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大晦日 嵐の前兆? (1)

 僕は参拝者控えの間を出てすぐ、目の前を通りがかった神職さんをつかまえ「神社の賑わいを見に行きたい」と言うと、その神職さんは快く奥拝殿と前拝殿を繋ぐ渡り廊下まで案内してくれた。


 渡り廊下の出入口は奥拝殿に入ってすぐ脇にあった。

 僕は案内してくれた神職さんにお礼を言うと渡り廊下に入り足早に前拝殿へと向かった。


 渡り廊下では忙しそうに行き交う神職さん達とすれ違い、その度に神職さん達は僕に丁寧に頭を下げていった。


 ・・・みんな僕に丁寧に頭を下げていくけど……この渡り廊下、神社関係者以外の者が通ってもいいのかな? もしかしたら大切なお客様と勘違いされてるのかも……声を掛けられたらどうしよう……いや、渡り廊下には神職さんに案内してもらったんだし、大丈夫だよね・・・


 僕は少しドキドキしながら渡り廊下を進んでいく。


 渡り廊下に入って暫く歩くと、前拝殿側の出入口に到着した。

 渡り廊下を出て直ぐ近くにあった前拝殿の出入口から僕は外に出る。


 前拝殿の出入口から少し離れた所には奥拝殿の参集殿より少し規模の小さい参集殿が立っていた。

 その参集殿から前拝殿の参拝所を挟んで向かい側には、授与所及び社務所がある。


 玉砂利が敷き詰められた参拝所前の広場はかなりの広さがある。


 その参拝所前の広場は普段は人もそれ程多くなく緑豊かな杜に囲まれ空気の澄んだ清浄な空間といった感じのある場所なのだが、今は大晦日とあって人人人でごった返していた。

 その人の発する熱気とそれを包み込む周りの冷気によりその参拝所前の広場全体、いや初詣客がいるこの御雷神社本宮の境内全体が白い蒸気の靄で覆われているように思えた。


 僕はその初詣客で賑わう参拝所前の広場を横目に参集殿の裏を抜けて参集殿の隣にある杜へと入っていった。


 ・・・杜の中も境内の灯りが差し込んで真っ暗ってわけじゃないんだな・・・


 僕はその杜の中をあの男達が入ったと思われる所を目指して進んでいく。


 樹齢数百年の杉が立ち並ぶ杉の杜は下草が少なく、地面は杉の葉が積もって柔らかな絨毯のようになっている。

 その杉の葉の絨毯を踏みしめ、杉の木の木の香香る杜を暫く進むと、杜の外の初詣客の賑わいとは別の人の話し声が聞こえてくる。


 僕はその声のする方へと突き進む。


 杜の木々の間に人影を確認する事が出来るくらいまで近づいた頃には、その男達の会話を途切れ途切れではあるがなんとか聞き取る事が出来るようになっていた。


 ・・・やっぱり、委員長、恐喝されてるみたいだ・・・


 僕は更に歩を進めその男達に向かって声を張り上げた。


 「おい!! お前達!! 何やってるんだ!!」と。……勢い込んで言ってみたのはいいけれど、相手は雰囲気からして恐らく町のチンピラだ。そんな奴らを相手にするのかと思うと、緊張で心臓バクバクだよ。ほんと、こえー……。今さらだけど、やっぱりやめときゃよかった。


