寺挙鉄だ。宜しくな」
山寺挙鉄と名乗ったライフセーバー2号は龍宮の隣に座った。ああ、昨日、龍宮と話してた奴か……夢の中で……。
「二人っきりで食事していたところ悪いね」
ライフセーバー2号山寺君は僕の前に座る冠城さんに〈悪い〉というように手を上げ、申し訳なさそうな顔をして片目を瞑る。
対して、冠城さんはライフセーバー龍宮の正体に気付いたのか少し顔を青ざめさせていた。
・・・おっと、僕にとってはライフセーバーに思えたが・・・冠城さんにとってはジョーズだったか?・・・
「あれ?鈴星、もしかして、お前の彼女か?」
「いや……」
「才蔵、そういうことはもう少し声を落として言え。お前は周りに配慮が無さすぎる」
ふと、気が付くと冠城さんは頬を赤らめ恥ずかしそうに下を向いていた。
・・・ジョーズ龍宮がキューピット龍宮に?!・・・
「おお、悪い悪い。……ところで、鈴星。お前、冬休みは暇か?」
・・・って、お前、全然悪いと思ってないだろう・・・
僕は、はぁ、と一つ息を吐き、「ああ、別に予定は無いよ」と応えると、
「よし、なら泊まりがけでスキーに行くぞ!」
と、龍宮は有無を言わさぬように言う。
「ああ、まぁ、構わないけど……」
「よし、決まりだな!」
「済まんな、鈴星君。こいつの我が儘に付き合わせて」
「いや、まぁ、暇だしいいよ」
冠城さんは何か言いたげにしていたが、結局諦めたようだ。
「よし、飯も食ったし僕は教室に戻るよ」
「それじゃあ、私も」
僕は立ち上がると、「あ、あれ?」と酷い目眩に襲われフラつきテーブルに手を突いた。
「ちょっ、鈴星君! 大丈夫? 顔、真っ青だよ」
と、冠城さんが慌てて僕の体を支えてくれる。
「ごめん、冠城さん。ちょっと、ムリ……みたい……」
と言いながら、僕の意識は真っ暗な闇へと落ちていった。
『〈保存記録・伝送〉』
『〈完了〉』
・・・ん、ん?何だ?・・・そういえば、あの少女の夢を最初に見た時も、『〈|船主仮契約(シップオーナープロヴィショナルコントラクト)・承認?非承認?〉』とか『〈|船長仮就任(キャプテンプロヴィジュアルイナージュレイション)・承諾?非承諾?〉』とか聞こえてた気がする・・・その度に、あの少女の哀願するような顔が見えて、全てOKしてしまったような・・・これも夢か・・・
と思っていたら、いきなり暗闇から死の世界、瞬く命の輝きを遠くに見る宇宙空間、その命の輝きを失った者達の悲しみと怨念の渦巻く死の虚空に僕は放り出されていた。って、ど、どぉうゎああああああ!!! どうなってんだー!! うわあああああ!!
『大丈夫、落ち着いて』
その怨念の渦に呑み込まれそうになり、その恐怖に恐慌状態になっている僕の脳内に優しい声が響き渡った。
その途端、感じられていた怨念の渦は薄れ、恐慌状態に陥っていた僕の精神は落ち着きを取り戻す。何だ?あれ程感じられていた怨念が薄れ、恐怖に恐れ戦いていた気持ちが今の声を聞いた途端、周りから温かな生に感謝する気持ちが流れ込み、驚くほどに落ち着いたぞ。どうなってるんだ?
その落ち着いた心で周りを見回すと、幾千幾億もの星々、その誕生や死滅、その集まりである星雲や星団、銀河、それぞれが放つ色とりどりのガスや光でこの宇宙は鮮やかに彩られていた。
・・・凄い、これが本物の宇宙なんだ・・・そして、この宇宙には生命達の想いが善くも悪くも溢れている・・・その想い一つ一つが、この宇宙を鍛え豊かにし、美しく輝かせている・・・
僕がその自分の尺度を遥かに越えた壮観な景色に言葉を失い、その感動に身を打ち震わせ、知らぬ間に頬を濡らしていたものに気が付いた時、「さあ、参りましょう」という別の優しい声が聞こえてきた。
私は頷くことでその声の人物に応え、彼女の愛船と共に自分の愛船でこの宇宙を駆け巡る。
彼女は、私の双子の姉であり宇宙を創り宇宙を破壊する神、創造と破壊の女神エヴァ。
彼女の駆る愛船は神船ソウハ。
私は、エヴァの双子の妹であり全てのものの生と死を司る神、生命の女神オシス。
私の駆る愛船は神船・・・・。
私達は、始まりの星より出でて、宇宙を創り、星を創り、生命を生み出し、時には破壊し、死を与え、世界の成長を促してきた。
そして、この宇宙は色とりどりの生命に満ち溢れた。
その中で、神々もこの宇宙と共に喜び悲しみを感じ、楽しみ苦しみ味わい、成長した。
そして、生命達は神々の手を離れ力強く自らの足で歩みを始めた。
そんな生命達を見て、私の役目が終わったことを悟った。
私は生命の女神の力を私の神船に託し、私は、生命達の内に入り彼らと共に歩もう。
この宇宙に息づく生命達を見守っていくの役目は、次代の生命の女神に託そう。
願わくば、次代の生命の女神が、私の愛した生命に満ち溢れたこの宇宙を愛しんでくれる事を心より願う。
『〈保存記録・再生終了〉』
それから神船は、長い眠りに着きました。生命の女神の力を継ぐべき者が生まれるまで。
そして、幾千幾億もの長い時を経て神船は目覚めたのです。
しかし、目覚めたばかりの私は、神船を我が物にして生命の女神の力を我が物にしようとした邪な者により体の大半を破壊され、私は生命の女神の力を抱えて逃げ出し、そして、貴方に出会ったのです。
『貴方は生命の女神を継ぎますか?』
『〈船主本契約・承認?非承認?〉』
『〈船長就任・承諾?非承諾?〉』
神船には貴方に強制する力も権利もありません。
勿論、貴方には拒否する権利が有ります。
その場合、私はまた次の生命の女神の力を継ぐべき者が生まれるまで、このまま眠りに着くことになります。
そうなれば、神船の眠りの結界により邪な者達は神船に手を出すことは出来なくなります。ですが、私は一時的にでも私を受け入れてくれた、心が強く優しい貴方に神船の船主になって欲しいのです。
生命の女神の力を継ぎ、神船を受け入れる事で強大な力を貴方は得ると共に、それを狙う邪な者達に狙われる危険も生じます。ですが、貴方が生命の女神の力を受け入れ神船の船主になってくれたなら私は少なくとも貴方を守るだけの力を得ることが出来ます。
神船は貴方が完全に生命の女神の力を使いこなせるようになり誰にも害されることが無くなるまで、この命を賭しても守り抜きます。ですから、お願いします。神船の船主になって下さい。
初めて会った頃と比べると、随分と大人びて見えるその少女は懇願するように僕を見上げる。僕なんかでいいのか?僕は何のとりえも無い唯の高校生だぞ。
私は貴方がいいのです、貴方でなければならないのです。と、少女は僕に迫る。
はあっ、と僕は一つ息を吐く。分かった。後で後悔しても知らないからな。
『〈全契約・受諾確認〉』
ありがとうございます!我が船主、我が船長!
その少女は本当に嬉しそうに僕に抱きつく。と同時に、僕の内に強く優しい膨大な力が流れ込み僕を優しく包み込むように満ちていく。
その心地よさに、僕の意識は深い眠りの淵へと落ちていった。