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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第六章 「好き」の気持ちと、花祭り
98/103

08

 




【Side:ライアン=フィリックス】



「……ふぅ」


 ようやく、一段落、と言ったところか。

 落ちそうになった汗を手で拭いながら出来上がったものを見て、久しぶりの感覚に少し心が弾む。

 旅を始めてからと言うもの、ほぼ日課のように行っていた鍛冶をする機会なんてなかったから尚更だ。

 鍛冶場独特の空気も久しぶりに触れてみれば、やっぱり良いモノだと思える。

 本当は祭りには参加してみたかった。いや、実際にはほんの少しなら雰囲気に触れているのだが、楽しそうだったと思う。

 とは言っても自分で決めたことを疎かにするのも嫌だったために、鍛冶を優先しただけの話だ。でも、やはり気になる。


(一段落したことだし……行ってみるのもありか?)


 まだやることは沢山あるが祭りに少し参加するぐらいの時間は取れる、と思う。

 あまりに不確定要素過ぎて分かりはしないが手を抜いたモノを鍛えたりしたら戻った時に怒鳴られることは必須。

 やはり、止めといた方がいいだろうか?

 話を聞くだけでも十分かも知れない。マリアに聞けば快く教えてくれるだろうから。


(……マリア……。……自分の気持ち、か)


 鍛冶を続ける気分にも、祭りに参加する気分にもなれずに不意に思い浮かんだ一人の名前に手を止めてしまう。

 聖剣の主でもある『聖なる乙女』。それが彼女だと知ったとき、嬉しさがあった。

 誰だって自分が鍛え上げた剣を扱ってくれる人は、大事にしてくれる人がいいと思うだろう。俺も例外じゃない。

 何よりも初めて鍛え上げた剣なのだから、その気持ちは尚更に強い。

 素直に思う。『聖なる乙女』がマリアであって良かったと。


 ――でも、本当に良かったんだろうか?と疑問も同時にあった。


 『闇の支配者』という強大な力を持つ相手にたった一人で挑むことになっていたかも知れないのだから。今はもう一人、『運命の人』という存在が居なければいけないようだが。


(運命の、人……。マリアが選ぶ、たった一人の人、か……)


 一体誰なんだろう?

 アル、エメリヤさん、レイクにヒナタ、サーシャ。それに最近ではクロードも加わった。

 誰を選んでも不思議ではないと思う。誰を選んでもきっとマリアの力になってくれると思う。

 少なくとも、俺よりは絶対に。

 ……俺だって力になりたいって思う。マリアのやることを俺の出来る精一杯で、手伝いたいって心から。

 思うからこそ、力不足だとさえ思う。手伝いたい気持ちと裏腹に、俺の力は足りなかった。


(……。ずっとある、マリアへのこの気持ちは何を指し示してるんだろう?)


 友達に対してだろうか。それとも別の意味で、だろうか。

 今まで興味すら持たなかったことだから分からなかった。鍛冶に一筋でそこまで友達という存在を作ることもなかったから尚更に。

 少しだけ後悔してる。もっと色々な事を知っていれば、良かったのに、と。

 落ち込みそうになった時に不意に耳に聞こえた誰かが走る音に振り返ると、少し重そうに扉を開く姿が見えた。――今まで考えていた人の姿だ。


「マリア?」

「わっ……あ、気付いてた? ライアンが鍛冶場に居るって聞いてちょっと会いに来たんだよー」

「……俺に?」

「うん! お祭りに参加せずに何やってるのかなーって思って。って、鍛冶場に居るんだから鍛冶だろうけど」

「ああ、ちょっと約束を果たそうと思って」

「約束?」


 何かあったっけ?と首を傾げるマリアを見て、曖昧な笑みだけ返した。

 この約束に関してはマリアに対してではないから思い浮かばなくても問題は無い。

 不思議そうな表情で考え続けている姿を見つつもふと籠に目を向けてみれば、花が沢山入っていた。そこで俺も花があることを思い出して少し離れた場所に置いてあるオレンジ色の一輪の花を取ってマリアに対して差し出す。


