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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第五章 過去と親友と、全ての始まりの地
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04

 



 次の日。必要なモノを買い揃えるために、リーナとライアン、ヒナタの二人は買い物に出ていた。

 残りの面々はと言うとアルとエメリヤとレイクは今後の道順の確認をしつつ、村長にも色々と話を聞いている様子だった。唯一、サーシャのみは朝から姿が見えなかったのだが「用事があるので少し出て来ます」という置き手紙だけはしてあったらしいので心配はしていない。

 いや、本当は少し心配なのだが勝手にどこか居なくなることはしない、という確信はあるのであえて心配はしないということにしたのだ。

 その為に手の空いている三人が買い出しに出ている訳だが、リーナは持たされた紙をじーっと見ていた。お金に関しては何故かライアンが持っており、ヒナタだけは手持ち無沙汰な状態。


「……何、そんなに凝視してんだよ?」

「買うモノ多いなーって思って」

「そんなにあんのか?」

「うーん、食材ばっかりだけどね。人数増えたからかなー」


 ぶらぶらと歩きながら食材を買える場所を探しつつ、ヒナタは買い出しのメモリストを見ているリーナを見て僅かに苦笑を浮かべる。

 紙から目を逸らさずに理由を話せば、不思議に思ったために聞き返すとうんうんと頷きながら肯定する。

 クレスタ王国を出発した頃にはこんなに大所帯になるとも思わなかったし、今の状況に陥るとも思わなかった。

 いつか来るべき日が来たら王国へと戻り、『闇の支配者』との決戦に備える。――そんな日々が待っていると思っていたのに、思い描いていた事と現実は大きく異なっていた。

 後悔している訳ではないし、これ程多くの仲間が出来た事は素直に喜ぶべきなのだろうと思う。


「とりあえず! 買うモノが一杯あるから、頑張って持とうね!」

「いや……、旅してる身なんだから、多過ぎるのもどうかと思うけど」

「……確かに。分担して持つのにも限りがあるからな……」

「…………。間違っちゃいないけど、何かオレが言ってるのとは意味が違うような……」

「……?」


 ようやく、紙から視線を逸らすとニッコリと笑いながらリーナが言えばヒナタは至極当然のことを口にする。

 ライアンも同意するように頷きながら真剣な表情で悩み始めると、言葉を失ったヒナタがライアンへと視線を向けて何か言いたげに口を開けるが結局は言いたかったことを飲み込んで、はぁ、と溜息交じりに言う。

 もちろん意味が分かっていないライアンはきょとんと首を傾げるだけなので、何でもない、と軽く手を振るだけに留めた。

 それから食材を売っている店を見付けると、メモを見せて買うモノを教えると店の人は気前良く、若干多めにおまけをしてくれた。

 嬉しさはあるのだが結局は荷物が多くなったことには変わりはなく、これから村長の家へと戻ろうとしたのだがふとライアンが足を止めた。それに釣られるようにリーナとヒナタも足を止めると、二人は互いに顔を見合わせた。

 と言うのも大抵はこういう時、悪い事ばかりが起こるからなのだがライアンの表情はどこか不思議そうだ。


「……サーシャの声が……」

「え、近くにサーシャ、居るの?」

「っつっても……姿は見えねぇけど」


 ぽつりとライアンが声を漏らせば、それを聞き取ったリーナはきょろきょろと辺りを見回す。

 同じようにヒナタも全体的に見回したのだが、見慣れているサーシャの姿を見付けることは出来ずに僅かに首を傾げた。

 その事でライアンも不思議そうにしているのだろうかと思ったが、違うようで更に不思議そうにしながら声が聞こえる方へと視線を向けて歩き出す。突然歩き出したために二人はどうするべきかと悩むが、追わない訳にもいかないと思ったのか慌てたようにライアンの後を追うのだった。






「……今説明した通りに、しばらく『サーシャ=ノイシュ』は休業です」


 サーシャは人目に付かない物影に隠れながら、疲れたように溜息交じりに説明する。

 人の気配がして目を覚ましてみれば「依頼」の話をしたいという置き手紙が枕元に置いてあり。そう言えば説明するのを忘れていたな、と思いながら仲間達に、少し出掛けてくる、ということを言って外に出てきた。

