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聖なる乙女と運命の人  作者: 雨月 雪花
第四章 名もなき小さな村と、一つの決意
71/103

16

 



「結局、またヒナタの所に世話になってしまったな……」

「別にいいよ。一人暮らしだし……ま、狭かっただろうけど。……っつか、ライアン、起きてるか?」

「……」


 ヒナタの家から最初に出てきたのはエメリヤで、少々申し訳なさそうに苦笑を浮かべている。

 二泊もするつもりはなかったために予定外であっただろうが、ヒナタはと言えば気にしなくていいとばかりに軽く手を振りながらも、隣を歩くライアンを見て呆れたように声を掛ける。

 かろうじて起きているのか、起きているか、と言う問いにはこくりと小さく頷くも半分以上寝ているようにも見える。

 こればかりはどうしようもないとばかりにエメリヤがふるふると首を横に振れば、ヒナタははぁ、と溜息を吐きながら後ろに視線を向ける。


「うー……もうちょっと早めに寝れば良かったかもー……」

「まぁ、村の人達が中々解放してくれなかったから仕方ないよ。……というか、サーシャ。お酒強いね?」

「そうですか?」

「あれだけの量を呑んでたのに、全く酔ってないから」

「少ない方ですよ? そこまでアルコールが高いお酒が少なかったこともあるでしょうが」


 まだ眠そうに目を擦っているリーナを見て、レイクは苦笑を浮かべながらもふと近くに居るサーシャにどこか感心したように告げる。

 陽の光に眩しそうに目を細めていたサーシャであったが、レイクに聞かれたことに対して首を傾げた。

 苦笑を深めながらも昨晩のことを思い返しつつも言えば、サーシャは本心からそう言っているかのようにあっさりと言い切るとこの場に居る誰もが――眠そうにしているリーナとライアンは除く――感心を通り越して呆れることしか出来なかった。


 ――詳しい量を告げることはしないが、村の中で一番呑んで居たのは彼だろう。


 村一番の酒好きすらもあっさりと酔わせてしまった量を「少ない」と言える彼は、酒好きなのか、ただ単に酔えない体質なのかは分かりはしないが。

 周りからの視線の意味が分からなかったサーシャは首を傾げることしか出来なかったが、ふと歩いていた先にアルの姿を見付ける。


「アル、おはよう。……? どうかしましたか?」

「……っ、え? あ、いや、何でも……。……リーナとライアンは相変わらず、朝に弱いね」

「リーナはまだマシな方だろ。ライアンなんて立ちながらでも寝そうな雰囲気だぜ?」

「こればかりは中々直りそうにないな」

「朝が弱いのは、自分から意識しないと駄目だろうしね」


 見えた姿に声を掛けたサーシャであったが、ふとアルの雰囲気がいつもと違い、どこか暗さが含んでいるのが分かると不思議そうに聞く。

 声を掛けられるとはっとしたように慌てて振り返れば、気まずそうに苦笑を浮かべて焦ったように言葉を紡ぎはするも、その途中で目に入った二人の姿に困ったような笑みになった。

 ヒナタは同意するように頷きながらも、ふらふらとした足取りのライアンの腕を掴みながら呆れたように紡ぐ。エメリヤははぁ、と溜息交じりに言い、レイクも困ったように言葉を紡いだ。

 自然と話を逸らされたためにほとんどの人達が気付いていないようだったが、サーシャのみはじっとアルを見る。

 その視線に気付いているアルであったものの、特に何も言うことはせずに大体後片付けが終わった村に視線を移す。


「さて、と……これからどうしようか? ヒナタの村もこれで一段落したことだし、長居する理由もないけど」

「……リーナ……行きたい場所が、あるんじゃ……?」

「あ……そうだ! そうそう、あるの! 行きたい場所っ! でも、その前に皆に言わないといけないことがあるの」


 今後のことを話そうと言わんばかりに話を切りだしたアルは、うーん、と首を傾げる。

 別に旅の目的がある訳ではないし、長居しても構わないのだがその辺りは最終的にはリーナが決めるべきだろう。

 そう思ったために話そうと思ったのだが、ふとライアンはようやく目を覚まし始めたのか昨日のことを思い出したように言うとリーナは、あ、と声を漏らす。

 そして完璧に目を覚ませば必死になって何度も頷いて肯定しながらも、ふと言おうとして結局言えなかったことがあったことに気付く。

 いきなりのことに、全員の視線が自分に向くと一瞬尻込みしてしまう。だが唯一、話を聞いているエメリヤが、大丈夫、と言うように微笑んでくれたために、うん、と頷いた。


「あのね……あたし、終わらせたいの」

「終わらせるって……、何を?」

「旅とか……?」

「いや、旅だったら行きたい場所があるとは言わないでしょう。……それで?」


 唐突にリーナが言った言葉にレイクがきょとんとした表情を浮かべた。まずは最初に思いついたようにライアンが言うものの、サーシャが、それはない、とばかりに首を横に振りながら話を促す。