「俺から貴方に」

「……え? わ、ありがとう! ライアン!」

「いや……それで? わざわざここまで来るくらいだから何かあったんだと思うが」

「あ、そうだ! 聞きたいことがあるの。皆に聞いてる事なんだけど」

「……? 俺に答えられることか?」

「うん、多分」


 花を受け取ったマリアは少しだけ照れたように笑いながら大事そうに籠に入れてくれる。

 それを見て心の中に暖かな感情が生まれたことに気付きながらも、鍛冶場まで来た理由を聞くとそこから紡がれた言葉は予想外の言葉。

 皆に聞いていることを俺が答えられるかどうかは些か不安があるが。

 マリアが答えられると言うぐらいの質問だろうから、心配はいらないのだろう。そう思って質問を促すと少し言い辛そうにしながらも、口を開く。


「えっとね、『好き』って気持ちについてなんだけど……どんな気持ちなのかなーって」

「……好き?」

「うん。誰か一人を特別に想う気持ち。ライアンにとってはどんな風なのかなって思って」

「……」


 またもや、予想外の言葉だ。

 誰か一人を特別に想う気持ち。それは異性に抱く「恋」という感情のことを言ってるんだろうということは分かる。

 分かりはするがそれがどういう気持ちなのかまでは俺は知らない。

 ただ一つ可能性があるのなら、目の前にいるマリアに対して持っているこの気持ち、だろうか。もしも、この気持ちが「好き」なら。


「……。力になりたい、助けになりたいっていう気持ち」

「え?」

「その人のために頑張れる気持ちとも言えるかも知れない。……断言は出来ないが」

「ライアンにとっての『好き』の気持ちがそういうことなのかも知れないってこと?」

「ああ、まだ確証は持ててないから」


 ただ、そうであればいいな、と少しだけ思う。

 マリアが選ぶのは俺ではないだろうと思うけど、初めて抱く「恋」の気持ちを教えてくれるのがマリアならそれはとても嬉しいことだろう。

 友達でもあり、大切な存在にもなってくれるならそれはとても幸せなことだと思うから。

 ……そうであればいいと思える。


「うん、何となくなら分かるかも。……答えてくれてありがとね、ライアン」

「いいや……マリアはこれからどうするんだ?」

「お祭りに参加するよ! まだ続いてるみたいだし……あ、その前にアル探さないといけないけど」

「アル? アルなら城の二階のテラスにいると思う。そこに行くと言ってた気が」

「本当? やった! ……あ、ライアンも参加するよね? お祭り。一緒に楽しもうよ! 少しぐらい!」

「あ、ああ……分かった。先に外に向かうことにする」

「えへへー、じゃあ、あたしもアルの所に行ったらすぐに行くね! 皆も集めてくれると嬉しいなー」

「頑張る」

「うん! それじゃ、また後で!」


 一足先に、とばかりに鍛冶場を急いだ様子で出て行ったマリアの後ろ姿を見て、俺は思わず笑みを零していた。

 結局は参加することになってしまったが、それもいい。

 手抜きをするつもりもないし、粗悪品を渡すつもりもない。でも、それは俺が寝なければ問題なく出来ることだと分かっているから。

 一旦作業を中断して外に向かうことにしよう。……皆も探さなければいけないが、すぐに見付けられるだろうか?