 そして置き手紙に書かれていた場所まで来てみれば、顔馴染みの姿があった。

 フリーのアサシン故に依頼に関しては直接自分に来ることも少なくないが、専ら彼のような人を介して受けることがほとんどだ。

 その中で彼には良く仕事を持って来て貰っていたのだが、「あれ以来」連絡の一つも取ってなかったことを思い出したということだ。

 依頼は受けられないという説明を簡単にだけした。とは言ってもリーナ達のことを詳しくした訳でもなく、他のやりたい事があるからしばらくは休業をするという旨を伝えただけに過ぎないが。

 予想通りに顔馴染みの彼は、驚きの表情を浮かべていた。言葉に出さなくても「本気で言っているのか」というのがありありと伝わってきて、こくりと頷いた。


「君なら俺以外にも伝はあるでしょう? そっちに頼って……」

「アンタご指名だとしても?」

「ええ、そうです。断り難いなら『サーシャ=ノイシュ』は姿を眩ませた、または死んだと伝えて貰っても構いませんよ」

「……。変わったな」

「変わりませんよ、何も変わってません。――俺は、俺が嫌いなままです」


 それでも食い下がってくる相手に対して、サーシャは溜息交じりにあっさりとした口調で言い切れば困ったように笑いながらぽつりと零した。

 だがその言葉に対してだけは、キッパリと否定するように言うと最後は小さな声で呟いた

 そう、何も変わっていない。ただ、今共に行動をしている彼女や、そして彼女の仲間達に興味を抱いただけだ。

 それだけで、それ以上は何もない。自分自身が変わったはずがないのは、誰よりも自分が知っている。それでも、目の前にいる彼は「変わったよ」と繰り返すように言うと、彼はそのまま姿を消してしまう。

 挨拶もなしだっために少し不思議に感じたのだが、すぐにその意味が分かる。


「サーシャ」

「おや……ライアン。それにリーナとヒナタも。買い出しですか?」

「うん、そうだけど……。サーシャはこんな所で何してたの?」

「ああ……、知人と話してたんですよ」

「こんな人目を避けて、かよ? ろくな話してねぇだろ」

「ええ、俺はアサシンですからね。こういう所でする話は専ら「依頼」の話ですよ」


 最初に声を掛けられると振り返りながら、微笑みながら名前を呼ぶもすぐにその後を追ってきている二人の姿も見付け。そして彼らの持っている荷物を目に入れると合点がいったように頷きながらも、あえて問い掛ける。

 こくこくと頷いてリーナは肯定しながらも、不思議そうにきょとんと首を傾げるとサーシャは微笑んだまま、あっさりと答える。

 やはりヒナタは引っ掛かるのか言葉を紡げば、特に否定する様子もなく、当たり前のように頷いて肯定した。当然のことのように言われるとさすがに驚くことしか出来なかった彼らは目を瞬かせることしか出来なかったが、サーシャはそれ以上は何も言わずにリーナが持っていた荷物を持つと歩き出す。


「では、戻りましょうか。待ちくたびれてますよ、きっと」

「え? あ、ああ……」

「って、サーシャ! あたし、持つよ!」

「荷物持ちは男の仕事、でしょう? 気にしなくて構いませんよ」

「……。その「依頼」の話は受けたのか?」

「断りましたよ、リーナの手伝いをすると決めましたしね」


 歩き出したサーシャに焦ったようにライアンが返事をするも、はっと自分が持っていた荷物とサーシャを見ると慌てて手を出そうとするが微笑みながら緩く首を横に振った。

 既に歩き出してしまっている三人の後を追いながらヒナタが一言、気になったことを問い掛ければサーシャは極々当然のことのように言い切った。

 そのことに驚いたのはリーナであり、ライアンとヒナタであったために彼らは顔を見合わせるも三者三様の反応を見せた。ほっと安堵したり、笑みを浮かべて頷いて、そっぽを向いたりなど。そんな反応を横目で見ながらサーシャはくすくすと楽しげに笑みを零すのだった。


 


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