 その僕の声に「あ"あ"ん」という返事が男達の方から返ってくる。と同時に、男達は僕の方へとやって来て、あっと言う間に僕を取り囲む。


 ・・・あれ?・・・


 その動きに僕は違和感を感じる。

 その男達の動きが何となく、前もって準備していたかのように素早かったからだ。


 「お前か! 新庄を虐めているっていう鈴星とかいうガキは!!」

 「あれ? 何故僕の名前を知ってるんだ? っていうか僕が新庄君を虐めてた? というか委員長、新庄君のお友達?」


 僕はチンピラの言葉に混乱し嫌なものを感じながら、ふと委員長の方へと目を向ける。

 その表情は影になり分からなかった。

 だけど、その雰囲気からわざわざ神眼を開かなくても委員長がどんな感情を表す表情をしているのかがわかった。


 ・・・委員長、あんたそこまで僕を嫌ってるのかよ・・・


 「おお! ついさっき、そこで初めて会ったんだけどな!」

 「ええー……」


 ・・・委員長、あんたどんだけ友達を作るのがうまいんだよ・・・


 僕の心は重苦しいものから呆れに似た感情に瞬間的に変わる。

 その少しの間の後「僕は新庄君を虐めてなんかいない」と言いかけたが、僕の言い分などに興味が無かったらしく、そのチンピラ達は動いた。


 チンピラ達のリーダーらしき最初に声をかけてきた男が僕に殴りかかってくる。


 僕はスキー旅行に行った時、生命の女神の力を僅かに解放した影響で身体能力が上がると同時に動体視力も上がっていた。

 その為、僕にはその男がゆっくり動いているように感じられた。


 僕はその男の拳を余裕をもってかわす。が、僕は視界の外にいたチンピラの仲間に羽交い締めにされていた。ヤベー! と思った時には既に手遅れで、その後はチンピラ共に滅多打ちにされていた。

 ただ、ボコボコに殴る蹴るされて顔や体に内出血やら裂傷やらが起こるがそういった怪我は直ぐに完治した。けど、ちくしょー! 痛いものは痛い!!

 僕が殴る蹴るされると同時に遠くにいる未来の怒りのボルテージが上がっていくのが分かる。

 恐らく、未来は自分のあらゆるセンサーをフル活用して僕の状況を余すことなく把握しているのだろう。


 ・・・また、未来にいらないストレスをかけちゃってるな。後で謝らなきゃなー・・・


 僕がそう思った時、その未来の怒りが不意に消滅し、代わりに非常に強い焦りが伝わってくる。

 その未来の焦りに、ん? と僕の頭に疑問が涌く。その時……


 『マスター!!』


 突然の未来からの心話に僕は『なっ!?』と跳び跳ねんばかりに驚く。と同時に、羽交い締めの状態になっている僕の肩口から逞しい小麦色の女性の腕が伸び、そのてのひらはチンピラの拳を楽々と受け止めていた。