 マリアが外に出て来るまでの間に見付ければいいのだから、多分大丈夫だろう。そんなことを考えながら俺は、外へ向かうのだった。



【Side out:ライアン=フィリックス】








【Side:アルテイシア=ラルムリゼ】



 ランドルフに許可を貰って城二階のテラスから、ぼんやりと上から祭りの様子を見ていた。

 そうするとクロードに告げた時には若干呆れられたような気もしたけど、そこまで積極的に参加したかった訳でもないからこうやって楽しむのもありだと俺は思ってる。

 と言うのも、こういう行事の時には城から城下を見ることが多かったからかも知れない。

 ……すっかり城の人間っぽくなっちゃったなぁ、俺。

 当たり前と言えば当たり前で、仕方ないと言えば仕方ないこと。俺はその場所で長い年月を過ごして来ているのだから。

 でも、それももうすぐ終わる。終わらせてくれるだろう、あの子が。

 生まれたその時からずっと見守り続けてきたあの小さな女の子が終わらせてくれる。俺が、そうさせたと言っても過言じゃない。


(可能性は確信になって。……確信になって、後悔が更に増した)


 小さな光は大きな光までに成長し、闇を全て消し去るほどの力をつけるまでに至った。

 リリーが……戻って来てくれたと錯覚するほどに。

 いいや、本当は戻って来てくれたのかも知れない。ほんの僅かの時間かも知れなかったけど、それでも。

 それが指すのは彼女もまた、闇の呪縛に囚われたままなのだということ。

 闇が無くならなければ俺もリリーも、そしてクロードも永遠に縛り付けられたまま、転生すら許されずに生き続けなければならないとさえ思ってしまう。

 だから、マリアの存在は正直嬉しいと思う。喜んでも良いことだとも思う。

 ――でも、素直に喜べないのは『闇の支配者』との戦いが目前まで迫って来ているからだ。

 戦いに巻き込んでしまったこと。『聖なる乙女』という使命に縛り付けてしまったこと。全てを背負わせてしまったこと。

 後悔しても死足りないぐらいだ。それぐらいのことを俺はマリアにしたのに、マリアは変わらない笑顔を俺に向けてくれる。

 それが嬉しくて、やっぱり苦しくて。全てを吐き出してしまいたいぐらいだった。


(……ねぇ、リリー? 分からないんだ。俺の気持ちが……どうしたいのかが)


 ルナンを救いたい気持ちさえ俺の中にはある。

 少しでも、ほんの僅かにでも可能性があるのなら元のルナンに戻してもう一度、新しい生を得て欲しいと思ってる。

 ……それはただの償いでしか、ないのかも知れないけど。

 マリアが選ぶ『運命の人』も気になる。……誰を選ぶのかは分からないけど、俺がすべきことはただ一つ。もう決めている。


 でも、もしも。もしも、俺を選んだら、どうする?


