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「――……とまぁ、これが初代『聖なる乙女』と『闇の支配者』の戦いの全て、かな? これから続いていく戦いの歴史の始まりだった、とも言えるね」
「……。色々と省いた感は否めないけどね」
「それは仕方ないよ。あの時、あそこに居たのは確かだけど当事者ではないからね」
過去の長話を終えるとクロードはふぅ、と深々と息を吐きだすと簡単に話を纏めるように言う。
話していた立場でもあったアルは苦笑を浮かべながらもぽつりと漏らせば、同じように苦笑を浮かべながらも困ったように告げる。
こういう時に魔導で過去を見せるようなのがあればいいのに、とは思うが使えたとしてもアルは使わないだろうな、とクロードは何気なく思った。もちろん、自分も進んで使おうとも思いはしないのだが。
話を黙って聞いていた一行へと視線を向けるとそこには、呆気を通り越してもう既に反応すら出来ずにいる、というのが正しい表現か。
「……つまりは……『闇の支配者』は元々人間だった、と?」
「そうだね、人間だった。後々分かったことなんだけど、ルナンの中に小さな『タナトス』が産まれてしまったことが全ての原因みたいだね。元々、『闇』を扱う素質があった、とも言えることだけど」
「いや、まぁ……魔導では『光』や『闇』の属性は特別な素質がなければ使えないのは確かだけど」
「……良く分からない……」
混乱している頭を必死に整理させるようにエメリヤが確認するように聞けば、クロードはあっさりと肯定しながらも付け加えるように話す。
レイクもそれは知っているというように頷きながらもやはり理解出来ないのか、うーん、と唸り声を上げつつ、考えることすら放棄しそうな勢いでライアンは呟いた。
厳密に言えば『光』と『闇』の魔導は存在しない。ただ、特別な体質、または素質があれば使える人もいた、という記録が残っているぐらいだ。
つまりは、偶然だ。初代『聖なる乙女』リーリア=ソルトレークが『光』に愛された娘であったことも。『闇の支配者』ルナン=ノワールが『闇』を扱う素質があったということも。偶然が重なり、悲しき事実ながらもルナンは『闇』の力に目覚めてしまった。
必死に内容を理解しようと思いながらも、リーナは顔を上げてアルとクロードへと視線を向けた。
「じゃあ、代々『聖なる乙女』が選ばれる基準っていうのは……『光』に愛された娘だから、ってこと? アルにはそれが分かるの?」
「……そうとも言えるし、そうとも言えない。これは俺にしか分からない感覚なんだろうけど、『聖なる乙女』の名を受け継ぐものは、彼女……リリーの心の欠片を持つ者。だから、『光』に愛されたリリーの力を使うことが出来るっていう感じ、かな?」
「心の、欠片……。あたしの中に、そのリーリアさんが居るってことなの?」
「居ないよ。時を重なるに連れてリリーの気配は薄れていったし……、かろうじて残っているのは彼女の力のみだからね」
「……」
ずっと聞きたくても聞けなかった質問をすると、アルは説明し辛そうに顔を顰めながらも自分の感覚で話せば、リーナは思わず身体を見下ろしながら気付いたことを呟く。
呟きが聞こえた時、アルはふるふると首を横に振りながらどこか寂しげに教えてくれた。
アルの言葉が聞こえるとリーナはアルへと視線を向けた時に辛そうに歪められた表情を見ると、何も言えずにまた俯いてしまう。
知らないことばかりだった。ずっと一緒に居るのに、アルがどういう存在だったのか、どんな過去を歩んできたのか。何一つとして知らなかったのだと痛感させられた。
「……歴史の始まりに関しては何となくだけは理解したよ。けど、アンタらの、その状態はさっぱり分からないんだけど?」
「え? ああ……そう言えば説明していなかったっけ? 僕がここに居られる理由は、コレ」
「これって……、鎌、ですか?」
「そう、僕はあの戦いの後、偶然にもこの鎌――「無名鎌」と出逢ったんだ」
大雑把な流れぐらいならば理解したとも言えたヒナタは疑問を抱き続けていたことをもう一度聞けば、クロードは一瞬不思議そうに首を傾げたが、ふと言っていなかったことを思い出すと何もない空間から一本の鎌を取り出す。