 ・・・ん? 女性の腕?・・・と、また僕の頭に疑問が涌く。その時……


 『その女には気をつけて下さい!!』


 未来の焦りを帯びた悲痛な叫びが僕の頭に響いていた。



 時は遡って僕達が冠城さんの車から降りた頃……。






 「おお、あれが沙耶香のお気に入りの男の子かー」


 私は御雷神社本宮前拝殿の屋根にどっかりと腰を下ろし、奥宮に通じる道からこの本宮に降りてくる石段を歩いて降りてくる男女二人を胡座をかきながら見ていた。


 「……伽凛カリン姉さん、こんな所から覗き見なんてバチが当たるよ」

 「そんな固いこと言うなよ射陰シャイン、可愛い可愛い沙耶香の為だ。神様になったご先祖様も許してくれるさ」


 胡座をかく私を諫めるような口調で話しかけてきた双子の弟に・・・お前だって前拝殿の屋根に立っているじゃないか・・・と思いながら目を向ける。


 「沙耶香ちゃんの為だけでなく友人にも彼のこと頼まれたでしょ」

 「友人の私を置いてけぼりにした彼奴のことはどうでもいい。私は今、沙耶香の為だけに動いているんだから」


 私が不貞腐れたように言うと射陰は肩を竦め軽く頭を振るようにして息を吐いた。


 「いや、姉さんはこの状況を楽しんでるだけだろ」

 「……うん、それの何が悪い」

 「うわー、肯定しやがったよこの人。人一人の人生がかかってるっていうのに」

 「私は何事も楽しむ主義なんだよ。双子の姉弟なんだから、わかってるだろ」


 そう言うと私は射陰にニカッと笑顔を向ける。

 対して、「姉さん、可愛く見せてるつもりだろうけど……その笑顔ウザイ」と、ディスられた。弟よ、私の最高の笑顔に対して酷いじゃないか。


 それから暫くは言葉もなく私と射陰は本宮に向かってくる彼らを見守っていた。

 その余りにも暇な時の流れに私が欠伸をする頃、やっと彼らは参集殿に着いた。

 その時、彼が参拝所前広場の方へと気を向けるのに私は気が付き・・・へぇー、あの距離で気が付くか・・・と、彼、鈴星創星の感覚の鋭さに感心する。


 「どうやら彼、虐めッ子のお友達に気が付いたようだね」


 射陰も気が付いたようで彼に感心したようだ。


 「……彼、まだ何の能力にも目覚めて無いよね……この間、一瞬、僅かだけど生命の女神の力を解放したようだけど……」

 「ああ、その影響で身体能力は僅かにだが上がっているようだがな。けど……あの距離でこの人混みの中から人一人の気配に気が付くのは大したもんだよ。……まあ、たまたま人混みから外れる者達に気がついただけ、かもしれないけどな」

 「……虐めッ子の彼は力に目覚めてるみたいだけどね」

 「……ああ、もしかしたら、他にはないその力の気配に気がついたのかもな」


 私が相槌を打つように応えると私と瓜二つの顔をした双子の弟の射陰は楽しげに灰色の瞳の目を細め「さて、彼はどう動くかな」と黒髪を掻き上げ少しエスニックな顔立ちの顔に楽しげな表情を作くる。


 「射陰……お前もこの状況楽しんでるじゃないか」

 「僕は父さんに頼まれて姉さんが暴走しないように監視してるだけだよ」

 「……さよか……って、私はそんなに信用が無いのかよ」

 「姉さんのこれまでの行いの成果だね」


 射陰の楽しげな嫌味に私が何も返せず剥れていると「ほら、姉さん、彼が動き出したよ」と、射陰が話しかけてくる。

 その射陰の声に私が参集殿へと目を向けると、ちょうど鈴星創星が奥拝殿に入る所だった。


 友人に鈴星創星のことを頼まれる少し前から私は彼のことを人を使って調べていた。


 私の可愛い沙耶香が高校に入学して暫くした頃から沙耶香の話の中に一人の男子生徒の名前が多く出るようになったからだ。


 私と沙耶香との出会いは7、8年ほど遡る。

 その頃私は一族の将来を背負って立つ者としてのプレッシャーに押し潰されそうになっていた。

 そんなある日、御雷神社で父親に連れられた沙耶香に出会ったのだ。

 その頃の沙耶香はお人形さんのように可愛くて、私によくなついて、よく私の後に付いて回っていた。

 私はそんな沙耶香に心を癒されたのだ。

 一族の中に同年代以下の女の子は何人かいたが皆私を畏れ近寄ろうとはしなかった。

 その為もあるだろうが、私はそれ以来沙耶香を妹のように可愛がってきた。


 その沙耶香につきそうな虫の影が感じられるとなれば、その虫を徹底的に調べ上げて悪い虫だと分かれば・・・可愛い沙耶香につく悪い虫は物質的にも社会的にも消してやる・・・と思い、私はその男子生徒を調べ始めたのだ。


 その男子生徒、鈴星創星の家族構成は外交官の両親に年の離れた二人の妹(双子)がいる。

 彼は知らないが、彼の家族は一年以上前から仕事の関係上私の親父殿と同じ場所にいる。


 鈴星創星、いや、まだ一度も実際に会ったことはないが、敢えて彼のことは創星と名前てま呼ばせてもらう。

 何故なら私の可愛い沙耶香の友人……今はまだ、誰が何と言おうと恋人ではなく友人だ。

 妹のように可愛がっている沙耶香の友人ならば、まだ一度も会ったことはなくても私の友人とも言えるだろう。

 友人ならば名前呼び捨ては当然のことだ。

 我が儘な奴と言いたい奴は言えばいい。

 私は私のしたいようにするだけだ。


 コホン……話を戻そう。

 創星のことを人を使って調べ始めたのは夏になってからだった。

 その時、初めて知ったのだが、沙耶香は一時期、ほんの僅かな間だったが虐めにあっていた。

 それを知った時、私は沙耶香が虐められていたことに気づけなかった自分が許せなかったと共に、沙耶香を救った創星に好感を持った。のだが、その病的とも言える彼のその性格に一抹の不安を感じずにはいられなかった。

