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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第六章 「好き」の気持ちと、花祭り
92/103

02

 




 ――クレスタ王国、リーディシア王国。


 同日、クレスタ王国にて盛大な結婚式が執り行われるとリーディシア王国も喜びの声で国中を賑わせていた。

 クレスタ王国第二王女アリアリーネ=イヴ=クレスタとリーディシア王国第二王子クリストファー=リベル=リーディシアの結婚式であったからだろう。

 このままいけば数日は祝福の声は鳴り止まないだろうとさえ思われるぐらいで、それは式が終わった後も変わらずで未だに外でも城の中でも多くの人が一種の祭りのように騒いでいた。

 そんな中で主役であるアリアリーネとクリストファーはようやく、人の輪から解放されると着替えを済ませて休憩の名目で部屋まで戻っていた。

 幸せであるものの、やはり疲労には負けてしまうのかアリアリーネはぽすんとベッドに飛び込んだのを見つつ、クリストファーはやっと一息つけると言うようにソファーに深く座った。

 部屋の中に入っても聞こえてくる人々の声は、全てとは言えはしないが自分達の幸せを祝う声だ。もちろん、互いの国の結びつきを良くすることは後々、多くの幸を齎すだろうことも分かっているために特に気になるほどではないのだがあちこちに連れ回されれば嫌でも疲労は溜まる。


「何かもう……、予行練習とか必要なかったよね、これ……」

「……ああ。ほとんど予定通りに進まなかったからな」


 ごろごろとベッドの上で転がりながらも式の様子を思い出すと、空笑いを浮かべながら溜息交じりに呟いた。

 クリストファーも同意せざるを得なかったために頷きつつも同じように溜息を吐きだした。

 式の段取りは決めていたり、それなりの予定も決まっていた。困ることのないように予行練習も済ませていたというのに、全てが何の意味も為さなかった。

 外野の動きにまで気を配れなかった、というのが最大の落ち度だったかも知れないが。

 結婚式自体は普通に進んでいた。特に何も起こらずに最後の誓いまで済ませることが出来たのだが、その後が大変だった。誰かに話すのが疲れるほどに。


「あ、そう言えばラルフお兄様は? いらしてたよね?」

「兄上か……父上と共に一足早くに国に戻ったようだ。あちらの方でも盛大な祝い事をやるとかで……」

「……なるほど。何か一生に一度のことなのに、一気に終わっちゃった感じだね」

「そうだな……、もう少し静かな方が良かったか? アリアは」

「ううん、こんな風に賑やかなのも楽しいと思うし、皆がお祝いしてくれてるのが分かるのもすごく嬉しいよ」

「そうか」


 ふと思い出したようにアリアリーネが問い掛ければ、クリストファーは、ああ、と頷きながらも聞いた話を教える。

 すぐにその情景が思い浮かんだのかくすくすと楽しそうに笑いながらも感慨深げに呟けば、確かに、と頷きながらも少々心配そうに見る。

 男の自分にとってはどんな結婚式であろうが彼女に幸せな思い出が残る式であればいいと思っているからだ。そう思うと式自体は身内のみで行った方が良かったのかも知れないな、と今更ながらのことを考えようとしていたのだがアリアリーネがふるふると首を横に振って答えを返せば、ほっと安堵の笑みを浮かべる。

 それを見てからベッドの上で寝転がっていたアリアリーネは勢い良く起き上がるとベッドから降りて、そのままソファーに座っているクリストファーの近くまで行くと後ろから抱き付く。


「……アリア?」

「姉様に、見て貰いたかったなぁ……。本当は一番に姉様に見て欲しかったのに」

「……」

「クリスとこんな風にいられるのも、全部姉様のおかげで。こんなにも幸せなのも姉様のおかげ。……せめて、幸せな姿だけでも見せたかったなぁ」


 ぎゅっとちょっとだけ強く抱き付きながら顔を隠すようにアリアリーネはクリストファーの肩を埋めると、そうだな、と相槌を返しながらそっと優しく頭を撫でてやる。

 大人しく撫でられているアリアリーネを見ながらも、ぼんやりと今、この場にはいないマリアリージュを思い出す。


 ――彼女の言うように、確かに見せてやりたかったと素直に思う。


 一生に一度の晴れ姿だ。一国の王女と言えど、花嫁姿になることなどこの日以外あり得ないだろうから。

 大切な妹の幸せに満ち溢れた姿を見たのなら、きっと泣いて喜んだだろう。それか満面の笑みを浮かべて、あの場に居た誰よりも祝福してくれたに違いない。

 それが分かるからこそ、尚更に見せたかったと思う。それでも国を挙げての式ともなれば、日時を遅れさせる訳にもいかず、旅に出ているマリアリージュをその日までに連れ戻すのは不可能に近い。だからこそ、涙を呑んで諦める方法しかなかった。