 その時が来たら俺は一体、どんな選択肢を選ぶんだろう。俺がマリアに対して抱いている気持ちは、あの時、リリーに抱いていた気持ちと同じ、なんだろうか。

 同じのような、でもやっぱり違うような……自分でさえ分からない。

 分かりたくないっていうのがもしかしたら本音なのかもしれない。リリーを忘れてまで幸せになりたいなんて少しも思わないから。


「はぁ……俺ってやっぱり……」


 ――昔から何も変わらないなぁ。


 自然と深い溜息が零れると、不意に自分の「本体」が近付いて来ていることに気付いて振り返ると、驚いた表情のマリアがそこに居た。


「あ、あれ? 折角驚かそうと思ったのに……」

「俺に対してそれは無理だと思うよ? 俺の本体持ち歩いてるのに」

「……あ、そっか……。……アルはお祭りに参加しないの?」

「うん? 花は貰ったよ。ただ渡す相手がいないなぁ……って思ったけど、マリアが居たね」

「……忘れられてたの? あたし」

「あはは、ごめんごめん。はい、どうぞ。皆から貰ったみたいだけどね」


 俺の隣までやってきたマリアは不思議そうな視線を向けて来るので、ほら、と持っていた花を見せながらわざとらしく言う。

 むぅ、と頬を膨らませて怒る姿は何も変わっていなくて。

 思わず笑いながらも俺が持っていた一輪の白に近い、銀色の花を手渡すと頬を膨らませたまま、花を受け取るとふにゃりと表情を緩ませる。

 マリアの持っている籠には色とりどりの花が入っていて。パッと見だけど、人数分あるような気がする。

 つまりは全員に会ったのだろうと思いながら、俺はまた視線を城下に向けるけどマリアの視線は未だに俺に向いたままだ。


「どうしたの?」

「……アルに聞くのはちょっと躊躇いがあるっていうか……うーん。でも、一番良い答えをくれそうな気もするし……」

「……? 俺に聞きたいことでもあるの?」

「う、うん……その、ね。『好き』って気持ちについて……『恋』が分からないから、あたし」

「え? ああ……そういうこと。急がなくても自然と分かるんじゃない? って『運命の人』を探すには知らないといけないってことか」

「そうなの! だから、皆に聞いて回ってたんだけど……」


 それはちょっと気になる。

 一体、皆はどう言う答えを返したんだろう? 多分、それぞれ違う答えを返したような感じがする。

 「好き」なんて気持ちはそういうものだって俺も思う。言葉に表すには複雑すぎて、たった一言に例えるのが難しい。

 あえて言うならその人を大切に想う気持ち。その人ばかりを考えてしまうようになる状態。寝ても覚めてもその人のことが頭から離れなくなる状態。

 俺もそうだったから分かる。リリーのことばかりを考えていて、その所為で誰かを傷付けることすら厭わなかったずっと昔のこと。

 少しでも別のことを考えていたらクロードを傷付けずに済んだだろうか。ルナンも『闇』に堕ちることはなかっただろうか。

 今更のことかも知れないけど、所詮はそんなものなのかも知れないとさえ思う。傷付けずに済む「恋」なんてありはしないのだと。


「……誰かを傷付けてでも、貫きたい気持ちかな」

「え……?」

「こんな風に言ったらマリアは怖がるかな? でもね、マリアがたった一人を選ぶことによってその影で傷付く人も居ると思うよ」

「……」

「でも、それが「好き」って気持ちなんじゃないかな。まるで奇跡のような想い」


 好きな人に好きになって貰える奇跡。

 多くの人が居る中からたった一人を選んで、そのたった一人も自分を選んでくれる奇跡。

 その奇跡の影で恋を失う人もいる。一方通行の想いのままで終わる人だって当然出て来る。

 傷付けてしまうことも、傷付くことだってある。でも、それでも貫きたい気持ちを持てたのならそれは「好き」って言ってもいいんじゃないだろうか。

 俺がそんな答えを返すとマリアの表情は少し曇る。……優しい子だから、仕方ないのかも知れない。


「……あたし、「恋」出来るのかなぁ……」

「うーん……もしかしたら、もうしてるのかも知れないね。マリアが気付いてないだけで」

「えっ!?」

「……。後一歩の後押しがあれば、気付けるかもね」


 それは俺には出来なくて、皆にも出来ない。したくないっていうのが本音の人もいるかも知れない。

 幸いにも国に変えればアリアリーネとクリストファーの二人がいる。あの子達ならばマリアの力になってくれるだろう。


「アリアリーネとクリストファーにも助言、貰うといいよ」

「……うん」

「ほら、難しく考えてても分からないだろうから……お祭りにでも行こうか? まだ、そんなに楽しんでないでしょう?」

「うん。……ライアンに皆を集めて貰ってるの」

「そっか。じゃあ、俺らも行こうか?」

「……うん」


 ここで考えても分からないと言ってもマリアのことだ。考えるんだろう。

 その証拠に返事ばっかりになっていることに気付きながらも俺はマリアの手を取って歩き出すことにする。

 引っ張られるままについて来ていることを確認しつつ、ほんの少しだけ目を伏せる。

 ――どうか、マリアの「恋」は幸せで満ち溢れて欲しいと思う。これまで頑張って来た小さな女の子に、これからの未来が幸せであって欲しいと。

 その前には大きな決戦が待ち構えていることを思えば気が重くなるが、今はそんなことを考えるのは無粋だろうから考え込んでいるマリアを連れて行くことだけを考えようと思った。



【Side out:アルテイシア=ラルムリゼ】



 


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