 高校入学時に創星を知った沙耶香はそんな創星に好意を持ったようだったが……。

 私が不安を感じたその創星の性格とは、人だけでなく犬猫はもとより困っているものを見つけると助けずにはいられないというものだった。

 案の定、私の不安は的中し創星は抱えなくてもいい荷物を自ら抱えることになった。


 その荷物は私と射陰の友人にとって深い関係にあるといえるものだった為、その友人に創星のことを頼まれたのだ。

 因みに創星と私達の友人とは面識は全く無い。


 「姉さん、何やら回想してるところ悪いんだけど、このまま見守るだけでいいの? 彼、ボコボコにされてるけど?」


 私の調べでは創星は戦闘経験は勿論皆無で、喧嘩も勝った試しが無かった。


 ・・・余程の事が無い限り当分の間は見守るだけのつもりでいたんだけどなあ・・・「余計なことに首を突っ込むくせに、闘いの基礎がなってないな。全く、見てられん」


 そう言うと私は重い腰を上げた。






 僕がその腕の主を見ようと思った瞬間、後ろから、ぐう……、というような呻き声が聞こえ僕を拘束していたチンピラの腕が外れた。かと思うと、その腕の主は僕の前に立っていたチンピラの拳を受け止めた掌を返すように動かしただけでそのチンピラを地面に叩き伏せていた。


 「よお、楽しそうなことしてるじゃないか。私も仲間に入れておくれよ」


 僕はその人物に一瞬で目を奪われ「うわ、凄い別嬪さん」と呟いていた。


 肌を刺すような寒さのこの大晦日に、上は白いタンクトップに背中に鳳凰の刺繍の入った両袖のなくなった真紅のスカジャン、下は白いジーンズのズボンという、普通なら見てるだけで寒くなるような姿で、その女性は立っていた。


 杜に射し込む神社の仄かな光に照らし出されるその凛とした姿は、身長180センチほどで、全体的に引き締まっているが見とれてしまうほど女性として美しい肢体をしている。

 その上、その中性的でエスニックな作りの顔は非常に美しい。のだが、僕がその女性に目を奪われた理由は、それ以上にその女性から醸し出される圧倒的な存在感だった。


 例えるなら、そう、まるで武道の極致を極めた武道家、いや、それ以上の、人を超越した者のような圧倒的な存在感を彼女から感じたのだ。


 その僕の呟きに彼女は微笑み「ありがと」と言って僕にウインクして見せる。


 「鈴星君、あんまり姉さんを誉めたらダメだよ。姉さんは直ぐに図に乗るからね」


 僕は突然後ろから声をかけられ「うわぁー!!」とその場から跳ね退いた。


 僕の背後に気配無く居たのは素人目にも質のいい紺色のコートをピシッと着こなした、僕をチンピラから助けてくれたのだろう女性と瓜二つの顔立ちの美青年だった。


 『マスター!! 早くその二人から逃げてください!! 私の待機命令を解いて下さい!! 早く!!』


 未来の焦燥感漂う叫ぶような心話が頭に響き渡る。


 ・・・逃げろ、と言われても、この二人から逃げられる気がしないんですけど・・・


 僕に未来の焦燥感と、兎に角ヤバイヤバイという気持ちが伝播して、ここから逃げ出さなければ、という焦りを感じながら僕は身構える。


 「ああ、ゴメンゴメン、驚かせちゃったね。そんなに身構えなくても大丈夫だよ。僕達は君達の敵じゃ無いからね」


 そう言いながら、その美青年は攻撃する意思がないことを示すように両手を広げ、「僕は羽生射陰、で、あっちで弱い者(チンピラ)虐めしているのが、僕の姉で羽生伽凛っていうんだ。よろしくね」と、にこやかに自己紹介をする。

 対して羽生伽凛と紹介された女性は「酷いな。私はただ、勝てないと分かっていても向かってくる、そんな男達の意気に敬意をもって、一方的に叩き伏せていただけじゃないか」と不貞腐れたように言う。って、もう片付いたの? しかも敬意をもって相手をしたんじゃなくて一方的に叩き伏せたんだ……。