何の変哲もない鎌に見えたために訝しげにサーシャがじっと見つめれば、こくりと頷いて話す。
――無名鎌。
持ち主を選ぶとさえ言われている幻の武器の一つであったらしく、幻と言われるだけあってその能力は知られてはいなかった。その実情は持ち主によって能力を自在に変えると言うものであったらしく、クロードはエインセルを手にした時に選んだ能力は、時空間を操る力。
「時空間……? 時間と、空間……?」
「その通り。僕はエインセルの力を使って自身の時を止めて、ずっと生き続けてきた。とは言っても、負担が大きい所為か、限界を感じて一度死を迎えてるんだけど」
「……死んだ身、ということか?」
「いや、生まれ変わりだよ。だから僕の姿は、あの頃とは全く違う別人。でも強引に空間を捻じ曲げて生まれ変わってるし、記憶の持ち越しもしてるから姿だけなんだけどね、違うのは」
「…………」
ライアンがぽつりと呟けば、クロードは微笑みを浮かべながら答えると当たり前のように告げられた言葉にエメリヤが思わず聞き返す。
聞かれることは当然だと思ったのかふるふると首を横に振って否定しながら、説明を続ければさすがに誰もが言葉を失ってしまう。
言えるのであれば、次元が違い過ぎる。自分達では理解出来ない範囲ですらあることだと思いながらも、そろっとアルへと視線を向けると僅かに首を傾げてから、ああ、と頷く。
「俺は、ユリアスに『聖剣』を鍛えて貰って、ニナに『聖剣』へと魂を移して貰った、ってだけだよ?」
「だけって……それだけでも十分すごいと思うんだけどね」
「……俺はその二人の名字も気になったんですが」
「ああ、うん、そう。ユリアスはライアンの先祖に当たって、ニナはリーナの先祖に当たるね」
別段、驚くこともないと言わんばかりに言い切られればレイクは驚き疲れたように溜息をついたのを見ると、サーシャはふと思い出したように視線をリーナとライアンへと向けるとアルは肯定するように頷く。
そこまで口にしてから、先祖、と言われる世代にまでなってしまったのか、と改めて実感する。
クロードも同じだったのか互いに顔を見合わせると、苦笑を浮かべあった。自分達の姿からは想像がつかないほどの時が過ぎてしまった。
――リーリアが死んでしまった時のことは、今でも昨日のことのように鮮明に思い出せるというのに。
時に置いていかれてしまった自分達が出来るのは、目の前に立つ現『聖なる乙女』とその仲間達へ道を指し示すことぐらいか。
互いに頷き合ってから彼らと向き合うとリーナがじっと自分達を見つめてきていることに気付いて、僅かに寂しげに微笑みを返した。
「歴史の始まりは話した。……そして、キミが聞きたいのは、ずっと続いてきた歴史を終わらせる方法、だね?」
「うん。その為にあたしはここまで来たから」
「……別にね、難しいことはないんだ。あの時、リリーは「一人じゃなければ、ルナンが死んだかも知れない」と言った。つまりは、二人だよ」
「え? ふ、たり……? で、でも! 『闇の支配者』に対抗出来る術を持つのは、『聖なる乙女』の力だけ、で……」
「『聖剣』は光を溜められる。その光は『聖なる乙女』と同等の力と言える。……そして『聖剣』が溜めた光を扱うことが許されているのは『聖なる乙女』ともう一人」
「君が選んだ、たった一人だけだよ。……マリア、この旅の目的にした『運命の人』が終止符を打つために必要な力なんだよ」
「……!」
クロードが既に分かっていることを聞くと、真っ直ぐな視線のまま、リーナはこくりと真剣な表情で頷く。
どこか複雑そうな表情を浮かべながらもここまで来たら隠すことは出来ないということが分かっているため、アルはゆっくりとした口調でヒントを与えるように言葉を紡いでいく。だが、紡がれた言葉に疑問があるために必死に言おうとするが、途中で何かに気付いたように言葉を途切れさせる。
途切れたことに気付けばクロードはこの場に居る全員に言い聞かせるように紡いでいくと、最後は引き継ぐようにアルはリーナを見ながらそっと微笑みを浮かべながら言うと、リーナは目を見開かせることしか出来なかった。もちろん、この場にいた仲間達も同じ反応だったためにアルとクロードは互いに顔を見合わせた後に何を言うでもなく、記念碑へと視線を向けるのだった。