「いつか戻って来るマリアに、今の幸せな姿を見せてやればいいさ」

「……クリス」

「そうすればきっと喜んでくれる。そう望んだのは、他でもないあいつなんだから」

「……。うんっ! そうだよね、姉様に幸せだよって一番の笑顔で言うんだ。そしたら、ありがとう、って言うの」

「ああ……喜ぶさ、きっと」


 落ち込んでいるアリアリーネを元気づけるように、思い浮かんだことを口にすれば肩に顔を埋めていたアリアリーネは顔を上げて目を瞬かせるとすぐに頷いてニッコリと笑った。

 釣られるように笑いながらも、そっと頬に口付けて顔を赤くする彼女を見ながらクリストファーはこう思った。

 ――どうか、マリアリージュも同じように幸せであるように、と。





 ――いつもと変わらずに、マリアリージュ一行は野宿をしていた。


 初めに比べれば野宿の準備も早くなり、人数が多くなるにつれて暇な人が出てくるほどだ。

 そんな中でいつも通りにテントを張り終え、そろそろ稽古でもしようか、という話をしていた時のことだ。突然、マリアリージュは何かを思い出したように大声を上げた。


「思い出したっ!」

「な、何だ? マリアリージュ。いきなり大声を出すな」

「……」

「あ、ご、ごめん、エメリヤ、ライアン。でも、あたし、思い出したよ」

「何を?」


 近くにいたエメリヤがまずは驚きの表情で注意し、同じように近くにいたライアンは驚きで目を瞬かせている。

 もちろん、別の場所で他のことをしている仲間達も驚いたのは同じようで、少々申し訳なさそうに謝りながらもどこか嬉々とした表情で言う。

 さっぱりとその理由が掴めないライアンが問い掛けると、ニッコリと笑う。


「お祭り! リーディシア王国でお祭りがもうそろそろ行われる時期だよ!」

「……は? 祭り? 随分、時期外れだな……」

「あ、僕は話を聞いたことあるよ。『花祭り』でしょう? 十六年前から行われてるんだよね」

「そうそう、あたしは行ったことないけど話は良く聞いたことあるから」


 楽しそうに話すマリアリージュを見ながらヒナタはきょとんとした表情を浮かべながら、不思議そうに呟く。

 自分の祭りのイメージが偏っているだけかも知れないが、少々祭りとは縁遠い季節なような気がする。そんなヒナタとは別に、料理中のレイクは不意に思い出した話を口にすると僅かに首を傾げて聞くとマリアリージュは、正解、と言わんばかりに何度も頷く。


「十六年前……というと、クリストファーに関係でもあるの?」

「ああ……、あの王子様?」

「そうだよー。クリスの誕生日を記念して、作られたお祭りだもん」


 レイクの話を聞いて一つ気になった部分があったのかアルがぽつりと呟くと、不意に思い浮かんだ人の名前を出す。

 傍に居たクロードは聞き覚えのない名前に僅かに顔を顰めたがすぐに思い出したように言うと、クロードが知っていることに少し驚きを覚えながらもマリアリージュは笑いながら頷いた。

 そう、何度か話を聞いたことがあった。一度、我儘を言って連れてって貰おうとしたこともあったがすぐに反対されてしまった。

 反対される度に、想像を膨らませては良く、話を聞いたものだ。クリストファーは苦笑を浮かべながらも祭りの様子を話してくれたし、わざわざその時に使われる花をお土産に持って来てくれたことがあるぐらいだ。


 ――そこまで思い出して不意に、懐かしさが襲ってきた。


 旅に出てから自分でも驚くほどあっという間に時間が過ぎていき、多くの仲間と出逢って今、こうして共に居る。そして『聖なる乙女』としてするべきことを決め、その為に必要なことも知った。

 分からないことばかりの中で、それでも自分は見付けなければいけない。あの手紙に残してきた″運命の人″を。

 でも、分からない。″恋″という感情が未だに。″好き″の違いが、分からないままだった。

 沈みそうになる気持ちに逸早く気付いたのはいつの間にか近寄って来たサーシャであり、ひょこっと顔を覗き込む。


「どうかしましたか? マリアリージュ」

「え? う、ううん、何でもないよ。……あ、サーシャは参加したことあるの? 花祭り」

「いえ、俺はそういうのには一切参加したことがないので初めてですよ。……時期的には丁度良かったんじゃないですか?」

「うんっ、そうみたいだね! 皆も楽しめるといいね!」


 顔を覗き込まれると驚いた表情を浮かべたマリアリージュを見ながらも、気遣うように声を掛けると慌てたように首を横に振る。

 心配させてはいけない、と気持ちを入れ替えるように目の前にいる人に問い掛ければサーシャはふと微笑みを浮かべながら緩く頭を左右に振って答えると、ぽん、と肩を叩きながら言う。

 サーシャの言葉に同意するように何度も頷きながら仲間達へと顔を向ければ、ニッコリと笑顔を浮かべた。


「祭り……。ヒナタの村で行った宴に似たもの、か?」

「え? 何だよ、ライアンは行ったことないの? 祭り。ま、オレも大きな祭りに参加したことはねぇけど」

「僕は数回、連れてって貰った覚えはあるけど……。楽しめると思うよ、きっと」

「エメリヤとかは意外と行ってなさそうだよね、思い出とかある?」

「あまりないのは確かだな。父上や母上に幼い頃に連れてって貰った思い出は微かに残ってるが……」

「そう言う意味では僕らもあんまりないよね、アル」

「まぁ……参加する機会はなかったしね」


 仲間達が会話に花を咲かせているのを見てほっとした表情を浮かべながら隣に立っているサーシャを見上げた。

 見られたことに気付いたサーシャは微笑みだけを返すだけに留めて、マリアリージュはそれに素直に感謝することにした。

 沈みそうになる気持ちや懐かしい気持ちがごちゃまぜになって、下手をすれば泣いてしまっていたかも知れない。そうすればきっと皆が心配したと思うから。

 ――だから、マリアリージュはあえてその気持ちから一時的にでも逸らすことにして会話に混ざりに行くのだった。


 


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