 「主犯格はとっとと逃げ出していなくなっていたがな」


 ・・・新庄君逃げるのはや!・・・


 僕は一瞬呆れたが、直ぐに警戒態勢に戻る。


 「不味い! 姉さん!」


 その射陰と名乗った美青年が腕時計を見ながら焦ったように叫び、その突然のことに僕はビクンと身体を震わせる。


 「射陰、突然叫ぶなよ。創星が驚いてるじゃないか」

 「姉さん、それどころじゃないよ! もう会場に入らないと間に合わないよ!」


 その美青年の言葉に「……っやべ。今回ばかりは遅刻なんぞしたら親父殿に殺される」と言うが早いか、伽凜という美女は僕を片腕で軽々と担ぐと駆け出しあっという間にトップスピードに達したかと思うと数本の木の幹を蹴り杜の木々の天辺に飛び出す。

 その美女はトップスピードと思われたところから更にスピードを上げて、まるで体重がないかのように杜の木々の先端の葉を蹴り御雷神社の奧宮へと向って駆けていく。


 その風圧に耐え美女に必死にしがみつきながら僕が後ろを確認すると、彼女と同じように美青年も駆けてきていた。


 僕が拐われると思ったのだろう未来は『マスター!!』と悲痛な叫びを上げる。


 美女(伽凛)に並んだ美青年(射陰)は僕の耳元に口を近づけ「いい加減未来ちゃんを解放してあげないと、いろんな意味で大変なことになると思うよ」と話し掛けてきた。


 ・・・うん、僕もそう思います・・・


 この二人と接触した直後から未来の非常に強い不安と焦りが僕に伝わってきていた。

 その未来の二人に対する凄まじいまでの警戒心に僕も初めのうちはつられていたが、身体能力的には常人離れ、いや地球人離れしているが雰囲気や話から僕らに敵対する人達ではないように僕には思えていた。


 ・・・未来はこの二人に何故ここまで警戒心を持つのか?・・・


 僕はそう思いながら『未来、【命令】を解除する』と未来に告げた。途端、本宮の参集殿の辺りから大気を震わす衝撃音が聞こえてくる。


 「おー、凄まじい勢いだな」


 そう美女(伽凜)が言うと同時に僕を抱えた美女(伽凜)美青年(射陰)は奥宮の参拝所前広場らしき所に、玉砂利を巻き上げること無く着地した。

 そこが目的地だったらしく、着地すると同時に美女(伽凜)は抱えていた僕を天高く投げあげる。

 それ()を杜の木々の上を飛ぶように駆けてきた未来がキャッチして駆けてきた勢いを殺すため数回僕をかかえたまま回転すると美女(伽凜)美青年(射陰)から2、30メーターほど離れた前広場の玉砂利の上にジャッと着地する。と同時に未来は僕を守るように抱え美女(伽凜)美青年(射陰)に対して身構える。


 未来の体に熱せられ熱を帯びた着物からは白い湯気が立ち上ぼり、息を整えるように、ハアーッ、と吐き出された息吹は白い熱気となっていた。


 「未来、待て。お前、どうしてこの二人をそこまで警戒するんだ?」


 そう言う僕に合いの手を入れるように「そうそう、こんな無害で優しそうなお姉さんに対して失礼よ!」と美女(伽凜)が言う。

 対して僕と美青年(射陰)は、えっ? というような目を向けた。


 「……何よ、ちょっと言ってみただけじゃないか。……どうせ私はチンピラを蹴飛ばして喜ぶような恐くて暴力的な女よ!」

 「……姉さん、否定はしないが……自分でそこまで言う?」

 「否定しなさいよ!! 弟に否定してほしいから言ったのよ! 気づきなさいよ! バカ!!」


 美女(伽凛)は涙目で美青年(射陰)をキッと睨む。


 「……姉さん、可愛い女を演じてるんだろうけど……ハッキリ言って気色悪いしウザイ」


 美青年(射陰)が本当に嫌そうな表情で言うと「だよなー、私もちょっと背中が痒くなった」と言って、美女(伽凛)は顔をしかめ背中を掻くよう仕草をする。


 僕が・・・だったら最初っからやらなきゃいいのに・・・と思っていると「この者達は《異世界を渡る者達》異邦人と呼ばれる者達なんです」と、未来は身構え二人を見据えたまま先程の僕の質問に応えた。