 ヒナタはこの場に居るべきかどうかを迷っている様子だったが、彼がどこかに行く前にリーナは言葉を続けた。


「終止符を打つの……歴史に」

「……!」

「……。『聖なる乙女』と『闇の支配者』の戦いの、歴史に?」

「うん。……というか、驚かないんだね? アル」

「十分驚いてるよ、どうしてその決意を君がしたか分からないからね」


 続けた言葉を聞いたヒナタは、驚いたように目を見開かせた。

 他の面々も驚く中、知っているエメリヤはともかく、アルは驚く様子を見せずに確認するように問い掛けると力強く頷きながらも、少々不思議そうに言う。

 突拍子もないことを言っているという自覚はあるし、驚かない方がおかしい。そう言いたいのが分かるのかアルはあっさりと言いながらも、気になることをぽつりと呟く。

 ――何かきっかけがあったに違いないと思うが、そのきっかけは自分が知らないことだ。

 エメリヤは知っているように見えるが、もしかしたら彼が、その″きっかけ″を作ったのだろうか。そう思ってアルはエメリヤへと視線を向けると、その意味を察したエメリヤは否定するように首を横に振った。

 つまりは彼ではないということなのだが、ならば一体誰が彼女に″きっかけ″を与えたというのか。


「それで、その……協力して、くれる?」

「……。俺はする。リーナが決意したのなら、俺に出来る限りは」

「そうですね……、では俺も。まぁ、俺の力が必要になるかどうかは分かりませんけどね」

「僕は……。……いや、僕もさせて貰うよ。兄さんと義姉さんが、関わってる可能性も捨てられないから」

「……」


 危険なことをしようとしているのは分かっているため、リーナはどこか言い難そうにそっと皆を見る。

 誰もが考える仕草をしていたが最初に了承の意を示したのはライアンだった。安心させるように言葉を紡げば、リーナはぱっと顔を明るくさせる。

 そしてライアンに続くようにサーシャ、レイクも続くように了承の意を示すがヒナタは何も言わなかった。

 ――村を救うまでの仮の仲間関係であるのは自分が誰よりも分かっているからこそ、何も言わなかった。否、言えなかった、と言う方が正しいのかも知れない。

 ヒナタ同様にアルも何も言いはしなかった。彼女がそうしたいのであれば協力するという気持ちはもちろん、持ち合わせているし拒否するつもりは全く持っていない。


「……。君の決意は十分伝わってきたけど……、その終わらせる方法に心当たりは、あるの?」

「うん。それを知るために……あの人が示してくれた『聖地』に行きたい」

「『聖地』というと……ああ、初代『聖なる乙女』が生まれ育った地か」

「それなら僕も知ってるよ。ここからならそれほど遠くはなかったよね? 確か」

「え? あ、ああ……まぁ、セントラルからこの村までの距離に比べれば近いな」


 アルは結局は何も言わずに、確認するように問い掛けるとリーナはこくりと頷いて既に決めていることを告げる。

 リーナが言った「あの人」と言葉にアルは一瞬引っ掛かりを覚えはしたが、すぐに『聖地』という言葉を聞いて顔色を変える。

 アルの様子に気付くことはなく、エメリヤが思い出すようにしながら言うと、レイクも思い出したように頷きながらもヒナタに確認を取ると、ヒナタは一瞬ぽかんとした表情になるものの慌てたように頷いて肯定した。

 遠くないという言葉にリーナはほっとした様子を見せながら、ぎゅっと手を握り締める。

 ――仲間達にも決意を告げた。そして協力してくれると言ってくれた彼らに応えるためにも頑張らなければ。


「……アル?」

「アル……どうかしましたか? 様子がおかしい……というよりも顔色が悪いですが……」

「い、や……何でも、ないよ」


 決意を固めているリーナを横目に、ライアンはふと何気なくアルへと視線を向ければ様子がおかしいことに気付いて名前を呼ぶ。

 それに気付いたサーシャもアルに視線を向ければ、確かに様子がおかしいのが目に見えて分かったのか心配気に声を掛けると、アルはふるふると弱々しく首を横に振る。

 一体どうしたのだろう。仲間達のそんな視線を受けながら、アルは表情を隠すようにそっと下を向いたのだった。


 


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