アイツと僕とあの娘と卒業
「先輩!・・・・・・卒業おめでとうございます!」
満開の桜並木の下、涙目の少女がそう言った。
その表情は感情が剥き出しであるが、その感情は言葉に表せそうにはなかった。
なんて事は起きるはずもなく、蕾すらついていない桜並木の下を、ため息をつきながら駅へ歩いていく。
何時もの仲間と何時ものコース。
まるで明日も登校しなくてはならないように思えた。
卒業祝いで街に繰り出し遊んだあと、高校生活最後の通学電車に乗り込み大きく深呼吸をする。
「なにたそがれてんだよ。」
表情には出してるつもりはないのだが、隣に座るこの男にはお見通しらしい。
「なんだかんだ3年の付き合いだからな」
憎たらしい顔で笑いながらそう言った。
「お前にはそっとしておくと言う選択肢はなかったのか?」
もちろん答えはNOだと知っている。
ただの相づちの様なものだ。
そいつの返事はとぼけた顔で眉毛を動かすだけだった。
「やっぱり可愛い後輩に見送られたかったよな?」
同じことを考えた自分が恥ずかしくなってきた。
「そうだな。あと制服デートとかもしてみたかったよ」
「オレじゃ不服だって言うのか?」
「逆に聞くがオマエは俺で満足なのか?」
「自惚れてんじゃねぇよ。」
通学はいつもこの男と一緒だった。
「男子校に入ったのが運の尽きだ」
「虚しいこと言うなよな」
話をしているうちに駅に着き、乗車してくる人の中にあの娘を見つけた。
「あっちの学校も卒業式だったみたいだな」
そっとしてくれないないようだ。
それどころか畳み掛ける。
「一歩間違えなければ、あの娘の隣に居れたかも知れないのに本当にお前は残念な奴だな」
それは高校入試の時、彼女が今通っている高校へ向う電車の中、寝過ごしてしまい終点で目が覚めると言う伝説的を作ってしまったのである。
嫌なこと思いだしたので、逆に質問してみる。
「もしさ、中学の時に戻れたらオマエは今の高校入るか?」
「う~ん、最初に教室に入った時な、見渡す限り真っ黒でな、マジで女子がいないって現実を突きつけられてへこんだんだよな~」
「それわかる」
「でもさ、仲の良い連中もできて、下らないことで騒いで、なかなか楽しい高校生活だったと思うぞ」
「そうだな」
「だからさ中学に戻れるならオレは・・・・・・
間違いなく共学に入るね!マジ文化祭とかクソだろ!準備とか漫画とかで聞いてたのと全然違うし!近くの高校と日程合わせたから外からも女の子来ないし!体育会とか殺気だってるし!」
「でもオマエ彼女いるだろ」
「それとこれとは別だ」
「腹立つな」
「彼女がいないのを環境のせいにする奴が悪い」
痛いところを突かれてタメ息が出る。
「まぁ、お前は環境が良くても駄目そうだけどな」
そんなことは・・・・・・ないとは言えない。
でもきっかけさえあれば、頑張れると思う。
今まできっかけの"き"すらなかったが・・・・・・
また悲しくなってきた。
これはもう、ふて寝するしかない。
「次は○○~○○~降り口は右側です」
いつもあの娘が乗ってくる駅だが、今日はもう会えたからどうでもいい。
ほどよい疲労感に身をゆだね目を閉じた。
鼻で笑う声など気にしない・・・・・・
「次は○○~○○~降り口は左側です」
ん?
驚き、目を開けるとほとんど席が埋まった車内に日が差し込んでいた。
「朝?」
なにがなんだかわからない。
日は暮れてるはずだった。
スマホを探すも見つからない。
あるのは安っぽい腕時計と見覚えのあるカバン。
時計はや8時少し前を指している。
恐る恐るカバンを開けると最初に出てきたのは物は受験票だった。
今日はあの日だ。
受験票にクリップで止めてあるメモには乗車時刻と降車時刻が書いてあった。
○○駅まであと5分だ。
これは人生をやり直すチャンスだ。
受験できていれば間違いなく合格できる。
「「自惚れてんじゃねぇよ」」
合格すれば薔薇色の高校生活を満喫できる。
「「お前は環境に恵まれても駄目だろうけどよ」」
なぜだかアイツの言葉が頭をよぎる。
○○駅まであと3分
僕はどうすればいい?
気の合った友人か夢見た高校生活の二択を迫られている。
いや、夢の高校生活にはもっと気の合う友人に出会えるかもしれない。
その場合はアイツとは出会えないだろう。
縁と言うのはそういうものだと思う。
○○駅まであと2分
こんな時アイツの性格が羨ましい。
即断即決でわがままで・・・・・・
僕はホームを歩く人の中に、あの娘を見つけた。
結果はわかっている、だけど僕は祈った。
無事合格しますようにと。
今に向かう電車の中で・・・・・
「おい起きろ。俺様のお帰りだ」
脇を小突かれ目を覚ました。
「何様だよ」
なぜだかほっとした。
「またな」
「あぁ、またな」
彼はいつもと同じ言葉を残し電車を降りていった。
変な夢を見てしまった。
もしかすると夢ではなかったかもしれない。
いや、そんなことはどちらでもいい。
最後の1分で気が付いたのだ。
両方を手にいれる、それができるのは今しかない事を。
ゆっくりと席を立ち彼女の前へ。
きっかけさえあれば、頑張れると思っていた。
たがきっかけも、頑張らないと作れないものなのだ。
目を丸くして僕を見あげる彼女に、少し震えた声でこう言った。
「卒業おめでとう」