 ・・・あー、未来さん、二人のコントはスルーですか……多分、お兄さんの方はわからないけどお姉さんの方は場を和まそうしたんだと思うけど……ああ、ほら、お姉さんの方は残念そうな表情を……というか、愕然としてるんですけど? そこまでさっきのコントに自信があったんですか?! お姉さん!・・・


 等と考えている僕をよそに未来は話を続ける。


 「この者達は地球人どころかこの宇宙(世界)の者ですら無いのです。マスターはこの世界の三主神の一柱となられる方。異邦人が何を企んでマスターに近づいたのか知れません」

 「うわ、酷い言われようだな。一応私と射陰はこの地球生まれの地球育ちなんだけどな。というか、この世界では私達異邦人の力を受け継ぐ者達はその力の殆どを封じられ、この世界との盟約で地球のあるこの太陽系から出ることを禁じられてるんだけど?」


 美女(伽凛)は腰に両手をあて、プンプンというような態度で未来に反論する。


 「あー、ゴメン。この世界を支える三主神の内の一柱である生命の女神を継いだ創星君にも関係のある話だから、簡単にだけど説明するね。僕達は《異世界を渡る者達》といわれる異邦人の御雷一族という部族なんだけど、ご先祖様が別の世界で邪神の討伐にちょっと失敗してね、この世界の飛ばされて来たらしいんだ。ご先祖様は異世界渡りの能力を失っていたのと、この世界が外部の干渉を嫌っていたのもあって、この世界から出られなくなってしまったらしくてね。その時にこの世界と僕達のご先祖様が盟約を結んだんだ。異邦人であるご先祖様をこの世界が受け入れる代わりにご先祖様の力を受け継いだ者達は太陽系から出ないってね」

 「……あなた達は僕が次期生命の女神だと知っているんですね」

 「まあね、僕達の友人が次期創造と破壊の女神だから」

 「……そうなんですか、先代の生命の女神様の記憶に異邦人の記憶はあるけど、まだ、この世界が生まれたばかりの頃の記憶で、しかも、あなた方とは違う部族のようで……あなた方のご先祖様の記憶は無いようですが……」

 「それは恐らく先代の生命の女神が御隠れになった後に僕達のご先祖様がこの世界に来たからじゃないかな?」


 僕と美青年(射陰)の話をここまで黙って聞いていた未来が僕を守り身構えたまま口を開く。


 「……ソウハは、お前達の定住を認めているのか?」

 「僕達のご先祖様がこの世界に飛ばされて来たとき、この世界との交渉の橋渡しをしてくれたのが月にいるソウハ翁だと聞いてるけど」


 美青年(射陰)の応えを聞くと、「次代の創造と破壊の女神様とも友交があるようだし、ソウハが定住を認めているのなら、取り敢えずは、あなた達を信用する」と、未来は一つ息を吐き構えを解く。が、まだ二人に対する警戒心は解いていないようで僕に二人を近づけないように未来は僕と二人の間に立ったままだった。


 「ところで、姉さんどうして創星君をここまで連れて来たのかな?」

 「……なんでだろう? 近くにいたものだから、つい……」


 ・・・つい……、で僕は奧宮まで連れてこられたのか? 30分もかけて本宮まで降りたのに……また、歩いて本宮まで戻れと?・・・


 「そんな不機嫌な顔するなよ。未来に背負っていってもらったらあっという間だろ」

 「姉さん、それは、男としてどうかと思うよ? 創星君のプライドが傷付くんじゃないかな?」


 ・・・はい、とても傷付きます・・・等と僕が思っていると、「私はマスターなら背負って何処にでも行けるよ」と、未来は僕にいい笑顔を向ける。うん、未来、お前は可愛いな。けど、それは僕の男としてプライドが許さないのだよ未来君。


 「よし、わかった! 今から創星を私の直弟子とする!」


 ・・・え? 何言ってんのこのお姉さん・・・


 突然のことに僕が面食らっていると、「突然何言ってんの?! 姉さん! 宗家(当主)の許可も得ずにそんなこと出来るわけないでしょ!」と、美青年(射陰)が慌てたように言う。


 「宗家の許可は後で取る! 決めるのは創星だ!」

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