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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第五章 過去と親友と、全ての始まりの地
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07

 



 ――辺境の村「グリース」。


 辺境ということもあって村人が訪れることも少なく、また商人がやって来ることも極稀な場所であった。

 それほど大きな村ではなく、人の数も少なかったが、それでも明るい雰囲気に包まれており、畑を耕したり、川で魚を釣ったりして日々平穏な生活を送っていた。小さな村故に村人同士の仲は非常に良く、家が隣同士だと幼馴染でも兄弟同然に育てられることも少なくはなかった。

 その中に居たのが、村の中でもとりわけて珍しくもなく、極々普通の明るく元気で、周りを笑顔にしていた一人の少女――後に初代『聖なる乙女』と呼ばれるようになるリーリア=ソルトレークだった。

 リーリアの家も周りと変わらず、裕福でも貧しくもない村の中では絵に描いた普通の家族だ。

 持ち前の性格で同年代の子達とはほとんどが友人同士であり、村の中のムードメーカー出逢ったのは間違いない。


「んー……今日も良い天気ー……」


 そんなリーリアは、村外れにある草原に大の字で寝転がりながらうーん、と背伸びをして気持ち良さそうに欠伸をした。

 変わらない毎日。平和で穏やかで、毎日が幸せで満ち足りた日々。

 大きな街に住む人達から見れば、何の刺激もなく、つまらない毎日でしかないのだろうがリーリアにとっては何にも変えられないとても大切なものだった。

 家の仕事を手伝ったり、時々村の人達の畑の手伝いをしたり。友人とくだらない雑談を日が暮れるまでしたり、天気の良い日にはお昼寝をしたり。後は大好きな恋人と、甘い一時を過ごしたり。


「……えへへ……なんてね」


 大好きな人が居た。心から、本当に好きだと思える人。


 ずっとずっと傍に居たいと思って、これからの時を一緒に過ごしていきたいと思える人だった。好きだと告げたら、彼もまた、照れたように笑いながら好きだと告げてくれた夢のような日は昨日のように感じられる。

 幼馴染や友人たち、村の人達も全員が祝福してくれた時には本当に恥ずかしかったけど、それでも幸せで満ち溢れていた。

 そこまで考えてからリーリアはふと思い出したように起き上がると、きょろきょろと辺りを見回す。別にここで仕事から逃げてきた訳ではなく、ここでその恋人と待ち合わせているのだが姿は一向に見えない。

 仕事でも長引いているのかな、と思った時だったろうか。草を踏み締める音が聞こえて来てそちらに視線を向けると微笑みながら手を振る二人の姿がそこにあった。


「アルっ! それにクロードも」

「リリー、遅れてごめんね。途中でクロードに捕まって……」

「いいじゃない、たまには。きちんと気を利かせることは忘れないから」

「な、何言ってるの! クロードっ!」

「……ふふ、可愛いね、リリー」


 待ち侘びた幼馴染兼恋人アルテイシア=ラルムリゼの名前を呼んでから、その隣に同じく幼馴染のクロード=リュアラブルの姿があったことに目を瞬かせる。

 少々申し訳なさそうな表情をしながら謝罪を口にしつつ、苦笑交じりに訳を話そうとしたのだがその前にクロードが遮るように言いながら、くすり、と小さく笑みを零す。

 言われた意味を最初こそ理解出来て居ない様子だったリーリアだったが、すぐに意味を理解するとぼっと顔を赤くさせながら焦って言うとクロードはおかしそうに笑いながら、思ったことを素直に口にする。その言葉で更に顔を赤らめたリーリアを見ながらアルは隣に腰を下ろし、クロードは少し悩んだ様子であったがアルの隣へと座った。

 幼い頃からずっと一緒の三人。恋人になった時も最初にクロードへと報告しに行くと、彼はどこか寂しげに笑いながら、おめでとう、とお祝いの言葉をくれた。

 今でもその寂しい顔をした理由は分からないけど、それでも今も変わらずに三人で一緒に過ごすこともある。

 そんな毎日がずっと続けば良いと願った。隣に愛しい人の姿があって、大好きな幼馴染が居る毎日が、変わらずにずっと。


「……そうだ。明日、ユリアスやニナ、後はルナンと一緒にピクニックにでも行こうかっていう話をしてたんだけど、二人も、どう?」

「え、行く行くっ! ……でも、ルナン、大丈夫なの? 最近、様子おかしかったけど」

「うーん……、まぁ、彼の気分転換も兼ねてって感じだけど、ね。アルはどうする?」

「え? ……ああ、うん、行こうかな」

「……? アル、考え事?」

「まぁ、そんな感じかな? ちょっと……ね」


 心地良い風を感じながら、しばらくの間会話がなかった三人であったがふと思い出したようにクロードが話を切り出す。

 突然の誘いであったものの、リーリアは笑顔を浮かべて即答しながらも、一人の名前を挙げると心配そうな表情に変わる。クロードもそこは心配なのか苦笑を浮かべながらも理由を話せば、返事を貰っていないアルへと声を掛けるとはっとしたようにアルは苦笑を浮かべて頷く。

 すぐに様子がおかしいことに気付いたのか、リーリアは心配気に顔を覗き込むと苦笑を浮かべたまま、顔を覗き込んで来ているリーリアの頭を優しく撫でる。

 少しくすぐったそうにしながらも嬉しそうな笑みを零すリーリアを見て、アルは表情を緩ませながら何気なく空へと視線を向けた。


 ――嫌な予感というよりは、妙な魔力の揺れを感じた、というべきか。いや、揺れというよりは、変化。


 まだ魔導師とも言えない頃のアルには自分が感じていたその予感が何を指し示しているのかは、良く分からずにいた。だからこそ、誰にも相談することはなかったし、気のせいだろうと片付けることにしたのだ。


「……あっ、じゃあ、明日、ピクニックに持ってくお弁当! わたし、ニナと相談して一緒に作るね!」

「え……」

「いや、それは止めた方がいいんじゃ……?」

「……大丈夫だよっ! 練習もしてるし、明日こそ美味しく作るから、ね?」

「うーん……」

「……分かったよ。リリーがそこまで言うなら、楽しみにしておくからね」

「うんっ! アルが楽しみにしててくれるなら、わたし、頑張っちゃうからね!」


 頭を撫でられたままのリーリアであったが、ふと思い浮かんだとばかりに提案するように言うと頭を撫でてていた手を一旦止めたアルは驚きの表情を浮かべ、クロードは苦笑を浮かべながら止めるように言う。

 そんな反応が返って来ると拗ねたように頬を膨らませながらも、必死に訴え掛けるのだがクロードは今まで今までであったために唸り声を上げるので、リーリアは最後の頼みの綱と言わんばかりにアルへと視線を向けた。視線を向けられたアルはどう返すべきか迷いながらも、根負けしたように微笑んで頷く。

 色良い返事にぱぁっと顔を明るくさせたリーリアは嬉しさのあまりにアルへと抱き付きながら、楽しそうにしながら言う。

 そんなリーリアを優しく抱き返しながら、アルはクロードと顔を見合わせて微笑みを浮かべあう。幸せで、楽しい毎日がいつまでも続くようにと願いながら。


 ――でも、そんな些細な願いすら叶わないのだと知る時は、すぐそこまでやって来ていたのだった。


 


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